交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています のすべてのチャプター: チャプター 1251 - チャプター 1260

1358 チャプター

第1251話

「君からもらうものなら、そこらへんの草だとしても俺は嬉しいよ」唯花はからかうように言った。「今夜はあなたのお屋敷に帰るでしょう?帰ってから、裏庭に生えてる草を取ってあなたにあげることにするわ」それを聞いた理仁は愛おしそうに彼女の鼻を軽くつねった。彼女が贈るというのなら、彼も素直に喜んで受け取ろう。彼が言った言葉は本気だ。唯花が贈るものであれば彼はなんでも嬉しい。ブルームインスプリングに向かう途中で、理仁はふいに口を開いて話し始めた。「唯花、二日後、俺と一緒に小松家で行われるパーティーに参加してくれないかな。場所はスカイロイヤルなんだ」唯花は頭を彼のほうへ傾げて、笑って言った。「珍しいじゃない、結城家の理仁坊ちゃんがパーティーに参加するなんて。理仁坊ちゃんはずっとああいうところには姿を見せないって聞いていたわ。そんな坊ちゃんが参加するパーティーの主催者側は、あなた達結城家とは必ず関係が深いとか」理仁は軽く彼女の額を突っついて、彼女の言った言葉を訂正した。「今後も君を含めたうえでの結城家だよ。君は結城家の女主人になる人なんだから。今後は誰の言うことも耳に入れなくていい、何か疑問があれば直接夫である俺に聞けばいいんだからね。パーティーは小松家主催だ。小松家は星城のビジネス界での地位が他とは格別で、みんなから尊敬されている家なんだよ。彼は毎年スカイロイヤルでビジネスパーティーを開催するんだ。星城のビジネス界にいる多くの会社の社長たちが参加するんだよ。ただの交流だけでなくて、実力があってもまだまだ発展途中の中小企業に大きなビジネスチャンスをあげるためだ。小松家と俺たち結城家は昔からの関係があって、よく交流を持っている家同士だから親密な関係なんだ。小松家は星城で多くのビジネスを幅広く展開しているよ。その家の人たちはとても控えめな態度でね、結城家はその卓越した才能と実力で小松家を庇ったこともたくさんあるんだ。小松家の女主人とうちの母さんは親友だしね。去年、小松家のパーティーが開催されたのは十月だったんだ。ちょうどあの頃は俺たちが結婚手続きをした時期だろう。君と牧野さんが金城夫人に連れられてパーティーに参加したろ、覚えてるかな?あのパーティーが終わった後、君は家に帰って俺の噂話を話してくれたよね」理仁はそう言いながら唯花の耳元まで近づ
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第1252話

唯花はこの日、主に田舎の家に帰っていろいろと用を済ませていたから、まだ明凛の婚約パーティーはいつ行われるのか尋ねていなかった。しかし、理仁のほうは知っていた。彼は唯花に教えた。「牧野さんと悟の婚約パーティーなら三月二十日に決まったよ。もうすぐさ。今日はもう十日過ぎてるだろう、彼らが準備するパーティーはきっと盛大に行うはずだ。九条家の親戚や友人関係は幅広いからな」九条悟の家とそこまで仲が深くない家であっても、九条家本家の親子二人の面子を考えて、お祝いに来るはずだ。何せ、多くの人がいずれ九条家のあの莫大な情報綱に頼ることもあるだろうから。「二人の結婚式も、俺らより先さ」理仁は続けて言った。「きっとゴールデンウィークの前かその後に結婚式を挙げるだろうね。悟が婚約パーティーの後に結婚手続きに行くとか言ってたぞ。あいつ相当焦ってるな」彼と唯花は先に結婚手続きをしてあるから、結婚式を挙げる良い日取りを選んで遅くなったところで別に焦っていない。しかし、悟と明凛のほうは恋愛結婚で順を追っているわけで、悟は早くしたいと焦っているのだった。唯花はその気持ちを理解して笑っていた。夫婦はおしゃべりをしていて、すぐにブルームインスプリングに到着した。「七瀬さん、あなた達はついてこなくていいわ」唯花は七瀬にそう言いつけた。彼女と理仁の二人は車を降りて店に入ると、咲の姿はまだそこになかった。唯花は店員に夫にプレゼントすると言って花束を注文した。その間に咲を待つつもりだ。店員が唯花に頼まれた花束を作り終えると、咲が戻ってきた。「柴尾さん」唯花は彼女を呼んだ。咲は唯花の声を聞き取り、すぐにいつも通りの微笑みを見せた。「若奥様ですね。さっきバスを降りたら、店の入り口にたくさん人がいると感じ取りました。それでどうしてこんなにたくさん人がいるのかと考えていたんですよ」唯花が来たからだったのだ。きっと結城理仁も一緒にいるだろう。「他の人たちは車の中にまだいるのに、どうして彼らの存在まで感じ取れたんですか?」咲は笑って言った。「彼らのほうが私を見ていたからです。その視線に気づいたわけなんです」それを聞いて唯花も笑った。この女性は本当に周りの事に気を配っている。「本日は、花を購入されに来られたんですか?」「ええ、夫に
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第1253話

理仁がいると、周りから見れば彼は相変わらず傲慢で冷たい人間に映る。その醸し出すオーラが花屋にいる数人を居心地悪くさせていた。唯花はそれを感じ取りあまり長居をすることはなく、花束を夫にプレゼントした後、彼の手を引いて別れの挨拶をし去って行った。ブルームインスプリングから出てすぐ空は暗くなっていった。唯花は姉に電話をかけ、甥と少しの間しゃべってから電話を切った。陽は叔母との電話を終わらせると、そのまま携帯をいじりたそうにしていたが、母親が携帯を彼から離した。「ママ、僕アニメが見たい」唯月は携帯をズボンのポケットに突っ込みながら言った。「アニメが見たいなら、ママがテレビをつけてあげるから、携帯では見ちゃダメよ。テレビも三十分だけだからね」陽はその小さな唇を尖らせた。母親がこの時すでにテレビのリモコンを手に取りテレビをつけたのを見て、言われたとおりにするしかなかった。「わかった」息子にテレビをつけてあげた後、唯月はキッチンに入って店で売る餃子の餡を仕込み、後で餃子を包んだら冷蔵庫に入れておいて、翌日の朝調理することにした。この時、インターフォンが鳴った。「ママ、僕が開けてくるね」陽はインターフォンの音が聞こえると、すぐに母親にそう言い、小さな椅子を玄関まで運んでドアを開けた。唯月は陽のしたいようにさせてやった。しかし、彼女はやはりキッチンから出てきて、一体誰が来たのか確認しに行った。手にはそのまま包丁を持ったままだった。玄関のドアが開くと、その玄関先には俊介と莉奈の二人が立っていて、唯月は瞬時に表情を冷たくさせた。俊介は息子がドアを開いたのを見てとても嬉しくなり、息子を抱き上げようとした時に、元妻がギラリと冷たく光る包丁を持って息子の後ろに立っているのに気がついた。そして俊介は怯えた様子で元妻に言った。「お前、お、俺はただ陽に会いに来ただけだ。そのついでに招待状を渡そうと思って」彼らが住む家の内装は半分ほど終わっている。彼は内装業者に尋ねて、内装が終わる日を確認してから、莉奈との結婚式を挙げる日取りを決めたのだ。莉奈は待ちきれずに俊介に招待状を書かせて、一緒に唯月のところに持って行こうとせがんだのだ。俊介は元妻の心の中にはすでに彼の存在などないことがよくわかっていた。しかし、唯月が彼と莉奈の結婚式の招待
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第1254話

「東おじさんからどんなレゴをプレゼントしてもらったか、持って来てパパに見せてくれないかな。パパも組み立てられるぞ」すると陽はすぐに父親の懐からするりと床に降りて、ラックの前まで駆けて行った。そのラックはおもちゃで溢れている。陽は今までまだ完成するに至っていないレゴ箱を手に取った。俊介はそのレゴを見てから、心の中で東隼翔は狡賢い男だと愚痴をこぼした。陽は一体いくつだと思っているんだ。まだ三歳にも満たない子供なのだぞ。たとえいくら陽が賢いとしても、こんなに高度なレゴが彼に組み立てられるとでも思っているのか?隼翔はわざとここまで難易度の高いレゴブロックを陽に与えたのだ。つまり陽に組み立て方を教えるチャンスを掴んで、唯月に近づこうという魂胆なのだろう?本当に厚かましい男だ!陽を利用して唯月に近づこうとするとは!俊介は心の中で何万回と隼翔を罵っていた。唯月は俊介夫婦を座らせると、彼らに温かいお茶を入れてやってから言った。「私は忙しいから、その招待状はここにとりあえず置いておいて。当日時間があったら、陽を連れて参加するわ」こいつらは彼女がその式を壊すかもしれないと心配ではないのだろうか。彼女を結婚式に誘おうというのであれば、行ってやろうではないか。唯月は何を恐れることがある?もちろん、彼女は式に参加してもそれを台無しにしてしまうことなどない。胸にまだつっかえている者だけが、このようなシーンをぶち壊しにするだろう。しかし、唯月は今全くそのような気持ちはないのだ。逆に自分がこの佐々木俊介と離婚できたことを非常に喜ばしく思っていた。佐々木家のような家庭を成瀬莉奈が心ゆくまで楽しめばいいのだ。莉奈も実際すでに後悔していると、彼女は胸を張って言うことができる。佐々木母と英子のような義姉を前にすれば、あの二人に耐えられるような女はそうそういないはずだ。ただみんなは莉奈が浮気をした女だということを知っている。彼女が俊介と結婚しなかったとしても、良い家庭に入れることは絶対に難しい。それに莉奈はいつも自分が勝ち組のような態度で俊介と唯月の離婚を見ていたのだ。彼女がもし俊介と結婚しなかったら、勝者とは言えないだろう。「唯月さん、今何をしているの?」莉奈は笑みを作り出して唯月に尋ねた。「何か私に手伝えることがある?」「な
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第1255話

唯月は莉奈を構いたくなかった。莉奈も何か有力な情報を得ることができず、そそくさと俊介の元へ戻るしかなった。同時に唯月の借りている部屋をじろじろと見て回った。借りている部屋は大きくはないが、唯月はきちんと綺麗に整頓していて、レイアウトも心を落ち着かせる温かさがある。莉奈はそれを見て家庭を切り盛りするという意味では、唯月は自分よりも上手だと認めざるをえなかった。俊介は息子にレゴを教えてやっていた。彼は普段あまり息子と一緒に過ごす機会はなく、この時目の前に乱雑に広がる小さなレゴパーツを見て、また組み立て方の説明書に目を移すと、本当に難しいということがわかった。彼が組み立てようとしたら、きっと途中で耐えきれなくなってしまうだろう。「あなた、できそう?」莉奈が彼に尋ねた。「お前ができるなら、やるか?」俊介はこの時頭を抱えていて、妻からそう言われると、不機嫌になりそう言った。陽は顔を上げて莉奈を見て、それからまた父親のほうを見て心の奥底にあった疑問を口に出した。「パパ、このおばたんはどうしていつもパパと一緒にいるの?」その瞬間、俊介は呆けてしまった。彼が返事する前に、莉奈がわざとらしく優しい口調で言った。「陽ちゃん、私はね、あなたのパパの奥さんなのよ。だから、私のことをママって呼んだっていいのよ」「僕にはちゃんとママがいるよ。おばたんは僕のママなんかじゃない!」陽はすぐに怒って莉奈の言葉に言い返した。唯月は莉奈のそのセリフを聞いてキッチンから出てきた。「ママ」陽は立ち上がって唯月の前まで行くと、彼女の足をしっかりと抱きしめてその小さな顔を上に仰向け緊張した声で言った。「ママ、ママが僕のママでしょ。あの人は僕のママじゃないよ!」唯月は息子を抱き上げると、冷ややかな表情で莉奈に向かって言った。「成瀬さん、陽の母親は私一人で十分です。あなたが継母になる必要なんてないわ。佐々木さん、そこにいる奥さんを連れてさっさと帰ってもらえますか」俊介は少し気まずそうに元妻と息子を見ていた。莉奈は言った。「唯月さん、私は陽ちゃんの継母になる人間よ。継母だってれっきとした母親でしょう。さっきの言葉に何か間違いがあったかしら?陽ちゃんは俊介の息子よ。そして私は今や彼の妻。つまり、私たちと陽ちゃんが三人家族だって言ってもそれは当然
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第1256話

俊介がさっき陽と一緒にレゴを組み立てようとしたが、できなかった。陽はやっぱり東おじさんはすごいと思っていた。これは彼が初めて東おじさんが頭に浮かんだ瞬間だった。隼翔がもしこのことを知ったら、彼はきっと驚くほどデレデレになるだろう。俊介が陽に買ってきたおもちゃと服を唯月が見た後、息子に開けさせて遊ばせた。そして彼女は再びキッチンに戻ると明日の仕込みの続きに取りかかった。しかし、莉奈のさっきのあの態度が頭にこびりついていた。莉奈が陽を好きになることなど絶対にないはずだ。陽は彼女の息子ではないのだから。以前、佐々木家が陽に会いに来たことを知って莉奈はかなり面白くなさそうに顔を歪めていた。それがどうして最近になって莉奈は態度をガラリと変えてしまったのだろう?佐々木家が陽に会いに来るのを止めることもなく、俊介に付き添ってわざわざやってきたのだ。さらに陽のために新しい服まで買ってくるものだから、これは少しおかしいと疑わないほうが変だろう。佐々木家が再び陽の親権を争う姿勢であると言うなら、莉奈が陽との仲を深めようと思えば佐々木家が完全に親権を奪ってからそうしたところで遅くはないはずだ。それに莉奈は理仁のほうで何か動物園での誘拐事件の黒幕の手がかりが掴めたか尋ねてきた。もし、俊介がそれを尋ねてきたのであれば、唯月も変だとは思わない。俊介は良くも悪くも陽の実の父親だからだ。唯月は考えれば考えるほど莉奈のさっきの行動はおかしいと疑い始めた。そして彼女は餃子の餡を作る手を止め、きれいに手を洗ってから携帯を取り出して理仁に電話をかけた。理仁はすぐに義姉からの電話に出た。「義姉さん」理仁の声は少し緊張しているかのように低いトーンになっていた。義姉が唯花にではなく彼に直接電話をしてきたということは、きっと何か緊急の事に違いない。理仁の表情もかなり真剣で険しくなっていた。「結城さん、忙しいですか?お邪魔じゃないかしら?」「義姉さん、大丈夫です。俺は唯花さんと家に帰ってきています。今夜は接待もなかったので。ところで義姉さん、何かあったんですか?」義弟が忙しくないと分かり、唯月は自分の心にあるおかしいと思った疑問点を理仁に話した。「結城さん、なんだか成瀬莉奈の様子がどうもおかしいんです。彼女が子供を誘拐する事件を企てたと
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第1257話

電話を切った後、理仁はすぐに悟に連絡して義姉が抱えている疑問を悟に伝えた。悟は言った。「俺もさっき知らせを受けたばかりなんだ。ちょうど君に伝えようと電話をかけるところだったさ」「どんな知らせだ?」理仁は低い声で尋ねた。「陽君が誘拐されそうになったのに関係していることか?」「その通り。弦さんから教えてもらったことなんだけど、柴尾夫人は二十数年前にあるヤクザの親分を実の父親のように慕っていたと調べがついた。だけど、その男は警察に捕まり、死刑判決を受けたんだって。その親分の子分たちの中には警察の網をすり抜けて罪を免れた奴らがいるとか。一部はその行方がわかっていない。その子分たちを柴尾夫人が買収したんじゃないかと疑ってるんだ。その親分の手下たちは全員逃亡犯で、残酷で汚い手を使うような奴らだ。その数も半端なく多い。もし柴尾夫人に金で雇われて、ボディーガードとしてその身分をガラリと変えてしまえば、大企業の一つでも作れるくらいなんだ。ただ、二十数年も前のことだから、俺らがそいつらがどうなったのかを調べようにも困難だ。だから、もう少し事実確認には時間を要する。それに、二十数年経っていては、当時手下だった奴らもかなりの年になっているだろう。だけど、若い世代を育てることは問題なくできるはずだ。柴尾夫人は昔、そのヤクザのボスから実の娘として可愛がられていた人物だから、手下たちからは『姐御』として慕われていただろう。彼女がそいつらを受け入れるような度量があるなら、奴らは彼女に対してかなり忠誠心が強いはず。彼女がどんな使命を与えても喜んで遂行するだろうね」理仁は声を低くして言った。「俺たちは柴尾社長夫妻に狙いを定めていたが、お前がさっき言ったことを聞くと十中八九柴尾夫人が裏で操っていたに違いない。柴尾鈴はいまだ勾留されているし、唯花さんが裁判を起こせば、提出された証拠から柴尾鈴に実刑が下るのは間違いないな。柴尾夫人はずっと鈴って娘を溺愛していたんだろう。あの夫婦は目に入れても痛くないほど娘を大事に宝物のように思っている。それは実の息子よりもかなり深い愛情らしい。そんな可愛い娘のために、唯花さんに復讐しようとするならば、その動機は明らかだな」この時、悟が口を開いた。「俺もそう思ってるんだ。佐々木俊介のところのあの不倫相手の女……あの人もまだ怪しいぞ。柴尾
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第1258話

ほら見ろ、ちょうど今また悟に成瀬莉奈の調査を依頼したじゃないか。だから、悟の願いを聞くしかないだろう。「先に礼を言っておくよ。君は本当に部下のことをよく考えてくれてる上司だな」悟は上司をおだてる言葉を並べておいた。それを聞いて理仁は笑って言った。「わかったよ、そんなふうに言うな、俺らの仲だしな。デートに行って来いよ。毎日毎日彼女とそんなシロップ漬けのような生活を送っていたら、甘いものを摂取しすぎて糖尿病にならないように気をつけることだな」「君のほうこそ毎日甘い空気に包まれているのに、病気になんかかかってないだろう。俺たちのほうはまだ日が浅いんだから、別にそんなの怖くないね。じゃ、デートに行ってくるぞ。うちの明凛は鍋料理が好きだからな、今日は本格中華の火鍋にでも連れていってくるよ」悟はそう言いながら電話を切った。彼と明凛はよく鍋を楽しみに行っているのだった。「理仁、ドリアン食べる?」唯花はドリアンの入ったパックを開けて中から取り出し皿の上に置いた。そして、それを持って理仁のほうへやってきながらそう尋ねた。理仁はドリアンの匂いを嗅ぐと顔を歪ませるタイプの人間だ。すると彼はスックと立ち上がり、立ち去りながら話した。「唯花、俺はドリアンのその匂いが苦手なんだ。君はそっちでゆっくり味わったらいいよ」それを聞いた唯花は足を止めた。「好きじゃないの?じゃ、私が食べようっと。実際、慣れたら美味しく感じるものなのよ。私も最初はこの匂いがきつかったけど、今は好物になったわ」彼女は理仁と結婚してからドリアンを食べていなかった。それで夫がドリアン嫌いなことを知らなかったのである。「匂いがきつすぎる」ドリアンが好きな人は、これでもかというくらい病みつきになるだろうが、嫌いな人間にとってはただの異臭でしかない。唯花も彼に無理に勧めることはせず、彼から距離を取って座り、食べながら尋ねた。「さっき、お姉ちゃんが電話してきて何の用事だったの?」彼女は彼が「義姉さん」と呼んでいたのが聞こえたのだ。「義姉さん」と彼に呼ばれる人は唯花の姉以外にいないだろう。「義姉さんは成瀬莉奈が陽君の誘拐事件の犯人と知り合いなんじゃないかと疑っているみたいだよ。あの件はもしかしたら成瀬が企んだか、他の誰かと手を組んだんじゃないかってね」唯花は
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第1259話

「確かに陽は俺の子で、君は今や俺の妻だけど、あの子も君を『ママ』だなんて呼ぶわけないよ。君があんな話をしたら、みんなを不快にさせるだけだ」莉奈は彼に構わなかった。唯月が借りているあのマンションから出てくると、彼女はそのまま車に一直線に乗り込んだ。俊介も彼女に続いて車に乗った。「莉奈、ショッピングにでも連れて行こうか?」「だったら、さっさと車を出してよ」莉奈は不機嫌そうに彼に言った。「私があんな話をしたのは、全部あなたのためでしょ。あなたと佐々木家の家族は陽ちゃんを取り戻したがっているじゃないの。もし陽ちゃんの親権を奪い取ったら、彼は私たちと一緒に暮らすことになるのよ。だから私はそうなる前にあらかじめ母親という役目に慣れておきたいの」俊介は車を運転しながら言った。「確かに父さんと母さんは陽を取り戻したいと思ってるよ。最初は陽を手放すのは嫌がってたんだ。あの年だしさ、あんな感じで孫を恋しく思わないわけないだろう?だけど、俺は別に陽の親権が欲しいわけじゃないぞ」彼はまた莉奈をちらりと見た。「離婚の話になった時、君が陽の親権を放棄するように俺を説得したろ。そして今陽は唯月と一緒にいるのはとてもいいことだと思う。あいつの周りにいる人間はもう俺らとはレベルの違う世界の人たちばかりだからな。陽が彼女と一緒に生活していれば、毎日結城家に嫁いだ叔母に会うことができるし、唯花は陽のことをまるで自分の本当の子供として見ているだろう。陽には名家に嫁いだ叔母がいるんだから、その将来は約束されていると言っていい。俺は以前陽の世話なんてほとんどしてこなかったけど、あの子の父親だから、将来のことはやっぱり気にかけてるんだよ」陽を連れ戻そうと思ったら、俊介の両親の性格からいって、絶対に陽を唯月姉妹二人には近づけさせないに決まっている。そんなことになれば、唯花が甥に何か助力してあげようと思っても、絶対躊躇うだろう。そして間接的に陽の将来に影響を及ぼしてしまうことになるのだ。俊介はそのようなことはしないのだ。「莉奈、君のプレッシャーは大きすぎるんだよ。結婚式が終わってから一緒にハネムーンに行って楽しく遊ぼうよ。そうしたら、君にも子供ができるかもしれないしさ」莉奈は心が苦しくなった。彼女は別に自分が妊娠できないのではないかと心配しているわけで
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第1260話

英子は、自分がいる限り、絶対に莉奈には幸せな日々を送らせないと言っていたのだ!莉奈は英子に呼び止められて立ち止まり、振り返って冷ややかな声で言い放った。「何か用?」英子はテレビのリモコンを置き、立ち上がって莉奈のほうへ向かっていくと手に持っている多くの買い物バッグに視線を向けて尋ねた。「それ、何買ったのよ?そんなにたくさん提げちゃってさ。まったくお金を無駄使いすることしかできないんだよね。あんたと俊介は今無職でしょう、収入もないんだよ。ちょっと節約することくらいできないのか?あんたが今飲み食いしたりするのも、ここに住む家賃も、使ってる物だって全部俊介の金だろう。自分も長年働いてきたくせに、その稼いだ金を使うのは惜しんで、いっつも俊介の金ばっかり使ってさ。節約することくらい覚えなさいよ。俊介の金は空から降ってきたものだとでも思ってんのかい?」英子は莉奈に無駄使いが多いと愚痴をこぼしながら、無理やりに莉奈の手からあの買い物バッグを奪い取った。「姉ちゃん、何やってんだよ?」俊介は姉を責めるようにそう言った。英子はギロリと睨みつけ、怒って言った。「お姉ちゃんがちょっと見るだけでもだめっていうの。あんたは向こうに行ってな。この人はね、家に帰って来てこの私を見た瞬間、挨拶の一つもしなかったんだよ。これも全部あんたがこの子を甘やかしすぎてるせいなんだ。年配に対する敬意も忘れちゃって、誰も目に映ってないらしいわね。俊介、こういう女は甘やかしちゃダメなタイプなんだよ。そんなことすれば、すぐにつけ上がってしまうんだからね。あんたさ、そうやって甘やかし続けて、将来苦労するのはあんたのほうなんだよ」英子は弟を罵りながら、その袋を開けて莉奈が新しく買ってきた何着もの服を出した。まずはその服のブランドを確認し、その後さらに不機嫌そうになった。彼女はその服を持つ手をわなわなと震わせて莉奈を責めた。「あんた、今でも十九、二十歳くらいのお嬢さんのつもり?あんたはもう嫁いで既婚女性になってるんだよ。こんなに若い子が着るみたいな鮮やかな色の服を来て、一体誰に見せようと思ってるんだよ?もしかして、俊介は無職で収入がないからって、新しい金づるを引っ掛けに行こうとでも考えてるんじゃないだろうね?どのみちあんたみたいな浮気相手にしかなれない女は恥ってもんを知らないもん
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