綾人はかおるの手をしっかりと握り、そのまま会場を後にした。一方その頃、部屋の中では、直美がようやく伊藤と流歌を引き離していた。情事に溺れた伊藤は理性を失い、今なお流歌の上から離れようとしない。意識が少し戻った流歌は、現在の状況に気づくと目を見開き、布団をかぶって叫び出した。「どうして、どうしてこんなことに……?なんで私がここにいるの?この部屋にいるはずだったのは、かおるのはずじゃなかったの?なんで、私なの……なんで私がっ!」身体に残る感覚が、すべてを物語っていた。朦朧とした伊藤の様子からも、ふたりがどれだけ激しく交わっていたのか、そして、それを多くの人に見られていたであろうことも、容易に想像がついた。本来なら、この芝居はかおるに仕掛けるはずだったのに……どこで、どう狂ったのか!直美は取り乱す流歌を抱きしめ、必死に宥めようとした。「落ち着いて、流歌ちゃん。あなたの身体に負担をかけちゃだめ。大丈夫、お母さんがついてるわ。この件は、私がどうにかするから」「うっ……うぅぅ……!」流歌は泣き崩れ、自分の人生が音を立てて崩れ落ちていくのを悟っていた。もう二度と綾人と並んで歩く未来なんて、ありえない。そこへ貴志が冷たく言い放った。「見ろ……これがお前たちのやったことだ!今日の件、完璧に収拾がつかない限り――海外追放だ。二度とこの地を踏むな!」そう吐き捨てて、貴志は踵を返した。これほど面目を潰された日はない。小さな騒動であれば黙認できたが、今回は違う。街中に知れ渡る大醜聞となり、月宮家は完全に笑い者にされた。この母娘は……本当にどうしようもない!直美はその一言に凍りついた。これまで好き勝手に動けたのは、すべて貴志の庇護があってこそ。だが今、その後ろ盾は完全に失われた。もう、かおるを狙うこともできない。混乱する直美の頭に残された唯一の策、それは縁組だった。流歌を伊藤に嫁がせ、この一件を両家の内輪の痴話として幕を引くしかない。せめて表面上だけでも、体面を保たねばならない。その頃、宴の会場では、あちこちでざわめきが起きていた。誰もがさっきの出来事を興奮気味に語り、噂は瞬く間に広がっていく。綾人はかおるの手を引き、月宮家の屋敷をあとにした。車に乗り込むと、彼はかおるの手を強く握りしめ、沈痛な表情
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