何が来ようと、受けて立つ。鈴の中には、すでに迷いはなかった。望愛が何を仕掛けてこようと、冷静に対処するつもりだった。──午前九時。帝都グループ。ハイヒールの音を鳴らしながら、鈴がオフィスに現れた。タイトなジャケットにまとめた髪、その姿は端正で隙がない。彼女の姿を見つけた土田が、急ぎ足で駆け寄ってくる。「お帰りなさいませ、社長」鈴は軽く頷き、黙ってエレベーターに乗り込む。土田はすぐに隣へ付き、タブレットを確認しながら今日の予定を読み上げる。「十時からビデオ会議、十一時に合田グループの代表と面会、場所は二十二階の応接室です。その後──」エレベーターは静かに上昇し、やがて最上階で止まる。土田の報告を聞き終えた鈴は、短く「わかった」とだけ返し、エレベーターを出た。だが、その先で待ち構えていた人物がいた。「おや、これはこれは……三井さん、ようやくお目にかかれましたな」笑顔を張りつけたまま、佐々木取締役が近づいてくる。「本当にご無沙汰でしたよ。ここ最近は一週間以上もお姿が見えなかったので、ご家庭のことで何かあったのではと……正直、心配していたんですよ?」鈴は足を止め、表情ひとつ動かさずに答える。「ご心配ありがとうございます。少々、私的な用事で外していただけです」佐々木はわかっている風に頷きながら、なおも言葉を続ける。「そうでしたか、それなら何よりです。ただ、もし何かお力になれることがあれば……私も長年この業界におりますからね、遠慮なく頼ってください」経験豊富な長輩という立場を、彼はことさらに強調してみせた。そして、さも思い出したように、口調を変える。「そうそう、三井さん。土田くんからお聞きになってないかもしれませんが、シンガポールのプロジェクトで、少々トラブルがあったようでして」「採掘現場の一部が崩れたとの報告がありました。幸いにも人的被害は出ていませんが、損失は決して小さくないようです。とりわけ、会社の収益には……かなり影響があるのでは?」鈴の目がわずかに細くなる。視線を土田へと向ける。「土田、それは本当?」土田はその場で深くは語らず、「後ほど、詳細をご報告します」とだけ答えた。佐々木はそれを見て、にこりと微笑む。「土田くんもお忙しいでしょうから、うっかり報
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