二人は午後いっぱい仕事の話をして、夜になると、心音が強引に紗枝と辰夫を夕食に誘って引き留めた。食事のあと、トイレに立つタイミングで、心音はこっそり話を切り出した。「ボス、もう決めたんですね?」紗枝は不思議そうに首をかしげた。「何のこと?」「辰夫さんと付き合うことですよ?」心音の大きな目がキラキラしている。「今回戻ってきたのって、彼のためじゃないんですか?」紗枝は言葉に詰まった。そうとも言えるし、そうじゃないとも言える。「辰夫とはただの友達よ。そんな関係、ありえないって」心音は残念そうにため息をついた。「あーあ、辰夫さんと一緒にいれば、毎日が目の保養なのに」紗枝は呆れて軽く彼女をぺしっと叩いた。でも心音はまだ諦めない。「じゃあ、辰夫さんじゃないなら、やっぱり啓司さんにしたんですか?」啓司のことも見たことあるけど、あれはあれでまた格好よかった。紗枝はため息混じりに肩をすくめた。「もう遅いし、そろそろ帰ろう」二人がトイレから出て、個室に戻ろうとしたそのとき、紗枝はふと足を止めた。個室の前には、二人の男性が立っていた。辰夫と、そして牧野だった。牧野は金縁の眼鏡をかけた長身の男で、辰夫ほどじゃないけど、かなりのイケメンだ。心音は思わず目を見開いた。「ボス、ちょっとイケメンの周り率高すぎません?」紗枝は苦笑しながら心音を軽く睨んだ。「もうそういうのいいから、さっさと帰って」「はーい......」心音は名残惜しそうにレストランを後にした。その頃、個室前では、辰夫と牧野が表面上は冷静を装っていたが、近寄りがたい空気を放っていて、周囲の人たちも思わず距離を取っていた。紗枝が近づくと、牧野が振り返って言った。「奥様、お迎えに上がりました」「すみません。啓司には明後日帰るって伝えてあります。先に戻っててください」辰夫との約束は、破りたくなかった。牧野は紗枝の意思を感じ取り、それ以上は何も言わず、去り際に小さくつぶやいた。「奥様、差し出がましいですが......ご交友はご自由に。ただ、ご身分はお忘れなく。社長のご様子は、あまり良くありません」その言葉に、紗枝の胸がざわついた。啓司の様子が良くないって......どういうこと? 詳しく聞こうとしたそのとき、辰夫が彼女の腕をそっと
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