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nukomonalove0717
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Novels by nukomonalove0717

鳥籠の帝王

鳥籠の帝王

 全 思風(チュアン スーファン)は愛する者を、二度と失わないために。  華 閻李(ホゥア イェンリー)は花の力を使い、優しさを失わないために。  彼らは動き出す──  とある地に禿(とく)王朝という、膨大な國があった。表向きは平和そのもの。しかし蓋を開けてみれば、悪の巣窟のように数多の闇が蔓延っていた。  それを象徴するのが殭屍(キョンシー)と呼ばれる死体である。悪意が働いた瞬間、殭屍は生者を襲っていった。  化け物である殭屍に対抗できるのは不思議な力を持つ仙人や道士だけ。しかし彼らもまた、一枚岩ではなかった。内輪揉めはもちろん、何の力を持たぬ人間すら巻き込む。    無断転載禁止です。
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Chapter: 違和感
「──へえ、あの男が|黄 沐阳《コウ ムーヤン》なんだ」 |全 思風《チュアン スーファン》の声はいつになく低い。瞳の色は|焔《ほのお》のような|朱《あか》にまみれていた。 一緒に隠れている子供を後ろから軽く抱きしめる。あの男殺そうかと、|物騒《ぶっそう》な相談を持ちかけては、|華 閻李《ホゥア イェンリー》に注意された。「もう、|思《スー》ってば! ……それよりも、どうしてあの二人がここにいるんだろう?」   率先して兵たちを|煽《あお》り、まるで戦争をするように仕向けているかのよう。兵たちも彼らを神のように|崇《あが》め、|血気盛《けっきさか》んになっていた。|先刻《せんこく》までの、のんびりとした空気などない。あるのはビリビリとした、戦場にも似たものだけだった。 子供は彼から視線を外し、|櫓《やぐら》にいる男たちを見つめる。彼らは親子というだけあり、背格好や顔立ちがよく似ていた。「……でも、おかしいなあ」「ん? 何がおかしいんだい? あ、もしかしてこの体勢かな!? だったら、|小猫《シャオマオ》を横抱きにし……」「黙ってなさい」「……はい」 明後日の方向にしか行かない彼の口は|華 閻李《ホゥア イェンリー》によって、言葉で|塞《ふさ》がれてしまう。そのことに多少の不満があり、子供っぽく頬を|膨《ふく》らませた。 ──まあ、いいか。この一件が終わったら、たっぷりと|小猫《シャオマオ》を抱きしめる予定だし。 少年の美しい銀髪を|眺《なが》めながら、ふふっと心の中で笑った。 「……それで|小猫《シャオマオ》、何が
Last Updated: 2025-04-30
Chapter: 謎めく者たち
 息子の想いを届けることに成功した翌日、|全 思風《チュアン スーファン》は、ふっと目を覚ました。 ──あれ? 私はいつの間に寝てしまったのか。……ああ、眠るなんて行為、本当に久しぶりだ。  |華 閻李《ホゥア イェンリー》という|愛《いと》しい子を隣に置くだけ。たったそれだけなのに、彼は安心して眠ることができた。そのことにほくそ笑みながら上半身を伸ばす。「……あれ? そういえば|小猫《シャオマオ》は?」 キョロキョロと、周囲を見渡した。ふと、|廃屋《はいおく》の奥にある台所に目が止まる。 そこには愛してやまない少年が立っていた。後ろ姿ではあったが、|一際《ひときわ》目立つ銀の髪が頭部でひと|縛《しば》りされている。 いつもと違う髪型に首をかしげつつ、|華 閻李《ホゥア イェンリー》の元へと近よった。 子供の髪から|薫《かお》るのは|薔薇《ばら》か。とても落ち着く、品のある|薫《かお》りである。ふわりと|靡《なび》く銀髪は、壁の隙間から差しこむ太陽の光を受け、|黄金《こがね》色に見えた。  |全 思風《チュアン スーファン》は子供の|神々《こうごう》しさに両目を見開く。「──あ、お早う|思《スー》。よく寝てたみたいだね。もう起きるの?」 彼の視線に気づいたようで、子供はくるりと振り向いた。昨日のように青ざめた顔色ではない。血色のよい、薄い紅色を頬に浮かばせていた。 そんな少年は、顔のところどころに|煤《スス》をつけている。 いつもは服で隠れてしまっている白い細腕や首|筋《すじ》が見え、|妙《みょう》に|色香《いろか》を|漂《ただよ》わせていた。「|思《スー》。今、朝ごはん作ってるから、ちょっと待っててね」「|華 閻李《ホゥア イェンリ
Last Updated: 2025-04-30
Chapter: 親子と影の正体
 |関所《せきしょ》を守りぬいた兵がいた。彼は|母親《オモニ》の足を治療するため、そして誰かを守りたいという想いから兵へ志願する。 母親はそんな息子を|誇《ほこ》りに思い、子の夢を止めることなどできなかった。けれど代わりにと、祝いの品として一本の|蝋梅《ろうばい》の木を送る。「それが、この枝の元の|蝋梅《ろうばい》。あの男の人に大切に育てられて、あなたの……|母親《オモニ》が息子を想う気持ちがこめられている。それがこの木に力を与え、あなたの元へと届けてほしいって願ったんです」 花や植物の気持ちなと、誰もわかりはしなかった。けれど|華 閻李《ホゥア イェンリー》という少年は花の心を伝え、想いを力にする能力を持つ。それは仙術のようで違う。けれど、それを成し|遂《と》げるだけの力を有していたのは間違いなかった。 もちろん眼前にいる中年女性には、そのことなどわかりはしない。 だからこそふたりは|頷《うなず》き合った。子供の隣に|全 思風《チュアン スーファン》が立ち、その細い肩を支える。 |廃屋《はいおく》に|避難《ひなん》している人々は何が始まるのかと、興味|津々《しんしん》に彼らを見た。「──僕は、あの人の想いを全て届けられるわけじゃない。だけど、知ってほしいんです。あの人がどんな想いで亡くなったのか。最後に願った事は何だったのかを……」 子供の声が|廃屋《はいおく》の中を泳ぐ。 両手を胸の前に、そっと置いた。そして枝に|丁寧《ていねい》なまでの口づけをする。すると|華 閻李《ホゥア イェンリー》の体が優しい光に包まれていった。それは|蛍火《ほたるび》のように小さな|粒《つぶ》で、夕焼けのように美しい。 そのときだった。子供の背中から、ひとつの大きな|彼岸花《ひがんばな》が現れる。けれどそれは花びらを散らし、姿、種類すらも変わっていった。  一本の大きな木
Last Updated: 2025-04-29
Chapter: 少年の心、優しくありて
 屋根の上を飛び移りながら、ふたりは|杭西《こうせい》の西へと進んでいた。 冬の風と、空から降る雪がふたりの体を打ちつける。|全 思風《チュアン スーファン》は平気なようだが、|華 閻李《ホゥア イェンリー》はそういかなかった。 子供は彼の|漢服《ふく》を頭から被ってはいる。それでも体力のなさは変わらずで、寒さに震えていた。|艶《つや》のあった唇は紫色に変色している。白い肌は土気色に、体温はぐっと下がって指先から冷たくなっていた。「……|小猫《シャオマオ》、大丈夫かい!?」 子供の体調が心配で足を止める。横抱きにした|華 閻李《ホゥア イェンリー》の様子が少しおかしいことに気づき、彼は慌てて下へと降りた。 近くにある|廃屋《はいおく》の|外壁《がいへき》に隠れ、子供の熱を測る。幸いなことに少年に熱はなかった。けれど顔色を見るに、このまま外で行動するということは避けるべきだと判断する。「|小猫《シャオマオ》ごめんね。君が寒さに弱いって知ってたらこんな……」 自身の|不甲斐《ふがい》なさを悔やんだ。  |華 閻李《ホゥア イェンリー》は紫になった唇のまま、無理やり笑顔を作る。大丈夫だよと、彼の|逞《たくま》しい手に触れた。  ──本当にこの子は優しいな。私に心配かけまいとして、辛いのを押して笑っている。 力があっても、王になっても、大切な子供ひとりすら守れない。そんな自分が憎く、そして情けないとすら感じた。 彼は唇を噛みしめる。「……|小猫《シャオマオ》、辛いときは無理して笑わなくてもいいよ」 「……っ!」 そう言った瞬間、子供の瞳が|潤《うる》んだ。体を両手で包み、その場に|踞《う
Last Updated: 2025-04-28
Chapter: 杭西(こうせい)  兵の想いを届けに
 |京杭《けいこう》大運河での戦争を目の当たりにしたふたりは、急いで|杭西《こうせい》へと向かった。 到着した町は銀の世界となっていた。 |杭西《こうせい》の中を流れる|河《かわ》には舟が浮かんでいる。河の両脇には家屋が並び、屋根の上に雪が積もっていた。ゆらゆらと揺れる|提灯《ちょうちん》の明かりが、白銀の景色と重なって幻想的に見える。 しかし|肝心《かんじん》の人の姿がなく、町は静まり返っていた。 置き捨てられた|籠《かご》、水|浸《びた》しになった|漢服《かんふく》など。|数刻《すうこく》前まではそこに誰かがいたであろうという、生活感のある風景が置き去りにされていた。「……誰もいないね?」 町の中にある河を進みながら、|華 閻李《ホゥア イェンリー》は小首を|斜《なな》めに動かす。呼吸をするたびに白い息が生まれ、はーと吹きかけては両手を温めた。 白い獣である|白虎《びゃっこ》を|暖《だん》として抱きしめる。寒いなあと、体を震わせた。「すぐ近くで|戦《いくさ》があったからね。多分その|影響《えいきょう》で皆、家の中に閉じこもってるんじゃないかな?」 それに雪も降ってるからねと、彼は優しく説明をする。ただ口ではそう言っていても、彼自身、町中での戦争がないことを願うことしかできなかった。 河から確認できる建物をひとつひとつ、|黙視《もくし》していく。 建物が壊れた様子はないので、町の中までは戦争の被害が及んでいないだろうと|推測《すいそく》できた。そのことにホッと胸を撫で下ろしながら、舟を進めていく。 ふと、行き止まりに差しかかった。ここから先は舟では進むことが不可能のようで、ふたりは降りることを決める。「──さあ、私の|小猫《シャオマオ》。転ばぬよう、手を」「ふふ。本当に|思《スー》って優しいよね?」 先に舟から降りた|全 思風《チュアン スーファン》が、|華 閻李《ホゥア イェンリー》の手を取った。 パラパラと|粉雪《こなゆき》が降り続き、ふたりの頭や肩などに落ちて溶けていく。 ときおり足元にいる|白虎《びゃっこ》の鼻にかかり、|虎《とら》はイヤイヤと顔をぶるぶるさせていた。 そんな|白虎《びゃっこ》を両腕で抱き、子供はふふっと|微笑《びしょう》しながら雪を払う。「はは。|牡丹《ボタン》は雪嫌いなの?」「|牡丹《ボタン》?
Last Updated: 2025-04-27
Chapter: 國の思惑
 黒の一族、|黒《こく》。術を得意とし、戦略に長けた者が多いと|云《い》われていた。そのなかでも|長《おさ》である|黒 虎静《ヘイ ハゥセィ》は、群を抜いて素晴らしい才能を持つと云われている。 そしてその弟である|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》は兄にこそ|及《およ》ばぬものの、それでも|黒《こく》族のなかでは優秀な分類と噂されていた。 しかしあるときを|境《さかい》に、弟である|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》は反旗を|翻《ひるがえ》したとされる。理由は不明、今どこにいて何をしているのか。それすら謎とされていた──「──|他族《たぞく》の事だから、僕も詳しくは知らない。だけどあの人は|獅夕趙《シシーチャオ》なんていう、二つ名まである」 |華 閻李《ホゥア イェンリー》は嘘でしょと、大きな目をさらに広げる。「ああ、その二つ名なら私も聞いた事はあるかな。確か、獅子のように|獰猛《どうもう》だけど、場の空気を変える力があるって理由で、そういった名前になったとか何とか」 |全 思風《チュアン スーファン》自身、膝の上に乗せて守る子供以外には興味などなかった。しかし人間の住む世界にいる以上は、嫌でも何かしらの情報が入ってくるというもの。 彼にとって興味の対象外であった。けれど風の噂というものは自然と耳に届く。それがいいか悪いかではなく、印象に残る何かがある。 ──|小猫《シャオマオ》を探している最中、あの男の二つ名を何度か耳にした。兄と|喧嘩《けんか》をして家を飛び出したとかいう話だったな。 それかなぜ、このようなところにいるのか。いったい|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》という男に何があったのか…… ──うん。全く、興味ない。 |全 思風《チュアン スーファン》にとって、完全に興味
Last Updated: 2025-04-26
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