「皆も知ってるでしょ、輝明が好きなのは嬌だって」綿は淡々と語り始めた。「正直言うと、3年間の結婚生活で私が得たものなんて何もなかった。ただ『高杉夫人』って肩書きくらいね」だがその肩書きすら、実際には形だけのものだった。世間の多くの人は、嬌こそが輝明の妻だと思っていた。尊敬や評価の目は、すべて嬌に向けられていた。「結婚って2人で作り上げるものよね。どちらか一方がどれだけ努力しても、片方が向き合ってくれなければ意味がない。彼があれほど嬌を愛しているなら、私は手を放して祝福するしかないのよ」彼女は言葉を慎み、嬌や輝明を直接批判することはなかった。もう別れたんだから。もし彼女がもっと感情を吐き出す人間だったなら、「嬌が3年間、どう私を攻撃してきたか」「輝明がその間、どれだけ嬌を守り続けてきたか」「この2人がどれだけ私を傷つけ、離婚に追い込んだか」と、全てを暴露していたかもしれない。崇が口を挟んだ。「愛が冷めたのか?結婚生活が一方的な努力だけだと、感情が疲弊していくのは当たり前だよね。その先にあるのは、愛の枯渇だ」綿は彼の言葉に少し考え込み、慎重に答えた。「離婚したとき、愛がなくなったかって言うと……そうでもないの。愛がなくなったんじゃなくて、疲れ果ててしまったのよ。先が見えなくてね」彼女の目が少し曇った。彼女が輝明と離婚したとき、もう愛していなかったのか。――違う。愛がなくなったわけじゃない。ただ、疲れ切ってしまったのだ。もう、どれだけ頑張っても、光の見えないトンネルの中にいるみたいだった。彼に、心も体も、何度も何度も傷つけられて。それでも本当は、輝明に会いたかった。でも、彼に会うたびに、それは悪夢の始まりだった。彼は、いつも嬌のために彼女を責め、問い詰めた。長く続いた対立と不信感――それは、彼女の心と体を確実に蝕んでいった。もう、続ける意味なんて、どこにもなかった。あの日、嬌が水に落ちたとき。彼女は自分が瀕死の状態にありながら、それでも輝明は嬌を助けた。それが、最後の引き金になった。彼女が水を恐れるようになったのは、かつて輝明を救うために命を懸けたからだった。なのに、彼を必死で救った彼女は、自分が死にかけているとき、彼から一度たりとも振り返ってもらえなかった。そう語る彼女の笑顔
Baca selengkapnya