景之はその言葉を聞くと、内心ではぜひ行きたいと思いながらも、どこかすました態度を装い、唯に尋ねた。「唯おばさん、見に行きたい?」「もちろん行きたいわ」唯は迷いなく答えた。景之は満足げにうなずき、「じゃあ、一緒に行って、唯おばさんを満足させてあげようか」とようやく言った。唯はその言葉で状況を悟った。またこのいたずらっ子にうまくやられたのだと。本当は自分が行きたいくせに、その理由をこちらに押しつけるとは――そう思うと、仕方なくため息が漏れた。「はいはい」三人は連れ立って紗枝の実家へ、赤ん坊の顔を見に向かった。和彦は萌に気づかれることを懸念し、まず唯と景之だけを中に入らせた。しかし萌がほとんど部屋にこもりきりで姿を見せないと知るや、彼もようやく後に続いた。言わざるを得ないが、琉生の娘は本当に愛らしかった。和彦はわざわざ逸之、景之、そして遥の三人を並ばせて写真を撮り、親友グループチャットに送った。【琉生、安心させるために写真を送るよ】三人の子供たちの写真がチャットに届くやいなや、画面は祝福と歓声であふれた。【ちびっ子たち、可愛すぎる!】【啓司さんも琉生さんも羨ましい!】そんな賑やかな言葉が次々と流れた。琉生は最初、どこか誇らしげにそれらを眺めていた。啓司の息子たちよりも、自分の娘の方がきっと優しい子になる、と密かに思っていたからだ。途中から流れを変えたのは、誰かが何気なくこぼした一言。【景ちゃんと逸ちゃん、遥ちゃんは将来どっちを好きになるかな?二人ともこんなにイケメンだし】【もしかすると、遥ちゃんをめぐって争うかもね】【ははは、十分あり得る!】その瞬間、父親としての琉生の眉間に深い皺が寄った。【馬鹿なこと言うんじゃない。私の娘は大きくなっても誰にも嫁がせないよ!】どうして自分の大事な娘を、二人のクソガキのもとへやらねばならないのか。景之も逸之も今は優秀に見えるかもしれない。だが琉生の目には、遥にふさわしい者など一人もいなかった。チャットの空気が荒れはじめたのを見て、和彦はすぐにグループを退出し、そろそろ帰ろうと声を掛けた。唯は少し戸惑い、「まだこんな時間なのに帰るの?」と名残惜しげだったが、立ち上がってついて行った。「行きましょう、景ちゃん」花山院家では、琉生の機嫌は最悪だった。
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