翔平ははっきりと感じた。――この言葉を口にした瞬間、空気の温度が変わったことを。鈴の意識は遠く、遠く過去へと引き戻されていた。しばらくの沈黙のあと、彼女の声が静かに響く。「……あまりにも昔のことだから、もう覚えてない」翔平の瞳に、一瞬の失望が浮かぶ。「覚えてないのか?それとも……思い出したくないのか?」鈴は口元に皮肉めいた笑みを浮かべて、彼をまっすぐ見つめた。「翔平、率直に聞いていい?あなたと望愛って、本当はどういう関係なの?」「……何の関係もないって言ったら、信じるか?」自嘲気味にそう言いながら、翔平はほんの少し目を伏せる。――かつて誰よりも強気だった男が、こんなにも弱々しくなるなんて。「鈴、本気でこの件を追うつもりなら、それ相応の覚悟が要る。俺が言いたいのは……君が傷つく姿を見たくない、それだけなんだ」「それ、笑っちゃうよね。私を守るなんて言いながら、やってることはすべて理解不能。それでも、私のためだと思ってるの?」「違う……!」翔平は反射的に彼女の言葉を遮ったが、その先が続かなかった。理由を言おうとしても、どこにも正当性が見つからない。「鈴……今回だけでいい。俺の言うこと、聞いてくれないか」その声音は、どこまでも切実だった。鈴が何かを言いかけたその瞬間、背後から声がかかった。「鈴」振り返ると、仁がゆっくりと歩み寄ってくるところだった。そのすぐ後ろには蒼士の姿もあり、彼は微笑を浮かべながら翔平に声をかける。「これはこれは、安田グループの翔平さんじゃないですか。お会いできて光栄です」翔平は蒼士を見やり、わずかに口元を動かす。「……天笠さん。お久しぶりです」蒼士は、鈴と翔平の過去をよく知っていた。だからこそ、翔平に対してあまり好感は持っていない。けれど、彼の能力だけは誰もが認めるところだ。安田翔平――伝説のような男。……だからこそ、侮れない。「いやあ、百聞は一見に如かずって言いますけど、翔平さんとうちのお義姉さんがどんな話をしてたのか、気になりまして」そのお義姉さんという一言に、翔平の目がわずかに陰った。彼の視線は、仁と鈴、ふたりの間を行き来し――やがて問いかける。「……鈴。君たち、付き合ってるのか?」鈴が否定しようとした瞬間、
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