しかし、さくらは平安京の皇族や官吏たちが、北森の交渉介入を知らされていなかったらしいことに気づいた。彼らの顔には明らかに困惑の色が浮かんでいる。困惑の後に続いたのは、喜びと自信の表情だった。きっと北森の参加を、平安京への後ろ盾と受け取ったのだろう。この様子を見て、さくらはむしろ安堵した。もしそうなら、元新帝は事前に彼らに知らせることもできたはずだ。少なくとも交渉に当たる官僚たちには伝えておけただろう。なぜそうしなかったのか。考えられる理由は一つしかない。彼女もまた互いの歩み寄りを望んでおり、朝廷で支持する者が少ないため、誰もが信頼を寄せる北森の安豊親王を招いたのだ。そう考えれば合点がいく。昨夜元新帝がさくらと紫乃を宮中に招き、最初に口にした「念願が叶わない」という言葉も。女子科挙は一例に過ぎず、多くの政策を推し進めることの困難さを語っていたのだろう。この推察に至り、さくらの心は軽やかになった。宮中での宴が終わると、北唐の一行は早々に辞去した。食事以外に特に意見を述べることもなく、軽い会話を交わした程度だった。彼らが立ち去ると、大和国使節団も席を立って暇を告げる。皆準備を整えねばならない。スーランジーから渡された日程によれば、明後日にはもう交渉が始まるのだから。宿泊先の離宮へと戻った一行は、清家本宗の呼びかけで円座を組んだ。といっても、いつもの議論の繰り返しだ。ただ、今回もさらに譲歩するとなれば、地図を広げてじっくり検討しなければならない。「また同じ話の繰り返しになりそうだが……」清家が溜息混じりに切り出す。今度もまた譲歩を迫られるとなれば、皆で地図を広げてじっくりと検討しなければならない。だが、出発前に天皇から示された譲歩の限界線——それを超えれば、帰国しても面目が立たず、歴史に汚名を刻む羽目になる。重苦しい沈黙が部屋を支配した。誰も最初の一言を発しようとはせず、ただ広げられた地図を見つめながら、心の内で様々な思惑を巡らせている。一方、北森の一行は都の一角にある宿場に身を寄せていた。彼らの希望でそこを選んだのだが、スーランジーが気を利かせて宿全体を貸し切りにしてくれたおかげで、食事も夜食も、一声かければいつでも用意される環境が整っていた。案の上に広げられた地図は、両国で使われているものとは明らかに違っていた
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