All Chapters of 離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった: Chapter 391 - Chapter 400

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第391話 植皮手術

「荒船署長……俺の立場わかってるよな?ちょっとくらい融通きかせてくれてもいいんじゃない?」荒船署長は眉間にしわを寄せ、困ったように首を振った。「天笠さん、それは……さすがに規則違反でして……」思いがけず強硬な態度に出られ、蒼士はさらに何か言おうとしたが、その腕をそっと仁が制した。仁は落ち着き払った声で言う。「まずは、事故を担当した警官に会わせてもらおう」その一言で、さっきまで強気だった蒼士は、あっさりと息をしぼませた。「……はい、ボス」あまりに極端な温度差に、荒船署長は思わず目を瞬かせた。田中仁という人物がどれほどの存在なのか、さらに計りかねていく。「田中さん、どうぞこちらへ」3人は案内されて署内へ入り、応接室の扉を開けた。中では制服姿の警官がすでに待機していた。「田中さん、天笠さん。こちらが当時の担当官、在原警部です」在原警部はきびきびと敬礼した。ひと通り挨拶が終わると、荒船署長は「ではごゆっくり」と席を外し、部屋には3人と在原警部だけが残された。在原警部は資料を手に口を開いた。「お聞きしたところ、五年前の交通事故について調べたいとのことですね?」仁がうなずき、鈴が真剣な表情で口を開く。「在原警部、この件は私たちにとって非常に重要なんです。ご存じのことを、どうか包み隠さず教えてください」在原警部は軽く息をつき、話し始めた。「この事故は当時、かなり話題になりました。おかげで詳細はよく覚えていますし、先ほど改めて資料も確認しました。2台の車が激しく衝突し、その後ガソリンタンクが爆発して大規模な火災が発生。現場で3名が死亡し、生存者は2名。いずれも重度の火傷を負っていました」鈴の胸がどくりと鳴る。「望愛さんも同様です。顔や背中に深刻な火傷があったと記録されています」しかし、鈴がこれまでに見た望愛は、どこにも火傷の痕などなかった。少なくとも、顔には。――本当に、彼女は望愛なの?胸に渦巻く違和感が、一層濃くなっていく。鈴は思い切って尋ねた。「じゃあ、もし火傷した人が回復したあと、見た目じゃまったく火傷前と変わらないとしたら……それって、どういうことなんですか?」在原警部はすぐに察したように言った。「望愛さんのことですね。最近、街で一度見かけましたが……
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第392話 DNAマッチング

鈴はふと顔を上げ、在原を見つめた。「つまり赤穂望愛のほかに、もう1人の生存者がいたってことですか?」在原はうなずいた。「ええ。20代前半の青年で、浜白の出身です」「……浜白?」その名前を聞いた瞬間、鈴の胸にざわりと嫌な予感が走った。「その人の名前、教えていただけますか?」在原は苦笑して首を振った。「申し訳ない。それはちょっと、お伝えできません」きっぱりとしたその返答に、鈴は思わず肩を落とした。――もう1人は男性。たとえ浜白の出身でも、望愛とは関係なさそうだと思った矢先だった。「ところで……」仁が静かに口を開く。「亡くなったのは3人と聞きました。望愛さんのご両親のほかに、もう1人の死亡者についても教えていただけますか?」その問いには、在原も隠す様子はなかった。「3人目は、同じく浜白出身の若い女性です。さきほど話に出た青年とは、たぶん恋人関係だったと思います」「彼女はひどい火傷を負っていました。特に顔は、3分の2が焼けて……彼女が亡くなったあと、青年の方はひどく取り乱して、治療も一度は拒否しました。それでも、医師たちの必死の処置でなんとか命は助かったんです」在原の言葉を聞くうちに、鈴の中にひとつの仮説が芽生えていく。――事故、火傷、若い女性……すべてが偶然だとは思えなかった。仁と目を合わせると、彼もまた同じ考えに至っているようだった。視線の奥に、確信と疑念が入り混じっていた。「その亡くなった女性の詳細はわかりますか?」鈴がたたみかけるように尋ねる。けれど、在原は首を横に振った。「彼女は外国籍だったんです。うちでは照会できないですね。もし詳しく調べたいなら、大使館を通すしかない。でも……かなり前のことですから、資料が残ってるかどうか……」鈴の目に、かすかな落胆の色がにじむ。「田中さん、ほかに聞いておきたいことはありますか?」仁は一歩前に出て、鈴の前にしゃがみ込むようにして目を合わせた。「落ち込むな。ここまで来ただけでも、大きな前進だよ」鈴は仁をじっと見つめた。その瞳の奥に、揺るぎない決意が宿っている。「仁さん……私、あの女性のこと、もう少し調べてみたい。もしかしたら、ご家族に話を聞けるかもしれないし、何かがわかるかも」その言葉には、まだ明かせない
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第393話 謎の男

警察署を出た鈴の表情は、どこか曇っていた。すぐ隣を歩いていた仁が、ペットボトルの水を差し出す。「水、飲んで。少し休もう」鈴は小さく首を振った。「仁さん、一人になりたいの」そう言って、鈴は一人で歩道を進み始めた。仁はその場に立ち尽くし、黙って彼女の背中を見送る。しばらくして、蒼士が戻ってきて仁の前に立った。「ボス、どうして鈴さんを追いかけないんすか?ここは異国ですよ、もし何かあったらどうするんすか」「少し一人にさせてやろう。私たちは後ろからついていけばいい」そう言って仁が歩き出すと、蒼士は肩をすくめ、仕方なさそうについていった。「ボス、もう何年経ちました?いい加減、進展ないとマズいっすよ」前を歩く鈴の後ろ姿を見ながら、蒼士がぼそりと続けた。「マジで、また誰かにさらわれたらどうすんすか、鈴さ……」言い終わる前に、仁の鋭い視線が飛んできた。蒼士はぴたりと口を閉ざす。数歩ほど黙って歩いた後、少しだけ声を潜めた。「……俺、悪気はないっすよ。ただ、ボスだって、もう隠す必要ないんじゃないですか。鈴さんに、ちゃんと伝えた方がいいと思うっす」蒼士の目には、鈴が仁に全く関心がないようには見えなかった。お互いが、お互いの気持ちを避けているだけのように思えてならなかった。「長い時間、待ってきた。だったら、あと少しぐらい待つのも同じだ」仁の声は、どこか優しさを含んでいた。視線の先には、相変わらず前を歩く小さな背中。「……最後に俺の隣にいるのが彼女なら、それでいい。遅くたって構わない」蒼士は苦笑して首を振った。鈴のことになると、仁の頑なな態度にもわずかな柔らかさがにじみ出る。それは、彼だけが知る姿だった。――恋愛なんて、結局のところ、本人にしかわからない。「パソコン、持ってきてるか?」「車にあります」「貸してくれ」蒼士が手を振ると、すぐに車が寄ってくる。二人が乗り込むと、仁が言った。「彼女の安全、頼んだぞ」「任せてください、ボス。鈴さんのことは俺が見てますから」そう答えると、仁は頷き、膝の上にパソコンを載せると、指を走らせてタイピングを始めた。一方、鈴は一人で街を歩いていた。街路樹のプラタナスはすっかり色づき、風に吹かれた金色の葉が、空を舞っては静かに落ちていく。――また、秋が来た。行き交う人々の波の中、鈴はただ一人、自分の思考
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第394話 あまりにもあっさり手に入った真実

鈴の頭の中は混乱していた。――あの人は誰?どうしてだろう、どこかで会ったことがあるような……そんな不思議な親しみを感じる。特に、あの微かに漂っていた白檀の香り。以前、どこかで――いや、あのときだ。確かに嗅いだことがある。それに、彼が言ったあの言葉……一体どういう意味?もしかして、望愛が差し向けた人間?でも――鈴にはわかる。彼には、少なくとも敵意はなかった。彼女は周囲を見回す。けれど、探しても探しても、答えは出てこない。疑問ばかりが頭の中を渦巻いていく――「鈴さん、大丈夫っすか?」蒼士が駆け寄ってきた。やや息を切らしている。先ほど鈴がいきなり人混みの中へと走り出したため、慌てて車を降りて追ってきたのだ。鈴は蒼士の腕をつかんだ。「さっきの男、見た?」蒼士はきょとんとした顔で、「男?誰かに絡まれたんすか?教えてくださいよ、俺がぶっ飛ばしてやりますって!」そう言って、今にも殴りかかりそうな勢いで拳を握る。鈴はかぶりを振った。「違うの。変な人だったけど、なんていうか……」言いかけて、口ごもる。どんな顔をしていたのか、どんな声だったのか。印象は鮮烈なのに、はっきりと思い出せない。蒼士もあたりを見回したが、不審者らしき姿は見当たらない。「鈴さん、疲れてるんじゃないすか?ちょっと車で休みましょ」鈴はきゅっと唇を引き結んだまま、しばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。数歩歩いたそのとき――ふと、脳裏にひとつの記憶がよぎる。あの香り。フランスの地下駐車場で、彼女を助けてくれた、あの時の――体格も、あの独特な気配も、ぴたりと重なる。間違いない、彼だ。確信と共に、心臓が高鳴る。でも……彼は誰?どうして、あんなことを言ったの?「鈴、情報が取れた」仁の声が、その思考を断ち切った。「え……?」顔を上げると、仁がノートパソコンを差し出してくる。「ほら、これ見てみろ」画面には数枚の画像が映し出されていた。鈴の目がぱっと見開かれる。「さっき、赤穂について調べてみたけど、コロンビアのどの病院でも整形の記録は出てこなかった。おそらく、あらかじめ痕跡を消してたんだろうな」「でもな――」と仁が画面を操作して別のウィンドウを開いた。「コロンビア大学の公式アカ
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第395話 陽動作戦

仁は何も言わず、ただ口元にかすかな笑みを浮かべていた。けれど、無意識に握られたままの手が、彼の内心を雄弁に語っていた。視線の先には、パソコンの画面。そこに映る画像データは、彼自身が掴んだものではなかった。誰かが、意図的にまとめて送りつけてきたものだったのだ。だが、惜しいことに、その「誰か」は仁と互角のネットスキルを持っており、追跡しても一切の手がかりを得られなかった。IPをたどっても、最後に出てきたのはただの仮想番号。「鈴、帰国しよう」不意に仁がそう言った。相手がこれほど早く証拠を渡してきたということは、つまり――彼らに一刻も早くコロンビアから手を引いてほしい、そういう意図に他ならない。きっと、この背後にはまだ明かされていない何かがある。だからこそ、ここで深入りするためには、相手の思惑通りに動くしかない。鈴もまた、不可解さを拭いきれずにいた。あれほど探し回っても何一つ出てこなかった情報が、どうしてこんなにも唐突に手元に現れたのか。「仁さん、なんだか……変じゃない?」鈴が言うと、仁はどこか満足げに微笑んだ。――やっぱり、鈴は勘がいい。二人は軽く目を合わせ、鈴が小さく頷いた。「……うん、じゃあ帰ろうか」その夜。蒼士は当初、プライベートジェットで二人を浜白まで送り届ける手筈を整えていた。だが仁が突然、その予定を覆した。「普通の航空券を二枚取ってくれればいい」「えっ……ボス?」蒼士は思わず聞き返した。「専用機の方が便利ですし、安全ですって。空港まで行く手間もないし……」「いいから。最も早く出発する便を取ってくれ」語気は柔らかいが、命令は明確だった。蒼士は納得できないまま、それでも逆らわずに言われた通り航空券を手配した。……が、どう見ても二人には出発する気配がない。「ボス、鈴さん……結局どういうつもりなんですか?」問いかける蒼士をよそに、仁はただ黙って微笑むだけ。代わりに鈴が小さく目を光らせた。「蒼士くん、孫子の兵法って読んだことある?」「え?いや、ないけど……読む必要あります?」「ヒマがあれば読んでみたら?ちょっとは成長できるかもよ」ぽつりと呟いたその言葉に、蒼士はますます混乱した。「……どういう意味っすか、それ……」仁
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第396話 あなたは一体誰なの?

仁は笑みを浮かべ、そっと鈴の手を握りしめた。「その疑問、私も気になってる……でも、いつかボロが出るもんさ」その頃。国内、浜白。望愛は海辺のビーチチェアに身を預け、優雅に日光浴を楽しんでいた。グラスを軽く揺らしながら、中の赤い液体を見つめ、目を細める。「安田さん、そんな怖い顔しないで。こっち来て、一杯どう?」彼女を見下ろす翔平の視線は冷え切っていた。その顔は見覚えのない他人なのに、どこか妙に見覚えがある──そんな既視感を彼に抱かせる。「赤穂さん、いくら欲しい?」声に情は一切なかった。望愛は唇を弧に描き、ゆっくりと眉を上げる。「安田さんがこうして来たってことは……どんな立場で?たしか、もう三井さんとは離婚してたよね?」翔平は余計な会話をするつもりはなかった。今ここに来たのは、ただ望愛に、鈴への告発を取り下げさせるため。「それは俺と鈴の問題だ。お前には関係ない」そう言って、彼は一枚の空白の小切手を取り出し、望愛の前に差し出す。「好きな金額を書けばいい」しかし望愛は、笑みを絶やさぬままそれを受け取ろうとはしなかった。代わりに、ふっと顔を上げ、翔平をまっすぐ見つめる。「安田さんって、毎回女にこうやって小切手渡してるの?たとえ元妻でも、そんなに惜しげもなく金を出すの?だったらその紙、持ち帰って。私、お金に興味ないから」翔平は低く冷笑した。「金に興味がない?なのに鈴には200億要求してる。つまり、俺の金には興味がないってことか」望愛は静かに立ち上がり、翔平の正面に立った。男の放つ強烈な気迫が、肌にひしひしと突き刺さる。さすが安田翔平だ。何年経とうが、その魅力はまったく衰えていない。彼のもとに群がる女たちの気持ちも、わからなくはない。「安田さん、金の話ってつまらない。せっかくだし、もっと楽しい話をしない?」翔平は無言のまま、小切手を指先で握りつぶすようにして、静かに引き戻した。「何を話すつもりだ」一語一語、かみしめるように。望愛はふわりと一歩近づいた。距離はもう半メートルもない。彼の顔を見上げて、にこりと笑う。「お金は無理でも、感情の話ならできるかも。少なくとも、私は安田さんに興味あるよ?」そのままつま先立ちになり、彼の口元に唇を近づけようとした─
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第397話 豹変

翔平は小さく首を振り、自分の思い過ごしだと片づけた。そして静かに言った。「赤穂さん、お前がどんな目的で動いていようと、何をしようとしていようと、俺が望むのはただひとつ。鈴を傷つけるな」すると、望愛が声をあげて笑い出した。甲高く響くその笑い声は、空気を裂くように鋭く、背筋がぞわりとするほどだった。「安田さん、今さらそんなこと言っても、もう遅いわよ。ただし、ひとつだけ方法はあるけどね」望愛は翔平をじっと見つめ、意外な言葉を口にした。「安田さんが私と結婚してくれるなら、考えてあげてもいい。でも、そうでないなら、私は絶対に容赦しないわ」翔平は鼻で笑い、冷ややかな声を返す。「脅してるつもりか?身の程を知れ」彼の目に、一瞬だけ鋭い光が宿った。その視線には、凍てつくような殺気が滲んでいた。翔平が手を軽く振ると、少し離れたところに立っていた蘭雅人が前に出てきて、一束の資料を望愛の前に差し出した。「赤穂さん、本当は穏便に済ませたかった。だが、どうやら俺の考えが甘かったようだ。自信満々のお前は、まさか俺がこれを手に入れたとは思ってもいなかっただろう?」望愛は一瞬、戸惑いの色を浮かべた。翔平の言葉の意味が掴めないまま、蘭の手から資料を奪うようにして受け取る。だが、その内容に目を通した途端――望愛の表情が一変した。顔色が見る間に青ざめる。「これ……どうやって手に入れたの?」翔平は無駄な説明をするつもりなどなかった。「自分の罪を人に被せようとする輩なんて、俺は山ほど見てきた。この証拠があれば、お前が鈴を陥れようとしたことは十分に証明できる。デザイン業界で積み上げたお前の信用なんて、これで一瞬で終わりだ。俺なら、大人しく引くね。だが、それができないというなら、この資料、全部メディアに渡すまでだ」冷たく突き放すその言葉に、望愛の背中にひやりとした汗が滲む。――安田翔平という男は、今も昔も、一切の情けをかけない。けれど望愛は、そんな脅しにも動じた様子を見せなかった。ふっと髪をかき上げ、何事もなかったような顔で言う。「安田さん、ひとつだけ、あなたとふたりきりで話したいことがあるの」翔平は即座に拒んだ。「話があるなら、警察にどうぞ」だが、望愛は首を横に振る。「安心して。もし話を聞いたあとで、それでも
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第398話 重い打撃

「社長、どういうことですか?三井さんのために公正を取り戻すっておっしゃってましたよね?どうしてこんな形で引き下がるんです?」蘭の問いかけが続く。翔平はしばらく無言だった。「社長……本当に、どういうことなんですか?」それでも翔平は何も答えず、ただひと言だけ告げた。「戻るぞ」蘭は唇を引き結び、それ以上は何も言えなかった。来るときの翔平は、まさに意気込んでいた。鈴のために正義を貫くと、はっきり言っていたはずなのに、今はまるで、何かに打ちのめされたかのような顔をしている。その変化が、かえって蘭の好奇心を煽った。……さっき、望愛は翔平に何を囁いたんだ?何が、あの人の態度をここまで変えたのか――そのとき、翔平がふいに口を開いた。「鈴は……戻ってきてるか?」蘭はすぐに答える。「いえ、三井さんは今もコロンビアに滞在中で、まだ帰国の予定は……」翔平は一瞬、黙り込んだ。やがて、ぽつりと命じる。「飛行機の手配をしろ。コロンビアへ行く」あまりに唐突な指示に蘭は一瞬目を丸くしたが、すぐに頷いた。「承知しました、社長」その頃。鈴と仁の調査は、二日続けてまったく進展がなかった。まるで相手はこちらの動きを事前に察知していたかのように、痕跡を一切残していない。隠れることに慣れているどころか、完全にこちらの行動を読んでいる――そんな不気味さすらあった。まさか……自分たちがまだ帰国していないことまで、知られているのだろうか?そのときだった。蒼士が新たな情報を持って現れた。「ボス、赤穂望愛が整形を受けた病院、突き止めました」その一言で、鈴の目が一気に鋭さを帯びる。「どこ?」蒼士は急ぎ、手に持った診療記録を仁と鈴に差し出した。「彼女、かなり用心深いです。手術のときは、本名じゃなくて別の名前を使っていました。そのせいで、前回は決定的な情報に辿りつけなかったんです。記録によると、手術は20回以上。皮膚移植が4回、それ以外にも複数の整形手術を受けています」仁は頷くと、資料をそのまま鈴へと手渡した。「鈴、小さなことでも見落とすなよ。気づくことがあるかもしれない」鈴は診療記録を開き、名前の欄に視線を落とす。すると、そこには「Anna」と英語名で記されていた。「望愛の英語名って、A
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第399話 血液型が違う

仁は蒼士と視線を交わすと、低く呟いた。「どれだけ腕のいい整形手術でも、火傷の痕が完全に消えるなんてあり得ない。多少は跡が残るはずだよな……」この点については、鈴もわかっていた。彼女は視線を落としながら、手にしていた診療記録を指さした。「ここも、おかしいの」蒼士が首を傾げる。「どこが?」鈴は口元にわずかな笑みを浮かべた。「血液型よ。望愛が入学手続きのときに提出した健康診断書、見たことがあるの。そこにはB型って書いてあった。でもこのカルテには、O型ってあるわ」蒼士はその点にまったく気づいていなかった。「それって……病院の記入ミスなんじゃ?」鈴は小さく首を振った。「たとえミスでも、こんな都合よく食い違うなんておかしいわ」彼女の中で、疑念がまたひとつ濃くなった。「仁さん……今、私たちが相手にしてる『赤穂望愛』って、本当に本人なの?」デザインのスタイルが以前とはまるで違う。それだけでも十分に不自然だった。血液型の不一致――これでもう、決定的だ。おそらく、彼女は別人だ。では、本物の望愛はどこへ? そして今ここにいるこの「望愛」は、何者なのか?「五年前の望愛について調べてみるべきだと思う。仲の良かった友人とか、親戚とか……何かわかるかもしれない」鈴はぽつりと呟くように言った。彼女の脳裏には、五年前のあの事故が浮かんでいた。もしかしたら、あのときすでに望愛はすり替わっていたのではないか。しかも今、何者かが真相に辿り着こうとするのを、あからさまに邪魔している。その「誰か」は、望愛の協力者なのだろうか?彼らの目的は一体、何?仁もうなずいた。「蒼士、調べてみてくれ」「了解です、ボス。すぐ動きます」蒼士はそう返すと、すぐにその場を離れて指示を出し始めた。その背中を見送りながら、鈴はさらに深い沈思に沈んでいった。――この網は、あまりに入り組んでいる。もつれた糸の端を、どこから引けばいいのかすらわからない。そんな鈴の前に、仁がそっと歩み寄ってきた。「鈴、何か食べよう。何も口にしてないだろ?」鈴は軽く首を横に振った。「……仁さん、今は食欲ないの」仁は強引に彼女の手を取り、温かく握りしめた。「考えすぎるな。私がついてるから」彼のまっすぐな瞳に見つめられ
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第400話 もう調べるな

鈴は、本当は断りたかった。でも――翔平の言葉には、抗いがたい引力があった。彼は、何かを知っている。だからこそ、ここまで来たのではないか?鈴はすぐには答えず、視線を目の前の仁へと移した。しばし考えたあと、小さく息を吐いて言った。「……位置情報、送るね」「わかった」電話を切った鈴が何か言いかけると、仁が先に口を開いた。「鈴、自分の気持ちのままに動いていい。私は何も言わないよ」その一言に、鈴は驚きの色を浮かべ、そっと頷いた。それから一時間もしないうちに、翔平が現れた。鈴の姿を見た瞬間、彼の目の奥にかすかな驚きと安堵が混ざる。その横で、先に声をかけたのは蘭だった。「三井さん!」「……蘭さん、久しぶりね」変わらない調子で返されたその声に、蘭は一瞬驚く。立場はもう、かつての同僚という関係ではない。それなのに、鈴の目には何の上下も差もなかった。それが、妙に心に沁みた。「安田さん、どうぞお座りください」丁寧な言葉に、どこか距離感が滲んでいて、翔平はわずかに眉をひそめた。鈴は余計なやりとりを避け、率直に切り出す。「安田さん、わざわざここまで来たってことは、雑談をしに来たわけじゃないはず。だったら、単刀直入にお願いします」翔平は口元を動かし、少し迷った末に尋ねた。「鈴……赤穂望愛について、今どこまで調べた?」鈴は表情を引き締め、黙ったまま答えなかった。翔平は、さらに踏み込んで言う。「鈴……もう、これ以上調べるのはやめてくれ。お願いだ」その声音はこれまでとはまるで違った。どこまでも柔らかく、頭ごなしの命令ではなく、まるで懇願のようだった。鈴は、思わず驚いた。「……安田さん、自分が何を言ってるのか、わかってます?」「君が無実なのは、俺が一番よくわかってる。君があんなデザインを盗むような人間じゃないってことも。でも、だからこそ、ここで止めたほうがいい。これ以上調べても、君にとっていい結果にはならない。……俺が君の潔白は証明してみせる。だから、もう――」鈴はふっと笑った。けれど、その笑みはどこまでも冷たく、目には届かなかった。「……それが、今日ここまで来た理由?」「いや、そうじゃなくて……」翔平の言葉を、鈴が遮った。「いつからそんなに、望愛と親しかったの?彼女
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