เข้าสู่ระบบ紅い瞳を持つΩ王子・焔琉苑は、「神の番契」を結ぶために火の神殿へと捧げられた。 だが封印の奥にいたのは、何百年も眠っていた伝説の黒竜――シュア=ラグナ。 夢で囁かれていたあの声が、現実となり彼を支配する。 抗えない番契の運命。 「おまえはもう、俺のものだ」 神に選ばれたΩと、神に見放されたα。 ふたりの魂が交わるとき、この世界の“番”の意味が変わる――
ดูเพิ่มเติม――燃えるように熱い世界の中。
地面は溶けたように揺らぎ、
空は赤く染まり、風は焦げていた。 その世界には色も形もなく、ただ焼き尽くす気配だけが存在していた。目を開けても、何も見えない。
見えているはずなのに、視界は光に呑まれ、境界がない。 なのに、そこには確かに“誰か”がいた。「……ああ……やっと見つけた……」
低く、深く、獣のような声が、熱の中から響いてくる。
それは言葉というよりも、魂に直接刻み込まれるような響きだった。 懐かしい。 会ったことがあるはずがないのに、知っている気がした。 けれど同時に、喉の奥が震えるほどの恐怖も、胸の奥に芽生える。それは、恋に似た痛みだった。
「名を聞かせろ。おまえの、名を」
誰だ、おまえは――。
どうして俺の名を問う? そもそも、ここはどこなんだ?意識はある。だが身体は動かない。
ただ、燃えさかる世界の中で、名前を奪われることを恐れている自分がいる。「……おまえが俺の番か……」
その一言で、すべてが焼き崩れる。
肺の奥が、灼けるように熱くなる。 心臓が跳ねる音が、骨の内側で鳴り響く。 まるで、自分という器が中から満たされていくような感覚。 重なる呼吸、共鳴する鼓動。 知らない誰かの体温が、確かにこの身体の中に流れ込んでくる。夢だ。
これは夢に違いない。 だが、現実よりも強く、この感覚は刻み込まれていく。この声を、拒絶してはいけない。
そんな直感が脳裏を貫いた。 だが、従ったら戻れない気がした。 このまま身を任せれば、きっと、二度と元には戻れない。「もう離さない。……おまえは、俺のものだ」
声が落ちると同時に、世界が音もなく崩れ始めた。
紅蓮の空が割れ、足元の地面が消えていく。 重力も音もない空間に、ただ熱だけが残り――焔 琉苑《えん・りゅうえん》は、跳ねるように目を覚ました。
寝台の上、薄絹の寝衣は汗で貼りつき、胸は荒く上下している。
冷や汗が頬を伝い、背中がじっとりと濡れていた。 ただ一つ、確かなことがある。今の夢は、ただの夢ではなかった。
それは“記憶”だったのか、“予兆”だったのか――。 わからない。 けれど、あの声だけは確かだった。そして、琉苑は知ることになる。
あの声が、これから自分の世界を焼き尽くしていくということを。
――それが、すべての始まりだった。
夜が明けかけていた。けれど、それは朝のはじまりを告げる光ではなく、どこか夢の続きのような、仄かに漂う薄明かりだった。夜がまだそこに横たわっていることを、しぶとく、しなやかに主張してくるような──そんな、静かな曙。琉苑は、窓辺に寄りかかるようにして座っていた。いや、本当はそう見えただけで、実際のところ、彼がどこまで「そこに在る」のか、判然としなかった。視線を向ければ姿はある。だが、瞬きをして目を凝らせば、その輪郭は薄くなり、そこに差し込む光の線に紛れて、形を失ってしまう。それでも──シュアは、琉苑のそばにいた。腕をまわしても、もう、肌の温度は感じられない。それでも、手を伸ばすことをやめることはなかった。そこにいなくなったからといって、存在が消えるわけではない。そんな当たり前のことを、ようやく身体の奥で理解しはじめたばかりだった。「リウ」名を呼ぶと、琉苑はほんの僅かに、振り向いたように思えた。呼吸の気配がない。言葉の応えもない。だが、眼差しはあった。まるで、風がそっと瞼をなでるように、シュアの胸の中で、琉苑が振り向いたことが、確かに伝わった。「もう、そんなに遠いのか」呟くような問いに、答えはなかった。けれど、黙してなお、そこに応えは在った。空白の中に置かれた感情が、ただ静かに、しかし重く、二人の間に横たわっていた。寝台の隅に小さな箱が置いてある。蓋を開けば、銀の環が一つ、指輪の形で光っていた。「……これを、お前の指に通していいか?」答えはなかった。それでも、何も否定されていないことが、すぐに分かった。だからシュアは、そっと琉苑の左手を取った。それが本当に触れているのか、それとも空間をなぞっているだけなのか。判然としないままに、彼は指輪を琉苑の薬指に通した。銀の輪は、すこしだけ琉苑の身体に沈み、そのまま収まった。それが、「在る」ことの証だった。琉苑の口元が、ほんのわずかに、緩んだように見えた。目は閉じられ、まぶたは穏やかだった。唇にはもう色がない。それでも、シュアには分かっていた──彼が、満ち足りていたことが。「……ありがとう、リウ」それは本当に、心の奥から出た声だった。名前が、名前として、彼の中に焼きついていくのを感じた。そして──その瞬間だった。琉苑の身体の輪郭が、ゆるやかに崩れはじめた。細かな光の粒が、空気
夜は深く、しかし時間そのものが鈍っているかのように、どこまでも静かだった。シュアは隣にいなかった。どこかに出たのか近くにいるのか。身体の一部がわずかに透けて見えるその奇妙な光景を、琉苑は動かないまま見つめていた。触れようとしたら消えてしまうかのような輪郭が、そこにあるのにないようで、世界の外側へと引きずられていく気配。その時、空気が浅く震え、世界の奥の方から低い音が漂ってきた。風とは違う、空間そのものがひび割れるような音。琉苑の視線はその不協和音の方へ流れ、そしてそこに、マースがいた。マースはいつものように立っているが、その姿はどこか精彩を欠き、影が濃く落ちていた。目の奥に浮かぶ光は、冗談めいた色を含みながらも、どこか静かな焦燥を帯びている。「呼ばれた気がしてね」その声は遠くから聞こえるように、しかし確かにそこに存在していた。「……そうだな。呼んだかも」琉苑の声音は低い。胸の奥で、言葉よりも先に感覚がうずく。自分の身体が世界から薄れていくのを、ひどく実感していた。「正確には、もう時間がないって知らせが来たんだよ」マースは歩み寄り、琉苑の透けていく指先をじっと見下ろした。その視線は悲観とも諦観ともつかない静けさを持っていて、琉苑の胸に小さな棘を刺した。「……俺は、何をすればいいんだ」琉苑は問う。問いながら、それが自分自身への呼びかけでもあることに気づいていた。身体の熱は消え去る気配と拮抗し、魂はどこで終わり、どこから始まるのかをさまよっていた。「方法はある。だが、今からじゃ間に合わない」マースは淡い光を背にして言った。その声はやけに静かで、しかし重みを欠いていなかった。「……魂の輪郭が崩れすぎている」シュアが側にいないのに、その名前が胸の奥で震えた。琉苑は息を吸い、重みのある空気を吐き出す。「じゃあ……俺はどうなるんだ?」震えるのは恐怖ではなく、問いそのものの形の不確かさだった。シュアと過ごした時間の熱と冷たさが、身体の奥で渦を巻く。「ひとつだけある」マースは手をかざし、空間の奥から淡い器を取り出した。形の定まらぬ何かが柔らかく揺れ、光と影が混じり合っている。「これに魂を保存することができる。だが、これは君という存在の痕跡を留めるだけのものだ」琉苑の胸に、冷たい沈黙が重なる。「……その代償は?」問いはまっすぐだっ
朝ではなく、夜でもなかった。ただ、光の気配だけがぼんやりと天幕の布を透かし、時間というものが遠くの海の波のように寄せては返す、曖昧な時刻だった。琉苑は寝台の上で静かにまばたきをした。眠っていたのか、目を閉じていただけなのか、自分でもよく分からなかった。ただ確かなのは──身体の内側で、何かが熱を持って蠢いている、ということだった。それは微熱のようでいて、風邪とも違う。気だるさや鈍い重みの下に、ごく微細な疼きがあった。皮膚の奥からじわりと滲み出すような湿気、下腹を緩やかに押し上げるような圧。それは本来、身体が発しているはずの言葉のようだった。(……今、なのか。いや……今だからなのかもな)思考がまとまるより先に、身体はすでに知っていた。周期など知らぬはずのものが、魂の変容とともに姿を変え、いつしか不可逆な兆しとなって現れ始めている。あたたかく、けれど確かに自分を蝕む熱。寝返りを打つと、隣にいたはずの存在が気配だけを残していた。琉苑は片手を伸ばし、その空気の中に指を差し込む。誰もいない。だが、ぬるく残る残滓のようなものが、そこにはあった。思わず、首元に手をやる。首飾りがある。だが今は、それに触れようとしなかった。触れてしまえば、きっと何かが動いてしまうようで。「……俺、もう……どうなってるんだろうな」声は出た。けれど、それに応える者はいなかった。だからこそ、すぐに戸が開いて、シュアが静かに戻ってきたとき、琉苑の胸には奇妙な安堵が走った。「……目覚めていたのか」「ん。なんか……熱くて」言葉にすれば簡単すぎて、何も伝わらない気がしたが、シュアはただ近づいてきて、琉苑の手を取った。その手は、熱かった。琉苑の熱に応じるように、あるいは、それを映すように。まるで、ふたりの熱が互いに循環しているかのような──そんな錯覚さえ覚えた。「……発情期か?」「たぶん。周期がおかしい気がするけど……もう、そういう理屈じゃないのかも」琉苑は、目を閉じた。何よりも先に、身体が、感情が、何かを選び取ろうとしていた。シュアの指が首元を撫でる。ゆっくりと、丁寧に、柔らかく、琉苑という存在を確かめる指先。それだけで、もう充分だった。「……最後かもしれないからさ」ぽつりと漏れた言葉に、シュアの動きが止まった。「何が」「全部。お前、もう分
春だった。璃晏宮廷の庭に、白桃の花がはらはらと降る季節。枝の影が石畳にまだらな模様を落とし、風が吹くたびにそれがゆるく流れて、地面さえも夢を見ているように見えた。琉苑はその中に立っていた。かつて毎朝のように歩いていた、宮の裏庭。兄弟たちにとっては退屈な回廊も、彼には唯一無二の聖域だった。あの頃と何も変わらぬ配置のまま、花の香りと朝露の気配が漂っている。けれど、そこにいる人々──姉や兄たちも、幼い侍女も、下働きの書吏すら──誰ひとりとして、琉苑の存在に目を留める者はいなかった。琉苑は名を呼ぼうとした。けれど、喉からは声が出なかった。いや──声はあるのに、空気に届かない。音になる直前で消えていく。まるで、彼の「在る」が、この庭にとって“無”であるかのように。視線を下げると、縁の紙を束ねた書類が風で捲れていた。かつて自分の名が記されていた、璃晏皇族の系譜。そこには、もう「琉苑」という字はなかった。筆跡の歪みも、修正の跡もない。ただ、初めから、そこに名などなかったかのように。(──俺は、最初から……)その瞬間、胸元で何かが熱を持った。懐に手をやると、シュアから渡された小さな首飾りが、静かに輝きを放っていた。名を呼ばれるような、声が届く。──リウ。低く、深く、どこか遠い場所から、けれど確かにその名を抱き寄せるような声が、夢の淵を震わせた。※汗ばんだ額に指を当てながら、琉苑は目を開けた。寝台の上、まだ夜が明けきらぬ静かな空気の中。窓の向こうで鳥が鳴いている。朝が近い。首飾りを取り出し、指先で撫でると、そこには微かに残る温もりがあった。夢ではなかったのかもしれない、と琉苑は思う。あるいは、夢の形を借りて何かが告げられたのだ、と。「……俺の庭だったはずなのにな」ぽつりと呟いた声が、妙に薄く響いた。まるでこの部屋そのものが、彼の発した言葉を受け取りかねているかのように。外に出ると、空気は冷たく、早朝の石廊下に足音がひとつだけ響く。書庫に向かう途中、ルシェリアとすれ違った。彼女は目を見開きかけ、そして一瞬、何かに迷うように──言葉を飲み込んだ。「お……おはようございます」「……今、“お”の次、詰まったな?」琉苑の言葉に、ルシェリアははっとして伏し目になる。すぐに立ち去ってしまった背中に、何かを問いただす気には
夜明け前の空気は、まだひんやりと冷え、その透明な静けさが、琉苑の胸の奥を柔らかく刺した。寝台の縁に腰を下ろし、重ねた布をそっと撫でながら、彼はぽつりと言葉を吐いた──「人って、やめられるのか?」問いは小さく、しかし重く落ちた。それはシュアの話を聞いたからだ。幾度目かの自分と竜との話。隣で、シュアは目を覚まし、深い瞳で琉苑の顔を覗き込んだ。その瞳に映る月光は冷たく、しかし熱を灯すように揺れていた。静かに呼吸を繰り返す竜の胸。その鼓動と夜気が、琉苑の感覚をぐらりと揺さぶる。「……何を、言い出す」低く、けれど怒りは混じらない。その声に、琉苑は真っ直ぐ視線を返した。「お前と、
窓辺に残る夜気が、まだ湿り気を帯びていた。琉苑は、起き上がってからずっと眠れていなかった。シュアもまた、隣で同じように目を覚ましながら、ただ黙っていた。言葉が互いのあいだを泳ぐには、もう少し時間が必要だと、二人とも無意識のうちに感じ取っていたのかもしれない。沈黙は気まずいものではなく、ひとつの呼吸のようだった。やがて、琉苑の口が開く。それは、ぽつりと落ちた問いかけというより、濡れた葉の上に静かに降る露のように、音もなくその場に溶けた。「……その“前の俺”は、どんなやつだったんだ?」一瞬、沈黙が戻る。だが、今度のそれにはためらいがあった。琉苑は返事を急かさず、シュアは問いを
夜の闇が淡く寝室を包むころ、灯りを落とした空間に、ひときわ深い静けさが漂っていた。琉苑はシュアに抱かれたまま、薄布の上で半分だけ目を開け、ぼんやりと暗闇を見やる。そのとき、ふと、自分の手先が――微かに、だが確かに――いつもとは違って見えた。――指先の輪郭が、少しだけ滲んでいたのだ。ただの錯覚。眠気と明暗の移ろいのせい。それが頭をかすめた瞬間、指先に触れた空気の涼しさに、琉苑の背筋がぞくりと震えた。だが、見えたようで見えないその薄い輪郭を確かめる術はなく、彼はそっと手を引き戻した。「……どうした?夢でも見たか?」低く、柔らかな声が後ろから聞こえた。シュアだ。琉苑はぎくりと息
きっかけは、ほんの偶然だった。シュアがしばらく姿を消した夕刻、彼の部屋に呼ばれた琉苑は、ふと開かれたままの机の引き出しに目をやった。木肌の色に似た、手擦れのある革表紙。手に取るつもりなどなかったのに、指先が触れた瞬間、それは琉苑の掌に収まっていた。開いたページには、見たことのない古い言語が記されていた。──いや、それは正確ではない。「見たことがない」のに、「読めてしまう」のだ。目が、文字の形を理解していく。脳が、意味を汲んでいく。そして心が、拒否する前に内容を知ってしまっていた。そこには、名があった。優美な筆致で、その名前は何度も記されていて、すべての行の始まりにその名