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All Chapters of 桜華、戦場に舞う: Chapter 1491 - Chapter 1493

1493 Chapters

第1491話

皇后は気が気でない二日間を過ごしたが、特に何事も起こらなかった。蘭子がこっそり典薬寮を訪ねて金森御典医を探したものの、家庭の事情で数日休暇を取っているとのこと。陛下の前で何を話したのかは結局分からずじまいだった。それでも禁足の沙汰が下らないことで、皇后の不安は随分と和らいだ。さらに数日が過ぎても何の動きもなく、ついに安堵の息をついた。きっと金森御典医は陛下に何も話していないのだろう。一度の呼び出しで口を閉ざしたなら、今後も蒸し返すまい。何しろあの男、金子をしっかり受け取っているのだから。ところが日を重ねるうち、妙なことに気づいた。毎日蘭子に持たせる大皇子の食事に、息子が全く手をつけないのだ。最初は「まだお腹の調子が悪い」「皇祖母様が薄味にするよう仰った」と言っていたので、当然だと思った。だがもうこれほど日が経ち、体調も回復したというのに、なぜまだ口にしないのだろう?漠然とした不安が胸をよぎる。今夜太后への挨拶のついでに、息子に食べ物を届けて話をしてみよう。酉の刻の終わり頃、皇后は慈安殿を訪れた。この時分なら大皇子は夕飯を済ませ、学習の準備をしている頃のはず。慈安殿の門前で内藤勘解由に出会うと、大皇子は練馬場で馬術の稽古をしていると教えられた。内藤の話では、最近は毎日授業が終わると馬の練習をし、それから戻って食事を取るのが習慣になっているという。皇后は驚いた。「練習の後で食事なの?体を壊してしまうのでは?」「ご心配には及びません」内藤が答える。「太后様が申の刻に菓子と湯を届けるよう仰いますので、空腹で倒れるようなことはございません」皇后は眉をひそめた。自分も申の刻に菓子を届けさせているのだが、息子は胃の調子が悪いと言って断っているのだ。「それでは練馬場へ参りましょう」「皇后様」内藤が静かに制止する。「太后様のお言いつけで、大皇子様が書斎におられる時も、練馬場におられる時も、どなたもお邪魔してはならないとのこと。皇后様も例外ではございません」「どうしてよ?」皇后の眉間がぴくりと動き、声が一気に鋭くなる。「太后様のご命令でございます。私はお伝えするだけで」内藤は相変わらず落ち着いている。「理由をお知りになりたければ、お入りになって太后様に直接お尋ねください」せっかく来たのだから、挨拶はしていこ
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第1492話

長春宮に戻った皇后がそれほど長く不安に浸る暇もなく、清和天皇が現れた。玄鉄衛を連れての来訪で、春長殿全体が封鎖され、吉備蘭子だけが殿内に留まることを許された。吉田内侍が手にしていたのは二つの品。その一つが、あの日大皇子に飲ませた虫除けの毒粉だった。机の上に置かれたそれを見た瞬間、皇后は金縛りにあったように立ち尽くした。心の奥まで凍りつくような寒さが襲い、全身が止まらずに震える。その様子を見た蘭子は、どさりと膝をついて泣き崩れた。「陛下、お許しください!これは全て私一人の仕業でございます。皇后様は何もご存知ありませんでした!」天皇は蘭子の言葉など聞こえないかのように椅子に腰を下ろし、吉田内侍に告げた。「詔を皇后に見せよ。読み上げる必要はない」「はい」吉田内侍が二つ目の品を広げる。それは勅書だった。皇后の前に差し出された勅書に目を落とした瞬間、わずか二行を読んだだけで、まるで化け物でも見たかのように悲鳴を上げた。「いやあああ!」床に崩れ落ち、涙が止めどなく溢れ出す。口からは混乱した声が漏れ続けた。「だめ、だめよ……」蘭子は勅書の内容が分からず、見ることも許されず、ただひたすら頭を床に打ちつけて血を流していた。天皇の瞳が氷のように冷たく光る。「毒を使ってまで息子の面目を保とうとしたのは、あの子を皇太子にするためだろう?息子の命を賭けてまで皇太子の座を狙うなら、朕が望みを叶えてやろう。あの子を皇太子に册封する。その代わり、お前の命と引き換えだ。公平だろう?」「いえ、あの子は嫡長子です。皇太子になるべき身分なのです!陛下、私に過ちがあったとしても、死罪に値するほどでは……」皇后は這いつくばって天皇の足にすがりついた。顔中を涙が伝い、絶望に染まった瞳が覗く。「陛下、あの子は私が産んだ子です。本当に害するつもりなどありませんでした。全てあの子のためを思って……」「あの子のためか。望み通りになったではないか。皇太子になったのだから、お前の願いは叶ったのだろう?」清和天皇の声が高くなり、抑えきれない怒りが滲み出る。「息子の命を名誉のために使えるなら、お前の命で皇太子の座を勝ち取ればよかろう。これ以上策を巡らせる苦労もいらぬ」皇后は全身を震わせながら、何と言い訳していいか分からずにいた。自分の望んだことが、本当に叶ったというのか。「違
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第1493話

近頃、皇子たちのことは何でも玄武に話している。特に玄武が夜に授業をした後、針治療に付き添ってくれる時などに。兄弟で語り合う時間が増えるにつれ、わだかまりも疑いも薄れていった。もちろんこれは相手によるもので、玄武はさくらのこと以外なら包み隠さず真っ直ぐに話してくれる。間近で見ていれば分かることだ。何か問題があれば兄弟で直接話し合える。以前のように憶測だけに頼ることもない。ただ、清和天皇は自分がこう変われたのは、さくらに叱られて目が覚めたからだと思っていた。玄武を臣下としてではなく、兄として見ることができるようになったのも。丹治先生が針治療を終えて休息のために下がると、玄武は天皇の手を取って歩かせた。後ろから吉田内侍がそっと付いてくる。夜の御苑に八角灯籠がゆらめいて、やわらかな光が二人の顔を優しく照らしていた。玄武は話を聞き終えても特に意見は述べなかった。陛下の胸の内は分かっている。余計な口出しは無用だろう。案の定、清和天皇は皮肉っぽく笑った。「あの女も馬鹿ではないからな。なんといっても嫡長子だ。まだ望みはあると思っているのだろう」「そうですね」玄武は相槌を打ちながらゆっくりと歩を進めた。「大皇子の様子はどうだ?」天皇は毎日必ずこう尋ねる。「生まれ変わったとまでは言えませんが、以前よりずっと励んでおります」嘘偽りのない言葉だった。春の狩りの後、大皇子はまるで別人になった。急に目覚めたように、自分の才能の乏しさを悟って努力するようになったのだ。それも日に日に熱心になっている。さくらの言葉を本当に心に刻んだのだろう。昨日の自分より今日の自分が、と毎日励んでいる。天皇は満足そうに頷いた。毎日同じ答えを聞いているのに、いつも嬉しそうだ。「潤くんとはうまくやっているか?」「ええ、お互い助け合っています」天皇の目が遠くを見つめた。この子たちの代で、自分と上原次郎の友情を取り戻してほしいと願っているのだ。「下の二人とは?」玄武の口元に笑みが浮かんだ。「弟たちを可愛がるようになりました。今日も三皇子が馬から落ちそうになった時、飛び込んで受け止めてやったんです」清和天皇は少しほっとした様子で言った。「皇室の兄弟は、せめて幼いうちは助け合い、愛し合わねばならん。年を重ねるにつれ情も薄れるのだから、今のうちに
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