All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 1141 - Chapter 1150

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第1141話

姫華は兄がホテルを出て、また戻ってきているとは知らず、善とホテル一階にあるカフェにやって来た。善は姫華にジュースを注文し、自分はコーヒーを頼んだ。「今コーヒーを飲んだら、夜寝られるの?」姫華は他にいくつかのデザートも注文した。「大丈夫です。僕たちみたいに仕事量が多い人間は、コーヒーを飲まないと夜中まで持ちませんからね」彼らの仕事も細かく予定が詰まっている。毎日深夜まで仕事をすることが多い。もし、結婚という人生の一大イベントを迎えることになれば、彼はもちろん時間を絞り出して、時間のある社長に様変わりするが。「姫華」二人が少しおしゃべりをしたところで、玲凰が入ってきた。姫華と善が窓側の席に座っているのを見て、彼はそちらに向かいながら、妹の名前を呼んだ。姫華は声のしたほうを向いて、兄が向かってくるのを見ると、なんだか親にいけないことをして捕まってしまった時のような錯覚を覚えた。いや、さっきホテルの入り口で兄に遭遇した時、彼は姫華と善が一緒にお茶をするだけだと知っているはずだ。ソワソワしてどうする。そう思いながら、姫華は大らかな態度で兄のために椅子を引いてあげ、兄が座ってから尋ねた。「お兄ちゃん、何を飲む?」「神崎社長、またお会いできましたね」と善が微笑んで挨拶をした。玲凰は彼を一目ちらりと見て、妹に言った。「兄ちゃんはさっきたくさんお茶を飲んだから、今は何も飲みたくない。座ってるだけでいい」姫華はそれを聞いて、自分が注文したデザートを兄の前に差し出した。玲凰はそれらには手をつけず、彼はわざとここに座り、二人のお邪魔虫となる気だった。善は非常に優秀な男である。玲凰もそんな彼のことを高く評価していた。それにアバンダントグループとも提携を結びたいとも考えていた。しかし、善は結城グループと提携することを選んだので、玲凰と善にはそこまで深い付き合いなどなかった。もし、善が星城市の若く有能な男であれば、喜んで妹と一緒になることを認めただろう。残念なことに、善はA市の人間である。二つの都市はかなり離れた距離にあった。車であれば、高速を利用しても七、八時間はかかる道のりで、かなり遠いのだ。妹は一人しかいないので、玲凰は妹を遠くにお嫁に行かせたくなかった。この二人がまだ距離を縮める前に、妹が恋に落ちないように、裏で
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第1142話

一番重要なことは、姫華と善が気が合いそうだということだ。「僕はアバンダントグループの星城でのビジネスを任される身です。長期的に星城に滞在することになりますので、それは星城でずっと暮らすことと何も違いはありませんね。たまにA市の音濱邸へ帰りますが、その時も来客扱いですよ。母はよく、僕が音濱をホテル代わりに考えていて、数日泊まったらいなくなると言っているんです」姫華は手をテーブルの下に引っ込めて、兄を突っついていた。そして兄のほうへ近づき、小声でこう言った。「お兄ちゃん、善君にそんなプライベートな質問して失礼よ。あなた達はそこまで仲良くないでしょ」姫華と善も何度も会うようになってから、だんだんと仲良くなっていったのだ。玲凰はこの時妹を見つめていた。彼女は善のことをなんとも思っていないのか?玲凰が妹のために、善にいろいろ探りを入れていたというのに。そして姫華が結城理仁を追いかけ、最終的に心に傷を負い、さらに他人から笑い者になったことを思い出した。玲凰は心を痛めると同時に、妹が善に対して何も感じていないことを理解できた。また理仁を好きになった時のように片思いで終わるのを怖がっているのだろう。善も特に姫華のことが気になっている様子もないし、恐らく、玲凰の考えすぎだったのだろう。このように考えた後、それから玲凰は大人しくなった。この二人の男はどちらも社長である。善は結城グループと提携を結んでいて付き合いが深い。それだから、玲凰はもちろん善とはビジネスの話に話題を変えることはなかった。警戒する必要があるのだ。しかし、玲凰はそこから去ることはなかった。姫華がジュースを飲み終わり、デザートを食べ終わるまでそこにずっといた。「姫華、今日は唯花さんのところに、あの土地借用の件を話しに行かないのか?」玲凰のこれはつまり、妹にそろそろ帰るぞという合図を送ったのである。姫華は時間を確認してから言った。「今日は行かない。明日また唯花と明凛のところに行ってくる。お兄ちゃん、会社忙しくないわけ?」「忙しいに決まってるだろ」妹を守るためにここにいるだけだ。「お兄ちゃん忙しいなら、先に会社に戻ったら。私は善君を送ってくから」玲凰「……お前が送るって?」この時、善がタイミングを見て二人の会話に入ってきた。彼は笑いながら少し
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第1143話

星城高校前。数台のセダンが大通りから曲がってきて、高校の門の前に通る小道へと入ってきた。そして、高校の門から数百メートル離れたところに停車した。先頭を走るボディガードの車から一人降りてきて、後部座席のドアを開けると、冷たい声で言った。「お嬢様、星城高校に着きました」咲は黙って傍にある白杖を掴み、座席に置いていたいくつかのプレゼントを手探りで掴んだ。そのプレゼントは母親の柴尾加奈子が用意したもので、何が入っているのか、咲も知らない。加奈子が咲を花屋に迎えに来たのだった。後ろに続いていた車が加奈子の専用車だ。彼女は車の窓を下げ、ボディガードに近くに寄るよう合図を送った。ボディガードがやって来ると彼女は言った。「あの子に、降りたところから前方に三百メートル歩くと、左手にある一軒目が内海唯花の本屋だと伝えなさい」ボディガードは恭しくそれに応えた。そして再びボディガードの車の前までやって来た。咲はすでにあのプレゼントを手に取り、手探りで車から降りてそこに立っていた。最初方向がどちらなのかわからない様子でいた。彼女は一、二年、それから三年の一学期は星城高校に通っていた。しかし、卒業する前に失明してしまったせいで、特別学校に転校したのだ。転校してから、もう十年星城高校には来ていなかった。学校は拡大工事を行い、多くの新しい教室を建てたと聞いていた。星城高校は今や星城でも重点高校の一つとなっている。彼女は以前通っていた頃に、学校の正門前にはたくさんの店があったことを覚えている。その高校前に店を出すのは簡単なことではないと聞いたことがある。人脈がないと、誰でもそこに店を出せるわけではないらしい。結城理仁と結婚した唯花がそんなところに本屋を開いてもう何年も経つのだから、結城家の後ろ盾というわけではないだろう。「お嬢様、ここから本屋までの距離は三百メートルほどです。本屋は左手の一軒目です」ボディガードは加奈子から言われた言葉を咲に伝えた。「咲、私が言ったことをしっかり覚えていなさいよ。妹に代わって許してもらうのです。鈴がどんな間違いを犯したとしても、あの子はあなたの妹には変わりないのですからね!」加奈子は冷ややかに咲に注意した。加奈子夫妻は、結城グループまで赴いて理仁に面会を頼んだが、理仁は彼らに会ってくれなかったのだ。
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第1144話

加奈子はなんとか咲を生かすことに決めたが、それでも母親としての責任を完全に果たすことはできなかった。明らかに彼女自身が産んだ子だというのに、全く愛情が湧かなかったのだ。元夫が亡くなった後、咲はまだ何もわからないただの子供だった。子供が母親に甘えたくなるのは当然のことだろう。毎回咲は母親に抱っこを泣いておねだりしたが、加奈子はそれを無視していた。イライラすると、足で咲を横へ蹴ることさえあった。それを見た家政婦も非常に驚かされていた。しかし、加奈子が咲のことをどんどん嫌い、殴ろうが罵ろうが、蹴りまで入れようが、小さな子供はやはり母親に「ママ、抱っこして」と泣き叫んでいた。元夫が亡くなってからは、加奈子ももう娘を可愛がるふりなどする必要がなくなったのだから、もちろん咲を抱っこしてあげることは一度もなかった。家政婦に咲が自分の目の前に現れないよう連れて行くよう命令した。加奈子は娘のあの顔を見るのも嫌気が差したのだ。咲は両親の良い部分を受け継いでいた。彼女は父親にも母親にも似ている。しかし、加奈子はどうしても咲のことを好きにはなれなかった。家政婦は咲の世話をする時間が長くなると、彼女に対してどんどん愛情が湧いていった。柴尾夫人が突然ヒステリーを起こし、咲を蹴り殺すのではないかと心配するようになった。そして、加奈子が家にいる時はどうにか咲を説得して外で遊ぶようにし、加奈子と会う機会を避けようとしていた。そうすれば、咲が母親に抱っこをおねだりして泣き喚くことがないからだ。そしてだんだん、咲はもう母親に抱かれることを望まなくなっていった。彼女は自分の世話をしてくれる家政婦との距離を縮めていったのだ。しかし、やがて加奈子が咲とその家政婦の仲が親子のような関係になったと気づくと、その家政婦を解雇してしまった。咲は泣いて家政婦を辞めさせないでと、土下座までして懇願したが、それは全く効果がなかった。加奈子はこのように咲のことを嫌悪しているのだ。それは彼女が咲の父親のことを愛していなかったからだ。彼女が愛し、結婚したいと思っていた相手は、昔からずっと現在の夫だけだったのだ。しかし、加奈子の両親が気に入ったのは亡くなった元夫だった……愛してもいない男と結婚させられたせいで、彼女は咲という娘を可愛がることができなかったのだ。この時、咲は母親
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第1145話

咲は以前、店員に頼んで彼女の歩幅がどのくらいなのか見てもらったことがある。彼女は目が見えないので、歩幅が小さい。一メートルの距離を歩くのに四歩は必要である。三百メートルくらいだということだが、はっきりとした数字は分からないが、少なくとも千二百歩は必要だということだ。咲は心の中で黙々と自分の歩いた歩数を数えていた。とてもゆっくりとした歩調だった。加奈子も咲が歩く速度などどうでもよかった。車の窓を閉めて、加奈子は夫に電話をかけた。電話が繋がると彼女は話し始めた。「あなた、咲に内海唯花に会いに行かせたわ」柴尾社長はひとこと「そうか」と返し、また続けた。「咲にはきちんと話すんだ。そうすれば鈴のためにどうにかしてやろうという気になるだろう」「この私がやれと言ったのよ。あの子が私に逆らえることができるとでも思う?」それを聞いた柴尾社長は言葉を詰まらせ、返事のしようがなかった。「あなた、もう一度コネを使って、どうにか鈴を出してあげられないかやってみてよ。あの子、小さいころから甘やかされ続けてきたのよ、あんなところは耐えられるはずがないわ。あの子が留置所で辛い思いをしていると考えただけで、心が締め付けられるわ。全部咲のせいなのよ。咲がでしゃばらなければ、あの内海とかいう女と鈴がもめることもなかったんだもの。鈴は傷ついたから、あの内海のところに文句つけに行くことになったの。だけどちゃんと計画しなかったから、内海に隙をつかれちゃったわ。本当に咲が憎たらしいわ!どうしてまだ生きているわけ?」「加奈子」柴尾社長は電話越しにどうしようもない様子で言った。「今そんなふうに怒ってる暇などないだろう。お前が辛く、鈴に心を痛めていることはよくわかっているよ。私だってすごく辛いんだ。まずは咲がどんな結果を出してくれるか見てみようじゃないか。あの内海って小娘がどうしても起訴するつもりなら、その時またどうするか考えよう」加奈子は心に宿る憎しみをなんとか抑え込み、ひとこと「わかったわ」と返事した。「仕事に戻って。ただちょっと話したかっただけ」加奈子はそう言い終わると電話を切った。唯花はこの時、咲が来ていることなど知らなかった。しかし、彼女についている二人のボディガードは椅子を本屋の入り口に置いて座っているから、すぐに咲に気づいた。それと同時に、この
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第1146話

そしてすぐ、咲は誰かが小走りに近寄って来ている足音に気づいた。その足音からして、きっと女の人だろう。「柴尾さん」彼女は少し聞き覚えのある自分を呼ぶ声を聞いた。恐らく内海唯花だ。「柴尾さん」唯花は小走りに近寄り、腰を屈めて手を伸ばし咲を支えた。「柴尾さん、大丈夫ですか?」「大丈夫です」それは本当に内海唯花だった。咲は心の中で、さっきボディガードが言っていた言葉は確かではなかったのだろうと考えていた。もし車を降りてからの距離が三百メートルくらいであれば、唯花がこんなに早く彼女が来たことに気づきはしなかったはずだ。恐らく唯花の本屋はこの近くなのだろう。明凛は咲の白杖を拾ってあげた。それにあの咲が手に持っていたプレゼントも一緒にだ。それは健康食品二箱に、スキンケアセット二つだった。唯花は咲にどうしてここにいるのか尋ねなかった。明凛と一緒に咲を支えて店に戻り、彼女を座らせて咲が持って来たプレゼントを見つめ尋ねた。「柴尾夫人から、ここに来るように言われたんですか?」「ええ」咲は小さくそう返事した。明凛は咲に温かいお茶を淹れて持ってくると、彼女に渡した。咲はそれを受け取って明凛にお礼を述べた。「こちらは牧野明凛と言って、私の親友なんです」唯花は咲に明凛を紹介した。咲は明凛からお茶をもらう時に、その方向を確認していて、明凛がいるほうを向いて微笑み挨拶をした。「牧野さん、はじめまして」明凛は咲の綺麗で小さな顔を見つめ、こんなに可愛い女の子が目が不自由だなんて、残念だなと思っていた。咲がお茶を飲んでから、唯花は平坦な声で話し始めた。「柴尾夫人は妹の件を許してもらえと言ってあなたをここに来させたんですか?どうしてあの人、自分が来ないの?」「結城社長はうちの両親にあなたの邪魔をするなと釘を刺したらしいんです。あの人たちは結城グループまで行ったらしいですが、社長にはお会いできなかったと」咲は隠すことなくそう教えた。彼女もあの夫婦のために隠す必要もなかった。たとえあの二人が彼女の家族であってもだ。「母は、今回の件は私のせいだから、私がどうにかするべきだと言っているんです。若奥様、今回の件は確かに私のせいでもあります。私があなたを柴尾家の事情に巻き込んでしまったせいなんです。本当にすみませんでした」咲は唯
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第1147話

今回の件に関しては、唯花はすでに警察に通報している。警察が処理をすることだから、彼女も勝手に柴尾家に賠償金をいくら寄越せと要求することはないのだ。彼女の壊された車は、柴尾家が新車を弁償すると言えばそれはもちろん受け入れる。しかし、まったく同じ車しか受け付けはしない。あの車も去年の秋に購入したばかりで、まだ半年も運転していない。咲は黙って銀行カードをまたポケットの中に戻した。唯花も少し黙って、それから語気をかなり柔らかくして咲に尋ねた。「柴尾さん、私が柴尾鈴をどうしても起訴するとしたら、あなたは柴尾家でやっていけますか?」「きつく当たられるでしょうね。でも、私はあの家ではずっとそのように暮らしてきました。若奥様が鈴を起訴する、しないに関わらず、あの人たちは私には変わらずの態度ですから」咲は非常に落ち着いた様子で言った。「若奥様がしたいようになさってください。私のことを考える必要なんてありません。今回の件、どういっても私のせいであることには変わりありません。あなたが私を助けてくれて、それで鈴に目をつけられる形になりました。鈴がお金にものを言わせて人を雇いあなたの車を壊して怪我をさせようとした。これはあの子の間違いです。過ちを犯したのであれば、きちんと罰を受けるべきです。私がもし鈴に代わって許してもらおうと懇願すれば、若奥様が助けてくれたその気持ちに背くことになります。おばを除いて、もう十年も誰もこんなふうに私を助けてくれたことはありません」咲は家族たちと喧嘩し、闘うのは厭わない。だが、鈴のために唯花に起訴をしないでほしいとお願いすることだけはしたくなかった。咲の最後の言葉が、唯花の心をとても切なくさせた。咲が裕福な家庭に生まれても、それが何だというのだ?彼女の実の父親は若くして亡くなり、実の母親が継母よりも鬼の心を持つ人物で、母と娘の情など一切持ち合わせていないのだから。咲の手をぎゅっと握りしめて、唯花は言った。「咲さん、あなたとはじめて会った時からなんだか他人のようには思えなかったんです。あなたと友達になりたいわ。今後、何か私に手伝えることがあれば、遠慮せずに言ってください。私ができることであれば必ず助けますから。私にできないことなら、誰かにお願いして助けてもらいます」辰巳ときたら、本当に鳴りを潜めていて、いつまでもダラ
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第1148話

咲のおばは、かなりの腕を持つ名医が、ここ最近A市に滞在していると聞いて、その医師に咲の目を治療してもらいに行こうと考えていた。おばは、その医師本人に会えなくとも、その医師の下で学んだ者に診てもらうのでもいいだろうと言っていた。彼らは彼女にとって最後の希望となるだろう。長い間治療を受けていたことで、実は咲も少しだけぼんやりと見えてはいる。ただ、やはりはっきりと見ることはできていない。だから依然として目が見えていないのと変わらないのだった。それであっても、咲は狂うほど嬉しかったのだ。再び光を取り戻すことに、少しだけ希望を持つようになっていた。しかし、おば以外の人には、このことを誰にも知られたくなかった。どうせ彼女は今でも全く目の見えない人と同じなのだ。ぼんやりとしているし、結局は見えていないのだ。「咲さんは目が見えないのに、どうして店には他にも人がいるとわかったんですか?」咲は笑って言った。「お店に入る時に、彼らの足音が聞こえました。とても落ち着いた歩き方ですから、男性でしょう。きっと若奥様のボディガードだと推測したんです」唯花と明凛は互いに目を合わせた。目の不自由な人は、聴力が高くなると聞いたことはあるが、やはりその通りなのか。唯花はこの時二人のボディガードを呼んできて、咲がさっき言っていた通りにするよう伝えた。しかし、ボディガードの行動が荒すぎて咲を傷つけないか心配し、特にこう注意した。「見た感じ荒くきつそうな感じを見せればいいから。力加減には気をつけてちょうだい。本気で咲さんを傷つけないようにね」咲は目が不自由とはいえ、小柄でとても可愛らしい女性だ。その綺麗な顔も小顔で可愛らしさに磨きをかけている。男が彼女を見れば自然と守りたい、愛おしいという気持ちが湧いてくるはずだ。唯花は義弟である辰巳に代わって、咲を守りたくて仕方なかった。「若奥様、力加減は必ず制御いたしますのでご安心を」そしてボディガード二人は、咲を「護送」するため本屋を出た。その時には咲が持って来たあのプレゼントたちも一緒に持って出ていった。そしてすぐ、二人は咲を柴尾夫人の車の前まで送り届け、咲を地面に突き倒し、あのプレゼントを咲のすぐ横に叩きつけた。その後ボディガードの一人が冷ややかな声で「失せろ!」と吐き捨てた。一人のボディガードは多めに話し
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第1149話

「プップーッ――」その時、車のクラクションが鳴り響き、咲は急いで起き上がったが、一体どちらへ歩き出せばいいのか方向が掴めなかった。恐らくもうすぐ昼休憩の時間になるから、車の通りが多くなりクラクションが鳴り続いているのだろう。咲はもういっそ右のほうへと適当に歩き始めた。なのにまたクラクションの音が鳴り響いた。方向を間違えているのだろうか?彼女はそれに戸惑い、体の向きを変えて戻ろうとした。この時、辰巳は車から降りるしかなかった。彼は大きな歩幅でやって来ると、腕を伸ばして咲の手首を掴んだ。咲はそれに対して反射的に少し抵抗しようとしたが、辰巳から爽やかなシトラスの香水の匂いがしてくると、おとなしくなった。すると辰巳は咲を自分の車の中に押し込んだ。それに彼女の持っていたプレゼントと白杖を拾って全て車に放り込み彼女の傍に置いた。「プルプルプル……」その時、辰巳の携帯が鳴った。彼はまず他の車の通行の邪魔にならないように、車を路肩に止めた。停車させてから、義姉からの電話に出た。「義姉さん、もうすぐ着きます」「辰巳君、そうなの?あの、辰巳君、本当に申し訳ないんだけど、私もう問題は解決しちゃったから、あなたに手伝ってもらう必要はなくなったのよ。仕事に戻って大丈夫だから」辰巳「……義姉さん、もう解決したって?」「ええ、全部ね。だから、もうお仕事に戻ってちょうだい」辰巳は心の中で愚痴をこぼしていた。義姉である唯花から電話をもらった時、ものすごく焦った様子で彼に今すぐ来いと命令してきたので、彼は何かあったのではないかと勘違いし、理仁にすぐさま連絡したのだ。すると理仁は義姉が辰巳に用があるなら、彼にしか解決できない問題なのだろうから、さっさと行けと言われたのだった。それで、まだ午前の仕事が終わる時間になる前に、彼は急いでここまで駆けつけてきたのだった。そして到着すると、義姉はもう必要ないと言うのだ。辰巳は家族である義姉にからかわれたのではないかという錯覚に陥った。心の内ではまだぶつくさと文句を言っているが、それを口には出さずに辰巳は言った。「義姉さん、問題がもうなくなったんなら、俺は仕事に戻りますよ」「ええ、ごめんなさいね、わざわざここまで来てもらっちゃって。夜、理仁さんに明日はあなたに半日の休日をあげるよ
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第1150話

そして夕方、高校生たちの下校時間となり、暫く忙しく店で働いてから、唯花は姉の家に食事をしに、明凛は悟とのデートに行くため早めに店を閉めてしまった。唯花は果物を二袋買ってそれを持って姉の家に行った。姉妹二人の関係は以前とは変わりなかった。唯花が結城家の若奥様という立場になったとしても、それは二人には関係なかったのだ。唯花は姉が借りているマンションの部屋の鍵を持っているので、そのままその鍵を使って玄関を開けた。中に入ると小さな女の子がいた。いや、正確に言うとそれは陽なのだ。陽はこの時綺麗なスカートをはいて、部屋の中をとても楽しそうに走り回っていた。「陽ちゃん?」唯花は中へと入って玄関のドアを閉めながら、微笑んで甥を呼んだ。「なんでスカートをはいているの?」「おばたん」陽は小走りに近寄ってきて、そのスカートを自慢し始めた。「おばたん、僕のスカート似合ってる?」唯花は果物の入った袋を二つローテーブルの上に置き、甥を抱き上げて笑って言った。「似合ってるよ。陽ちゃんがスカートをはいたら、なんだかお姫様になったみたいね。だけど、陽ちゃんは男の子だから、スカートをはかなくたっていいのよ」「知ってる、男の子は大変なおしごとをするからスカートはじゃまなんだって。女の子は力がいらないおしごとだから、スカートをはけるんだよね。男の子と女の子でちがうんだ」陽は記憶力が良く、理仁が彼に言った話を全部覚えていたのだ。この時、唯月がキッチンから出てきた。彼女はすでに夕食の支度を整えていて、妹が来たらすぐ食べられるようにしていたのだ。「陽はね、スカートを着て外には行かないんだって。家の中でちょっと着てみたいって言ったのよ。そのスカートがとっても綺麗だから」唯月は笑って言った。「この子ったら、どうしても着るって聞かないんだもの。それで着せ替えさせたの。着てみたらそれを自慢し始めちゃって、部屋の中を走り回るの。こんな小さな子でも綺麗なものを知っているのね」「明凛ちゃんは呼ばなかったの?」唯花は甥を抱きかかえたままやって来て、姉が手に持っている料理を見ると彼女が大好きな海鮮があった。「明凛は今日デートなの。あの子と九条さんは付き合い始めて一番盛り上がってる時期でしょ。あの二人がデートするから、理仁さんは遅くまで仕事をして深夜に家に帰ってくるのよ」
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