耳をそばだてて聞いた話をしよう。 "月のない丑の刻になれば美しき銀の舞姫が現れ、使者に抱かれて空を飛ぶ。"のだと。 そう、誰かが囁いた──「──怒らないでおくれよ」 夜空にふたつの影がある。そのうちのひとつが、眉をひそめていた。 それは闇夜に溶けてしまいそうな髪を、三つ編みにした男だ。月明かりがない暗闇のせいか、どんな表情をしているのかはわからない。 ふと、隠れていた月が、ゆっくりと顔を出す。 男が月明かりに照らされた瞬間、姿がはっきりと映しだされた。 腰までの黒髪を三つ編みにしているのは、瓜実顔の美しい男だ。しかし目鼻立ちが整った男は、眉を少しばかり寄せている。 男の両腕に抱えられているのは人形か……可憐な、輪郭の整った、美しい者だ。何より、月光をそのまま落としたような……とても薄い髪色をしている。「……ねえ小猫、機嫌なおしてくれないかい?」 可憐な人物の機嫌を取ろうと、三つ編みの男は頼りなく声をかけた。 薄い髪色の者は男か女か。可憐かつ、中性的な顔立ちの人物を見れば、心なしか頬を膨らませているようにも感じた。「……怒っているのかい?」 暗い空を背に、三つ編みの男の眉が苦く曲がる。彼は目鼻立ち、それら全てが整っていた。けれど困惑を含む眉根だけは情けなさを持っている。「いい加減、小猫呼びはやめてほしい。僕は、華 閻李って名前なんだから」 横抱きに対する不満ではなく、呼び名への苦情。これには三つ編みの男は微笑みを通り越して、大笑いしてしまう。 しばらくすると笑い声は止まり、華 閻李の頬をつついた。もちもちとしている柔らかい頬に触れ、三つ編みの男は微笑する。「……ふふ、ごめんごめん。でも私にとって君は守りたい者であり、唯一無二の存在なんだ」 だから怒らないでと、愛し子の額に優しい口づけを落とした。 華 閻李は乙女のように恥じらう。それでも彼の腕から逃れようとせずに、甘んじて優しさを受け入れているようだ。「……ねえ、思。どうして僕を守ってくれるの?」 おずおずと。大きな瞳を彼へと向ける。 三つ編みの男は笑顔を浮かべた。何だ、
Terakhir Diperbarui : 2025-04-16 Baca selengkapnya