まさか新世紀にもなって、こんなやつに出会うとは思わなかった。ここまで露骨な当たり屋、彼女も初めてだった。しかも、記憶が確かなら——目の前のこの男、あのアイドルグループのリーダーだったはず。低音ボイスだの、低音セクシーだの、ああいうのは生まれ持った声質の話。真似しようにも、真似できない人もいる。たとえば——清孝。彼のあの深く落ち着いた声は、ロンドン英語を何年も訓練して身につけたものだった。長年の経験と積み重ねが、あの声を作り出したのだ。彼女が若かった頃——抗えないほど彼に惹かれたのも、無理はなかった。だからこそ、彼女は年下の男が苦手だった。しかも、目の前のは最悪の地雷系年下男。「すごいわね。まさか生きてて、ここまで珍妙な生き物を見るとは思わなかったわ。私から金をふんだくろうって?夢見てるんじゃないわよ」紀香は自分の肩を指差した。「カメラがあるわ。さっきの全部、録画してある。ファンを失いたくないなら、さっさと消えなさい」男の顔色が変わった。だが、それでも半信半疑だった。——こんなところで、カメラなんて仕込むか?彼は知らなかった。紀香は過去にあの出来事を経験していた。あのとき、助けが来るまでのあの孤独な時間。そして、証拠がなく、加害者たちを追い詰めることができなかった悔しさ。あの連中が今ものうのうと生きてると思うと、眠れない夜が続いた。それ以来、彼女は常にマイクロカメラを身につけるようになった。——この世界に、どんな芸能人が何を仕掛けてくるか分からないから。「……見る?映像」「……」男は動こうか、言い訳をしようか悩んでいた。だが、その場の空気を一変させたのは、別の女性の声だった。「なに話してるの、あんたたち!」実咲だった。紀香が事実を説明すると、実咲の顔が凍った。彼女はその男のファンだった。「錦川先生、行きましょう。こんな汚いの、相手にしちゃだめです」紀香はとっくに立ち去りたかった。だが、通りすがりに、足首を誰かに掴まれた。——思わず身体が強張り、反射的に足を引いた。男は地面に倒れたまま、手を伸ばして彼女の足首を掴んでいた。親指がズボンの裾から肌に触れたその瞬間——紀香の全身に、鳥肌が走った。過去の記憶が一気に蘇り、体が震
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