Semua Bab 桜華、戦場に舞う: Bab 1501 - Bab 1510

1663 Bab

第1501話

さくらは二人をじっと見つめ、妙な違和感を覚えた。年齢が読めないのだ。見た目は三十そこそこに見えるが、どこか若々しい活力がある。まるで十代か二十代のような。だが瞳を見ると、特に男の目は古井戸のように深く、まるで年老いた狐のような知恵を宿していた。さくらたちが声をかける前に、男が歩み寄って尋ねた。「ここに孤児院ができるのですか?お役所が建てるのでしょうか?」棒太郎は二人を見回した。話し方は確かに都の言葉遣いで、関ヶ原の人間ではないようだ。ただ、悪意は感じられなかったので答えた。「ええ、捨てられた子どもたちを預かる施設です。お役所が作るんです」男が言った。「それは良いことですね」さくらが前に出て尋ねた。「お二人は都からいらしたのですか?」男はさくらを見つめたが、その質問には答えず、逆に問い返した。「あなたが北冥親王妃の上原さくらさんですか?」さくらは身構えた。どうして知っているのかと問おうとしたとき、男がまた口を開いた。「平安京へ向かわれるのでしょう?いつ出発ですか?一緒に行けませんか?」さくらは面食らった。使節団が平安京へ交渉に向かうことは多くの人が知っているが、公式な使者の一行に勝手に人を加えるわけにはいかない。それなのに、当たり前のように頼んでくる。「平安京で何をなさるおつもりですか?」「交渉を見学させていただこうと思いまして。証人のような立場で」この男は、ただ者ではないか、それとも完全にでたらめを言っているかのどちらかだろう。さくらは改めて二人を見た。表情は真剣だが、身なりといえば落ちぶれた渡世人にも劣るありさまだった。男は彼女の返事を待たずに、また別のことを言い出した。「実は、まだ何も食べておりません。お食事をご一緒させていただけませんでしょうか?道中ずっと歩き詰めで、ここに着いてからもあちこち見て回っていたものですから。昨夜の晩飯も抜いてしまいまして」紫乃がちょうど中から出てきたところで、この言葉が耳に入った。前の会話を聞いていなかったため、誰かがさくらに食事を誘っていると思い込んだ。二人の身なりを見て、通りすがりの渡世人だと判断した。「いいじゃない、お食事くらい。旅先では皆仲間でしょ」男の表情が和らぎ、微笑みさえ浮かんだ。「ありがとうございます。春満楼はいかがでしょう?」さくらは春満楼を
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第1502話

春満楼は満席だった。元々そう大きな店ではなく、普段でもそれなりに客が入る。だが、あの女が連れてきた黒装束の男たちが残りの席を全て占めてしまった。さくら、紫乃、棒太郎の三人は、店主が慌てて用意した小さな机に、彼らとは離れて座ることになった。男の申し訳なさそうな声が耳元で響いた。穏やかで心地よい響きだった。「こちらは皆、私の仲間でして。昨夜から私同様、何も食べておりません。お嫌でしたら、全員を外で待たせて、後で饅頭でも一人ひとつずつ渡せばよろしいのですが」紫乃は面食らった後、反射的に首を振った。「いえいえ、そんな。お好きにどうぞ。何でもお召し上がりください」男は温和な笑みを浮かべた。「お優しい方ですね。それでは遠慮なく、適当に注文させていただきます」「は、はい……」紫乃は頷きながら、店内を埋め尽くす黒い装束を見回した。皆同じような服装だが、よく見ると袖に何か刺繍がしてある。しわくちゃで汚れているた――そう、黒い服でも汚れは分かるものだ――文字が読み取れない。目を凝らして見ると、刺繍はそれぞれ違っていた。「黒影衛」だの「閃電衛」だのといった具合に。彼らも決して無礼な荒くれ者ではなかった。席が確保されると、皆立ち上がって食事を振る舞ってくれる主人に礼を述べた。中には白髪交じりの者もいるが、顔色は浅黒く健康的で、年寄りには見えない。ただし何人かは相当に醜い顔をしており、まるで鬼が生まれ変わったかのようだった。さくら、紫乃、棒太郎は顔を見合わせた。今日の食事は、まるで無理やり押し切られた形になってしまった。食事中に話でもして、彼らの正体や目的を探ろうと思っていた。二、三十人もの武芸者らしき集団を、素性も分からぬまま放置するのは危険すぎる。ところが、いざ食事が始まると、まさに「あっという間に平らげる」とはこのことか。誰も一言も発しない。あの女も同様で、本当に長い間飢えていたかのようだった。食事中に言葉を交わしたとすれば、一人の黒装束が箸で最後の角煮を押さえ、手を伸ばそうとした別の男を睨んで、厳しい口調で「俺の」と言った時だけだった。それ以外は、誰も口を開かない。あ、もう一言あった。棒太郎が酒はいかがかと尋ねた時、あの男が「仕事中は飲まない」と答えたのだ。そう言うと、またすぐに黙々と食べ続けた。食事の早さは目を
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第1503話

八郎が指示を出すと、北條守がその任を引き受け、部下を連れて方々を探り回った。さくらが関ヶ原にやってきたことは、守も知っていた。城外での出迎えの際、遠くに立って近づくことはしなかった。あまりに距離があったため顔も定かではなく、ただ彼女らしい人影がぼんやりと見えただけだった。自分でも余計なことをしたと思う。もう彼女と何の関わりもないというのに。都の人も出来事も、遠ざけておくべきなのだ。使節団が関ヶ原で休息している間、交渉の戦術について話し合い、何度も想定問答を重ねていた。皆、今回の交渉が前回に比べればまだしも、というだけで、本当の意味で楽なものではないことを理解していた。これは女帝がずっと心に留めてきた案件だ。そう簡単に譲歩するはずがない。佐藤家も心配していた。相手が密偵を送り込んで使節団の作戦を盗み聞きするかもしれない。手の内を知られれば対策を練られ、大和国が不利になる。そこで八郎は北條守に命じた。必ずあの連中を見つけ出し、同時に使節団の世話係も洗い直せ。紛れ込んだ者がいないか確かめろ、と。二日間の捜索の結果、守は何の成果も得られなかった。元帥邸内でも怪しい者は見つからず、変装した人間も、外部と連絡を取る者もいなかった。守が掴めた唯一の情報は、彼らが春満楼で一度食事をしたこと、店を出た後に商人が目撃したことだけ。肝心の宿泊先も行き先も、誰も知らない。妙な話だった。二、三十人もの黒装束が、忽然と姿を消すものだろうか。この国境の町は四方八方に道が通じている。関ヶ原の外へ出るには高い山を越えるしかないが、今は両国の往来も自由だ。普通の旅人なら、わざわざ険しい山道を選ぶ必要はない。あの断崖絶壁は危険極まりなく、一歩踏み外せば粉々に砕け散る。佐藤大将は改めて入城記録を調べ直すよう命じた。見落としがあったのかもしれない。二、三十人の黒装束として調べるのではなく、分散して入城した可能性もあるし、必ずしも黒い服を着ていたとは限らない。さくらや紫乃の話では、子どもが泣き止むほど醜い顔をした者がいた。そんな容貌の人間は滅多にいない。見れば必ず記憶に残るはずだ。だが、それでも手がかりは見つからなかった。さくらも首を捻った。三十人もの大の大人が、煙のように消えてしまうなんて。とはいえ、見つからないものは仕方ない。明後日の朝に
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第1504話

翌朝早く、一行は平安京へと出発した。さくらに別れの辛さはさほどなかった。帰りにまた関ヶ原を通るのだから、外祖父たちにも会える。関ヶ原を出ると、道のりはずっと険しくなった。多くの道が穴だらけで、中には故意に破壊されたものもある。馬車での移動は困難を極めた。それでも榎井親王は馬に乗りたがらなかった。数日の休養を取ったとはいえ、股の痛みは根深い。歩くのはまだしも、鞍の上に座るのは耐え難かった。関ヶ原で功績を立て、孤児院まで設立したのだからと、彼は我が儘を言って馬車を要求した。馬車が進めなくなると、玄甲軍の兵士たちが馬から降りて車を押し、苦労しながら前進した。幸い、今は両国の道が開放されており、封鎖はされていない。二国が整備した街道を行けるのだ。もしも山越えをしなければならないとなれば、親王のお尻がどれほど痛い目に遭うか分からない。平安京の領内に入り、鹿背田城に向かうと、平安京の役人と兵士が出迎えて道中を護衛した。通訳以外は皆、平安京を訪れるのは初めてだった。同じ国境の町でも、関ヶ原と鹿背田城では雲泥の差があった。至る所に崩れかけた家屋、襤褸をまとった物乞い、民の顔には苦悩の色が濃い。さくらは首を傾げた。両国の戦いは、ここまで及んではいなかったはずだ。以前、北條守と葉月琴音が来て村を襲った事件があったとしても、被害を受けたのはその村だけ。鹿背田城全体がこんな有様になる理由はない。鹿背田城の宿駅に泊まり、護衛の役人から事情を聞いて初めて分かった。スーランキーが関ヶ原と戦った際、後方からの補給が途絶え、兵士たちが鹿背田城で略奪を働いたのだという。当時のスーランキーの状況は、ビクターと大差なかった。平安京では開戦を支持する者が少なく、退位した上皇にも大した覚悟はない。一人の意気込みだけでは、大事は成し遂げられなかった。スーランキーが戦死した後、遺体すら持ち帰られず、そのまま無縁墓地に捨て置かれたという話だ。鹿背田城の民も役人も、彼を骨の髄まで憎んでいるのが窺える。鹿背田城を離れると、道はいくらか歩きやすくなった。それでも大和国の官道と比べれば、まだまだ見劣りする。道中では、大和国使節団を見物する平安京の民も多かった。好奇の目もあれば、憎悪や嫌悪を込めた視線もある。長年の争乱で戦火が止んだかと思えばまた燃え上がり、
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第1505話

榎井親王はすっかり怯え切ってしまい、御典医に安神の薬を処方してもらって調子を整えている最中だった。さくらが見舞いに行ってみると、なんとも気の毒な様子で、顔は紙のように真っ白で血の気が全く失せており、唇はまだぷるぷると震えながら、「し、刺客はもう……もう行ったのか?」とどもりながら尋ねるのだった。さくらが刺客はもう去ったと告げると、ようやく震えが少し収まった。実のところ、側近たちはとっくに刺客が追い払われたことを伝えていたのだが、榎井親王は信じようとせず、さくらの口から聞いてようやく安心できたのである。さくらは「ゆっくりお休みになって」と声をかけて部屋を出た。清家本宗は他の者たちをなだめているところだった。兵部大臣として数々の修羅場をくぐり抜けてきた彼は、王妃と玄甲軍を信頼しており、特に恐れることもない。せいぜい首一つ飛ぶだけのことだ、という腹積もりだった。それとは対照的に、梅月山の若い者たちは寄り集まって、先ほど関ヶ原で出会った黒装束の連中について疑いの目を向けていた。もしかすると、あれがこの刺客たちだったのではないか、と。この推測を口にしたのは紫乃だった。彼女はあの一団があまりにも神出鬼没に消えたことを不審に思っており、きっと何か隠し通路を使って逃げたに違いない、計画的な行動だったのだ、と考えていた。それに、全員が黒装束という点も共通している。人数が完全に一致しないのも説明がつく――何人かは潜伏していて表に出てこなかったのだろう。「あの時あれだけの人数を動員したってことは、最初から私たちを狙っていたんじゃない?でも関ヶ原だったから、たとえ私たちを殺したところで逃げ切れないって判断したのかも」紫乃は自分の推理に確信を深めながら、さくらに視線を向けた。「どう思う?私の考え、当たってると思わない?」さくらは少し考えてから首を振った。「違うと思うわ。それとも、今夜の刺客たちはあの人たちほど腕が立たないというべきかしら。あの人たちは関ヶ原で自由自在に現れて消えることができた。それが証拠よ。もし本当にあの人たちなら、襲撃の後で悠々と逃げ去ることもできたはず。私たちには追いつけないし、痕跡を辿ることもできない。ほら、あの日春満楼で食事した後、人を派遣して捜索させたでしょう?春満楼の人以外、誰一人として彼らを見た者はいなかったじゃない」
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第1506話

平安京の都に到着したのは、八月十三日のことだった。大和国を発ってから、まる一月が過ぎていた。午後の陽射しが心地よく降り注いでいる。榎井親王は馬車に横たわったまま入城した。平安京の領内に足を踏み入れてから、彼らは七度も暗殺者に襲われていた。最後の襲撃は特に激しく、死を覚悟した刺客たちが送り込まれたらしい。玄甲軍の多くが負傷し、紫乃でさえ肩を斬りつけられる始末だった。幸い筋は傷つかずに済んだが。榎井親王があれほど怯え切ってしまったのには理由があった。刺客が現れた時、彼は厠から出たばかりだったのだ。刺客の剣は既に胸元を貫いており、あと少しで致命傷となるところを、さくらが間一髪で気づいた。振り返りざまに長槍を刺客の胸に突き立て、桜花槍の鉤で引き倒して、ようやく榎井親王は九死に一生を得たのである。かすり傷程度だったにも関わらず、まるで瀕死の重傷を負ったかのように大騒ぎし、半夜通し泣き叫んでようやく収まった。スーランジーが官僚たちを引き連れて出迎えに現れた。彼は今や平安京の宰相である。一目でさくらを見分けると、拱手して笑みを浮かべた。「上原将軍、お久しぶりです。相変わらずの勇ましいお姿で」さくらは馬を下りて礼を返しながら、さりげなく彼の様子を観察した。正直なところ、最初は彼だと気づかなかった。随分と老け込んでいる。髪は白髪交じりとなり、髭も眉毛も霜を置いたように白くなっていた。しかし精神は矍鑠としており、瞳には鋭い光が宿っている。邪馬台の戦場にいた頃よりも、むしろ生気に満ちていた。あの頃の彼は全身を怒りに包まれ、冷厳で近寄りがたく、生きる意志を失って復讐のためだけに存在しているような印象だった。「宰相様にはお手数をおかけいたします」さくらは微笑みを浮かべて言った。「とんでもない、光栄の至りです!」スーランジーは朗らかに笑いながら、清家本宗ら他の官僚たちとも一人ずつ挨拶を交わした。スーランジーの大和国語は流暢で、通訳の必要がないのは助かった。挨拶もそこそこに、一行は皇室の離宮へと案内された。この離宮は普段、皇室の使節を迎えるのに使われることはない。今回が初めてだとスーランジーは説明した。これも女帝陛下が大和国使節団をいかに重視しているかの表れだという。スーランジーは榎井親王の負傷を知ると、平安京の御典医を派遣して診察させ
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第1507話

平安京の皇宮は金色に輝き、威容を誇って暗闇の中に静かに佇んでいる。夜の帳に包まれた姿は、ひときわ荘厳で厳かだった。第一の宮門をくぐっても、馬車は広々とした宮中の道を悠々と進んでいく。決して窮屈な感じはしない。それにしても、ここの灯油は湯水のように使われているらしい。至る所が明々と照らし出されており、馬車を降りて曲がりくねった回廊を歩いていくと、目に入る大木という大木に風よけの提灯がいくつも吊るされている。誰かが木陰に身を潜めようとしても、一目瞭然で隠れようがないだろう。スーランジーが先導し、ある宮殿の前まで来ると、二人の女官が進み出てきた。スーランジーと平安京の言葉で短く言葉を交わすと、さくらと紫乃に向かって微笑みながら丁寧に一礼した。「上原殿、沢村お嬢様、陛下がお二方をお呼びです」スーランジーがそう告げる。女官たちの案内で、さくらと紫乃は殿内へと足を踏み入れた。殿内の調度は豪華絢爛で、人が抱えるほどもある太い彫刻柱が左右に聳え立ち、まるで雲まで届きそうな威圧感を放っている。元新帝は檀木の彫花が施された玉座に腰を下ろしていた。笑みを浮かべてはいるものの、疲労の色が隠せない。さくらと紫乃が礼を取ると、元新帝は笑顔で座を勧めた。さくらを見つめながら言う。「朕は上原殿が使節団を率いて参られると聞き、嬉しくて仕方がなかったの。日夜お待ちしていたのよ。ようやくお二方にお会いできたわ」さくらの笑顔には真摯さが込められていた。「陛下の即位の知らせを聞き、私も大変喜ばしく思いました。陛下の念願が叶われたこと、心よりお祝い申し上げます」彼女は元新帝をそっと見つめた。すぐに目の前の人物と、かつてのレイギョク長公主の姿が重なった。実のところ、さほど変わっていない。同じ疲労、同じ重々しさがそこにある。皇帝になることと、権力を握る長公主であることは、彼女にとってはさして変わりがないのだろう。心を砕くべき事柄は一つも減らず、むしろ増えているかもしれない。「念願が叶うとは、容易なことではなかったわ」元新帝はそう言いながら、ふっと笑みをこぼした。「だが幸い、物事を進めるのが以前より楽になった面もあるの」女官たちが茶と菓子を運んできた。平安京の名物菓子らしい。さくらと紫乃は既に夕食を済ませており、空腹ではなかったので、ほんの少し口をつけるだけにとど
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第1508話

女帝の言葉を続ける。「皮肉なことに、朕が長公主だった頃は堂々と女子の登用を叫ぶことができた。ところが皇帝となった今は、じっくりと時間をかけて進めねばならない。各方面の勢力の均衡を保ち、朕への敵意や警戒心を和らげるために。朕が考慮すべき事柄も増えた。時として焦りに駆られ、反対する者どもの首を全て刎ねてやりたくなる」さくらは少し考えをまとめてから口を開いた。「皇帝であろうと官吏であろうと、男女を問わず、陛下の目指すところは皆同じはずです。国の長きにわたる平安と、民の穏やかな暮らしを願ってのこと。国が栄え、戦の火種が消えた時こそ、陛下のお望みの改革も大きな抵抗を受けずに済むでしょう。今はまず、ご自身の足元を固めることが何より大切かと」言葉を濁してはいたが、元新帝にはその真意がよく伝わった。国内はまだ混乱の渦中にあり、様々な勢力が足を引っ張り合っている。朝廷を安定させるだけでも並大抵のことではない。急進的な改革に走れば、帝位そのものが危うくなる。未来を語る以前の問題だ。紫乃もさくらの考えに同感だった。「何かを成し遂げる方法は一つではありませんもの。正面から真っ向勝負を挑むのも手ではありますが、決して賢いやり方とは言えません。一人の人間の考えを変えるだけでも大変なのに、千年もの間続いてきた決まりごとを覆すなんて。でも陛下が種を蒔けば、きっとその足跡を辿って歩み続ける人が現れるはずです」そう言ってから、少し慎重に言葉を継いだ。「梅月山で私とさくらが武芸を学んでいた頃、多くの人が私たちを認めようとしませんでした。でも実力で一人ずつ打ち負かしていったんです。声高に叫んだところで意味はありません。やはり腕前がものを言うのです」元新帝は深く考え込んだ。二人の言葉を真剣に咀嚼しているのだった。しばらくの沈黙の後、彼女が口を開く。「あなた方の仰る通りね。朕が焦りすぎていたわ」ため息混じりに続けた。「この想いを胸に抱いてもう何年になるかしら。長い年月に思えて仕方がないの。でもこの国はまだ準備ができていない。女子たちも同じよ。男子と渡り合えるだけの力を蓄えていない。彼女たちにも時間が必要だし、朕にも時間が必要なのね」その話題はそこで打ち切り、元新帝は気楽に女同士の話に花を咲かせた。この位に就いてからというもの、朝廷には友と呼べる者はいない。あるのは君臣関
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第1509話

翌日の宮中晩餐会は申の刻から始まった。今回もスーランジー自らが迎えに来てくれる。予想していた通り、即位の大典は既に済まされており、今回は国境線交渉が主目的。そのため宮中に入っても、他国からの賓客や使節の姿は見当たらなかった。殿内には皇族や重臣たちがずらりと居並んでいる。大和国使節に対して露骨な敵意は示さないものの、親しみやすい態度とも言い難い。ただ、こうした席では通訳が必要なため、会話も限られる。簡単な挨拶程度に留まった。他国からの使節はいないものと思っていたが、席に着く間際になって元新帝が大和国使節に向かって言った。「本日は北森からも貴賓をお招きしているの。間もなくお着きになるでしょう。きっと意気投合なさることと思うわ」清家本宗の顔が一気に輝いた。「北森の貴賓とは!どちら様がいらっしゃるのでしょうか?」興奮するのも無理はない。音無楽章が持参した菅原陽雲の六眼銃や大砲は、どれも北森の技術を改良したものだ。菅原陽雲先生も北森で学んだという話を聞いている。大和国の兵部大臣としては、ぜひとももっと詳しく知りたいし、学びたいところだった。北森は大和国にとって常に手本となる存在だった。進んだ兵器も治政の策も、大和国よりはるかに洗練されている。国の事情が違えば全てを真似ることはできないが、深く語り合えれば必ず得るものがあるはずだ。元新帝は一同の嬉しそうな表情を見て微笑んだ。「いらしたら分かるわ」宮中の晩餐会は退屈で疲れるものだが、北森の貴賓がいるとなれば話は別だ。皆が期待に胸を膨らませていると、大声で告げる者があった。「北森安豊親王ご夫妻のお成り」清家は思わず口元を押さえ、驚愕のあまり言葉を失った。だが瞳の奥には狂喜の色が浮かんでいる。さくらも安豊親王の名は師から聞いたことがあった。師匠が深く敬愛していた人物だ。まさか今日お目にかかれるとは思わず、胸が躍った。饅頭や棒太郎たちは比較的落ち着いている。名前は聞いたことがあるかもしれないが、さほど心に留めていないのだろう。皆が熱い期待を寄せる中、大勢の人影が堂々と現れた。先頭を歩く人物を目にした瞬間、さくらも紫乃も息を呑んだ。これは……関ヶ原で食事をおねだりしてきた、あの方ではないか?他の面々を見回すと、どの顔にも見覚えがある。特に人相の悪い数名の男たちは、
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第1510話

普通こうした場では、誰もそれほど食が進まない。多くの料理は一口つけただけで下げられてしまうものだ。ところが北森の一行は、本当に食べ物を大切にしている。どんな料理が出されても残らず平らげ、満たされた酒杯も瞬時に空にする。彼らに仕える宮人たちも、さぞかし疲れ果てていることだろう。紫乃は春満楼での食事を思い出していた。あの時も一粒残らず平らげていたのだ。さくらに何か言いたいことがあったが、食事の音以外に誰も口を利かない中では、声をかけるのも憚られる。それでも姉妹同然の仲。視線を交わすだけで、互いの考えていることは手に取るように分かった。紫乃は北森の人々がここに現れたのは、交渉と関係があるのではないかと思っている。さくらも同感だった。ただ、彼らが仲裁に来たのか、それとも平安京を支援しに来たのかが読めない。前者であれば願ったり叶ったりで、交渉も長引かずに条約締結まで漕ぎ着けられるだろう。後者だとすれば、これは長期戦になる。北森を後ろ盾にされては、大和国としても交渉は難航するに違いない。大和国側の使節、清家本宗や賓客司卿も事情を察したのだろう。先ほどまでの歓喜の色は消え失せ、重苦しい表情を浮かべている。目の前の料理にも箸が進まない様子だった。それでも皆が食事を続けている以上、彼らもゆっくりと口に運ぶしかない。これまで参加した宮中の宴で、これほど異様なものはなかった。嵐の前の不気味な静寂が場を支配している。宮中の宴に用意された料理は三十二品。一品ずつの量は少ないものの、宮人たちが次々と運び込み、また次々と下げていく。誰かが杯を持ち上げようとしても、先ほどの元新帝と同じ結果に終わる。一瞥しただけで、杯の酒を飲み干し、置いて、また食事に戻る。ようやく三十二品全てが供され、北森の一行も箸を置いた。彼らが止めたことで、他の者たちもやっと食事を終えることができた。安豊親王は口元を拭うと、平安京の言葉で何やら話し始めた。通訳の言葉によれば、料理の美味しさと酒の上質さを褒め称え、元新帝の手厚いもてなしに感謝を表しているという。さくらは春満楼での一幕を思い出していた。あの時の彼らは大和国の言葉を母語のように操っていた。今度は平安京の言葉を、これまた実に流暢に話している。師匠が言っていたことが頭に浮かんだ。安豊親王夫妻は年
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