道中の疲労は清和天皇の体を容赦なく蝕んでいた。馬車の揺れ一つ一つが、病に侵された肺を激しく痛めつける。「陛下、少しお休みになられては……」丹治先生が心配そうに声をかけても、天皇は首を横に振るばかりだった。針を打ち、薬湯を煎じても、所詮は一時しのぎに過ぎない。この強行軍が続く限り、病状の悪化は避けられるものではなかった。それでも清和天皇は歯を食いしばり、決して弱音を吐こうとはしない。大皇子のためなら、この命尽きるとも構わぬと、心に誓っていたのである。南の明州は、まさに薬草の楽園と呼ぶべき土地だった。四季を通じて温暖な気候に恵まれ、病者の療養には理想的な環境が整っている。冬とは名ばかりで、肌に触れる風は秋のそれほど優しく、寒さなど微塵も感じない。地元の人々は「神薬山荘」という名を知らずとも、「薬王堂」なら誰もが頷く。明州最大の薬舗として、その名は広く知れ渡っていた。実のところ、神薬山荘は各地に点在しているのだが、この明州のものこそが最も貴重な薬草を産出する、まさに宝庫中の宝庫なのである。なだらかに連なる山々の懐には、数え切れぬほどの秘宝が眠っている。山荘への道のりは決して険しくはない。曲がりくねった小径を辿れば、両脇から溢れんばかりの花々が迎えてくれる。「これは……なんと美しい」清和天皇の瞳に、生涯で初めて目にする光景が映し出された。椿の艶やかな紅、薔薇の気品ある白、躑躅の可憐な桃色、紫陽花の清楚な青紫——名も知らぬ花々が織りなす絢爛たる絵巻に、思わず息を呑む。道の向こうには黄金に輝く銀杏の葉が舞い散り、まるで天女の羽衣のようだった。「翼くんも……こんな美しい場所でなら」胸の奥で重くのしかかっていた憂いが、ふと軽やかになるのを感じた。愛する息子が一生をこの地で過ごすのだとしても、これほど美しい花の海に包まれているなら、きっと心安らかに過ごせるに違いない。道を進むにつれて、高くそびえる銀杏並木の奥に、山荘がひっそりと姿を現した。白壁に青い瓦屋根の立派な造り。山あいにどっしりと腰を据え、見上げれば雲霧が山頂を包み込んでいる。砕けた金色の光が輿の下の道筋を縁取り、あの雲霧と織りなす調和は、まさに絶妙としか言いようがない。この上ない美しさだった。山風がそよそよと頬を撫でていく。ひんやりとした冷気に、天皇は着物の襟をきゅっと
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