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繰り返される悲劇

Author: 液体猫
last update Last Updated: 2025-04-16 11:53:47

 村の入り口付近で殭屍キョンシーたちと応戦おうせんしている者たち。

 そんな彼らから少し離れた場所で、同じ服装をした者がひとりだけ、別行動をとっていた。

 ボサボサの黒髪は地につくほどに長く、白髪しらがが混じっている。長く伸びた前髪は目を隠し、どんな瞳なのかをうかがい知ることはできなかった。

 服装にいたっては、入り口付近で戦っている者たちと同じとは思えぬほどにボロボロである。それでも気にする様子はなく、そっとかべ隙間すきまから外をのぞいていた。

「お、お姉ちゃん」

 そんな者の背後から、小さな女の子に声をかけられる。振り向けばそこには女の子を含む数人がおり、彼らはおびえるように身をよせ合っていた。

 女の子が短い手足を、ボサボサな髪の者へと伸ばす。

「大丈夫だよ。彼らは仮にも仙人様たちなんだ。君たちを助けてくれるはずだ」

 ボサボサな髪の者の声は中性的だった。

 よく見れば身長はそれほど高くはない。小柄で線の細い子供といったところか。それでも、性別まではわからなかった。

「う、うん……お姉ちゃん、わたしこわい」

「……うん、僕も怖い。でも大丈夫だよ」 

 そっと少女の頭をでながら、花のかんざしを贈る。それは黄色い山茶花さざんかで、かわいらしい少女にとてもよく似合っていた。

 少女はおどろきながらかんざしに触れる。

「僕にできるのは、これぐらいだから」

 どこから持ってきたのかもわからぬかんざしであったが、少女はたいそう喜んでいた。泣きそうだった表情には笑顔が浮かび、嬉しそうに大人たちへ見せていく。

「ありがとうお姉ちゃん。わたし、雨桐ユートンっていうの。お姉ちゃんは?」 

 小柄な人物は男か、それとも女か。どちらかもわからぬ見目みめであったが、遠慮えんりょなく小柄な者を女性として扱った。

 ふいに、小柄な人物は自身の前髪を触る。するとそこからまつ毛の長い、大きな瞳がこぼれた。

「わぁー! お姉ちゃん、すっごくきれいな人だぁー」

 これには少女だけでなく、この場にいた誰もが目を見開く。

「……よく、わからないや。だけど、僕は男だよ」 

「そう、なの? じゃあ、お兄ちゃん?」

「うん」

 小柄な人物は自分の見た目に無頓着むとんちゃくのようだ。外見をめられても表情ひとつ変えず、淡々たんたんと答える。

「…………あっ」

 そのとき、彼の背中が急に明るくなった。いったい何があったのかと、かべ隙間すきまに片目を置く。

 そこから見えるのは荒れた村、そして入り口付近に大量に押し寄せている殭屍キョンシーたちだった。どうやらともに来ていた、黄色いはたの者たちが戦っている。彼らは平凡な顔立ちの男を中心に、陣形をとりながら殭屍キョンシー対抗たいこうしているようだ。

 特徴とくちょうのない平々凡々へいへいぼんぼんな男が、率先そっせんして殭屍キョンシー応戦おうせんしている。

 彼は札と剣を上手く使いわけ、数多あまたの戦法で勝利を掴んでいった。

 ──あの男、普段は口は悪いしままだ。だけど、こういうときは強さを発揮はっきするんだよね。

 火事場かじばのなんとかではなく、純粋に強い。平凡な顔立ちの男は、そういう質をもっていた。

 だからといって、現状が全て有利に働くわけではない。現に今、彼は窮地きゅうちに立たされているようだった。

 わずかに残っていた同士たちが、次々と殭屍キョンシー餌食えじきになっていく。さんにん、ふたり、そしてまたひとりと、もう片手の指で数える程度にしか残っていなかった。

 これだと、彼ら人間側がいなくなるのも時間の問題である。

雨桐ユートンたちはここにいて。僕は彼らを助けてくるから」

 感情が読み取れぬ瞳を、隠れている村人たちへ向けた。彼らは困惑こんわくを交えた視線で、小柄な人物を見つめている。

「おね……お兄ちゃん、行っちゃうの?」

 不安に揺れる眼差しで、小柄な人物を引きめた。

 けれど彼はごめんねとだけ呟き、扉を少し開けた。左右を見回し、殭屍キョンシーの気配を探る。どうやら殭屍キョンシーたちは入り口付近に引きよせられているようで、一体とて家屋かおくの周囲にはいなかった。

 そのことに安堵あんどし、体が通れるぐらいまで扉を開ける。危ないという声が背後からたくさん聞こえてくるが、小柄な人物は返事することなく外へと飛び出していった。

 入り口付近に殭屍キョンシーが集まっている。それを確認するやいなや、木陰こかげに隠れた。

 成り行きを見守るように殭屍キョンシー、そして人間たちを注視ちゅうしする。

「……殭屍キョンシーたちの方が有利、なのかな?」

 残っているのは片手の指で数える程度の人間たちだ。彼らは無数にいて、疲れをしらない殭屍キョンシーたち相手に、疲弊ひへいしているよう。顔色が悪く、疲労ひろうの色すら見てとれた。

 ──黄 沐阳コウ ムーヤンは確かに強いけど……あの男、連携れんけいを取るということを知らないからなあ。

 独りよがりに戦った結果、孤立してしまう。それを心配した矢先、ひとりをのぞいた皆が殭屍キョンシーててしまっていた。

「あーあ、言わんこっちゃない。殭屍キョンシーを倒すときは近接じゃなくて、遠距離の方が上手く動けるんだよね」

 他人事たにんごとのように呟く。髪をくるくると指に巻きつけ、はあと深くため息をついた。

 しょうがないなとあきれた様子で片手を前に出す。するとそこから小さな輝きが生まれ、黄色くてかわいい花が出現した。

「──さあ、あの男を助けてあげて」

 低くも高くもない声が、手のひらにある花を浮かせる。花はふわりと揺れ、ゆっくりと特徴とくちょうのない男の元へと進んでいった──

 † † † †

 月明かりが、村をさびしく照らす。

 わずかに生き残った村人たちは、質素な夕ご飯を作った。昼間におとずれ、助けてくれた者たちへの感謝の言葉を並べながら団らんする。

「……お兄ちゃん、また、来てくれるかな?」

 少女は恋がれるように、頭についている花を触った。

 小柄な人物はボロボロな姿ではあった。けれどはかなげで、どこか神秘的な雰囲気を持っていた。

 少女はまだ子供なので、気の利いた言葉など出てこない。それでも小柄な人物の顔を思い浮かべるだけで、ふふっと笑顔になっていった。

 ふと、大人たちにご飯を食べるよう言われる。

 少女は元気よく返事をし、※蓋碗(がいわん)を手に取ろうとした──

 直後、自身を含む、生き残った村人たちが突然苦しみだす。

 少女は苦しさのあまり、その場に倒れてしまった。うすれゆく意識が、ともにいる大人たちの姿をとらえる。彼らも苦しみもがいていた。けれど……

「……お、兄、助け……」

 目の前で見るは、昼間の恐怖そのもの。大人たちが次々と殭屍キョンシーへと変わっていったのだ。

 しかしそれは少女とて例外ではない。彼女もまた、土気色の肌に血管を浮かせていく。

 村の中で唯一明かりのついている家から、大きな音がひびいた。けれど悲鳴などは聴こえてこない。

「──成功、か」

 村の家屋かおくの屋根に、ひとつの影があった。静かだけど、全てが終わる村を見ながらほくそ笑んでいる。

 その手には鉄でできた鳥籠とりかごを持っていた。

 そのとき、明かりのついた家から人々が出てくる。その中には雨桐ユートンという少女もいた。しかし彼らは既に人としての生をなくし……

 意思を持たぬしかばね──殭屍キョンシー──へと変貌へんぼうをとげていた。

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