All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 1131 - Chapter 1140

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第1131話

唯花はお腹が空いて目を覚ました。起きた時、いつも通りに隣に手を伸ばしてみたが、あの狼男の感触はなかった。彼女が顔を傾けて横を見てみたら、隣の枕は空っぽだった。布団の中の温度もすっかり冷めていた。あの狼野郎は早く起きて出かけてしまったのだろう。唯花はこの時、まだ日が昇ったばかりだと思っていたが、携帯をとって時間を確認し、その時間に驚いて、急いで起き上がった。もうすぐ昼の十二時じゃないか!お腹が空くのも当然だ。昼まで寝続けてこの時間にようやく目が覚めたのだから、お腹が空かないほうがおかしい。理仁はどうして起こしてくれなかったのだ!唯花は慌てて着替えを掴み、浴室へと駆けこんで着替え始めた。着替え終わると、歯磨き、洗顔を済ませ、化粧はせずにそのまま携帯を持って下に急いで降りていった。階段を降りる途中で、彼女の携帯が鳴った。あの狼からの電話だ。「理仁」唯花は足を止め、彼の電話に出てすぐに低い声で不満をもらした。「どうして朝起こしてくれなかったのよ。今まで寝てたのよ、私。もう十二時じゃないの」理仁は電話の向こうでクスクスと笑っていた。「君がとっても気持ちよさそうに眠っていたからさ、起こすのが申し訳なくてね。もうちょっと寝かせておいてあげたかったんだ。君に代わって牧野さんには電話をしておいたよ。君は今日とても疲れているから午後に店に行くってね」唯花は、理仁が明凛にそのように説明すると、明凛がきっと変な妄想をしただろうと思った。しかし、彼らも昨日の夜、確かに節度なく羽目を外したわけだが。「お昼の休憩時間?」「さっき会議が終わって食事に行くところだよ。君はご飯を食べてから出かけたらいい」理仁は彼女にそう注意しておいた。彼女が食事もせずに出かけてしまうのではないかと心配したのだ。「もう昼ご飯の時間だから、もちろん食べてから出かけるつもりよ。じゃ、あなたは食事に行ってきて、私も下に降りるわ」「わかった。愛してるよ、唯花」それを聞いた唯花は笑った。「あなたからそんな甘い言葉が聞けるなんて、なんだか慣れずにムズムズしちゃうわね。私も愛してるわよ」そして、明凛が前回、悟と電話していた時の様子を見習って、彼女は携帯に向かって投げキッスをした。そして、笑って理仁に尋ねた。「私のキス。伝わった?」理仁は電話の
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第1132話

七瀬は唯花の前までやって来て足を止め、内海じいさんの毛根付き髪の毛十数本が入った透明な袋を彼女に手渡して言った。「若奥様、これは若旦那様が今朝私に取りに行くよう言いつけになったものです。持ってまいりました」「これって、私の祖父の髪の毛?」唯花はその袋を受け取って尋ねた。昨夜、彼女と理仁が話し合って出した結果が、陸を使って内海じいさんの髪の毛を抜き取ってもらい、それを持ってDNA鑑定をしに行くというものだ。「そうでございます」唯花は七瀬にお礼を言ってまた尋ねた。「陸が手伝うって言ったんです?」「彼は若奥様のことをとても怖がっているようです。若奥様の名前を出した瞬間、脅されたかのように大人しくおじいさんの髪の毛を抜きに行きましたよ」内海陸が一体どうやって内海じいさんを説得して髪の毛を抜き取ったのかは、七瀬も知るところではない。ただ、彼にとって結果だけが重要なのである。唯花は笑って言った。「あの子は若さゆえに血気盛んなだけで、そもそもの性格はそこまで悪くなっていないのよね」陸はあと二、三か月で満十八歳になる。この年齢の若者は確かに血気盛んなのだ。内海じいさんの髪の毛を手に入れて、唯花は七瀬に頼んで鑑定機関に連れていってもらい、もう一度DNA鑑定を受けた。前回、唯花と詩乃が血縁関係を調べるために鑑定に行ったので、その機関がどこにあるのかすぐわかるのだ。七瀬はまず理仁に承諾を得た後、それから唯花をそこへ送っていった。鑑定機関から出てくると、理仁の専用車の列がちょうど到着した。唯花は車から降りてくるあの背の高いスラリとした男のほうへ近づきながら話しかけた。「あなた午後暇なの、私を迎えに来る時間があるなんて。七瀬さんに送ってもらうからいいのに」理仁は唯花のほうへ数歩進み、彼女の手を取って一緒に車に乗った。そして低く落ち着いた声で「時間がある時は、妻を自分で送りたいんだよ」と言った。彼のこの俺様気質に関しては、唯花ももう何も言うことはない。彼が自分の思うように行動しても、唯花への尊重も自由もその中には含まれているから、それでいいのだ。以前のように彼女の気持ちを考えないようなことは今はもうないから。「朝、義姉さんのところへ陽君を迎えに行ったんだ」理仁はいたって普通のことをしたまで、という口調でそう言った。
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第1133話

理仁は言った。「君が、ばあちゃんから百億の祝い金をもらえると期待しているよ」唯花はこの問題について暫くの間じっくり考えてから、言った。「あなたのおうちに上の世代の何代にもわたって女の子が生まれてなかったのよね。なんだかもう神様のいたずらとしか言いようがないわね」理仁は少し黙ってから口を開いた。「そうなのかもね。祖先には女の子が生まれたこともあったらしい。だけど、大人になるまで育つことはなかったんだ。そして、その女の子が天国に旅立ってから、うちには二度と女の子が生まれることがなくなった。おばさんが蓮を妊娠する前は、いろいろ試してみたことがあるんだよ。ネットで排卵日の二日前なら酸性がどうのこうので、女の子が生まれる確率が高くなるとか見つけて、その通りにやってみたらしいけどね。蓮を妊娠した後、おばさんのお腹の形は前の男の子二人を妊娠した時とは形が違っていたって、それでみんな女の子が生まれるんだって期待していたんだ。そしてエコー検査で性別確認できるくらいの大きさになってから、病院で見てもらったら、医者が女の子だろうって判断してみんなが大喜びしたんだ」理仁はその年のことを思い返していた。「当時、俺は十何歳かになってたから、叔母さんが蓮を妊娠した時の事を今でもよく覚えているんだよ。おばに女の子が生まれるって聞いて、いとこの妹ができるってすごく楽しみにしていたんだ。しかもこっそり女の子が好きそうなおもちゃとかも色々準備していたんだよ。うちのみんなもこぞってピンク色の服やら靴やら買って帰ってきてさ、俺もピンクのスカート買ってたぞ。辰巳と奏汰は俺と年が近いから、あいつらも同じようにしてた。おばが蓮を出産するその日はちょうど土曜日で、うちの家族親戚、年寄りから若い世代まで、結城家の傍系のみんなまでたくさんの人で病院に押し寄せて、廊下も人でごった返してたんだよ。みんなお祝いの気持ちで浮足立っていて、正月よりも楽しそうにしていた。ばあちゃんの笑顔なんかもう張り裂けてしまいそうなくらいだったぞ。やっと女の子の孫が抱けると期待していたんだ。その結果、助産師さんが抱っこして出てきたその赤ちゃんはぷくぷくとした男の子だった。その時のばあちゃんの反応ときたら、その助産師の襟を掴んで他所の子供と間違えてんじゃないかと詰問し始めたんだぞ。それから、おばが女の子を妊娠してい
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第1134話

結城おばあさんは当初、理仁と唯花のことをある占い師に見てもらったと言っていたから、その人はどうだろうか?人の運勢以外のことも少しは占いでわかるのではないだろうか?しかし、内容がまた違うから、きっと結城家のこの女の子が生まれないという問題を解決する方法はないかもしれない。夫婦は女の子を産むという話題を話しているうちに、あっという間に星城高校の前の店まで戻ってきていた。理仁は唯花を店の中まで見送った。理仁も会社に戻らなければならないので、本屋には長居せず去って行った。夫婦二人が本屋に戻る間の道すがらずっと女の子を産む話題で盛り上がっていたことを思い出し、唯花は思わず笑ってしまった。「何を思い出してこっそり笑ってるのよ。なんの話なのか聞かせてちょうだい。私も楽しみたいわ」明凛がお菓子を盛ったお皿を唯花の前に置いた。「悟がこのお菓子を手配してくれたのよ。午後のお茶の時間にどうぞって」「九条さんって、本当にあなたに色々してくれて、気遣いもあって何でも言うこと聞いてくれるわよね」唯花はお菓子を一つ取って食べた。「彼ったら、お宅の結城さんから色々学んでやっているのよ。もし、結城さんの失敗から学んでいなかったら、彼だって今ごろ結城理仁二世になっていたはずよ」唯花は笑った。「理仁さんが私を騙していた件は、みんなにとって、いいお手本になったのかもね。まあ、そう考えれば、あれも悪いことばかりじゃなかったのね」明凛は彼女がこの時も上機嫌なのを見て、興味を示して尋ねた。「あなた、午前中は何をしていたの?お宅の結城さんがわざわざ電話をかけてきて、あなたが午前中は店に来られないって教えてくれたのよ。だから店のことは全部申し訳ないけど任せたいってさ、とっても優しそうだったわよ。お宅の結城さんと知り合ってから結構経つけど、今まで彼が私に今日の午前のように優しく話したことなんてなかったわ」金城琉生が唯花に片思いをしていた件で、理仁は明凛が唯花に対してとてもよくしてくれていて、琉生が唯花にアタックする後押しもしていないことは知っていた。しかし、それでも理仁は明凛のことを警戒していたのだ。それに、明凛が唯花の心の中で大切な位置を占めていることに少し嫉妬もしていた。「別に何もしてないわ。ただ昨夜彼がちょっとサプライズしてくれてあまりに感動したせいで
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第1135話

悟がよくロマンチックなことを用意してくれることに関しては、明凛は全く意外じゃなかった。悟はIQもEQも高い人間だからだ。一方理仁のほうはIQは高いが、EQは低い。悟が彼の愛のアドバイザーになっていた頃、理仁は全く理解していないとタラタラ文句を言っていたのだ。理仁が唯花のためにここまでやれるのは、容易なことではない。それで唯花はあまりに感動して理性が飛び、今日の午前中まるまる眠らないといけないほど、昨夜は疲れ果ててしまったのだった。唯花は甘い言葉を口にした。「彼が私のためにたくさん自分を変えてくれたの。私も彼のために努力しないといけないわ」夫婦は互いに努力し合い、互いに気遣いながら結婚生活を送ることで、長続きするものだ。「羨ましい。嫉妬で狂いそうだわ」「あなただって、周りからそう言われる対象じゃないの」明凛はケラケラ笑った。「それもそうね。他人から憧れる対象になるのは気持ちのいいもんだわ。悟と付き合うようになってから、すっごく幸せだもの。それに口うるさく言われることもなくなって、静かに過ごせるしね。うちの家族も二度とお見合いを手配することもなくなって、おばさんもすっかり静かになったわ」「あなたのおばさんは、今頃口元を押さえてニヤニヤ笑ってるんじゃないの。彼女はあなたを本当に名家の男性と結婚させて、幸せに暮らさせたいと思っていたものね」「名家に嫁ぐのは嫌だけど、九条家のような名家であれば、私は喜んで結婚するわよ。一生退屈することないもの。唯花、私今ね、九条家当主である弦さんに興味津々なのよ。あんなにすっごい男性は、それに見合うくらいすっごい女性じゃないと似合わないでしょ」唯花は言った。「時には別に相応しいかどうかなんて関係ないんじゃないの。弦さんがどんな女性が好みなのかが重要でしょ」「彼はきっとお目が高いに決まってるわよ。彼は悟より何歳も年上で、まだ独身よ。ねえ、こんなに優秀な男性が、恋愛も結婚もしないと思う?」「きっと彼らのような人は仕事が忙しすぎて、恋愛や結婚よりももっと重要なことをしないといけないからじゃないの」明凛は悟も息をつく暇もないくらい忙しく動き回っていることを思い、笑って言った。「彼らはきっと、私たちみたいに、運命の相手に出会うのを待っているんでしょうね」その言葉に唯花もつられて笑ってしまった。
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第1136話

明凛は悟がくれたお菓子を食べ終わった後、携帯を取り出して彼にメッセージを送った。「悟君、送ってくれたお菓子とても美味しかったわよ。大好き、愛してるわ!」悟はすぐに返事をした。「そんなに気に入ったのなら、明日また二箱そっちに送らせるよ」食いしん坊を養うのは、悟にとっては最も簡単なことである。彼女の好きなものを与えておけば、好感度がさらにアップだ。「姫華、今日は来ないわね」明凛は何気なくそう口に出した。唯花がそれに返事をした。「あの子の親友が失恋したから、慰めてあげないといけないんだって」実は、姫華は親友に付き添って慰めているのではなかった。この時、彼女は新しいあの隣人のお宅にお邪魔していたのだ。姫華は午後、出かけようと思っていたが、車を運転してお隣の屋敷の前まで来た時、門が開いていて、善がよく乗っているあの車が敷地内に止まっているのを見たのだ。ちょうど善が庭に出て立っていたから、彼女は車を停止させた。彼に挨拶をしようと思っていたところ、善のほうが彼女を屋敷に招いてきたのだ。彼女は車を善の家の前に止めて、彼の家にお邪魔することになった。この屋敷は神崎家からとても近い。姫華は以前も両親と一緒にお邪魔したことがあったから、ここの庭の景色が美しいことを知っていた。善が彼女を連れて案内している時、彼女は言った。「この庭の景色はあまり変えないほうが良さそうね。草木も花もとても綺麗に育っているわ。それをまた植え替えるとしたら、今のように大きく育つまでかなり時間がかかるでしょうし」善は微笑んでそれに返事をした。「全部新しくしようと思っていましたが、姫華さんの話を聞くと、確かにその通りですね。では、必要なところだけいじることにしましょう。僕があまり好きじゃない植物だけ除いて、好きなものを植えます」姫華は「ええ」とひとこと返した。家の間取りなどは変える必要があった。それから屋敷の門も向きを変える必要がある。善は不動産屋と相談して家相を考えていた。家相をよくする間取りのポイントを教えてもらい、どこに何を配置して、その方位の向きをどうするのかなど話し合った。吉となるように間取りを検討する予定だ。「姫華さん、僕はあまりこういうのに詳しくないんです。あなたにアドバイスをもらいたいですね。この家をリフォームするのに、どのようなスタイルにし
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第1137話

姫華はとても快く彼のお願いに応えた。「善君がここへ来る時、私に電話してね。その時、いろいろと参考になるようなことをアドバイスするわ。あなたのお家のリフォームが終わったら、きっと将来の奥さんも大満足してくれるはずよ。その時はお礼をちょっと弾んでちょうだいね」善はやはり微笑んで言った。「それはもちろんですよ」姫華は彼の微笑みを見つめ、彼の話し方はいつもこうだなと気づいた。口を開く前に笑みを浮かべる。その微笑みはまるで春の暖かい風のように、心温まるもので、彼を前にすると、安心して心の扉が開いてしまう。「わかったわ、あなたのための内装アドバイザーになりましょう」善はニコニコと微笑み、お礼を述べた。「さ、コーヒーでも飲みに行きませんか」「私、午後はコーヒーもお茶も飲まないの」善「……」善がどうしたらいいのかわからず困っている様子を見て、姫華は面白くなり笑って言った。「私は、午後コーヒーを飲まないけど、それは別に一緒にカフェに行けないって意味じゃないわ。どこのカフェにお誘いしてくださるのかしら?」「時間がある時はいつもスカイロイヤルの一階にあるカフェでコーヒーを飲みながら、音楽を聞いて心を落ち着かせているんです。もしA市でしたら、カフェ・ド・エーデに行きます。そこは義姉さんとその親友が一緒に開いたお店なんですよ。カフェ・ド・エーデの売り上げはなかなか好調で、今では二、三店舗あるんです。ですが、一番人気なのはやはり本店ですね。多くの人が義姉さんと親友の優奈(ゆうな)さん目当てなんですけどね。優奈さんは久保家の若奥様です」姫華は善から彼の兄である蒼真の恋バナを聞くのがとても好きだった。「今後時間があったらA市にお邪魔するね。そのお義姉様が開いてるカフェに行ってみたいわ。星城のルナカルドと比べてみるっていうのはどう?」善もカフェ・ルナカルドに行ったことがある。彼は少し考えてから言った。「僕の義姉さんのカフェは、もっとこう、所謂バズったカフェという感じですね。みんな義姉さんの身分やその地位に惹かれてやって来るので。ルナカルドはその静かさと安心できるところが売りなんですよね、それぞれに良いところがあります」カフェ・ルナカルドは結城おばあさんがやっているビジネスだ。善も結城グループと提携するようになって、いつの間にかそのことを知ったのだっ
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第1138話

姫華「……つまり、私のことをあなたのお守り代わりだと思ってる?」善は彼女からそう言われても、冷静にこう返した。「お守り代をお渡ししましょうか」姫華は笑って言った。「以前は桐生家についてあまり知らなかったんだけど、あなたと知り合ってから、お兄さんに桐生家についていろいろと聞いてみたことがあるの。善君って桐生家ではあまり護身術とかが得意じゃないから、出かける時には常にボディーガードをつけているんでしょう?」「ええ、僕は小さい頃太っていたんです。太っている人はあまり運動が好きではないでしょう。護身術を習っている時にいつもさぼっていて、結局兄弟たちの中で一番弱い男になってしまいました。仕方ありませんからね、ボディーガードをつけるしかないんです」彼ら桐生家の若い世代は十人いるのだが、出かける時にボディーガードをつけているのは、確かに善、ただ一人だけなのだ。他はたまに数人のボディーガードを引き連れて登場する程度だった。彼はボディガードが近くにいないと、どうも安心できなかった。姫華は車を発進させながら、言った。「私みたいにか弱い女の子だって出かける時にはボディガードをつけないのよ。ショッピングする時だけ数人連れていくの。荷物持ちのためにだけどね」「姫華さんは護身術ができますか?」「私たちのような家柄の出身者は多少なりともできるものでしょ。自己防衛のためにもね。だけど、実際にそれを使うような場面にはまだ遭遇したことないわ」姫華の星城での評判はあまりよろしくない。彼女の性格は少しお転婆で、さらに横柄さが加わり、また神崎家は星城においてかなり地位のある格式高い家柄だ。だから、そんな彼女を怒らせるような人間はいない。彼女がボディガードをつれて出かけなくとも、普通の不良たちは姫華の車を見たら、できるだけ遠く離れて近寄らないのだ。生活する上で何も危険などないから、ボディガードを連れて出かけないのだ。星城の上流社会の中では、最も派手な登場シーンをするのがあの理仁である。しかし、理仁のその目的は、ボディガードを配置することにより、自分に言い寄って来る人間をせき止めるということにある。「姫華さんは頼りになる女性ですね。今度はあなたにお願いして守っていただかなくては」それを聞いて姫華は、ぷはっと噴き出して笑った。笑いながら彼女はこう言った。「だから
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第1139話

「姫華さん、僕たちは今友達関係ですよね?」善は頭を傾けて姫華に尋ねた。姫華も彼のほうをちらりと見て、また車の運転に集中し笑って言った。「私たち、もう友達でしょ。しかもお隣さん同士」善は静かに彼女の横顔を見つめていた。彼女は元気で明るく活発な女の子だ。その活発なところこそ、彼女の最も魅力的なところだった。「じゃあ、ちょっとプライベートなことを聞いてもいいですか?」「いいけど、あなたに答えられることだったら、答えるわ。でも、答えられないものは許してね。誰だって、自分のプライベートな部分を守る権利はあるでしょ」善は笑って言った。「僕はただ、姫華さんはどんなタイプの男性が好みなのか聞きたいだけです。結城社長のような方を除いて」姫華が以前理仁のことを追いかけていたことを、もちろん善は知っている。彼と結城グループは付き合いがあり、仲の良いビジネスパートナーであるからだ。それに姫華が当初、理仁にアタックしていた時は回りの注目を集めていたのだ。それを善が知りたくないと思っていても、知ってしまうことになるくらいに。その質問に姫華は黙っていた。「姫華さん、すみません、僕はただ単純な好奇心で聞いたんです。僕はあなたがとても素敵な女性だと思っています。結城社長があなたを好きにならなかったのは、あなたの問題ではありません。ただ彼は他に好きな方に出会ってしまっただけです」善はすぐさま彼女に謝った。姫華の古傷をえぐってしまったと思ったのだ。「いいの、結城さんのことはもうかなり前に諦めたんだから。前であっても今であっても、彼とは冷静に向き合えるわ。彼だって、私に何かひどいことをしたことはないもの。彼は一度も私のことを好きになったことはない。私の気持ちを受け入れてくれたことだってない。私の気を引こうとしたことだってないんだから。私と彼は、ただ私の一方通行だっただけ。だけどね、彼を追いかけていたことが間違いだったとは思ってないの。優秀な男性なら、きっとたくさんの女の子が好きになるでしょ。それは当たり前のことだと思うわ。素敵な女の子が多くの人に追いかけられるのと同じよ。男の人が女性を追い求めるのは困難が多いだろうけど、女の子はそこまで大変じゃないのよ。だから諦めるのにそんなに時間はかからなかった。私は多くの女の子がやりたくてもできないような
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第1140話

玲凰がまたスカイロイヤルホテルに来ているのか?神崎グループ傘下にも五つ星ホテルがある。玲凰は以前顧客と商談する時にはいつも自家のホテルで行っていた。前回、ある重要顧客がスカイロイヤルに泊まっていたので、彼はここへやって来たのだ。「どうかしましたか?」善は姫華が隣に止めてある車を見つめているのに気づき、気になって尋ねた。「なんでもないの。ただ、お兄さんの車があったから気になって。この車はうちのお兄さんが運転しているものなのよ。善君、さあカフェに行きましょ。お茶したらすぐ帰るわよ。お兄さんの商談もそんなに早くは終わらないと思うし、私たち早めに切り上げれば彼に気づかれないわ」姫華はそう言うと、体の向きを変えてホテルのほうへと歩いていった。善は彼女の歩幅に合わせて、彼女と肩を並べて歩きながら尋ねた。「お兄さんに、僕たちが一緒にお茶しているのを見られると、まずいですか?」「そんなことないわ。だけど、お兄さんから誤解されたくないのよ」善は笑った。「それもそうですね」彼らはお互いに未婚者同士、一緒にお茶をしていれば、誰が見ても勘違いするだろう。心配していることは起こり得るものだ。二人がホテルの回転ドアに入ったところで、ちょうど玲凰一行と出くわしてしまった。姫華は反射的に踵を返して去ろうとした。「姫華!」この時、玲凰が低い声で一喝した。すでに彼に背を向けて前に数歩進んでいた姫華はまた体の向きを変えて、ケラケラ笑って大きな声を出した。「お兄ちゃん、偶然ね」玲凰は善を見て、強張った顔つきで妹に尋ねた。「ここに何をしに来たんだ」妹は桐生善と一緒にいるぞ。兄に見つかってしまったので、姫華も、もう隠れることはせず、正直に言った。「善君がお茶に誘ってくれたのよ。彼、普段いつもここでお茶してるんだって。だから、一緒にここでコーヒーでも飲もうと思って」玲凰はまた善のほうを見た。善は優しく微笑んで説明した。「神崎社長、うちは今内装中で、妹さんにアドバイスをいただいているんです。それに感謝して、彼女にお茶でもご馳走したかったんです。別に変な考えがあってこんなことをしているわけではありません」彼はもちろんおかしな考えなど持っていない。ただ他意はあるのだ。玲凰はそれを聞いて、その言葉をそのまま信じている様子ではなかった
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