「ちょっと待って」直美の声が背後から響き、二人の足を止めさせた。綾人とかおるが振り返ると、直美は腕を組んで立っていた。綾人が「まだ何か?」と冷ややかに訊ねた。直美は不機嫌そうに眉を寄せ、「来たばかりで帰るの?ずっと奥さんとベタベタしてただけじゃない。お母さんのこと、まるで無視してるみたいね」と皮肉を込めて言った。綾人は軽く口角を上げ、「結婚してるんだから、母さんにベタベタしてたら父さんに殴られるよ」と平然と返した。直美は言葉を詰まらせたが、すぐに気を取り直して言った。「三日後、流歌の誕生日パーティーを開くわ。兄夫婦として必ず出席してちょうだい。遅刻も早退も許さない、いいわね?」かおるが視線を綾人に送ると、直美は間髪入れずに言葉を重ねた。「かおる、あなたには義姉として、少し早めに来て私と一緒に来客の接待をお願いするわね」まるで当然のような口調に、かおるは少し眉を上げたが、「はい、お義母さん」と笑みを浮かべて頷いた。直美はその返答にどこか不満げな表情を見せたが、何も言わずに綾人へと目を向けた。「聞いてた?」と確認すると、綾人は淡々と「うん、わかった」とだけ答え、かおるの手を引いてその場を去った。直美はその背中を見送り、ふと横にいる流歌に目を向けた。どこか寂しげな表情を浮かべていた彼女に、そっと語りかけた。「流歌、がっかりしないで。この問題はすぐに解決するから」流歌は不安げに母を見上げた。「……お母さん、本当に大丈夫?これ、お兄ちゃんにバレたら……」直美は自信に満ちた声で言い切った。「バレないわ。綾人が気づいた時には、あの女とはもう離婚してるから」その言葉に、流歌は唇を噛みしめ、どこか怯えたような無垢な表情を浮かべた。その頃、車内。「どうして急に誕生日パーティー?」かおるが運転席の綾人に問いかけると、綾人は前を見据えたまま言った。「普通じゃないことが起こるときは、何かがある。気をつけて、臨機応変に対応してくれ」「……わかった」かおるは真剣な顔で頷いた。「当日は迎えに行く。一緒に行こう」綾人がそう言うと、かおるは素直に「うん」と返した。外の街並みはすでに夜の帳に包まれ、きらびやかな光が都市を染めていた。No.9公館。かおると綾人が到着すると、すでに聡と星野
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