交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています のすべてのチャプター: チャプター 1151 - チャプター 1160

1362 チャプター

第1151話

隼翔は裕福でお金には困っていないから、何か買う時には質のいいもので高いものを選ぶのは普通のことだろう。唯月は心の中で考えているそれを口には出さなかった。隼翔が買い物する時にどのようにお金を使うかなど、それは彼女とは関係ないからだ。彼女はただ隼翔のテナントを借りている人間にすぎない。「おばたん、いつになったら僕に妹ができるの?」陽は無邪気にそう尋ねた。唯花は微笑んで甥におかずを取ってあげた。「おばちゃんもわからないのよ。おばちゃんに赤ちゃんができて、もし男の子だったらどうする?」彼女は理仁と彼ら結城家にはいつも男の子しか生まれないという問題について話していた。彼ら結城家は女の子が生まれないような何かがあるのではないかと疑うほどだ。陽は少し考えてから言った。「おばちゃん、僕女の子がほしいんだ。男の子はいらないよ」「どうして男の子はほしくないの?」「男の子なら、僕とおなじでスカートがはけないでしょ」それを聞いて唯花は大笑いした。姉が相変わらず食べる量が少なく、肉を食べないのを見て唯花は姉に言った。「お姉ちゃん、毎日朝早くに起きて、夜も遅いでしょ。こんなに疲れることやってるんだから栄養のあるものを食べなきゃだめよ。ダイエットすることばかりに気を取られたらいけないわ」「夜ごはんはできるだけお肉を食べないようにしてるの。食べ終わったらジョギングもしなくちゃ。たくさん食べるなら、多めに何週か走ってこないといけなくなるわ」離婚する前と比べると、唯月はかなり痩せている。しかし、唯花のように常にモデル並みのスタイルをキープしている人と比べたら、唯月はまだとてもふくよかな体型なのだ。唯花も姉にたくさん食べるよう説得することは難しいとわかり、諦めるしかなかった。「この量にももう慣れたし、ダイエットに詳しい先生から、ダイエットメニューを教えてもらって、その通りにしっかりご飯を食べているから。毎日の運動量も十分だわ。こんなに長く続けてきて、やっとこれくらいの効果が出てきたの。今やめたら今までの努力が無駄になってしまうでしょ」唯月は羨ましそうに妹のスタイルを見て笑って言った。「お姉ちゃんは、今後は体重管理に注意していくわ。あなたみたいにモデル体型を保つようにね。また食べ過ぎて百キロ越すような太っちょにはならないわよ」彼女自身
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第1152話

理仁を見ると、陽はとても喜び彼の方へ体を傾けた。理仁は急いで手に持っていた荷物を下に置くと、陽を唯花の元から抱き上げた。唯花はしゃがんで理仁が買ってきた果物の入った二つの袋と、牛乳を持ち上げ、笑って言った。「どうして来たの?今日会食って言ってなかった?私もお姉ちゃんに果物たくさん買ってきたのよ。あなたまで買ってきたのね。しかもあなたも私と同じで二袋提げてきちゃって」理仁は陽を抱っこしたまま部屋に入っていった。「つまり、俺たちは以心伝心ってことだろう。取引先が急に用事が入って、来られなくなったんだ。今夜の予定はキャンセルになった。それで急いで義姉さんのところにご馳走を食べに来たんだよ」愛する妻は彼女の姉のところにいるとわかっていたのだ。これこそ彼女にボディガードをつける利点である。普段、唯花の予定をいちいち聞く必要もないし、彼女には自由でいてもらえる。彼が彼女がどこにいるのか知りたい時には、電話一本ですぐに彼女を見つけることができる。「義姉さん、こんばんは。お邪魔します」理仁は唯月にひとこと挨拶した。唯月は妹の夫が来たのを見て、箸を置き立ち上がって彼を迎えた。妹が何かを手に提げているのを見て、言った。「あなた達ったら、今後ここに来る時はあれこれ買って来なくていいわ。帰る時に果物が入った二袋は持って帰ってちょうだい。私と陽だけじゃ食べきれないから」「唯花さんも買ってきているとは知らなくて」理仁は優しく微笑んでいた。唯月は愛のパワーというものはすごいとため息を漏らした。この妹の夫は、初めて会った時からこの義姉である唯月に対して礼儀正しくはあったが、一向に冷たい態度だった。それが今や、頻繁に理仁の笑顔を見るようになったのだ。その顔に笑みを浮かべていない時でも、以前と比べるとかなり表情が柔らかくなっていた。堅物もいつかは柔らかさを見せるものなのだろう。「ちょうどご飯にするところだったから、手を洗ってきてくださいね。ご飯にしましょう」唯月はキッチンに入って、理仁の分の茶碗と箸を持ってきた。そして、ご馳走たちを彼の前に来るように並べた。唯花「……」理仁が来ると、姉からの優しさが半減することはよくわかっている。まるでこの時は自分が妹ではなくなってしまったかのように感じる。テーブルについて二分と経たずに、またインター
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第1153話

唯月は黙っていた。すると唯花が口を開いて言った。「あなた達、今まで陽ちゃんの世話をしたことがないのに、陽ちゃんを連れて行くって慣れなくて泣き喚くと思うわよ。陽ちゃんに会いたいなら、毎日昼間に来て一緒に遊んだらいいんじゃないの」佐々木父は厚かましくもこう言った。「唯花さん、おじさんとおばさんは以前、陽君のお世話をしたことがなかったから、今そうしてあげたいって思ってるんだよ。私たちは一日中家にいてやることもないしさ、君のお姉さんの代わりに陽君の面倒を見てあげれば、お姉さんも仕事に集中することができるじゃないか」彼は次に懐に抱いている陽に尋ねた。「陽君、おじいちゃんとおばあちゃんと一緒におうちに行きたくないかな?」それを聞いた陽は聞き返した。「ママも一緒?」佐々木父は少し戸惑ってからそれに返事をした。「ママは行かないんだよ。だけどね、おじいちゃんとおばあちゃんのおうちにはパパもいるんだ。陽君、私たちのおうちに暫く泊まらないかな?そうしたらママもそんなに疲れなくて済むんだよ」陽はもがいて下に降りると、テーブルの前まで戻り、彼の椅子に這い上がって座った。「僕ご飯たべる。ママが行かないなら、僕も行かない。僕は、ママがいいの!」佐々木家の二人「……」「二人は食事を済ませてるんでしょ。だから、食事には誘いませんから、そこのソファに座ってテレビでも見ていたらどうですか。私たちが食事を終わらせてから、また話しましょ」唯月は元義父母にそれぞれお茶を淹れて、テレビもつけてあげた。そしてテーブルに戻ると、妹とその夫と一緒に食事を続けた。佐々木父は気まずそうに笑った。「ゆっくり食べて。私らはテレビを見ているから」この二人はローテーブルの上に果物の入った袋が四つあるのに気づいた。それはきっと唯花夫婦が買って持ってきたものなのだろう。佐々木母は少し羨ましそうに小声で言った。「唯花さんは前からお姉さんにいろいろ食べ物とか買ってきていたけど、今は金持ちになって、買ってくる果物も高級なものに変わったようね」その袋に入っているのは価格の高い果物たちばかりだった。英子がこれを見たら、絶対に二、三袋もらって帰りたいと思っていただろう。以前、唯花が姉家族に果物を買ってきた時、英子もその場にいたら、彼女が帰る時には唯月が注意していないと、多く持って行かれ
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第1154話

佐々木母が言うには、もし田舎に戻ってしまったら、息子である俊介は自分のものではなくなり、あの嫁である莉奈に完全に取られてしまうというのだ。しかもあの二人はまだ結婚式も挙げていない。莉奈は彼らが住む家の内装工事が終わってから、結婚式を挙げると言っていたのだ。そうじゃないと自分のプライドが許さないのだろう。今は部屋を借りているだけだから、今すぐ結婚式を挙げれば、成瀬家が来ても泊まる部屋がないのだ。もし陽を連れて帰れるのであれば、彼らもつまらない生活から抜け出すことができ、祖父母と孫の仲を深めることもできる。彼らは自分の息子の子である陽こそ、佐々木家の正式な孫だという昔の考え方を持っている。莉奈は今に至るまでまだ妊娠していないから、本当に子供ができるかどうかも不明だ。唯月は野菜中心の食事で、すぐに食べ終わり元義父母がこそこそと何かを話しているのに気がついた。そして彼女は近寄って行き、妹夫婦が買って来た四つもある果物の袋を持ってキッチンへと向かった。数分後。彼女は大きめの皿に一種類の果物をのせて出てきた。他の種類の果物は洗っていない。家には唯花と姫華の二人が陽に買って来たおやつもある。唯月はそれをいくつか掴んでさっきの果物と一緒にローテーブルの上に置いた。それで元義父母へのもてなしとしたのだ。「唯月さん、お店の商売はうまくいっているのかい?」佐々木母は遠慮なく、その果物を取って食べながら唯月に尋ねた。「まあまあですね」「普段忙しくて陽ちゃんの面倒を見る時間がないでしょう。だから、陽ちゃんをうちに預けて面倒を見るわ。私たちは陽ちゃんの祖父母なんだから、何も心配することなんてないでしょう?私たち二人はいつも小さい子の面倒を見ていたから、絶対にちゃんとお世話できるわ。だから安心してちょうだい」唯月は淡々とした口調で言った。「佐々木さんにも言いましたけど、陽が良いと言うならお二人がこの子を連れて帰って数日泊まるくらい問題ないです。陽が嫌がるなら、無理強いしないでくださいますか。私たちが離婚してから、あなた達が陽に会いたいというのを拒否したりしたことはないでしょ。今までの状態で別にいいのではないですか?」離婚する時、唯月は確かにこの元義母たち一家とは関係を断ってしまいたかった。だが、元義母が人に聞いたり、彼女をつけた
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第1155話

唯花たち夫妻がお腹いっぱい食べた後、理仁が唯花に話しかけた。「唯花さん、陽君と一緒に座ってて、俺が食器を片付けるから」家庭内で、理仁も家事をやっている。唯花はそれにもう慣れているから、彼からそう言われて彼女は陽を抱き上げて姉の傍に座った。唯花が腰を下ろすと、三人に見つめられた。姉、姉の元義父母、その三人がじいっと彼女を直視していた。唯花は訝しんで「お姉ちゃん、どうしてみんなで私を見つめるのよ。顔にご飯粒でもついてる?」と尋ねた。彼女は自分の顔を触ってみたが、別にご飯粒などついていないじゃないか。「唯花さん、どうして結城さんに食器の片付けなんて家事をさせるの?」佐々木母が唯花を責めるようにそう言った。「男は昼間外で必死に働いて疲れているのよ。家に帰ってきたら、あなた達妻が夫のお世話をしないといけないでしょ。夫がそれで家庭の温かさを感じることで、家に喜んで帰りたいって思うのよ」この時、唯花はやっと三人に見つめらる理由を理解した。それに対して彼女は「お姉ちゃんだって、以前はそちらの息子さんのお世話をきちんとやっていたじゃないの。あいつがその家庭の温かさとやらを感じてたっけ?それとは真逆に、外に女作って、家に帰ろうとしなかったじゃないの」と言った。それを聞いて佐々木母は言葉を失った。唯花は陽を隣に座らせて、しっかりと教育するように語りだした。「陽ちゃん、これからはおじちゃんのことをよく見て学んでね。彼こそ素晴らしい男の人なのよ」彼女はまた続けて言った。「彼のおばあちゃんもね、たくさん家事を担当しなさいって言っていたのよ。家庭というものは夫婦二人で支えていくものだからね。私だって外に働きに出ているのに、どうして全ての家事を奥さんがやらないといけないのかしら?どうして奥さんが無料の家政婦になって夫と子供の世話をしてあげないといけないの?私たち夫婦はどちらも働いて、お互いに家事を担当しないといけないのよ。どちらかの一人だけを王様のようにさせては駄目なの」佐々木父と母はそれを聞いてまたずっと黙りっぱなしだった。まさかあの堂々たる結城家の長男が、皿洗いなどの家事を進んでするとは夢にも思わなかったのだ。女性から見れば、こんな唯花は本当に幸せ者で、嫉妬や羨望の対象じゃないか。暫くして、佐々木母が陽のほうへ両手を伸ば
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第1156話

佐々木父と母の二人は借りている部屋に戻り、息子の嫁がテレビを見ているのを見て不機嫌そうな顔をした。「父さん、母さん、陽は連れて帰ってこなかったのか?」俊介は立ち上がって両親を迎えに出て、息子の姿が見当たらないのでそう尋ねた。莉奈もやって来て言った。「空いている部屋はきれいに片付けて、子供部屋に作りましたよ。陽ちゃんにたくさん新しいおもちゃまで買ったのに、どうして陽ちゃんがいないんですか」莉奈はあの名も知らない女から一束の髪の毛と、あるメモ紙を受け取っていた。そしてその髪というのは莉奈の母親のもので、メモにはさっさと計画を実行しろと書かれていたのだった。陽を動物園か子供用の遊園地などの人が多いところへ連れて行かなければならない。もし、莉奈が相手の言う通りに事を進められなければ、次に送られてくるのは母親の指だと言うのだ。それを見て莉奈はとても恐怖を感じ驚いていた。それで義父母が陽を連れて戻って来ると期待していたのだが、その期待は泡となって消えた。ではあの計画をどう実行に移せばいいというのだ?佐々木父と母の二人はソファまでやって来ると腰を下ろし、母親のほうが話し始めた。「唯月は拒否をしなかったけど、陽ちゃんが嫌がるようなら連れていっては駄目だと言われたのよ。陽ちゃんは嫌がったから、無理やり連れ出すことなんてできなくてね。そりゃあ、陽ちゃんは私たちと一緒に来てくれないに決まってるわよ」俊介は両親と一緒にソファに座り、母親の話を聞いてこう言った。「だから姉ちゃんの子供だけ可愛がって面倒見るだけじゃなくて、うちの陽の世話もしろって言ったんだ。今陽は母さんたちには懐いてないんだよ」「お前がそんな口利けるのか?私たちはおじいちゃんとおばあちゃんで、一世代違うだろうが。お前のほうは父親だろう、その父親としての責任は果たしてきたかい?陽君は父親であるお前ともそこまで仲を深めていないじゃないか」佐々木父は怒りの炎を抑えて、不満を口にすることはなかったが、俊介が両親への不満をぶちまけたものだから、俊介にガツンとそう言った。すると俊介は何も言えなくなってしまった。「じゃあ、どうするの?」莉奈が尋ねた。佐々木母は莉奈のほうを向いて、不機嫌そうに言った。「どうしようもないでしょうが。これからは頻繁に陽ちゃんと一緒に遊んで仲を深め
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第1157話 

莉奈は唇を尖らせると、何も言わずに部屋に戻り大きな音を立ててドアを閉めてしまった。「莉奈、莉奈」俊介は彼女を二回呼んだ。佐々木母は息子に向かって言った。「あの子のことは構わなくていいわ。ただあなたと唯月が一緒に出かけるのが面白くないだけよ。別にあんたと唯月が二人きりになるってわけじゃなし、私たちだって一緒なのに、何を嫉妬しているのやら。そもそも自分が唯月のところからあなたを奪ってきたんじゃないの」佐々木母は今、莉奈のことを相当嫌っていた。以前の彼女は息子が他所に女を作れる魅力があると思っていたのに、今はその他所の女である莉奈が嫁になったのを嫌っているのだ。佐々木家は全員一致で、明日の昼に陽と唯月二人を迎えに行って、動物園に遊びに行くことにした。この時の天気は寒くも暑くもなく、ちょうど春の行楽日和だった。一方、唯花夫妻はというと、姉の家に暫く滞在していてから家に帰った。そして帰る途中、唯花は理仁に言った。「前、あの人たちは、口では陽ちゃんのことをとても大事にしているとか言っていたけど、肝心な時に手伝ったりしてくれることはなかったわ。陽ちゃんは私とお姉ちゃん二人で生まれてから今までずっと面倒を見てきたの。陽ちゃんの世話をしたこともないのに、今さら一緒に過ごしたいだなんて、そんなのできっこないじゃない。お姉ちゃんの産後のお世話も私がしたのよ。あの一カ月ほどは私もあまりの疲れで三キロ痩せたわ」彼女は姉のことをとても心配していて、産後一カ月ほどはできるだけ唯花が家事などほとんどこなしていたのだ。それで姉はゆっくりと産後のケアをすることができた。食事も姉の部屋に運んであげて、食器洗いも全てやっていた。姉に無理をさせて産後の体に悪い影響が出ないようにしていたのだ。その間、陽はよく泣き喚いていた。時には大泣きして夜中過ぎでもずっと寝ないこともあった。俊介は仕事があるので、別の部屋に移って寝ていたのだった。陽の叔母である唯花は姉がゆっくり休めるように、泣き喚く陽を抱っこしてあちこち歩き回ってあやしていた。陽が寝てからようやく彼女自身も休むことができた。姉は俊介に義母に来てもらって陽の面倒を見てほしいと言ったことがある。しかし、俊介は両親は恭弥の世話があって、手が空いていないし、妹の唯花がここにいて姉と甥の世話をしているから問題な
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第1158話

「あいつに何をしてるのか聞いてくれ」こんな夜にわざわざ車でここまでやって来て彼の行く手を妨害するとは、その元気を他のところに使ったらどうなんだ?七瀬は車の窓を開けてこちらにやってきた隼翔に尋ねた。「東社長、どのようなご用件でしょうか?」「理仁は車の中か?理仁、ここに暫くの間住まわせてもらえないだろうか。荷物もすでに持って来たんだ。吉田さんには決められないと、中に入れてもらえなかったんだよ。ここでお前が帰ってくるのを待つしかなかった」それを聞いた理仁は顔色を暗くさせていた。彼が長年の親友でなければ、彼は絶対に運転手に命令してアクセルを踏ませ邪魔をするあの車にぶつけてぶっ飛ばしているところだ。唯花はその会話を聞いていてとても意外だった。夫が不機嫌になりその表情に闇を宿したのを見て彼女は車の外にいる隼翔に尋ねた。「東社長、ここに暫くの間住みたいというのは、どうしてなんですか?」「あの女がずっとうちに居座って帰ろうとしない。それに俺名義の家がどこにあるのかも知っていて、俺がどこに住もうと彼女が探しに来て、本当に鬱陶しいんだ。だから荷物を持って君たち夫婦のところに来るしかなかった」隼翔の口から出てきた「あの女」というのは、他の誰でもなく、あの樋口琴音のことだ。琴音は東美乃里の心の中で息子の嫁として最適な女性だった。琴音が隼翔の顔にある傷痕も特に気にしていないので、美乃里はなにがなんでも息子と琴音をくっつけようとしているのだった。隼翔は東家の実家に帰りたくなかったし、美乃里も琴音を連れて息子名義の屋敷にもやって来るという始末だった。隼翔の持ち家はいくつもあって、母親である彼女はそれを全て知っているのだ。だから彼は逃げようにも逃げることができず、ただ理仁という盾に頼るしかなかった。そして適当に数着の服をまとめて、スーツケースを引きずり理仁のところへやって来たのだ。隼翔がいくら鈍感な男であろうと、自分がこのように理仁の家に来ては、親友夫婦の二人きりの世界を邪魔してしまうことはわかっていた。しかし、結城理仁という盾しか琴音を遠ざけられる人間などいないのだ。悟でもできない。悟にそれができるようであれば、さっさと彼のところに避難しているはずだ。悟がそれを知ればそれは光栄だねと皮肉を漏らしていることだろう。唯花は自分の
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第1159話

理仁の持ち家もたくさんある。彼ら夫婦がよく生活しているのはここ瑞雲山邸とトキワ・フラワーガーデンの二つだ。この二か所の家が会社から最も近く、出勤には便利なのだ。隼翔が遠くに住むのが嫌だというなら、厚かましくこの家に暫くの間理仁たちと一緒に住むしかない。「理仁、この飾りつけは全部お前が考えたのか?」隼翔は不機嫌そうにしている親友に尋ねた。「レイアウトも装飾も完璧だな。まるでプロポーズ現場のようだ。それに結婚式も挙げられてしまいそうなくらいだぞ。今後、お前と奥さんの結婚式を挙げる時は、このような装飾でやれば女性陣を驚かせること間違いなしだな」理仁は不機嫌そうに言った。「俺が考えたんじゃないなら、お前がやってくれたって言うのか?」「俺には無理だ。こんなに女性を喜ばせられるような考えなど思い付きやしないよ」理仁は彼を睨んでいた。「そりゃ、お前には考えられんだろうさ。お前は女性から金を巻き上げることしか知らない男だからな」隼翔「……俺がいつ女性から金を巻き上げた?」理仁はそれには何も説明してやらなかった。隼翔はとても不思議に思っていた。唯花はこの大の男二人にお茶を淹れてやり、果物を切って持って来ようとしていた。そこを理仁が妻を捕らえて自分の横に座らせ言った。「唯花、こんなやつ構う必要などない。こいつはここによく来ていたから、君よりもうちの中のことは熟知している、食べたいものがあるなら、自分で持ってくるがいい」「そうそう、俺のことは気にしないで。ここは知り尽くしているからな」隼翔も唯花にあれこれ用意して持って来てもらうのは非常に気まずい。親友の表情は、彼を見た瞬間から今に至るまで闇に包まれている。かなり濃い真っ暗闇に包まれている。「どういうわけだ?その樋口とかいう女はまだ帰らないのか?」理仁は冷たい表情で親友に尋ねた。「そうなんだよ。一体いつまでうちにいるのかわかったもんじゃない。母さんが彼女のことを相当気に入ってるらしいんだ。暇さえあれば俺に電話してきて、彼女を連れて遊びに行けだの、食事をしに行けだのうるさくてな。仕事が忙しいと理由をつけて全部断っているんだ。しかし、母さんが彼女を連れて俺の家に泊まるんだ。母親だから、追い出すわけにもいかないだろ。あの人たちが出ていかないから、俺が出てきたんだ」
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第1160話

隼翔はすまなさそうに声を出した。「理仁、本当に申し訳ない」「そう思うなら、ホテルにでも泊まりにいけ」「いや、実は申し訳ないとは思っていないんだ。別にお前んちに初めて泊まりにきたわけでもないしな。以前、俺と悟もよく泊まりに来ては酒を大いに飲んだり、遅くになりすぎて泊まったことあるだろ」理仁「……」彼は愛する妻の手を取り立ち上がって、冷ややかに言った。「マスタールームから一番遠いゲストルームに行ってくれ。早く寝ろよ」そう言い終わると、唯花を連れて上にあがっていった。部屋に戻ると、理仁は愚痴をこぼし始めた。「一体いつからこの俺があいつを守る盾になったんだ?ここはあいつの避難所か」唯花は笑って言った。「東社長もどうしようもなくて、ここに数日泊まるんでしょ。あなた達は長年の親友なんだから」「あいつは別にどうしようもなくなったわけじゃないよ。ただ俺を都合のいい盾と思ってるだけだ。あいつは何もわかっていないような言い方していたが、樋口嬢のあいつに対する気持ちはよくわかってるんだよ。そのくせ陽君には何着もの服を買って来て、お義姉さんにその服の代金をきっちり請求するという、鈍感さも兼ね備えているんだ」唯花は彼に近づいて夫を抱きしめた。彼女のほうから積極的に抱きついてきたことで理仁はご機嫌になり、愚痴を言うその声はかなり落ち着いていた。「たぶん、東社長は本当にただ陽ちゃんのことが好きなだけで、お姉ちゃんには特別な感情なんて持っていないのよ」周りはみんな色眼鏡をかけて隼翔と唯月のことを見ているのだ。「唯花、男がなんの感情もなしにある女性によくしてあげることなんてないよ。そうするのには必ず下心があるもんだ」「東社長は陽ちゃんによくしてくれてるじゃない」理仁はすでに全てを見抜いたように笑い、それ以上は説明しなかった。結城おばあさんは既に探りを入れていたのだ。隼翔は自分の気持ちに気づいていないか、もしくは気づいていないふりをしているだけだ。理仁は前者である可能性が高いと思っている。隼翔は自分が唯月によくしてあげているのは、陽のためだと本気で思っていた。彼は陽のことがとても好きなのだ。「東社長がうちのお姉ちゃんに気があったとしても、東夫人は息子さんのお嫁さんを選んでいるんでしょ。その樋口さんって子は東社長と家柄も合う
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