このとき、清孝と海人は口裏を合わせているように、暗黙の了解があった。「俺たちは調べていない。この件はあくまでそっちの家族のプライベートで、当時の状況もあって俺たちには調べる立場じゃなかった」そう清孝が言ったことは、信憑性が高かった。なにしろ当時、彼と紀香の関係はかなり険悪だったからだ。だが海人の場合は、そこまで言う必要もなかった。来依は黙って彼を見つめた。海人は彼女の手を握り、こう口にした。「俺たちはそのときすでに入籍していたけど、この件については本当に調べていない。信じられないならお義兄さんに聞いてみろ。もし俺が調べていたなら、お義兄さんが気づかないはずがない」駿弥にも後ろめたい思いがあった。桜坂家を大きくしたのも父の過ちを償うためだった。その後に彼女たちに尽くしてきたのも、父のせいで外で苦しい思いをさせたからだった。だからこそ、こんな祝宴の日に口論したくはなかった。「そうだ、二人ともその件は調べていない」彼は続けた。「そもそも来依は祖母にわざと外に置き去りにされて、叔父さんと叔母さんは長いあいだ悲しみに沈み、そのあとでようやく紀香ちゃんを授かった。けれど、またしても父が外部の者と結託して桜坂家に刃を向けたせいで、小さな紀香ちゃんは流浪することになった。彼らのしたことはあまりにもひどく、死をもっても償いきれないものだった。だからこそ、彼らはもうこの世にいない。もしまだ恨みが残っているなら、俺にぶつけてくれ。俺はこの一生をかけて君たちに償う」駿弥の言葉が終わると、食卓は一瞬にして静まり返った。長いあいだ、誰も声を発さなかった。やがて来依が杯をあおり、その沈黙を破った。「お兄ちゃん」彼女は自分の杯に酒を満たし、さらに駿弥の杯にもなみなみと注いだ。「この一杯を飲んだら、この件は水に流そう。前の代はすでに代償を払った。あのときお兄ちゃんもまだ子どもで、どうすることもできなかった。その後にしてくれたことも私たちはちゃんとわかってる。私たちはこれからも仲良くしていくんだから」駿弥は立ち上がり、身をかがめて来依と杯を合わせた。「それでも、どうしても一言謝らせてほしい。本当にすまなかった」そう言って彼は振り返り、紀香にも深々と頭を下げた。「紀香ちゃん、すまなかった」
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