All Chapters of 億万長者が狂気の果てまで妻を追い求める: Chapter 721 - Chapter 724

724 Chapters

第721話

二人は午後いっぱい仕事の話をして、夜になると、心音が強引に紗枝と辰夫を夕食に誘って引き留めた。食事のあと、トイレに立つタイミングで、心音はこっそり話を切り出した。「ボス、もう決めたんですね?」紗枝は不思議そうに首をかしげた。「何のこと?」「辰夫さんと付き合うことですよ?」心音の大きな目がキラキラしている。「今回戻ってきたのって、彼のためじゃないんですか?」紗枝は言葉に詰まった。そうとも言えるし、そうじゃないとも言える。「辰夫とはただの友達よ。そんな関係、ありえないって」心音は残念そうにため息をついた。「あーあ、辰夫さんと一緒にいれば、毎日が目の保養なのに」紗枝は呆れて軽く彼女をぺしっと叩いた。でも心音はまだ諦めない。「じゃあ、辰夫さんじゃないなら、やっぱり啓司さんにしたんですか?」啓司のことも見たことあるけど、あれはあれでまた格好よかった。紗枝はため息混じりに肩をすくめた。「もう遅いし、そろそろ帰ろう」二人がトイレから出て、個室に戻ろうとしたそのとき、紗枝はふと足を止めた。個室の前には、二人の男性が立っていた。辰夫と、そして牧野だった。牧野は金縁の眼鏡をかけた長身の男で、辰夫ほどじゃないけど、かなりのイケメンだ。心音は思わず目を見開いた。「ボス、ちょっとイケメンの周り率高すぎません?」紗枝は苦笑しながら心音を軽く睨んだ。「もうそういうのいいから、さっさと帰って」「はーい......」心音は名残惜しそうにレストランを後にした。その頃、個室前では、辰夫と牧野が表面上は冷静を装っていたが、近寄りがたい空気を放っていて、周囲の人たちも思わず距離を取っていた。紗枝が近づくと、牧野が振り返って言った。「奥様、お迎えに上がりました」「すみません。啓司には明後日帰るって伝えてあります。先に戻っててください」辰夫との約束は、破りたくなかった。牧野は紗枝の意思を感じ取り、それ以上は何も言わず、去り際に小さくつぶやいた。「奥様、差し出がましいですが......ご交友はご自由に。ただ、ご身分はお忘れなく。社長のご様子は、あまり良くありません」その言葉に、紗枝の胸がざわついた。啓司の様子が良くないって......どういうこと? 詳しく聞こうとしたそのとき、辰夫が彼女の腕をそっと
Read more

第722話

紗枝は切られた電話を見つめたまま、呆然としていた。啓司が怒ったのだと思い、慌ててもう一度かけ直したが、返ってきたのは無機質なアナウンスの声だった。「申し訳ございません。おかけになった電話番号は、現在お繋ぎできません。しばらくしてからおかけ直しください」繋がることすらできず、ただそのメッセージが虚しく流れるだけ。つまり、着信拒否されたのだ。その事実に気づいた瞬間、紗枝はあまりのことに茫然としてしまった。けれど、そのまま不安に飲まれることもなく、ひとまず落ち着いて横になることにした。一方その頃、インターコンチネンタルホテルでは、啓司がスマホを放り投げ、痛む額を押さえながら険しい目で牧野をにらんでいた。「......俺がここに来たのは、誰のためなんだろう?」牧野は姿勢を正し、真剣な表情で彼を見つめ返した。「奥様のためですよ、社長。忘れてしまったんですか?」その言葉に、啓司の目が一瞬だけ皮肉を帯びた。「奥様?誰のことだよ、それ」「......紗枝さんのことです」啓司はその名を聞き、目を見開いた。驚きが顔にあらわれた。まさか、こんな田舎くさい場所まで、あの女のために来たっていうのか?冗談じゃない。どれだけ暇人なんだ、俺は。「それで、そいつは今どこにいる?」自分の記憶がおかしいことには、さすがに気づいている。牧野の話では今は2023年だが、啓司の中では時間が六、七年前で止まっていた。「さっきかかってきた電話......あれ、たぶん奥様からの着信だったみたいです」牧野も混乱していた。昼間、紗枝を探しに行ったとき、社長は突然激しい頭痛を訴え、自分が誰かさえ分からなくなった。だが戻ってきた頃には、また牧野を認識し、まるで何事もなかったような様子だった。でも今はまた、最近の記憶がまるごと抜け落ちている。社長の旧病が再発し、完治していなかったのだ。啓司が再びスマホを手に取ろうとした、その瞬間。視界が一気に暗転した。手を伸ばしてもスマホが見つからず、苛立ちから思わずテーブルをひっくり返してしまった。「ドンッ!」と重い音が響いた。啓司の瞳には怒りが浮かび、声が低く鋭くなった。「俺の目、どうなってんだ。誰がやったんだ?」その剣幕に、牧野も焦りを隠せなかった。「社長、落ち着いてくだ
Read more

第723話

電話を切られた啓司はスマホを強く握り締め、目には冷たい光が宿っていた。そんな彼に気を利かせた牧野が説明を始めた。「社長、紗枝様は現在ご懐妊中でして、少しお休みが必要かと」「......妊娠?」啓司は眉をひそめ、怪訝そうな声を漏らした。誤解されまいと、牧野がすかさず言い添えた。「はい。お腹のお子さんは、あなたの......」まさか、自分と紗枝の間に子どもがいたとは。「桃洲に戻る」啓司は動揺を表に出すことなく、痛みをこらえて立ち上がると、静かに言い放った。そこでさらに衝撃的な現実が待ち受けているとは知らずに。牧野も、社長の体調が安定していないことや、敵対勢力に狙われるリスクを考慮し、早めに帰国した方が良いと判断した。そして夜通し、プライベートジェットで帰国する途中、牧野の不安は現実になろうとしていた。出国前、啓司に土下座して許しを請うた武田家の次男・陽翔は、すでに啓司の行動を把握していた。海外で暗殺を企んでいた陽翔だったが、予想外の帰国に歯噛みした。「......運のいい野郎だな」一方、ソファにふんぞり返る三男・風征は、婚約者の悦子にメッセージを送っていた。だがその膝の上には、悦子の親友・葵が寄り添っていたことを、悦子は知るよしもない。「兄貴、啓司はもう目が見えないんだから、怖がる必要なんかないだろ。帰国してきても、またチャンスはあるって」陽翔は弟の軽薄さが気に食わなかった。先日、風征がナイトクラブで見つけた葵を連れ帰ったことも、当然知っている。この女は、かつて啓司や澤村すらも手玉に取った、危険な存在だ。「結婚も間近なんだから、いい加減にしておけ」「わかってるってば」風征は適当に返事をしながら、悦子よりもよほど自分好みの葵を見下ろした。葵は風征の胸に身を寄せながら、悔しげに唇を噛みしめていた。全ては紗枝のせいだった。あの女さえいなければ、自分がこんな二流家の男に身を委ねることもなかったのに。誰もが知っている通り、武田兄弟といえば、冷酷だが実力は並の次男・陽翔と、女遊びばかりの三男・風征。どちらも、黒木兄弟とは比べ物にならない器だった。啓司が桃洲に到着したとき、激しい雨が降っていた。牧野は傘を差しながら、啓司が転ばないよう慎重に案内した。ようやく牡丹別荘の門前にたどり着
Read more

第724話

逸之は思わず目を見開いた。親が喧嘩するのはまあ仕方ないにしても、子供に八つ当たりって、さすがにひどすぎない?バカパパがまたクズに逆戻りだなんて、いくらなんでも早すぎるよ。啓司は逸之を抱き上げて「俺の子供......?」とつぶやいた。頭の中は混乱していた。まるで少し眠っている間に、世界がすっかり変わってしまったような感覚だ。「そうです!どうか、坊ちゃんをもう少し優しく降ろしてください。坊ちゃんは体が弱いので、無理はさせないでいただきたいんです」牧野には、今の啓司が一時的な記憶障害を起こしているのが分かっていた。記憶が戻った時に、もし坊ちゃんに何かあったと知ったら、きっと深く後悔するに違いない。啓司はその言葉に反応し、逸之をそっと降ろした。「この子は......俺と誰の子なんだ?」牧野は一瞬、言葉に詰まった。逸之はようやく事態を飲み込んだ。どうやらバカパパ、本当に記憶喪失になっちゃったみたい。思わず白目をむきそうになりながら、牧野よりも先に啓司に問いかけた。「バカパパ、ママのことも忘れちゃったの?じゃあさ、僕のママは誰なのか、当ててみる?」パパに子供まで作らせたどろぼう猫が誰だったのか、ちょっと見てみたくなった。そんな逸之の意図に気づかないまま、牧野は黙っていた。啓司はその問いに、かすかに笑った。「聞くまでもない。どうせ俺の立場を狙う女だろ?っていうか、そいつ......もう死んでるんじゃないのか?」色仕掛けで関係を迫って、こんなに大きな子供まで産んだ女だ。啓司の性格からして、そんな計算高い女を生かしておくはずがない、そう思っていた。逸之は呆れた顔で啓司を見た。どろぼう猫とか言ってたけど、やっぱ考えすぎだったな。バカパパがどれだけ不器用で直球勝負の人間か、よーく分かった。「バカパパ、なに言ってるのさ!僕は紗枝ちゃんの子供だよ!」「......紗枝ちゃん?」「夏目紗枝です、社長」牧野が補足した。啓司はその名を聞いて黙りこみ、それ以上は何も言わず、大股で屋内へと入っていった。逸之と牧野は、ただ呆然とその背中を見送るしかなかった。逸之はあわてて後を追い、「バカパパ、大丈夫?どっか悪いの?なんで僕のこと忘れちゃうの?」と声をかけた。すると啓司は足を止め、やや眉をひそめながらこう
Read more
PREV
1
...
686970717273
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status