「本当に入れてくれないのか?」そう言ったとき、彼はじっと彼女を見つめ、語尾がわずかに上がっていた。どう聞いても、この言葉は単純に「部屋に入る」ことを指してはいなかった。もっと深い意味があった。紀香は手を引き抜き、彼を蹴った。「黙れ、このスケベ頭」清孝は足についた靴跡を見て笑った。「俺、何か言ったか?いったい誰の頭の中がスケベばっかりだって?」「……」紀香の頭の中も実際は整理できていなかった。彼に見抜かれたことが悔しかった。自分の顔に感情がすぐ出てしまうことがまた腹立たしい。とくに清孝のような聡明な人間の前では、隠しようがなかった。ますます悔しくなった。「言っとくけどね、たとえ私があなたのプロポーズを受けたとしても、後悔することだってできるんだから」そう言いながら指輪を外そうとした。清孝は彼女の手を掴み、そのまま指先で指紋を押させた。ドアが開いたとき、紀香は目を見開いた。「清孝!」「はい」清孝は返事をし、彼女を引いて部屋へ入った。彼女が怒り出す前に、両手で顔を包んで口づけた。そのまま彼女の手に持っていた賞状を玄関の下駄箱に置いた。紀香は頭がくらくらして、感覚もリズムもすべて彼に引きずられていった。ほかのことを考える余裕なんてまったくなかった。ベッドに倒れ込んでやっと我に返り、顔をそらして彼のキスを避けた。腰に置かれた彼の手を掴む。「清孝、やっぱり下心丸出しじゃない!」清孝はあっさりと認めた。「婚約者に抱いても無反応で、つまらない態度で、キスしたいとも思わない――それなら感情を出さなかった以前と何が違う?あの三年間俺が冷たかったのが一番嫌いだったんだろ。今の俺の態度に満足してるか?」「……」紀香の体は熱くなっていた。彼女もこうなるかもしれないと想像はしていた。心の奥ではそこまで拒んでいない。でもどうしても、口だけは強がらずにはいられなかった。彼に得意顔をさせたくなかった。こんなにも長い年月、彼に引きずられるわけにはいかない。必ず彼の上に立たなくては。「そんなに急ぐってことは、あなたの目的はこれだけ?寝たら満足して、もう私に執着しなくなるんじゃないの?」「……」清孝は人を見る目には自信があった。手ごわい相手も何度も打ち破ってき
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