さくらは振り返った。「いえ、ご家族は皆さんお優しくしてくださっているそうです。ただ、文絵さんの縁談の際に少々難しいことがあったとか……幸い今は良いお相手と結ばれましたが、彼女としては、二度も嫁いだ身で家にいては、甥御さんや姪御さんたちの評判に関わると心配されているようです。お義姉様にもご心労をおかけしたくないと」「ああ……」俺は思い浮かべた。あの気さくで心優しい三姫子夫人の顔を。三姫子夫人には息子と娘がおり、他にも庶子庶女がいる。二の御方の子供たちもまだ縁談前だろう。縁談を進める度に、どれほどの陰口を叩かれていることか。姫夫人が背負っている重荷を思うと、俺の胸は締め付けられた。俺は心から三姫子夫人を義姉と慕っている。彼女が味わっている苦労を思うと、やりきれない気持ちになる。「よく考えてみてください」さくらはそう言い残した。俺は頷いたものの、ふと周囲に人影がないことに気がついた。「あなたと俺がこうして二人きりでいて、摂政王殿下は嫉妬なさらないのですか?知らないはずはないでしょうに……」さくらは意表を突かれたような顔をした。こんな質問をするとは思わなかったようだ。答えるつもりはないらしく、足を向けかけたが、一歩進んでから立ち止まった。「これほどの信頼関係もなしに、どうして玄甲軍で大将を務められたでしょう。私は何事も彼に隠さず、彼も私に隠し事はありません。ですから今日のことも承知の上です」彼女はそのまま歩き去った。俺も後を追う。きっと摂政王はどこかに身を潜めて、俺たちの会話を聞いているに違いない。自分の妻が前の夫と二人きりになるのを許す男などいるはずがないのだから。ところが彼女はまっすぐ歩き続け、別室の左右から誰も現れることはなく、前庭に着くと、大将の傍らに座る摂政王の姿が見えた。大将と何やら話し込んでいる。摂政王はさくらを見つけると、たちまち笑顔を浮かべて手招きし、隣に座るよう促した。遠くからその光景を眺めながら、俺の胸には複雑な思いが渦巻いた。これが本当の夫婦のあり方というものなのか。だが都であろうと関ヶ原であろうと、男女が二人きりになるときは皆気を遣うものではないか。噂でも立とうものなら、名声に傷がつく。まして今の二人は高い地位にある。下手な憶測など立てられるわけにはいかないはずだ。そんなこ
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