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第1145話

Author: リンフェイ
咲は以前、店員に頼んで彼女の歩幅がどのくらいなのか見てもらったことがある。彼女は目が見えないので、歩幅が小さい。一メートルの距離を歩くのに四歩は必要である。三百メートルくらいだということだが、はっきりとした数字は分からないが、少なくとも千二百歩は必要だということだ。

咲は心の中で黙々と自分の歩いた歩数を数えていた。とてもゆっくりとした歩調だった。

加奈子も咲が歩く速度などどうでもよかった。

車の窓を閉めて、加奈子は夫に電話をかけた。電話が繋がると彼女は話し始めた。「あなた、咲に内海唯花に会いに行かせたわ」

柴尾社長はひとこと「そうか」と返し、また続けた。「咲にはきちんと話すんだ。そうすれば鈴のためにどうにかしてやろうという気になるだろう」

「この私がやれと言ったのよ。あの子が私に逆らえることができるとでも思う?」

それを聞いた柴尾社長は言葉を詰まらせ、返事のしようがなかった。

「あなた、もう一度コネを使って、どうにか鈴を出してあげられないかやってみてよ。あの子、小さいころから甘やかされ続けてきたのよ、あんなところは耐えられるはずがないわ。あの子が留置所で辛い思いをしていると考えただけで、心が締め付けられるわ。全部咲のせいなのよ。咲がでしゃばらなければ、あの内海とかいう女と鈴がもめることもなかったんだもの。

鈴は傷ついたから、あの内海のところに文句つけに行くことになったの。だけどちゃんと計画しなかったから、内海に隙をつかれちゃったわ。本当に咲が憎たらしいわ!どうしてまだ生きているわけ?」

「加奈子」

柴尾社長は電話越しにどうしようもない様子で言った。「今そんなふうに怒ってる暇などないだろう。お前が辛く、鈴に心を痛めていることはよくわかっているよ。私だってすごく辛いんだ。まずは咲がどんな結果を出してくれるか見てみようじゃないか。あの内海って小娘がどうしても起訴するつもりなら、その時またどうするか考えよう」

加奈子は心に宿る憎しみをなんとか抑え込み、ひとこと「わかったわ」と返事した。

「仕事に戻って。ただちょっと話したかっただけ」

加奈子はそう言い終わると電話を切った。

唯花はこの時、咲が来ていることなど知らなかった。しかし、彼女についている二人のボディガードは椅子を本屋の入り口に置いて座っているから、すぐに咲に気づいた。

それと同時に、この
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