All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 1011 - Chapter 1020

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第1011話

「柴尾鈴さんが自分のお姉さんに薬を盛ったって?」それを聞いた栄達はかなり驚いていた。「そうよ。うちの唯花さんは、咲さんの命を救ったも同然よ。彼女はとっても良い事をしたのよ。それなのに、あの口の悪いふざけた人たちが唯花さんのことを、他人事に首を突っ込むお節介女だなんて言ってきたんですからね。それから、唯花さんが余計なことをしたから、柴尾夫人と鈴さんを怒らせた。柴尾社長は身内に甘いからそんなことすると、良くないとも言われたわ。だからなに?私だってうちの子たちには甘いですけど。私の息子のお嫁さんよ、彼女が誰を怒らせようとも構わないわ!唯花さんの行いが正しいのであれば、たとえ彼女が世界中の全ての人間を敵に回したとしても、私がしっかり守ってあげる。ほんっとに頭にきたわ。この私のところにまでそんなでたらめを言って唆しに来たのよ。結城家は今争い事もなく平穏に暮らしているのよ。そんな私たち家族の関係を壊す悪者に私を仕立て上げたいってこと?」栄達は笑って言った。「私の妻はとても聡明だから、そんなのにひっかかるわけなんかないだろう」「ものすごく腹が立つっていうのに、あなたはそんなケラケラ笑っちゃって。唯花さんはあなたの義理の娘でもあるのよ。言っておきますけどね、今後、もしあなたが外で、誰かがまた彼女のことを田舎娘だとか、何も知りもしない青二才だとか、他人の事に首を突っ込むなとか言ってきたら、その場でガツンとそいつを懲らしめるのよ!」この時、麗華は本気で怒り狂っていた。麗華自身も唯花は一般家庭出身で、長男とは身分の差があまりにも大きすぎると思っている。しかし、彼女が唯花のことを嫌うのはいいが、他人が唯花に対してそのような態度を取ることは許せないのだった。唯花の出身を皮肉ったり、批判したりなどもってのほかだ。それに、姑である麗華は唯花に対してとても温和でいる。今までに唯花に不機嫌な態度を取ったり、何か批判したりなどもしていないというのに、どうして他人が彼女のことをどうこう言えるのだろうか?栄達は焦ってこう言った。「わかった、わかった。もう笑ったりしないから。君がそんなふうに唯花さんのことを庇うなんて、私も鼻が高いよ。唯花さんのことは、私たちが守ってあげなくても、理仁一人で守ってあげられるさ。星城では我が物顔で好き勝手できるくらいにね。一年も経たず
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第1012話

春が近づいているとはいえ、まだまだ寒さが残っている季節、鈴が冷水で体を冷やしたことで風邪を引いてしまい、夜中に高熱を出してしまったのだ。加奈子は急いで訪問医に連絡し、娘を診てもらい薬をもらって娘に飲ませると、そのまま娘の部屋で看病をしていた。そして今完全に熱が下がって、加奈子はそうやく安心して部屋から出てきたのだった。「咲は?昨夜帰ってきてないの?」加奈子が長女のことを尋ねる時、さっきまで鈴のことを思い胸を痛めて辛そうにしていた顔を、嫌悪感剥きだしの表情へと変えた。「あの目の見えないクズ娘、どこにそんな運を隠し持っていたのか知らないけど、神崎お嬢様に助けられたのよ。それからあの田舎娘にもね。両親もいない孤児の田舎娘が、名家の令嬢になれたとでも思ってんのかしら?あの女が余計なことをしなければ、鈴だってこんな目には遭わなかったのに。あの田舎娘動きがかなり速かったわ。どこかで護身術を学んだ人みたいに」夫婦二人は下の階に降りていきながら、昨夜のことを話していた。娘に風邪を引かせ、あんな大勢の前で恥をかかせた唯花のことを加奈子はかなり恨んでいた。「咲は毎日8時に店を開けるから、この時間なら、もう出かけてしまった後だろう」加奈子の夫である柴尾正一(しばお まさかず)は淡々とした口調で言った。「今回に関しては鈴もやり過ぎだ。咲はなんといっても実の姉なんだぞ。いつもいつも咲を目の敵にしてちょっかいを出していては、周りからどう思われる?あの子ももう二十歳なんだ。あと数年もすればどこかへ嫁に行くぞ。鈴がこのような様子では、誰が結婚してくれるというんだ?」「うちの鈴は良い子よ。柴尾家には財力もあるわ。あの子が結婚する気があるのなら、とても優秀で完璧な男性を見つけて婿養子として迎え入れるわ。大切なあの子をどこかへ嫁がせるなんてできないもの。嫁いでどこか他所の家の子になっちゃったら、自由を失ってしまうでしょ。それから咲のことを庇う必要なんてないわよ。あの子はただの疫病神、厄介な存在でしかないの。あの子がいなければ鈴の評判だって悪くならなかったのに。言ったでしょ、最初にあの子を殺してしまったほうがよかったって」「加奈子!」正一は一瞬で顔を冷たくし、低い声で一喝した。加奈子は唇を噛みしめ、何も言わなかった。そして少しして、彼女はまた言っ
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第1013話

正一に言われて、加奈子はしぶしぶ理仁へ持って行くプレゼントを用意した。そして正一を見送ったのである。夫がいなくなってから、加奈子はぶつくさと呟いた。「ただの田舎出身でしょ、結城社長が一生そんな女を愛していられるかしら?どうせ、ただ物珍しいだけでしょ。彼に飽きられてしまったら、結城家の若奥様という椅子に座っていられるかしらね?」それから三十分後、理仁は内線で木村秘書から柴尾社長が会いに来たという連絡を受けた。聞くまでもなく理仁は柴尾社長がここへ来た目的がわかっていた。まだ理仁が柴尾社長に鉄槌を下す前に、あちらのほうから来てくれるとは手間が省ける。「通してくれ」理仁は低く冷たい声で木村にそう伝えた。木村は内線を切った後、通知を出した。オフィスビルの一階にある待合室で正一は静かに待っていた。内心少しソワソワとしていて、足音が聞こえると心を落ち着かせて、平静を装っていた。そこへ入ってきたのは受付だった。「柴尾社長、こちらへどうぞ」それを聞いて正一は急いで立ち上がると、受付にお礼を言い、あの高価なプレゼントを持ってその受付の後に続いた。彼は他に誰も付き人は従えていなかった。理仁に彼の誠意を見せたいがためだ。この時、社長オフィスにいた理仁は木村に返事をした後、辰巳のほうに内線をかけた。そして彼に「辰巳、ちょっとオフィスまで来てくれないか」と伝えた。辰巳は何か仕事上の話があるのだろうと思い、急いで手元の仕事を止め、最上階へと向かった。彼は正一よりも早く理仁のところへやって来た。「兄さん」辰巳はオフィスのドアを閉めながら「何の用?」と尋ねた。「座ってくれ」理仁は辰巳に座るよう言った。辰巳は座ってから、理仁が何か言うのを待っていたが、ずっと黙ったまま何もしゃべらないのだ。「兄さん、何の用事なんだよ?なにも言ってくれなきゃ、俺だって想像つかないって。全く何なのかわかんなくて落ち着かないなぁ」この時、辰巳は最近自分が担当していた仕事について思い返していた。確かに全て終わらせてあり、何も問題ないはずだと確信を持っていた。「別に大したことじゃない。とりあえずそこに座っててくれ」辰巳「……」「コンコン」この時ドアをノックする音が聞こえた。「どうぞ」木村がドアを開けて、先に中に入ると、礼儀
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第1014話

正一は以前から結城理仁はとても冷たく、人付き合いのしにくい人間だということを聞いていた。付き合いにくいかどうかは、正一にははっきりと断定することはできなかったが、理仁が冷たい性格であることは確かだった。正一はビジネス界に長年身を置き、柴尾グループを引き継いでから、十数年の努力を経て、小さな会社から資産二百億を超える大企業にまで成長させたのだ。彼ら柴尾グループの事業は星城では展開されていないのだが、それでも正一は星城で少し人脈を持っているのだ。「結城社長、本日はうちの一番下の娘と私の妻に代わって謝罪をしに来たのです」正一は笑みを作り、そう説明した。理仁は冷ややかにこう言い放った。「私は別に、柴尾夫人にも、そちらのお嬢さんにもお会いしたことはありませんがね」「結城社長、実はですね、うちの妻と娘が、結城社長の奥様と誤解があって、少しもめたらしいのです。私からあの二人にはよく言い聞かせておきました。今、娘は熱を出してしまい、妻が彼女の世話をしているものですから、本日は彼女たちに代わって、私から若奥様への謝罪と、その気持ちを持って来たまでです。結城社長の許可をいただいておりませんので、私も若奥様のお邪魔をするわけにもいかず、それで本日、こちらに来させていただいたというわけです。私自ら若奥様に直接お会いして謝罪させていただけませんでしょうか。すみません、本当に申し訳ございませんでした」理仁は異常なまでに唯花のことを守っていた。それで今に至るまで、メディア、記者たちが唯花の目の前に現れるようなことはなかった。少し写真を撮りたいと思っても、こっそりと盗撮するのが精一杯で、無事に写真が撮れたとしても、理仁の同意なしでは、勝手にネットにアップすることすらできなかった。辰巳は正一の話を聞いていて、よくわかっていない様子だった。柴尾社長が唯花を怒らせたから、理仁がその内容を辰巳に聞かせるためにここに呼んだのだろうか?「あなたが直接謝罪に行く必要はありません。柴尾社長、家に帰ってお宅の奥さんと娘さんをしっかりと管理していただければそれでいいのです。私の妻はそちらの咲さんのことをとても気に入っているようで、お友達になりたいのだとか」と、理仁は軽くこの話題に触れた。唯花が他人のことにここまで首を突っ込み、咲を守ろうとしたのも、全てはおばあさんが
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第1015話

理仁も何も言わず、ただ冷ややかな目線を正一に投げつけていた。正一は理仁にそのように見つめられて、とても落ち着かなかった。「柴尾社長は、ここへ手土産を持って謝罪しに来たと?」理仁が何か言うのを期待しても無駄だ。だから辰巳がオフィスの中に漂った短い静けさを打ち破った。正一は急いで頷いた。「私の義姉である唯花姉さんは度量の大きい人です。普通は、誰かと争うようなことはしませんね。だけど、義姉さんはとても友情を重視する人なんですよ」正一は笑みを作って言った。「ええ、お伺いしたことがあります。若奥様は義理堅いお方であると」「それをご存じでいらっしゃるのであれば、良かったです。それでは、他にご用件がないようであれば、我々はこの辺で」もうここでそんなくだらない演技などする必要はない。彼ら結城グループは柴尾グループとはビジネス上の付き合いもないのだから。柴尾はとっくにそこから去ってしまいたかったが、彼のほうからは言い出しづらかったのだ。理仁に睨まれると、こんなに不安に駆られるものだと初めて知ったのだった。正一は理仁よりもかなり年上である。理仁の父親になれるくらいの年だった。それに、人生においていろいろ経験してきた者でもある。しかし、理仁を前にすると、彼はまるで自分が何か悪いことをしてしまった小学生で、理仁が気難しい担任の先生であるかのように錯覚を起こすほどだった。辰巳に帰るよう促されて、柴尾はそそくさと別れの挨拶をした。理仁も辰巳も立ち上がって彼を見送ることはせず、辰巳はただ木村に柴尾社長を送るよう連絡をいれた。そして柴尾社長が帰ってから、辰巳は理仁に尋ねた。「どうして義姉さんが柴尾咲さんと交流があるの?それに咲さんのために柴尾夫人とやりあったんだって?」「昨夜のことだ」理仁は経緯を辰巳に伝え、言い終わると彼はまたこう言った。「唯花さんは柴尾咲さんの写真を見たことがある。彼女がお前の将来の妻だってことを知っていたから、首を突っ込んだってわけさ」そして、少しだけ黙って彼はまた口を開いた。「だが、唯花さんの性格からして、彼女が誰なのか知らなかったとしても、柴尾鈴が薬を盛ったのを目撃していれば、それを止めに入っていただろうがな」このようなことを目の当たりにすれば、唯花は黙って見ていることなどできない性格だ。辰巳は不機嫌そう
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第1016話

さっき太陽が昇ったかと思えば、もう西に沈んでしまっている。そのくらい一日があっという間に過ぎる感覚だった。昼は夜に、夜は昼に、いつも気づいたら交代している。土曜日、唯花は朝早くに起きて、朝食を作った後、理仁を起こした。「なんで俺が起きて朝ごはんを用意するのを待っててくれないんだ」理仁は唯花の元へとやって来て、後ろから彼女を抱きしめた。起きてすぐ彼女がいるこの生活がとても好きだった。その日々が平凡なものであったとしても、彼はとても幸せを感じられる。喧嘩、冷戦、誤解などを経て、理仁は今この瞬間にある全てを以前よりさらに大切に思っていた。「自然と目が覚めちゃったのよ。その時、あなたはまだ寝ていたから、わざわざ起こしてまで朝食を作ってもらう必要もないでしょう。私たちのどちらが作ったって同じことなんだから」唯花は彼の懐に抱かれたまま体の向きをくるりと彼のほうへと変えて、彼を見上げた。愛情深い眼差しに、唇には笑みを浮かべていた。「おはよう、理仁さん」理仁は額を唯花にこつんと当てて、穏やかな優しい声で「おはよう、唯花さん」と返した。そして、彼は彼女の唇にキスをした。するとこの時インターフォンが鳴った。唯花は彼の体から離れて言った。「きっとお姉ちゃんだわ」もし伯母と姫華が来たのであれば、必ず電話をくれるはずだ。「俺が開けに行こう」理仁はそう言いながら玄関にドアを開けに行った。玄関の前にいたのは確かに唯月と陽の親子二人だった。「おはようございます、義姉さん」理仁は優しく唯月に声をかけた。その後陽を抱き上げて、その端正な顔をニコニコとさせ「陽君、おじさんに会いたくなったかい?」と聞いた。「うん」陽は小さな声でそう返事し、理仁の肩にもたれかかった。「陽君、どうしたんだい?どこか具合でも悪いのかな?」この日の陽は今までのように積極的な感じではなかったので、理仁は陽がどこか体調でも悪いのかと思ったのだ。そして、急いで陽の額を触って体温を確認してみたが、別に異常はないようだった。唯月は部屋に入りながら言った。「家を出る時、この子、まだ目を覚ましていなくて、無理やり起こしたものだから、まだちゃんと頭がはっきりとしていないだけなんです」理仁はそれを聞いて安心し、陽を抱っこしたまま部屋の中へと入っていった
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第1017話

唯花姉妹が神崎夫人たちと一緒に実家のある田舎へ向かっていた頃、内海じいさんは息子と二人の孫を連れて星城高校までやって来ていた。また唯花に金の話をするためだ。何日も騒ぎ続けてきたのだから、結城家が全く反応がないはずがないと彼は信じ込んでていた。もしかすると、唯花は今窮地に陥っているかもしれない。しかしそれが、星城高校前にある唯花の本屋に行ってみたが、店は閉まっていた。「なんで開いてないんだ?商売する気はあるのか。高校の前にあるんだから、8時前には開けとくべきだろうに」内海じいさんは車から降りて、店がまだ開いていないのを見ると、表情を曇らせた。そしてぶつぶつと唯花は商売ができないやつだと罵っていた。智明は周りの店を見ておじいさんに言った。「じいちゃん、今日は土曜日で学校も休みだろ。ここら辺の店は高校生が多いから商売が成り立ってるんだ。だから、生徒たちが休みなら、この周辺の店を開けたとしても大した稼ぎにならないんだろう」内海じいさん「……普段あの小娘は店を開けてるだろうが。今や結城家の若奥様だぞ、玉の輿に乗って金ならいくらでもある。こんな店の小遣いにもならない商売なんてどうでもよくなったってこった。智明、あの小娘がまだ折れないというのなら、作戦を変えて、あいつにこの店を譲ってもらい、私らで経営しようじゃないか」「じいちゃん、この店は唯花とあいつの友人が一緒に開いた店だぞ。しかもその友人がいたからこそ、この店を開くことができたんだ。あの牧野っていう奴は、市内のちょっとした金持ちなんだ。聞いたところによると、彼女の実家は多くの物件を貸し出していて、その賃料で稼いでいるらしい。あと、名家に嫁いだ金持ちのおばもいるって話だ。彼女のおじやいとこ達はみんな実力の持ち主なんだよ」だから唯花のこの本屋を奪うことなど不可能なのだ。「なんであんな死にぞこないの小娘がこんなに運がいいんだ」他人が唯花の幸運を羨んでいるのは当然のことだが、実の祖父である彼さえも唯花に嫉妬していた。それは主に、唯花が幸運であっても、その幸運はおじいさん達内海家とは全く関係なく、彼らの利益にならないからなのであった。「あいつが店を開けないってんなら、家まで探しに行けばいいんだろ?」内海じいさんは智文に尋ねた。おじいさんが一番可愛がっているのは、この二番目の孫であ
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第1018話

「もういい、唯月のところに行こう。あいつ、何の店を開くって言ってたっけ?」「弁当屋だ」「そうだった、弁当屋だ。あいつのところでタダ飯でも食べよう」唯月が店を開くと知って、内海じいさんは家の中でまた唯月を罵っていた。唯月が離婚する時、まとまった金を手に入れたというのに、二千万を孫に貸そうともしないと文句を言ったのだ。孫娘を罵り終わると、今度はもう亡くなっている自分の三男のことまで言い始めた。三男夫妻は二人の不孝者の孫娘を産んだと、おじいさんは怒っていた。内海じいさんは車へ戻り、孫たちに唯月の店で無料の食事にありつこうと急かしていた。今後、彼らが市内に来た時は、唯月の店でタダで食事をすればいいのだ。金を払わなくたって親族なのだから、唯月には彼らをどうすることもできないはずだ!内海じいさんは孫たちを連れて唯月の弁当屋へとやって来たが、その店も閉まっていたのだった。店のドアが開いていないのを見て、彼は車に乗ったまま、悪態をついた。「あの小娘二人、一体どこに行きやがったんだ。二人とも店を開けずに商売する気がないんだったら、お前らが店の経営をしたほうがいいだろうが」智明たちもこれは何かおかしいと思っていた。唯花が店を開けていないのはまだ理解できるが、唯月までもが店を開けていないとはどういうことなのだ。あの姉妹は一体どこへ行ってしまったのだ?唯花姉妹はこの時、最低な親戚たちがまた彼女たちを探しているとは知らなかった。彼女たちは一時間以上かけて、内海家のある田舎まで戻ってきた。ここまで来る途中で少し渋滞していたので、少し遅くなってしまった。遠くから、記憶に残るあの家を見た時、姉妹は昔のことに思いを馳せていた。両親がまだ生きていて、一家四人で幸せに暮らしていたあの日々を。理仁はボディーガードたちを引き連れていて、神崎夫人のほうもボディーガードを連れて来ていた。どちらも騒ぎになるのを防ぐ目的で連れて来ていたのだ。そのほうが安全だろうからだ。唯花たち家の前にはこんなに多くの車を止めるスペースはないので、車はカルチャーセンター広場にある駐車スペースに止めておいた。車を降りてすぐ、唯花は自分の祖母が罵っている声が聞こえてきた。「ここにそんなもの置くんじゃないよ、ここはうちの孫の家の前なんだ。誰があの小娘たちの家だと言った
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第1019話

「唯花さんって、財閥家の若奥様になったらしいじゃないのか。それなのに、こんな田舎の家を取り戻しに来たって?それってどうなんだ」人によっては、唯花がこんな家をまた取り戻す必要はないだろうという考えを持っていた。するとすぐに他の人が彼に反論した。「当時、彼女の祖父母があの姉妹に対してどんな扱いをしていたよ。彼女が家を取り戻しに来るのは当たり前のことだと思うけどね。なんで内海智文に便宜を図ってやる必要があるってんだい?」「智文さんは隆史(たかし)さんの跡取りになったんじゃなかったっけ?」内海隆史(うつみ たかし)は唯花の父親である。村の中でも、隆史よりも年上か同年代の人が彼の名前を覚えてた。若者世代は彼のことを知らない。彼らは内海唯花姉妹のことすら知らないのだ。内海家の人間がやってきたことはあまりに行き過ぎていた。唯花姉妹に村に帰ってくるなと言うばかりでなく、隆史夫妻のお墓も姉妹に内緒で他に移してしまったのだ。それで彼女たちが両親の墓参りをすることすらできない状況だった。前回唯花が村に戻ってきた時、内海家の者たちはいなかった。それで彼女は村人たちと話をすることができたのだった。玉置は我慢できずに口を開いた。「隆史さんと佳織(かおり)さんが生きていた頃は、あの人たちが跡取りになるだなんて話聞いたことなかったのにね。あのお二人が亡くなって、その娘さんたちを差し置いて智文さんを跡取りにするなんて。明らかにあのお二人が残した家を奪うための口実でしかないわ。だけど、跡取りになったって、口で言ってどうにかできるものかい、戸籍上きちんと養子として籍を入れたりなんてしてないんじゃないのかい?もし智文さんが本当に養子になって跡取りとして認められたってんなら、大輔さんを父親とどうして呼ぶんだ?伯父さんと呼ぶべきじゃないか」そこにいた野次馬たちは黙ってしまった。村人たちは内海じいさんとばあさんが二番目の孫である智文を可愛がっていることがわかっていた。智文が一番できた孫だと思っているのだ。たとえ一年のうち、正月にしか顔を見せないとしても、二人の年寄りは依然として智文を溺愛していた。隆史の家を占領し、使われていない土地や田畑などは智文にあげるつもりなのだ。智文には一人弟がいる。内海じいさんは彼に、唯花の実家の隣にある空地にまた小さな家を建てようと
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第1020話

内海ばあさんが反論するのを聞いて、息子のいる家庭の人たちは口を閉ざした。「この村では、息子に家の財産を相続させて、息子には老後から墓の世話までしてもらおうっていう考え方が浸透しているってのは、私もよくわかってる。だけど、うちの両親は息子はいないし、子供は私とお姉ちゃんだけよ。私たちの両親が残した財産は当然私とお姉ちゃんが相続するものでしょう。一体あなたはどこから私のお父さんとお母さんに息子を見つけて来たの?両親が亡くなった時、あいつが二人のために喪服を来てお葬式に来てくれた?跡取りにするって、つまり養子にするってことでしょう。うちの両親があいつを養子として迎える手続きなんかしてたっけ?戸籍を見ても、あいつの名前なんて載ってなかったはずよ。私は何度も役所に行って戸籍を見せてもらったわ、うちの両親が他に養子として誰かを迎えた形跡なんてなかったわよ」唯花は声を上げて内海ばあさんに対抗した。周りにいた野次馬たちは唯花の声を聞き、全員が彼女のほうへ顔を向けた。唯花が黒服の男たちに守られながら、理仁と肩を並べてやって来たのを見て、多くの人が唯花たち一行が彼女の家まで行けるように道を開け、通してやった。唯月は陽を七瀬に任せて付近で遊んでもらっていた。陽に彼女と親戚たちとの喧嘩を見せたくなかったのだ。詩乃と姫華の二人もボディーガードの軍団に囲まれる形で、唯花夫婦の後ろに続いてやって来た。詩乃はとても不機嫌そうに顔を暗くさせていた。彼女が数十年という長い時間をかけて妹の行方を探してきたが、妹は十六年も前に車の事故で帰らぬ人になっていたのだ。幸いに妹は二人の姪っ子を残してくれていた。そして唯花姉妹の姉のほうは詩乃の妹にそっくりだった。詩乃は妹にそっくりな唯月と会うことができただけでも、かなり救われていたのだった。詩乃はずっと妹が生きていた頃生活していた場所を見てみたいと思っていた。それに、墓参りをして妹と話をしたかった。しかし、二人の姪は両親の墓がどこに移されたのかわからなかったので、その願いはずっと実現できなかったのだ。詩乃も姪たちに、全力で二人の両親が残した財産を取り戻してみせると約束していた。そして今、内海ばあさんの話を聞いて、詩乃は怒りで顔を真っ赤にさせていた。詩乃の妹とその夫が苦労して建てた家が、あの内海家の
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