All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 1361 - Chapter 1370

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第1361話

「東社長?」隼翔が瞬きもせずに唯月をじっと見つめて動かないので、唯月はおかしく思って彼に一声かけた。隼翔はその瞬間ハッとして、笑って言った。「きっと毎日君に会っていたから、何も考えてなかったんだろうけど、さっき君が以前よりかなり痩せて、とても綺麗になったと気づいたよ。樋口嬢にも負けないくらいだね」そう言い終わると、隼翔は呆けてしまった。どうして唯月と琴音を比較に出したのだろうか?唯月は笑って言った。「お褒めいただきありがとうございます。私は普通です。樋口さんが美人な方ですよ」「内海さん、樋口嬢は……俺の母さんの親友の娘さんで、星城へは出張で来られたんだ。今うちに泊まっていて、母さんもまるで娘を可愛がるように大事にしてるんだ。君も知っての通り、うちは兄弟四人で、母さんには娘がいないからな。女の子のことがとても好きなんだよ。理仁のおばあ様もひ孫に女の子が生まれるのを期待しているように、うちの母さんも女の子が好きでね、あの二人は同じなんだ。樋口さんは俺よりも少し年下で、小さい頃に一度会ったことがあるらしいが、俺は全く覚えていなかった。彼女がお客としてうちに泊まっているから、たまに俺も彼女に付き合って出かけるくらいで、いや、別に俺は彼女に付き合っているわけでなくて、母さんに付き合ってパーティーに参加したんだ。母さんが彼女を連れて来たから、俺と彼女が一緒に踊る羽目になっただけで」隼翔は思わず自分が昨晩、琴音と一緒にいて何があったのか全て口に出した。彼は唯月に、彼と琴音がカップルであると誤解されたくなかったのだ。実際、唯月は隼翔と琴音が一緒にパーティーに来ていたことなど知らなかったし、二人がダンスを踊ったことも全く知らなかった。唯花はこの件を姉に伝えていなかった。そんな暇もなかったのだ。唯花は目を覚ますと、姉からたくさんお酒を飲んだだろうと責められたのだ。そして姉は下に降りていったので、姉にパーティーで起きたことなど話すような時間はなかった。隼翔の話を聞いて、唯月は笑って言った。「東夫人は樋口さんのことをとても気に入っていらっしゃるみたいですね。東社長、話を聞いていたら、あなたと樋口さんはとってもお似合いだと思いますよ。あなた達がもっと一緒にいる時間を増やしてみたらどうでしょう。樋口さんはとても気さくで、大らかな女性です。それ
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第1362話

隼翔「……君は本気で俺と樋口嬢がお似合いだと思うのか?彼女が俺の身分や地位だけを見て言い寄ってきているとは思わないか?」「樋口さんのおうちも会社を経営されているんですよね。彼女もその会社の副社長ですよ。お金には困っていないでしょう?東社長には身分も地位もありますけど、それは彼女も同じことです。だから彼女がただ社長の身分だけを見てアプローチしてきているとは思えません。あなた達二人が一緒になれば、最強のカップルになると思いますけど」唯月はまるで変なものでも見るかのように隼翔を見ていた。まさか彼がそんなことを彼女に聞いてくるとは思っていなかったのだ。東夫人はあんなにプライドの高い人だ。人に対する要求も高くそう簡単に他人を認めないだろう。そんな夫人が気に入った女性なら、絶対に優秀な人であるに決まっている。「俺が言いたいのは、樋口嬢が今まで出会ってきた男の中で、恐らく俺の条件が一番良かったから、俺と結婚したいと思うようになっただけで、別に本気で俺のことを好きなわけじゃないってことだ。俺の顔に残る傷を彼女が嫌だと思わないだろうか、怖くないと?」唯月は彼の顔を見つめて笑って言った。「社長が樋口さんを好きになれば、彼女がその話をする前に、あなた自ら喜んでトコトコ傷を消すための治療に駆けて行くはずです」隼翔「……内海さん、トコトコ駆けて行くとか、そういう表現しないでもらえるかな?なんだか俺がペンギンにでもなったような言いっぷりじゃないか」それを聞いて唯月はぶはっと笑い出した。唯月は隼翔は愛というものには鈍感なのか、それとも女性に対して警戒心にしかないのかと思っていた。樋口琴音のようなお嬢様で、プライドの高い強い女性に対しても、何か邪な考えでもあるのではないかと疑っているのだ。きっとこのように彼は女性に対してあまりにも警戒心が高いから、今に至るまで独身でいるのだろう。金持ちの考えというのは、一般人にはどうにも理解できないものだ。「ママ、あずまおじたん」陽がこの時、自転車に乗ってやってきた。彼は自転車をこぎながら、二人を呼んでいた。自転車の前に挿してある風車は勢いよく回っていて、陽は楽しさのあまり片手を伸ばしてその風車を手に取ろうとした。それが陽が手を離した瞬間に、自転車がバランスを崩して倒れてしまい、乗っていた陽は草むらの中に放り出さ
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第1363話

この時、理仁の車が屋敷の敷地内に入ってきた。すると、車の中からでも陽の泣き声が聞こえてきた。彼は車を駐車すると、降りてきて大股で唯花のほうへやって来た。唯花は姉と一緒に泣いている陽をあやしているところだった。理仁が帰ってきたのを見ると、陽に言った。「陽ちゃん、理仁おじちゃんが帰ってきたよ。おじちゃんとってもすごいのよ、自転車の修理ができるの」隼翔は自転車をいじりながら、唯花がそう言った後「陽君、理仁おじちゃんの手を借りるまでもないぞ。俺が君の自転車を直してやるからな」と返した。自転車が倒れて壊れた箇所も大したことはなかったので、簡単に直すことができる。理仁が近寄ってくると、陽はサッと彼のようへ両手を伸ばして抱っこをせがんだ。理仁に抱きかかえられた後、彼は泣きながら尋ねた。「おじたん、ぼくのじてんしゃ壊れちゃったんだ。しゅうりできるの?」理仁は唯花のほうを向いてティッシュが欲しいと合図した。唯花はティッシュを取り出して彼に渡した。理仁は陽の涙を拭いてあげながら、優しい声で言った。「東おじさんがもう直してくれているから、安心して、すぐ元に戻るよ。ちょっと歪んだだけなんだ。泣かないで、陽君は強い子なんだから、ちょっとしたことなら、そんなふうに泣いちゃだめだぞ。男はな、血を流しても涙はぐっと堪えるんだ、わかったかな」陽はすすり泣きしながら「だけど、悲しくって泣きたくなったらどうするの?」理仁は穏やかに彼に尋ねた。「陽君はどうして悲しいのかな?自転車が誰かに壊されちゃったの?」「違うよ、ぼくが手をはなしたから、たおれちゃったの」「じゃ、自分がやったことなんだよね、どうして悲しむ必要がある?こうやったら自転車が倒れてしまうってことをしっかり覚えておいたらいいんだ。そうすれば、今後、同じような間違いをしないで済むだろう?自転車はそこまでひどく壊れていないし、俺たち大人が修理してあげられるよ。もし本当にぼろぼろになって大人でも修理できなくなったとしても、泣く必要はないよ。俺たちが修理できなくても、自転車屋さんが修理できるんだ。プロの腕はすごいんだから、陽君の自転車を直せるんだよ。そんな彼らでも直せないんだったら、また新しいのを買えばいいんだから、泣かないんだよ。何か困ったことがあった時は、泣くんじゃなくて、まずはどうやってその
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第1364話

「もし陽君が武道を学んだら、自転車に乗るのももっと上手になるんだぞ。習ってみたいかな?」「みたい」理仁は陽を抱きかかえて、近くに立っていた黒服の男のほうへと歩いていき、歩きながら陽に言った。「陽君、おじさんが君に武道を教えてくれる先生を連れて来たんだよ。しっかり先生の話を聞いて、真面目に学ぶんだぞ」この時、その場にいた全員がその知らない男の存在に気づいた。唯花は姉に言った。「理仁さんが陽ちゃんに武道の先生を呼んできて、教えてもらうって言ってたでしょ。体も鍛えられるし、自分のことも守れるようになるわ」「そんなに気を配ってもらっちゃって」唯月はそれにとても感謝していた。この間、動物園で危うく誘拐事件に巻き込まれそうになり、理仁が提案していたのだ。唯月も男の子は護身術など身に着けておいたほうがいいと思っていた。隼翔はそこへ口を挟んだ。「陽君が武道を学びたいのなら、俺に言ってくれれば、教えてあげたのに」「東社長は仕事がとても忙しい人なのに、そんなこと頼めるわけありません」唯月は隼翔に息子の武道の先生をしてもらっては、一体いくらかかるのかと思っていた。彼女は今稼ぎはあるが、隼翔にお願いできるほどのお金はない。理仁が今日武術指導として連れてきたのは、彼ら兄弟たちに教えてくれていた先生の息子にあたる。理仁たちの先生ほどではないが、陽に教えるのであれば問題はないのだった。隼翔は確かに自分の仕事は忙しいと思い、笑うだけで、何も言わなかった。「義姉さん、こちらは南雲(なぐも)先生と言って、以前、俺たち兄弟を指導してくれていた先生の息子さんです。武術の達人で、今はいくつかの道場を開いているんです。多くの人が彼のもとで学んでいるんですよ」理仁は義姉に南雲を紹介した。唯月は急いで南雲に挨拶をした。南雲は隼翔とそう変わらない年齢のようで、端正な顔に高身長で、見た感じとても怖そうな印象を与えるが、唯月が挨拶をしてくると彼はニコリと笑顔になった。「みなさん、はじめまして」そして理仁は陽を下におろした。南雲は身を屈めて、陽をじっと見つめた。そしてまた彼の手や足腰を触って確認し、理仁に言った。「結城社長、彼の体質は一般的ですが、まだ小さいですから十数年しっかり学んでいけば、同時に十人の不良どもを相手にするくらいなら問題ないでしょう
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第1365話

唯月は急いで陽に南雲に挨拶するように言った。「なぐもせんせい、はじめまして」陽が幼い可愛らしい声で南雲に挨拶をすると、彼は笑ってそれに返事した。この子は武術を学ぶ素質は普通であるが、とても可愛らしい。南雲の陽に対する第一印象はとてもよかった。「南雲先生、どうぞ中にお上がりください」理仁と唯花は一緒に南雲を家の中に招いた。唯月は陽の手を繋いで隼翔と一緒に歩いていった。「内海さん、午後は車を受け取りに行くんだろう」隼翔は自然な流れでそう聞いたように見えた。「ええ、そうです」車を受け取りに行く話になると、唯月は満面の笑顔になった。彼女が買ったのは高級車ではないが、彼女にとって人生で初めての自分の車なのだ。それで彼女はとても喜んでいた。「俺は午後も何もないから、一緒に車の受け取りに行こう」しかし、それは唯月に断られてしまった。「東社長、その必要はありませんよ。車の受け取りなんて簡単なことですから。車に乗って帰ってくるだけです。唯花が一緒に来てくれますので」隼翔は笑った。「てっきり君一人で行くかと思っていたけど、妹さんが付き添うんだな。だったら、俺は遠慮しておこう。初めて車の運転をするなら安全に注意するんだぞ。だけど、変に緊張する必要はない、慣れれば問題ないだろう」「かなり昔に免許を取ったんです。以前は会社で働いている時に、会社専用の車を使っていて、腕はなかなかのものなんですよ」隼翔はそれ以上、別の何を話していいかわからなかった。彼らが家に入って座ったばかりの時に、インターフォンが鳴った。そしてすぐに、使用人が入って来て唯花の前に来ると恭しくこう言った。「若奥様、樋口様というお方がお会いしたいとこちらにお越しです」樋口様?唯花はすぐに樋口琴音のことを思い浮かべた。そして彼女は隼翔のほうをちらりと見た。隼翔は唯花の視線を感じて、反射的にこう言った。「内海さん、彼女は君に用があって来たんだろう、俺をそんなふうに見てどうかしたのか?」唯花は笑って言った。「別に何か変な意味じゃないんです」唯花は使用人に言った。「樋口さんをお通ししてください」その使用人は恭しく応えると、体の向きを変えて出て行った。そしてすぐに琴音が入ってきた。使用人は彼女の後ろについて、何かを手に提げていた。
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第1366話

唯月が隼翔に興味を持っていないというのなら、これからは琴音自身の実力によるのだ。この時、使用人がお茶を持ってやってきた。琴音はそのお茶の入ったコップを受け取ると、優雅な礼儀作法になれた手つきで口にした。唯花は琴音が持って来てくれたお菓子の箱を開けて、中から取り出し一口食べてみると、その味はなかなかのもので、みんなにも勧めた。理仁は甘い物が苦手だ。唯花が作った物以外は食べようとしない。彼女以外の人間なら、そんな彼に甘い物を食べさせるような力はない。隼翔も甘い物が好きではない。しかし、彼は普通相手のことを考慮して少し食べてみるのだった。彼は琴音の作ったお菓子を口にしてみると、甘さはちょうどよくそんなに嫌な感じはしなかったので、もう一つ食べていた。琴音は彼が連続でお菓子を二つも食べてくれたのを見て、その笑みを深くさせた。琴音は今回唯花に会いにきたと言っていたが、実はここにいるみんなは南雲と陽を除いて、彼女が隼翔目当てに来たことがわかっていたのだった。しかし、琴音が主に唯花と友好関係を深めたいと思っていることは、唯花自身にも感じ取ることができた。理仁と隼翔は親友同士であり、琴音は隼翔のことが好きなのだ。もし彼女が隼翔にアピールして見事恋人同士になれれば、頻繁に顔を合わすことになるだろう。唯花の琴音に対する態度もとても良くしていた。伯母から、この上流社会というものをあまり軽く見ないほうがいいと言われている。この社交界で多くの情報を聞き出すことができれば、多くのビジネスへと繋がるチャンスがあるのだ。彼女は結城家の若奥様という立場だから、わざわざ誰かのご機嫌を取りに行く必要はないが、できるかぎり誰かを怒らせるような真似はしないほうがいい。付き合いができそうな相手とは深く関わるようにし、そうする価値のない相手に対してなら、できるだけ一定の距離を保っておいたほうが身のためである。唯花は今、ただ彼女一人だけの問題ではなく、結城理仁、それから全結城家の責任も背負っているのだ。唯花が心に留めている事は、結城家の栄誉をもたらすことができない場合は、足を引っ張るような真似だけはしない、ということである。「若旦那様、若奥様、お食事のご用意ができました」吉田が穏やかな声でそう伝えてきた。夫婦二人はもちろんその場にいるみんなを食事に
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第1367話

「乗馬をしてみたい?」理仁は車を運転しながらそう尋ねた。彼は妻とデートをすると決めていたので、運転手は断り、自分で運転することにしたのだ。ボディーガードの車は距離を置いて後ろから付いて来た。「私馬に乗れないわよ」唯花は正直にそう答えた。理仁は笑った。「俺が教えてあげるよ。今のこの気温はちょうどいい、寒くも暑くもないから、乗馬に適してるんだよ。うちの乗馬場へ連れて行ってあげよう」「あなたのおうちって、牧場まであるのね」「俺の家は君の家でもあるだろう、そんなふうに距離があるような言い方しないでよ。俺たちの家には乗馬場があって、たくさんの馬を育てているよ。乗馬が趣味の人が、よくうちに乗馬しに来るんだ」その乗馬場の収入も結構ある。結城家の所有する乗馬場で馬に乗ることができる人間は、みんな金持ちばかりだ。「その乗馬場の責任者は拓真だ。あいつは馬がとっても好きなんだよ。まるで自分の命よりも大切にしてるんだぞ。拓真に乗馬場を任せたら、その経営がかなりうまくいってね、毎期の収入はかなりのものになってるよ」唯花は結城拓海といえば、笑うのが大好きなキラキラと太陽みたいな人だと覚えている。ただ肌は少し黒い。恐らく、よく乗馬場へ馬の世話をしに来ているからなのだろう。「そう言われたら、うちの乗馬場にちょっと見に行ってみたくなったわ。後で乗馬を習ってうまくいかなくても、笑わないでよね」「俺が連れていってあげるから、ゆっくり乗る練習をしたらいいよ」「わかったわ」唯花は再びあくびをして、目を閉じて言った。「理仁、ちょっと寝るから、着いたら起こしてね」「うん、ちょっと休んでて」唯花はこの時、まだぶつくさと呟いていた。「最近すぐ眠たくなるの。季節の変わり目だからかしら」彼女のその呟きを聞いて、理仁は突然車を路肩に止めた。「どうしたの?」彼が車を駐車するのに気づき、唯花は何か起きたのかと思い目を開けた。そして姿勢を正してまず外の様子を確認したが、別に何も起きてはいなかった。そして彼女はどうして彼が突然車を止めたのかわからず彼のほうへ目を向けた。「唯花、最近なんだか疲れやすくて、眠気が常に襲ってくる感じじゃない?一日寝ていてもまだ寝足りないような」唯花は少し考えてから言った。「疲れはそこまでしないけど、最近すぐ眠た
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第1368話

結果を受け取った後、唯花は自分自身今どんな気持ちなのかよくわからなかった。彼女は夫婦になり愛するようになってから結構な時間が経っているが、今に至るまで妊娠する気配はない。そしてこの日病院に来たのだから、体の検査をしてみようと思った。理仁は検査をしたいと思わなかった。彼ら夫婦は健康だし、問題などないと思っているのだ。ただ二人には子供との縁がまだ来ていないのだと思っている。「病院までせっかく来たんだし、ついでに検査をしたって別に構わないでしょ。もし何かあったらどうするの?早めに検査をしてわかったほうが、治療も早く始められるし」唯花は理仁を説得して、全面的な検査を受けさせようとした。「俺は健康そのものだよ。半年に一回は健康診断を受けてるんだから、問題ないってことは自分でよくわかってる。君だって問題ないよ。風邪だってあまり引かないじゃないか。そんな人がどうしてどこか問題があると言えるんだ。検査なんてしなくていい、ただ子供との縁がまだ来ていないだけなんだよ」理仁は唯花の手を引き、病院を離れようとした。意地でも検査をしたくないのだ。彼は固く自分は問題ないと思っている。それは唯花だって同じだ。「みんな健康そうにしてても、検査したらどこか悪いってことがあるのよ。理仁、もしかして医者嫌いなの?検査して自分に何か問題があるか怖がってる?」その瞬間、理仁の表情は暗くなった。「俺は問題ないよ、別に医者嫌いなんかじゃない。唯花、俺らは一緒になってからまだ半年しか経ってないんだ。妊娠してなくたってそれは普通のことだよ。あまり深く考えすぎないで。もし一緒にいる時間が数年から十年経ったのに妊娠しないっていうのなら、それから検査したって遅くないよ」「遅いわ。何年も経ったのに妊娠できずにそれから検査したって遅いのよ。その時にはもう私は三十過ぎだよ。もし何か問題があるとわかって何年もかけて治療するとして、それでも治らない可能性だって捨てられないわ。治療できたとしても、妊娠した頃にはもう高齢出産になっちゃうんだから。私たち病院まで来たんだから、いっそついでに検査して何がいけないの?なんだかあなたの反応を見てると、まるでしっぽを踏まれた猫みたいに過剰な反応を見せるわね。私はただ何か問題があるのなら、早めに治療して、治ったらやっと私たちの愛の結晶を持つことが
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第1369話

ボディーガードが近づいてきて、唯花を見ていた。「若奥様」唯花は深く息を吸い、できるだけ平静を保とうとしていた。「大丈夫だから」下を向いて尿検査の結果を握りしめる手を見つめ、唯花はその紙を折りたたむと、ズボンのポケットにしまい、歩き始めた。ボディーガードたちは彼女の後に続いて病院を出て、駐車場へと向かった。駐車場に着くまでボディーガードたちは心の中で、主人が車で妻を待っているのを期待していた。若旦那様はカッとなりやすい性格だ。しかし、毎回若奥様と喧嘩した時には、彼は厳しい言葉を吐くが心では彼女のことを思っていて、本気で若奥様を無視していくようなことはなかった。しかし今回、ボディーガードたちは失望した。彼らは唯花の後について、駐車場までやって来たが、そこには理仁の車の影も形もなくなっていたのだ。ただ二台のボディーガードの車がそこに止まっていただけだった。唯花は後ろを振り向いて尋ねた。「車の鍵は?」あるボディーガードが車の鍵を取り出した。唯花は手を伸ばしてその鍵を要求し、ボディーガードは少し躊躇ったが、やはりその鍵を彼女に渡したのだった。「あなた達は付いてこなくていいわ」「若奥様」ボディーガードたちは低い声でそう言った。唯花は車の鍵を開けて、ドアを開けると車に乗り込み言った。「大丈夫よ、あなた達はあの人のところに戻って」するとすぐに、唯花は車のエンジンをかけて走り去っていった。ボディーガードたちはその場に立ち尽くし、唯花が運転する彼らの車が遠ざかっていくのを見つめていた。この時、唯花はとても気分が悪かった。病院を離れると、彼女は目的もなく車を走らせた。ただ目の前の道を適当にひたすらまっすぐに走っていったのだ。空はだんだん暗くなっていった。一体どのくらいの間車を走らせていたのかわからない。かなり遠くまで走っていた。彼女は高速に乗っては、また降り、さらにまた高速に乗ってはまた降りを繰り返した。そして道を走る他の車が少なくなっていき、ようやく車を止めたのだ。道の両脇は林道で、周囲には誰も住んでいない。唯花も車を降りることはなく、ただ車の中で呆然としていた。そして暫くして、彼女は携帯を取り出して見たが、電話もメッセージも何も来ておらずとても静かなものだった。理仁は彼女に連絡をしなかった
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第1370話

「旦那様、奥様、若旦那様がお帰りです」「あの子が帰ってきてなんの用だ?」栄達はただ訝しく思い尋ねた。「唯花さんは一緒に帰ってきたのかい?」「車二台で、若旦那様が一台を運転なさっているので、もう一台はボディーガードものです。恐らく、若奥様は車にお乗りじゃないようで」栄達は「そうか」とひとこと言い、使用人に言いつけた。「キッチンに行って多めに食事を用意するよう伝えてくれないか。今帰ってきたのなら、息子も家で食べて行かせよう」それを聞いて使用人は面白いと思った。ここは若旦那様のご実家だというのに。そんな彼が家に帰ってきて、食事をするのは普通のことだろう?それなに旦那様が息子をここで食べて行けばいいというように客人扱いしているのだ。そして使用人は仕事に戻った。栄達は対面に座る愛妻に尋ねた。「逆転できそうな考えが浮かんだかな?もしないようなら、ここまでにしようか」「もうちょっと考えさせて、煩いわよ。絶対に考え出せるに決まってるでしょ。さっき、大橋さんなんて?理仁が帰ってきたの?そんな暇があるのかしら」「どうだろうね、奥さんができたらあまりここへは戻らなくなっただろう。帰ってきてもちょっとしたらすぐ帰っちゃうしな。まるで琴ヶ丘は実家じゃないみたいな感じだぞ」麗華は夫に向かって言った。「理仁はね、ずっとあなたのことをモデルに生きてきたって言ってたわ。あなたがやることを同じように真似て学んでね。カエルの子はまさにカエルね、あなた達父子はまったく同じなの」理仁の性格は亡くなったおじいさんそっくりだったと言われたことがあるが。実際、父親の遺伝が大きく、若かりし頃の栄達は理仁と全く同じなのだ。ただ今では年を取って、第一線から退いてしまったから、心穏やかに妻に付き添っていられることで、彼は温和な性格になったのである。夫婦が話している時に、理仁は庭にやって来た。この時、ボディーガードは付いていなかった。両親がチェスをしているのに気づくと、理仁は近づいてきて、母親の隣に立ち、上からじっとチェス盤をのぞいていた。「唯花さんは?」麗華が彼のほうへ顔をあげてちらりと見て尋ねた。理仁は唇を固く閉じ、何も言わなかった。「どうしたの?また喧嘩でもした?」麗華は経験があるから何かを察して尋ねた。そしてすぐに夫に言った。「
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