姫華は兄がホテルを出て、また戻ってきているとは知らず、善とホテル一階にあるカフェにやって来た。善は姫華にジュースを注文し、自分はコーヒーを頼んだ。「今コーヒーを飲んだら、夜寝られるの?」姫華は他にいくつかのデザートも注文した。「大丈夫です。僕たちみたいに仕事量が多い人間は、コーヒーを飲まないと夜中まで持ちませんからね」彼らの仕事も細かく予定が詰まっている。毎日深夜まで仕事をすることが多い。もし、結婚という人生の一大イベントを迎えることになれば、彼はもちろん時間を絞り出して、時間のある社長に様変わりするが。「姫華」二人が少しおしゃべりをしたところで、玲凰が入ってきた。姫華と善が窓側の席に座っているのを見て、彼はそちらに向かいながら、妹の名前を呼んだ。姫華は声のしたほうを向いて、兄が向かってくるのを見ると、なんだか親にいけないことをして捕まってしまった時のような錯覚を覚えた。いや、さっきホテルの入り口で兄に遭遇した時、彼は姫華と善が一緒にお茶をするだけだと知っているはずだ。ソワソワしてどうする。そう思いながら、姫華は大らかな態度で兄のために椅子を引いてあげ、兄が座ってから尋ねた。「お兄ちゃん、何を飲む?」「神崎社長、またお会いできましたね」と善が微笑んで挨拶をした。玲凰は彼を一目ちらりと見て、妹に言った。「兄ちゃんはさっきたくさんお茶を飲んだから、今は何も飲みたくない。座ってるだけでいい」姫華はそれを聞いて、自分が注文したデザートを兄の前に差し出した。玲凰はそれらには手をつけず、彼はわざとここに座り、二人のお邪魔虫となる気だった。善は非常に優秀な男である。玲凰もそんな彼のことを高く評価していた。それにアバンダントグループとも提携を結びたいとも考えていた。しかし、善は結城グループと提携することを選んだので、玲凰と善にはそこまで深い付き合いなどなかった。もし、善が星城市の若く有能な男であれば、喜んで妹と一緒になることを認めただろう。残念なことに、善はA市の人間である。二つの都市はかなり離れた距離にあった。車であれば、高速を利用しても七、八時間はかかる道のりで、かなり遠いのだ。妹は一人しかいないので、玲凰は妹を遠くにお嫁に行かせたくなかった。この二人がまだ距離を縮める前に、妹が恋に落ちないように、裏で
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