仁が身をかがめ、蜻蛉が水面に触れるように、鈴の唇にそっとキスを落とした。言葉は、その一瞬で、すべて飲み込まれた。──時間が止まったようだった。鈴は目を見開いたまま、仁の顔を見つめた。反応が遅れて、思考が追いつかない。仁はそのまま優しく笑い、腕の力を少し強めて、彼女を抱き寄せた。「鈴と結ばれる日が、早く来てほしい」突然の告白に、鈴はぽかんと彼を見つめ、数秒間言葉が出てこなかった。それでも、小さく「うん……」と返す声は、紛れもなく本心だった。その頷きに、仁の目が一瞬きらりと輝く。「鈴……本気で、そう思ってくれてる?」鈴は微笑みながら顔を上げ、その瞳はまるで夜空に浮かぶ星のように澄んでいた。彼女のその瞳に、仁は自分の姿が映っているのを見て、静かに口元を緩める。──この瞬間を、ずっと待っていた。周囲の視線も徐々に二人へと集まり始めていたが、鈴の頬はすでに真っ赤だった。「仁さん……みんな見てる……」ようやく、仁は腕を緩め、鈴はすぐに顔をそらして深く息をついた。胸の鼓動はまだ乱れたままで、それがまた懐かしくもあり、くすぐったくもあった。その気持ちの戸惑いを察したように、仁が話題を変えた。「鈴。今日、極光テクノロジーの雨宮さんも来てるらしいよ」そのひと言で、鈴の思考は現実に引き戻された。──そう、彼らが今日ここに来た目的のひとつだった。極光テクノロジーは、今や国内随一のショート動画系プラットフォームを運営する巨大企業。帝都としても、ぜひ関係を築いておきたい相手だった。「……どこにいらっしゃるの?」「案内するよ」仁がそう言って手を差し出すと、鈴は自然とその腕に手を添えた。二人は会場の奥へと向かって歩き出す。「田中さん!三井さん!」ちょうどそのとき、雨宮伊織が自分から声をかけてきた。この数年で業界に彗星のように現れた彼は、当然この二人の存在を知っている。仁が軽く頭を下げる。「雨宮さん、お目にかかれて光栄です」「いえいえ、こちらこそ」雨宮はすぐに手を差し出し、にこやかに笑った。そして、隣にいた青年を紹介する。「こちら、うちのエース配信者──上石一颯です」鈴は最初、どこかで見たことがあるような気がしたが、名を聞いてすぐに思い出した。──ネ
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