紗枝が美希を目にした瞬間、全身が凍りつき、しばらくしてようやく我に返った。「美希さん……誰がここに来いと言ったんですか?」その声に美希は顔を上げ、落ち着かぬ様子で彼女を見つめた。「私……」言いかけたところで、鈴が割って入る。「義姉さん、おばさんはあなたの実のお母様でしょう?どうして『美希さん』なんて呼ぶんですか?あまりに失礼ですよ」鈴は紗枝と美希の間に確執があることを承知のうえで、わざと問いかけたのだった。美希はすぐに鈴へ向き直り、静かに言う。「そんなこと言わないで。どう呼ぶかは紗枝の自由よ」そもそも自分は紗枝の実母ではないのだから。紗枝は拳を固く握りしめ、鈴の言葉には耳を貸さず、美希の前に歩み寄った。「用事があるなら、外で話しましょう」「ええ」美希は立ち上がり、紗枝に従って外へ出る。その後ろを、鈴がこっそりとついていった。外。薄暗い街灯の下で、紗枝は冷たく問いかける。「お金が欲しいの?それとも、ほかに目的が?」今の美希は、実の娘も息子も夫も誰も寄りつかない孤独の中にあり、きっとまた何かを企んでいるに違いない。美希は喉を詰まらせ、か細い声を絞り出した。「お金はいりません。ただ……あなたと子供たちに会いたくて来ただけです」紗枝はその言葉を聞き、嘲るように笑った。「また家族の情にすがるつもり?忘れたの?私たち二人には、血の繋がりなんてないんだよ」美希は、今さら何を言っても遅いことを知っていた。本来はただ、牡丹別荘の外から遠く紗枝を一目見たいだけだったのだ。だが運悪く鈴に見つかり、無理に家へ連れ込まれてしまった。「分かっています……何もいりません。本当に……何も……」繰り返す声は小さく震え、やがて背を丸めて呟いた。「もう行きます」そう言って、一歩、また一歩と遠ざかっていく。紗枝はその痩せ細った後ろ姿を見つめながらも、なお美希に本当の目的がなかったとは信じられなかった。急いで家に戻ると、まず逸之の様子を確かめる。幸い彼は自室でライブ配信をしており、美希が来たことなど知る由もなかった。啓司もまた書斎で仕事に没頭していた。紗枝は手持ちぶさたにしている鈴へ向き直り、冷ややかに言い放った。「これからは、私の許可なしに他人を家へ連れ込まないで。そうでなければ斎藤
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