そう言うなり、輝明は電話を切った。自分がどんな人間かなんて、司礼にとやかく言われる筋合いはない。そう思いながら、スマホをベッドサイドのテーブルに投げて、ベッドに眠る綿の顔を見やった。ふと、司礼の言葉が耳元でよみがえる。――「男としての節操くらい、守ってほしいもんですよ。見てるこっちが恥ずかしくなりますから」胸の奥で苛立ちがじわじわと広がっていく。輝明は綿の頬をつかむと、思わず口にした。「男を惑わすな」そのとき、またスマホが鳴った。画面には「嬌ちゃん」の名前。一瞬、出ようとしかけたが、無意識に指が拒否していた。今は慰める気分じゃない。苛立ちのままスマホをマナーモードにして、手放すように放り投げた。夜はすっかり更けていた。綿は浅い眠りを繰り返していた。何度も痛みに目を覚まし、落ち着かない夜だった。朝、目が覚めたときはまだ6時。外はどんより曇っていて、部屋の中もまだ薄暗い。頭を押さえながら、体中に重だるい痛みが残っているのを感じた。寝返りを打とうとして、ふと隣に誰かがいることに気づいた。そしてその顔を見た瞬間、綿の動きが止まる。そこに寝ていたのは、紛れもなく――輝明だった。綿は驚き、反射的に後ろへ身を引いた。けれど腰がベッドの縁に引っかかり、そのまま落ちかけたところを、ガシッ――腕をつかまれ、強く引き戻された。次の瞬間、彼女は輝明の腕の中にいた。目を閉じたままの彼は、黒いシルクのパジャマを身につけ、抱きしめる動作に一切の戸惑いがなかった。まるで、これが当たり前であるかのように。綿はまるで現実味を感じられなかった。結婚して三年、彼がこのベッドで寝たことなど一度もなかったし、こんなふうに抱きしめられた記憶もなかった。――夢?それとも、輝明がおかしくなったのか。綿は手を伸ばし、思いきり彼の腰をつねった。夢だと、信じたかった。「いたっ……!」輝明は痛みに息を呑み、目をぱちりと開けた。驚いたように大きな瞳で見つめる綿が、ぽつりとつぶやいた。「……夢じゃないの?」輝明の表情が一気に険しくなった。歯を食いしばり、朝の低くかすれた声でぼやく。「夢の確認なら自分をつねれよ。なんで俺なんだ」「だって、痛いもん……」「……」自分の痛みは気にするのに、俺の痛
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