All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 1241 - Chapter 1250

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第1241話

咲は静かに唯花の話を聞いていた。彼女の記憶力はかなり良く、唯花が一度言っただけで全てを覚えてしまった。「柴尾さん、さっき言った行き方、覚えられましたか?」唯花は心配して尋ねた。咲は優しい声で言った。「ありがとうございます、若奥様。覚えました」「じゃあ、私はこれで?」唯花はビルの最上階にいる理仁のところへ行くので、違うエレベーターに乗るのだ。「ええ、それでは失礼します。私はゆっくり歩いて行きます。結城様から誰かに連れて来てもらうのではなく、自分で来るようにと言われていますから」唯花はこのクソ義弟は何をやっているのだ、咲をいじめてどうするのだと思っていた。実は咲もそのように思っていたのであった。彼女は自分が一体いつ辰巳を怒らせるようなことをしたのか見当がつかなかった。辰巳がこのように彼女に難題を押し付け、また餌をちらつかせて誘い出したのだ。彼女の花屋は最近商売は良くも悪くもない状態だ。あの日誰かが店にある全ての薔薇の花を買い占めていったくらいで、普段花を買いに来る客はそこまで多くはない。辰巳が小松家に彼女の店を紹介してくれて、パーティー用の飾りに花を買ってくれるという話だったから、咲はそれに食いついたのだ。スカイロイヤルはとても大きいホテルだ。小松家がそこでパーティーを開催するとなれば、その招待客はどれも星城のビジネス界のトップクラスの社長たちだろう。その会場で使われる花はかなりの量になるはずだ。彼女がこの仕事を受けることができれば、この一カ月の店の稼ぎは十分なほどである。稼いだお金で店の家賃と二人のスタッフの給料が支払えるし、自分にも少しお小遣いが残るだろう。だから、辰巳が彼女のような盲目の人にとって過酷ともいえる条件を出してきても、咲はそれを受けたのだ。朝出かける時、よく辰巳に遭遇する。辰巳はいつも様々な手で彼女を車に乗せて店まで送ろうとしていた。咲は辰巳は悪い人ではないと思っていた。しかし、彼からこの日、花の注文を受けて変な要求をされたことで、咲は辰巳は一体何がしたいのかさっぱりわからなくなってしまった。彼女に嫌がらせをしたいのか?それとも他に何かあるのだろうか?「じゃ、先に失礼しますね。気をつけてください、もし行き方を忘れたら、立ち止まって誰かに聞いてみてくださいね。教えてくれますから」唯花
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第1242話

副社長はどうして目の不自由な彼女に花を配達に来させたのだろうか?と、受付は心の中でひとこと愚痴をこぼし、表情は依然として微笑みを保ちながら咲に言った。「柴尾様、お手伝いいたしましょうか?」「ありがとうございます。でも大丈夫ですから」咲はすでにエレベーターまでどのくらいの距離があるのか把握しているので、受付に面倒をかける必要はなかった。「柴尾様、もし何かありましたら、わたくしどもにお申しつけください」受付は微笑んでそう言った。彼女は咲が花束を抱えて、杖をつきながらゆっくりと進んで行くのを見ていた。咲が遠くまで行ってから、彼女はまた自分の席へと戻った。そして同僚に話しかけた。「副社長ったら、どうして目の不自由な方に花を頼んだんだろう?」「副社長って、もしかして柴尾さんに興味を持たれているとか?私たちこの会社で働いて二年経つけど、副社長が誰か女性に興味を持ったところを見たことないわよね。それに若い女の子が副社長に用があって訪ねてきたことだってないし」その受付は笑って言った。「そんなまさか。もしかしたら、副社長も柴尾さんが目が見えないって知らないのかもよ」副社長は結城家の二番目の坊ちゃんである。その身分はとても高貴なのだ。そんなお方がどうしてある目の見えない女性に興味を持つというのだ?しかし、それは副社長のプライベートなことだから、彼女たちとは関係ない。咲はエレベーターに乗ったが、中には他に誰も乗っていなかった。彼女は手探りで、エレベーターの数字のボタンを触り、その感覚に暫く頼って触り続けた後、彼女の乗ったエレベーターは直接六十六階には行かないことを確認した。そして彼女は一番最後の数字のボタンを押した。エレベーターが到着できる階の一番上まで彼女を乗せていった後、彼女は急いでエレベーターを降りた。エレベーターの前にはちょうど誰かがいた。咲は彼らに尋ね、どのエレベーターが六十六階に行けるかわかった。咲に質問された人は、彼女が自分と話すときに、顔は少し横向きになっていて白杖をついていたことから、目が不自由なのだろうと思った。それで思わず彼女の目の前で手を振ってみせ、咲が何も反応をしないのを見て、本当に目が見えていない人なのだと確信したのだった。「私と一緒に来てください、案内します」その人はとても好意的に言ってくれ
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第1243話

辰巳の秘書は、咲が花束を抱えているのを見て優しい声で言った。「しばらくお待ちいただけますか。副社長に電話して確認いたします」秘書はこの話を聞いていなかったので、まずは辰巳に確認を取らなければならない。そうしないと咲を辰巳の元へ案内できないのだ。「わかりました」咲は静かにその場に立って、秘書が内線で辰巳に確認を取るのを待っていた。そしてすぐに、秘書が咲の前までやって来て、また温和に話し始めた。「こちらへどうぞ」「ありがとうございます」咲はお礼の言葉を述べると、秘書の後に続いた。副社長オフィスの前までやって来ると、秘書は咲に代わってドアをノックした。彼は先に中に入って咲が来たことを辰巳に伝えた。「彼女に入ってきてもらって」辰巳はこの時仕事に忙しく、顔も上げずに低い声でそうひとこと返事をした。秘書は咲をオフィスの中に案内すると、出ていった。咲は秘書と辰巳が話している時、辰巳の声がどちらのほうから聞こえてくるのか耳をすませ聞いていた。そしてオフィスに入ると、そちらの方向へ向かって歩いていった。歩いている時に何か障害物があると彼女はそれを避けて歩いた。ゆっくりとした足取りだが、確実に辰巳のデスクの前までやって来たのだった。デスクの前まで来たとわかったのは、彼女が杖で前方をトントンと叩いていると、机の下にあった辰巳の足に当たったからだ。彼女はそれで急いで杖を引っ込めた。彼女に杖で足を突かれて、辰巳はようやく顔を彼女のほうへと向けた。「なんでこんなに遅かったんですか。もう仕事を終わろうと思っていたところですよ」辰巳は開口一番、咲に遅かったと文句を言ってきたのだ。咲は探りながら、杖を彼のデスクの端に立てかけ、花束を辰巳の前に差し出し申し訳なさそうに言った。「結城様、私、目が見えないのでゆっくりしか歩けなくて、こんなに遅くなってしまいました。あの、これがお電話で注文いただいた花束です」「ここまでどうやって来たんですか?ちょっと聞かせてもらえます?」辰巳はその花束を受け取り、それを机の上に置いた。彼は別に花束が好きというわけではないが、適当な口実を作って咲に来させたのだった。「うちのスタッフにこちらの会社の前までバイクで乗せてもらって、それから歩いてここまで来ました」「誰も案内でついてきていませんか
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第1244話

「いいえ、俺たちも数回会った程度で、あなたが俺を怒らせるようなことなんかありませんよ」たとえ彼女が彼を怒らせるようなことがあっても、それには目をつむるに決まっている。これから先、将来一生彼女と付き合うから、寛大でい続けるつもりだ。だから彼女と争うようなことはしないのだ。「結城様を怒らせたわけではないのでしたら、どうして私に花束を持ってこさせたんですか?誰かに案内させず、私の力だけでここまで来るようにと」辰巳は答えた。「あなたは今後頻繁にここへ来ることになるでしょうし、ここまで来る道順はしっかり記憶して、覚えてしまえば慣れて自然に来られるようになるでしょう」咲「……」彼に会いに行く?しかもしょっちゅう?「うちの会社にある鉢植えの植物は枯れてしまったものがあって、たぶんパソコンの電磁波のせいですかね。植物がだめになってしまうのが早いんです。だから会社のオフィスにある観葉植物とか、全部取り替えてしまいたいんですよ」辰巳はここまで話して、咲を見つめた。咲にとって、これは大きな仕事の依頼じゃないか!「わかりました。次はバスで来ます。会社の前まで来られればもう大丈夫なので。一回行った場所なら、もう行き方を覚えてしまいます。次はもっと早く歩けるので、結城様を長く待たせるようなことはありませんよ。結城様、会社にある植物を変えるのであれば、うちの店に見にいらっしゃってください。うちではオフィス用の観葉植物をたくさん取り扱っていますので」辰巳は笑って言った。「わかりました、明日、オフィスに置くのに相応しい植物なら全部配達してください。店にある分全部いただきます。大きな鉢植えのものでも構いませんよ。オフィスビルの前には小さめの広場がありますから、そこに並べてもいいし」咲はそれに応えた。「わかりました。結城様……」「俺のことは辰巳と名前で呼んでください。いつも『結城様、結城様』って呼ばれるのもなんだか呼びにくそうですし」それを聞いた咲は少し呆然としてしまい、すぐに少しだけ微笑んで「結城さん」と言った。確かに「さん」付けに変えたほうが、呼びやすいといえば呼びやすい。二人の付き合いはまだ短く、彼女に彼を名前で呼んでもらうには、彼女もそれは良くないと思うことだろう。辰巳はそう考え、それ以上は何も言わず、彼女の好きなように
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第1245話

「結城さん?」咲は状況がよく理解できず口を開いた。「俺は別に花束を受け取る趣味もないし、彼女もいませんから。あなたにここまで持って来てもらったのは、俺のいる場所へのルートに慣れてもらうためだったんです。そうすれば今後は何かと便利でしょう」辰巳は笑いながら説明した。「だけど、さっきのあなたのバカみたいにポカンとした様子ときたら、おかしかったですよ。楽しませてもらったお礼に今日はご馳走します。行きましょう」それを聞いた咲は心の中で、バカはそっちのほうだ!と罵っていた。彼のよくわからないやり方のせいで、アホのようにポカンとさせられてしまったのだ。しかし咲はその表情をあの淡々とした様子に戻し、辰巳の後に続いて歩きながら、食事の誘いをやんわりと断ろうとした。「柴尾さんも帰ったらデリバリーで頼んだ食事でしょうし、いつもそんなのを食べるのはよくないですから奢ります。それか、あなたのほうが奢ってくださいよ。こちらは大きな仕事を二つも紹介したでしょう。だから俺に奢ってくれるのもアリじゃないですかね」咲は言葉を詰まらせ、暫くしてから口を開いた。「今手持ちは数千円しかありません。たぶん、それでは結城さんにご馳走するのは難しいかと」彼は結城家の御曹司だ。普段食事をする場所はきっとスカイロイヤルホテルだろう。そこは彼の家が経営するホテルであるから、そこで食べるのは当然のことだ。咲もスカイロイヤルに行ったことがないわけではない。彼女が失明する前、そこへ食事をしに行ったことがあるから、彼にご馳走するとなれば数千円では足りないことがわかっていた。「問題ないです。お金なら貸しておくので、それでご馳走してください」咲「……」辰巳は振り返って言葉を失っている様子の彼女を見て笑った。「あなたが決めてください。俺がご馳走するのか、あなたがしてくれるのか」どちらにせよ、彼女には一緒に食事をしてもらうのだ。早めに慣れておき、今後交流する機会が増えればもっと楽しく過ごせるはずだ。それに彼女が好きな料理を把握することも可能だ。「実際、俺ら二人だけで食事するなら、そんなに注文する必要もないでしょう。四品にスープでいいじゃないですか。スカイロイヤルの料理が全部高いわけじゃないし、中には注文しやすい価格帯のものだってありますからね」咲は彼がそう言うのを聞
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第1246話

「兄さん」辰巳は理仁に一声かけた。その時、理仁は咲とその手に抱かれている花束に目をやり、それから辰巳のほうへ視線を向けた。彼は静かに「ああ」とひとこと返すと、唯花の腰に手を回して「唯花さんと先に失礼するぞ」と言葉を残した。辰巳からその返事がかえってくる前に、彼はそのままの姿勢でその場を去っていった。唯花は歩きながら後ろを振り向いて見た。理仁はそんな彼女を前に向き直させて、低い声で言った。「俺のほうが辰巳なんかよりカッコイイだろう」「別に辰巳君を見てたわけじゃなくて、咲さんを見ていたのよ。いえ、あなたその言い方、なんだかまたヤキモチを焼く匂いがしてきたんだけど」「君が俺以外の男を見るなら、たとえそれが家族だったとしても、ヤキモチを焼いてしまうよ」唯花「……将来息子ができて、私がその子を可愛がっていたら、まさかそれでもあなたヤキモチを焼くつもり?」「俺たちには娘が生まれるから、ヤキモチを焼くことはないさ」唯花は笑った。「私だって女の子を産んで、結城家の男しか生まれない伝説を書き換えてしまいたいわね。その運命が待っているかどうかはわからないけど。一応男の子が生まれる準備もしておかなくちゃ。あなたね、自分の息子にさえ嫉妬するようなら、一生ネチネチするのも覚悟しておきなさいよ」この時、理仁は顔をこわばらせて、どうにも不愉快そうにしていた。夫婦に将来子供ができて、それが息子だったら、妻の意識がそちらに分散されてしまい夫の理仁よりも子供のほうをよく構うことになるかもしれない。それを思うと、今のところは子供ができないように避妊しておいたほうがいいだろうか?そうすれば引き続き二人きりの世界に浸っていられるじゃないか。「悟に頼んで腕のいい占い師を探してもらっているんだ。もし結城家に男しか生まれないという呪いがかかっているのだとしたら、それを調べてもらうんだ」理仁はやはり女の子のほうが欲しいらしい。それは彼だけの望みではなく、彼ら結城家の何世代にも渡る願いでもあるのだ。「見つかったの?」「まだだよ。胡散臭い占い師ならいくらでもいるが、本物はなかなかその行方もわかりにくい。だけど、いくら金がかかったとしても、結城家のこのおかしな運命を変えてもらうさ。俺ら若者世代から女の子が生まれるようにならないかね」唯花は言った。
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第1247話

結城家がA市の桐生家よりもさらに女の子が生まれにくいことを考え、理仁は心の中で誓った。絶対に凄腕の占い師か祈祷師を探し出し、何か祟りや呪いでもあって女の子が生まれなくなってしまったのかどうか、それを見てもらうのだ。「理仁、辰巳君と咲さんって、今どんな感じ?辰巳君なんだか自分で自分の首を絞め始めているような気がするのだけれど」この時、唯花は話題を変えた。夫がいつもいつも娘が欲しいと考えるのをやめさせるのだ。これは彼女もかなりのプレッシャーを感じてしまう。「まあお似合いではあるんじゃないかな。柴尾さんの目がまた光を取り戻したら、もっと二人はお似合いだろうけどね。辰巳がどうして自分の首を絞めることに?」理仁はまだ辰巳が一体何をやらかしてしまったのか知らないのだった。唯花は彼に教えた。「彼、花屋に電話して咲さんに花束を届けるように指名したらしいの。それに誰にも連れて来てもらわず、彼女が自分で来るようにって。全く咲さんの目が不自由だってことを考えてあげていない態度よ。これって完全に自ら死地に向かっていっているようなものじゃないの?彼、きっと今後痛い目見ることになるわよ」その話を聞くと、理仁はなんだか自分の顔がヒリヒリしてきた。彼はそのような目に最も遭ってきた張本人である。「あいつがそのつもりなら、ほうっておいていいさ。この俺という反面教師がすぐそばにいるというのに、あいつは全く何も学ばないようだ。今後、俺らに泣きついてきても知らん」唯花は頭を彼のほうへ傾げて、ふふふと笑っていた。理仁は彼女が何に笑っているのかわかっていて、恥ずかしくて少しカチンときたらしく、彼女を自分の懐に抱き寄せて彼女の顔を固定した。そして下を向いてこれ以上笑わせないぞと、彼女の唇を塞いだ。辰巳は理仁と唯花が自分のことを何か話しているだろうと予想していたが、気にしなかった。理仁が唯花と結婚手続きをしに行った時、彼も他の弟や従弟たちと理仁の結婚についていろいろと話していたのだ。彼らが最も盛り上がっていたのは、理仁は結局義姉を好きになるかどうかということだった。辰巳が最も遺憾に思っていることは、彼らと当初賭けをしなかったことだ。もし賭けをしていたら、彼の勝ちだったというのに。もしそうであれば、彼は理仁が自分の心を捧げると賭けたのだ。しかし、おそ
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第1248話

辰巳は豪華な個室を取った。辰巳と咲の二人はテーブルにつくと、辰巳に顔を向けられたスタッフが素早く反応し、すぐにメニューを手渡した。スタッフは心の中で、辰巳坊ちゃんが食事に来てメニューなど見る必要があるのか?と疑問に思っていた。辰巳は心の中でそう思っているスタッフのことなど気にもせず、メニューを開いて料理名と価格を咲に伝え、彼女に注文してもらった。「結城さんが召し上がりたいものを注文されてください」咲はそう言ってこちらがご馳走をするのだという姿勢で、辰巳に注文を促した。「柴尾さんは数千円しか持っていないって言っていましたよね。俺が注文した料理の値段が高くなるんじゃないかと心配で」咲は少し黙ってから話し始めた。「結城さん、さっきお金を貸してくださるとおっしゃっていましたよね?」それを聞いた辰巳は笑って言った。「確かにそうですけど、あなたは俺に金の貸し借りをしたくないような気がしたものでね。何品かお手頃な価格の料理を注文しましょうか。野菜炒めに、唐揚げ、魚の煮つけ、エビに本日のスープを」咲は辰巳が家庭料理的な四品にスープを注文したのを聞いて、そこまで値段のかからないものだから、特に異論はなかった。スタッフは二人の言った料理とスープの注文を取り終えると、かしこまって言った。「辰巳様、少々お待ちくださいませ」辰巳は温和な態度で言った。「急いでないから構わないよ。今夜は接待もないし、ゆっくり作って持って来てもらっていいさ」咲は心の中で、あなたが急いでなくても私のほうは焦ってるんだけど、と愚痴をこぼしていた。しかし、彼女は奢る側の人間だからそんなことはどう考えても言えるわけがなかった。スタッフが去ってから辰巳は彼女に尋ねた。「柴尾さんの店は最近順調ですか?」「まあまあですね」「自分で店をやるのは競合が多いですしね。店の商品はどこから仕入れているんですか?」咲は彼に逆に尋ねた。「結城さんがこんなことをお尋ねになってどうするんですか?花屋を開くつもりなんです?」「俺はただ、もっとコストの低い仕入れ先を探して、利益が増えるようにしてあげたいと思っただけです」「ありがとうございます。今の仕入れ先はもう何年も取り引きしていて、あちらからはずっと安い値段で仕入れさせてもらっているんですよ」その仕入れ先は彼女が目の不自
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第1249話

辰巳は何も言わなかった。返事がなかったので、咲も黙っていた。彼女は辰巳に見つめられているのを感じ取っていた。そして少ししてから、店員が料理を運んできた。「食べましょう」この時ようやく辰巳が口を開いたが、咲のさっきの質問には答えなかった。咲は目が見えないから、辰巳は運ばれて来たスープを彼女の目の前に置いて言った。「先にスープをどうぞ、ここに置いてますんで。それを飲み終わったらご飯を持って来てもらいましょう」「ありがとうございます、結城さん」「気にしないでください」辰巳もスープを飲みながら、おかずを取って食べた。たまに取り箸を使って咲にもおかずを取ってあげていた。咲は普段はいつもテイクアウトやデリバリーを使っている。お弁当はご飯とおかずが一緒になっているから、彼女はゆっくり食べればいいのだ。それが今は辰巳と一緒に食事をしているので、彼女は料理がどこに置かれているのかわからない。箸を伸ばしておかずを取ろうにも、それが一体なんの料理なのかもわからない。だからただ辰巳の世話になっておくしかなかった。もし必要なければ、彼女も一生辰巳と一緒に食事はしたくなかった。「エビは好きですか?」辰巳はスープを飲み終わると、そのお椀を置いて先に尋ねた。彼女が返事をするのを待たずに、使い捨て手袋をつけてエビを何匹か皿に乗せると、殻を剥き始めた。剥き終わったエビの身にタレをつけて、咲の目の前にある皿に置いてあげた。「エビの殻を剥いてタレも付けて皿に置いてるんで、そのまま食べられますよ」結城家のおばあさんがここにいて、辰巳のこの行動を見ていればきっと彼は気の利く子だと褒めているはずだ。理仁の時よりもずっと良いと。理仁の時は、おばあさんが彼に気づかせなければならなかった。彼もまたプライドが高く、エビの殻を剥いたのは唯花のためではなく、陽を口実に使ったものだから、おばあさんは彼に蹴りの一つでも入れそうになってしまった。「ありがとうございます、結城さん」咲はお礼の言葉を述べた。彼女は以前エビを食べる時には殻ごと食べていた。面倒だから、タレも付けずにだ。しかし、柴尾家では彼女は普通海鮮など食べることはできない。柴尾家の人間は彼女にそれを食べさせることがなかったからだ。彼らが彼女に与えるものは、ご飯に肉なしの野菜炒め
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第1250話

辰巳は咲を連れてホテルを出ると、また彼女を花屋まで送ってあげると親切に言った。「ありがとうございます、結城さん。ですが、結構です。うちの店の前を通るバスに乗せていただければ大丈夫です」辰巳は彼女が今後も頻繁に出かけるのを考え、自分一人でバスに乗る必要も出てくるからこう告げた。「わかりました。外のバス停まで連れて行きますね」「ありがとうございます」咲はまたお礼を言った。彼と交流する中で、彼女が最も多く口にしている言葉はこの「ありがとうございます」だろう。運が良いことに、二人がバス停に到着した時ちょうど6番バスがやって来た。辰巳は咲にこのバスだと教えて、彼女が中に乗り込むのを見届けてから自分はホテルに戻っていった。ホテルの前にある駐車場で、彼はまたあのラブラブっぷりを見せつける兄夫婦に遭遇したのだった。「辰巳君、柴尾さんは?」唯花は辰巳が一人でいて、咲の姿が見あたらないのでそう尋ねた。彼女は辰巳と咲が一緒に食事したことを知っているのだ。「帰りましたよ」辰巳は立ち止まって兄夫婦と話し、理仁に尋ねた。「兄さん、義姉さんを送っていくの?」「ああ」理仁はひとことだけ淡々とそう返事した。唯花は辰巳に言った。「柴尾さんは目が不自由で出かけるのは不便でしょう。どうして彼女を店まで送ってあげなかったの?彼女を一人で帰らせたって?」「バス停まで送りましたよ。店まで送る必要はないって断られたから」唯花夫婦「……」咲が送らなくていいと言ったから、それをそのまま受け取って送らなかったのか?辰巳は咲がバスで帰っている途中で何か起こらないかと心配したりしないのか?辰巳は唯花が何を考えているのかがだいたい想像がついて、こう言った。「咲さんは目が不自由ですけど、慣れた環境では自由に行動してますよ。ブルームインスプリングからうちの会社まで来られるバスに乗って、ルートに慣れてしまえば同じように自由に行動できます。そうすれば今後彼女が俺に会いたいと思えば、いつだって自由に会社まで来られるでしょう」唯花「……」それを聞いた理仁は「はは」と吐き出し、辰巳に皮肉を言った。「お前が会いたいと思ったところで、彼女のほうは別にそうは思っていないだろう」咲は今、辰巳が彼女に近づいて仲良くなろうと企んでいることなど一切知らないのだ。
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