田中陽大の顔色が一気に沈んだ。青ざめたかと思えば、次の瞬間には真っ赤になり、その表情は見るに堪えなかった。だが菅原麗は、そんな彼の様子に一切構わず、冷たく一言だけ投げ捨てた。「自分の言ったこと、忘れないでよ」そのまま背を向けて立ち去った。すぐに扉の閉まる音が響き、続けて菅原麗の姿は彼の視界から消えた。菅原麗が去ったあと、田中陽大は小さくため息をついた。たった一度の過ちが、ここまでの禍根を残すとは。だが彼は、菅原麗の言葉の真意を最後まで理解することはなかった。ただの警告だろう、と受け流していた。田中陽大は地元でもっとも権威ある刑事事件専門の弁護士を雇い、田中陸の案件に対応させた。それ以上の行動は、一切なかった。このことを田中葵が知ったとき、もはや産後の安静などどこ吹く風だった。彼女は勢いよくベッドから起き上がり、信じられないといった表情で叫んだ。「陸は彼の息子なのよ?こんなときに、あの人が何もしないなんて!」田中葵にとって、田中陽大のフランスでの地位は絶対的なものだった。自分の息子を救うくらい、言葉一つでどうにでもなると思っていた。たとえ人を殺したとしても、それすらも揉み消せるはずだと。それなのに、彼がやったのは弁護士の手配だけ。本気で助けるつもりなど微塵も感じられない。じっとなんかしていられるはずがなかった。「駄目だわ、私が行って話をつけてくる」子安健がすぐに彼女を制し、落ち着かせようと声をかけた。「今は何より体を休めるべきだよ。ほかのことは、いま気にしなくていい」だが田中葵はその手を振り払った。「陸は私の息子よ、私が守らなきゃ誰が守るの?どれだけの苦労をしてきたと思ってるの。見捨てられるわけがないでしょ」彼女はすぐに靴を履き、少しの猶予すら惜しんでいた。子安健にはどうすることもできなかった。ただ、そばにあった上着を手に取って言った。「産後なんだから、外の風に当たったらダメだろ……」彼は素早く彼女の前に回り込み、優しく上着を羽織らせた。その仕草は親密で、まるで何の躊躇もなかった。「葵、今あの人のところへ行ったって、何になる?感情ぶつけて喚いたところで、何が変わるんだ?」田中葵の足がふと止まり、ハッと我に返った。たとえ田中陽大に詰め寄ったところで、結果が変わるとは限らない。それは彼女自身が
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