皇后は気が気でない二日間を過ごしたが、特に何事も起こらなかった。蘭子がこっそり典薬寮を訪ねて金森御典医を探したものの、家庭の事情で数日休暇を取っているとのこと。陛下の前で何を話したのかは結局分からずじまいだった。それでも禁足の沙汰が下らないことで、皇后の不安は随分と和らいだ。さらに数日が過ぎても何の動きもなく、ついに安堵の息をついた。きっと金森御典医は陛下に何も話していないのだろう。一度の呼び出しで口を閉ざしたなら、今後も蒸し返すまい。何しろあの男、金子をしっかり受け取っているのだから。ところが日を重ねるうち、妙なことに気づいた。毎日蘭子に持たせる大皇子の食事に、息子が全く手をつけないのだ。最初は「まだお腹の調子が悪い」「皇祖母様が薄味にするよう仰った」と言っていたので、当然だと思った。だがもうこれほど日が経ち、体調も回復したというのに、なぜまだ口にしないのだろう?漠然とした不安が胸をよぎる。今夜太后への挨拶のついでに、息子に食べ物を届けて話をしてみよう。酉の刻の終わり頃、皇后は慈安殿を訪れた。この時分なら大皇子は夕飯を済ませ、学習の準備をしている頃のはず。慈安殿の門前で内藤勘解由に出会うと、大皇子は練馬場で馬術の稽古をしていると教えられた。内藤の話では、最近は毎日授業が終わると馬の練習をし、それから戻って食事を取るのが習慣になっているという。皇后は驚いた。「練習の後で食事なの?体を壊してしまうのでは?」「ご心配には及びません」内藤が答える。「太后様が申の刻に菓子と湯を届けるよう仰いますので、空腹で倒れるようなことはございません」皇后は眉をひそめた。自分も申の刻に菓子を届けさせているのだが、息子は胃の調子が悪いと言って断っているのだ。「それでは練馬場へ参りましょう」「皇后様」内藤が静かに制止する。「太后様のお言いつけで、大皇子様が書斎におられる時も、練馬場におられる時も、どなたもお邪魔してはならないとのこと。皇后様も例外ではございません」「どうしてよ?」皇后の眉間がぴくりと動き、声が一気に鋭くなる。「太后様のご命令でございます。私はお伝えするだけで」内藤は相変わらず落ち着いている。「理由をお知りになりたければ、お入りになって太后様に直接お尋ねください」せっかく来たのだから、挨拶はしていこ
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