All Chapters of 高杉社長、今の奥様はあなたには釣り合わないでしょう: Chapter 61 - Chapter 70

「珍しい薬草って、意外とみんな似たような形してるのかもね。オタネニンジンっぽく見えるけど、よく見ると少し違う気もする」「ほら、根のところ見てみろよ。全然違うじゃないか。こっちの方が明らかに太いし！」 「雪蓮草って、草じゃないの？私はもっと葉っぱが生えてるのかと思ってた……」周囲の人々は、そのオタネニンジンに似た何かを囲んで、思い思いの感想を口にしていた。綿は口元を押さえながら、片手で顎を撫で、もう一方の手で顔の半分を覆い、必死に笑いを堪えていた。――これが、雪蓮草？どう見ても、ただのオタネニンジンをちょっと手直ししただけじゃないか。色を塗って、根っこを太くして、形を少し整えただけの「それらしい何か」。嬌があれほど誇らしげに持ってきた雪蓮草が、結局はただの偽物。これだけ大勢の人が集まった宴の場で、しかも一番面子を大事にする高杉美香の目の前で、そんな大胆な真似ができるとは――もしこれが偽物だとバレたら、恥をかくのは陸川家だけじゃない。贈り物を受け取った美香本人も、無傷では済まないだろう。あの性格で、怒らないはずがない。「さすが陸川家だな。うちも雪蓮草を探してたけど、結局は無理だったよ」「そうそう、百億出しても買えないって言われたのに……陸川家にはすごいコネがあるんだろうな」「やっぱり四大家族の名は伊達じゃないな。美香さん、これを飲んだら元気になりますよ、きっと」「今回は本当に心のこもった贈り物ですね。美香さんも、さぞお喜びでしょう」そう言って、そばにいた中年の男が一歩前に出た。愛想笑いを浮かべながら、美香に向かってこう言った。「美香さんのおかげで、私たちも雪蓮草を見ることができました。もし美香さんがいなければ、私たち一般人は一生お目にかかれなかったでしょう！」それを皮切りに、周囲の人々も口々に賛辞を送りはじめた。「その通りです！ずっと探してましたが、結局見つけられなかったんです。美香さんのおかげで貴重なものを拝見できました！」「こんなにお優しい美香さんが長生きしなくて、誰がするっていうんですか？ずっとずっとお元気でいてくださいね！」会場中が頷きと拍手で満ち、美香はその賞賛を受けながら、満足そうに微笑んだ。美香は嬌の方を見つめ、穏やかな声で言った。「陸川さん、ありがとう。お父様にも

綿の一言は、場内の空気を一瞬にしてざわつかせた。「なに言ってるんだよ！あれは陸川家が贈ったものでしょ？美香さんも喜んでたよ。偽物なわけないじゃん！」「そうだよ。そもそも誰も本物の雪蓮草なんて見たことないのに、なんで偽物って断言できるんだ？」「最近さ、ネットで綿さんと輝明さんが離婚準備してるって噂あったろ？ 今日のこれも、わざと場を荒らしに来たんじゃないのか？」「祝いに来たって言いながら、実は混乱させに来ただけなんじゃ……？」綿は拳を固く握り締めた。周囲から浴びせられるのは非難と嘲りばかり。美香も眉をひそめていた。自分の誕生日の宴がこんな形で乱されることなど、望んでいない。なにしろ、今日ここに集まっているのは各界の名士たちばかり。しかも、今はその様子が配信で中継されているのだ。――こんなところで揉め事が起きれば、笑い者になるだけ。だが、美香が知らないのは、すでにネット上でも炎上状態になっているということだった。「陸川家のって偽物なの？」「まじでオタネニンジンとか？」「どっちが本物なんだ……？」綿は美香を見つめながら、胸の奥に怒りを押し殺していた。確かに自分は輝明との離婚を考えている。けれど、だからといってこんな場を荒らすような人間だと思われるのは、心外だった。深く息を吸い、彼女ははっきりと言った。「おばあさん、陸川家が贈った雪蓮草は、本当に偽物です」その瞬間、秀美が駆け寄ってきて、慌てて綿の腕を掴んだ。こんなに大勢の人の前で、陸川家の贈り物が偽物だなんて……さっきまで皆が拍手していた贈り物を、今になって否定するなど――美香の立場が、あまりにもない。美香の感情はさておき、世間的にはこれは「面子を潰された」と見られてしまうだろう。秋年も事態の異常さを察知し、慌ててスマートフォンを取り出し、輝明に電話をかけた。「高杉、いまどこだ！なにしてる、まだ来てないのか！？仕事なんて後回しにして、とにかく今すぐ来い！綿ちゃんと陸川が、本気でやり合い始めてる！」「仕事は少し後回しにして、早く会場に来てくれ。お前の妻と嬌が喧嘩を始めるぞ！」一方の嬌は、周囲が自分の味方であることに気をよくし、確信を深めていた。誰も雪蓮草の「本物」を見たことがない。だからこそ、自分のものが本物だと言い張

内心では大きく揺れていたが、嬌はそれを顔には出さなかった。涼しい表情のまま、ふてぶてしく言い放つ。「いいわよ、調べてみなさい！あたしは百億円払って雪蓮草を手に入れたのよ。本物か偽物かなんて、あたしが一番わかってる。それに、おばあさまに贈るものに手抜きなんて、するはずがないでしょ？」そう言うと、手にしていたバッグを放り出し、椅子を引き寄せて足を組みながら座り込んだ。鑑定？好きにすれば？――そんな態度だった。「綿、あんたが間違ってたってわかったら、土下座して謝ったって、あたしは絶対に許さないから」嬌の声は冷たく、張り詰めていた。そのプライドは、誰よりも高い。自分の雪蓮草を「偽物」と決めつける権利など、綿にあるはずがない。しかし綿は静かに首を傾げ、柔らかな声で問い返した。「じゃあ、もし……間違ってなかったら？」嬌は鼻で笑い、綿のハイヒールを指差しながら、歯を食いしばって言った。「そしたら、あんたに跪いて、その靴、ピカピカに磨いてやるわよ！」場内の視線が一斉に二人に集中する。誰もが、今まさに始まろうとしている「真偽の決着」に息を呑んだ。桜井家が、陸川家を超えて「本物」を持っているなんて、あるはずがない。陸川家は、四大家族の一つ。その彼らが公然と贈ったものが偽物だったとしたら、それは大きな「恥」となる。加えて、嬌の自信満々の態度は、誰の目にも「綿のものこそ偽物だ」と思わせるには十分だった。「桜井家の雪蓮草って、白いバラにしか見えないんだけど。少なくとも陸川家のやつは薬草らしく見えるわよ？」「そうそう、綿ってば、美香さんの誕生日を台無しにしに来たのよ！あんなに可愛がってもらってるくせに、どういうつもり？」冷たい視線と言葉が綿に向けて飛んでくる。だが、綿はただ静かに、周囲を一瞥した。その眼差しは冷たく、まるで人の心の奥底を見透かすかのようだった。一部の人々は身震いしながらも、一歩も引かず、依然として綿の雪蓮草が偽物だと信じて疑わなかった。そのとき、美香がため息混じりに口を開く。「もういいわよ」彼女にとって、嬌の雪蓮草が本物かどうかはどうでもよかった。ただ──綿のことが心配だった。輝明がいない今、自分が綿を守らなければならない。そんな思いが、美香の胸中にあった。だが、

美香は黙って嬌に目を向けた。――雪蓮草の贋物を贈ってきたなんて、私を侮辱しているのか？嬌の顔は青ざめ、慌てて頭を振って言った。「おばあさま、違います！彼の言葉に騙されないでください！陸川家は高杉家に忠誠を尽くしていますし、あたしはおばあさまを本当に尊敬しているんです！見下すなんて、絶対にありえません！」――高杉家に嫁ぎたい、その一心でここまでやってきた。そんな自分が、高杉家を見下すわけがない……！嬌は唇を噛み、綿の手にある機器を指差して叫んだ。「これは本物の雪蓮草よ！あんたの持ってるその機械が壊れてるに決まってるの！」そう。きっと機械のせいだ。そうでもなければ、自分でさえ手に入れられなかった雪蓮草を、綿のような女が持っているはずがない！そう考えると、全身から怒りが込み上げてくる。嬌は綿を睨みつけて、声を荒げた。「あんた、機械に細工したんでしょ！」――信じたくなかった、綿が本当に雪蓮草を持っているなんて、そんな現実。この数日、得意げに綿の前で何度も雪蓮草の話をしてきた。でも今、それが彼女の手にある……？最初から彼女は持っていたの？そのうえであたしをずっと、笑って見ていた……？それが本当なら、こんな屈辱はない。雅彦が一歩前に出て、きっぱりと答えた。「これは国家認定の正式な鑑定機です。細工など、ありえません」「そんなこと、ありえないわ！」嬌はなおも食い下がる。少しでも時間を稼いで、輝明が現れるのを待ちたかった。「もし……」ふと、嬌の中でひらめく。――そうだ。雲城には、あの人物がいる。佐藤鶴雄。鑑定の達人として知られ、あらゆる珍品を一目で見抜く目利きだ。雪蓮草を見たことがあるかはどうでもいい。重要なのは、彼を呼べば時間がかかる。その間に、輝明が来るかもしれない――「もし、佐藤鶴雄先生が『これが偽物だ』と言うなら、あたしは認める！」嬌は自信ありげに言い放った。「佐藤鶴雄？」人々が顔を見合わせ、ざわめく。綿は目を細め、口元に微笑を浮かべた。「あの変わり者のじいさん？」「変わり者だと！？佐藤鶴雄先生はれっきとした研究者だぞ！君みたいな小娘が勝手に呼び捨てにしていい相手じゃない！」人混みの中から怒声が飛んだ。しかし綿は気にも留めず、美香へ向き直った

「お義母さん、もういいよ」綿は軽く眉を下げ、秀美の傍らに歩み寄ると、わざとらしいほどの柔らかい声で言った。「私、ただ冗談で言っただけなの。嬌さんも人に騙されたかもしれないし……」――まるで白百合の花のような純真さを装いながら。「冗談で済む問題じゃないわ！約束は約束。破るわけにはいかない！」秀美は一歩も引かなかった。高杉家の宴席で──綿があんな仕打ちを受けたというのに、見過ごすわけにはいかない。それに、あの狐のような女、日々輝明を誘惑して、家庭を壊そうとしている。この場で、ちゃんと「教育」してやらなければ。綿は形ばかりの無力な顔をつくり、嬌の方をちらりと見て言った。「私も……ここまでが限界よ」――心の中では、思わず吹き出しそうになっていた。まさか、ぶりっ子の芝居がこんなにも痛快だったなんて。嬌は唇を噛みしめ、スカートの裾をぎゅっと握った。──この場で、綿に膝をつくなんて。それは、服を剥がされるも同然の屈辱だ。たしかに「偽物だったら跪いて靴を磨く」とは言った。でも、これは明らかに、わざと辱めるための罰だ。――綿、この恥知らず！次に会うときは、絶対に思い知らせてやる……！嬌はちらりとホールの外を見やった。――輝明……まだ来ないの？まさか、今日は本当に……彼女に跪かなければいけないの？「何を見てるの？輝明が来るのを待ってるの？残念だけど、今日は来ないわ！」秀美の声は冷たく、容赦がなかった。嬌の睫毛が震え、瞳が揺れた。──来ない？輝明が？彼は「少し遅れる」とは言った。でも「来ない」なんて、一言も言ってなかった……まさか、嘘だったの……？不安が胸を支配し、涙があふれ出す。場内の視線が、熱を帯びて嬌に集中する。こんなに、恥ずかしい思いをしたのは初めてだった。――すべては、健一のせいだ！あんな提案、信じるんじゃなかった。せめて、ちゃんとした偽物にしてくれればよかったのに。よりにもよって、オタネニンジンだなんて！この場に集まる誰もが、オタネニンジンを見抜けないとでも思ったの？もう悔しさで、身体が震えた。でも、それ以上に、綿への嫉妬と憎悪が燃え上がる。なぜ？なぜ、あの女が雪蓮草を手に入れるの？「さあ、どうするの？跪くの？それとも、ここで皆の時間を無駄にする気？」秀美が