交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています のすべてのチャプター: チャプター 1321 - チャプター 1330

1358 チャプター

第1321話

「唯花、俺がお化粧してあげようか」唯花は彼の言うことを聞いて最も露出の少ないあのドレスに着替えた。すると今度は理仁はまた自分が妻に化粧をすると言ってきたのだった。唯花は考えることもなく彼の申し出をそのまま断った。「私、ちゃんと人に会えるようにしておきたいから」彼女のそのひとことで理仁は何度も口をパクパクと開けていたが、何も言えなくなったらしい。そんな彼の反応がおかしくて唯花は笑いながら彼に尋ねた。「あなた誰かにお化粧してあげることできるの?ちょっとあなたの企み、私わかってるのよ。私におばけみたいな化粧をするつもりね。そうすれば会場にいる人が私に注目することないから」理仁「……俺は他の女性にお化粧してあげたことなんてないよ。だけど、君をおばけみたいにさせてみんなを怖がらせるようなことするわけないだろう」「まあいいわ、それでも信じられないから自分でやる。あなたは自分の支度をしてきて、もうすぐ出発しないといけないから」理仁はそこを離れようとせずこう言った。「俺は別に何もする必要ないよ。普段着からスーツに着替えて、スリッパを革靴に履き替えればいいだけだし。あとは君にネクタイを締めてもらえば完成だ」化粧をする必要もない。生まれつきの美形だから、化粧をすればそのイケメン度が下がってしまう。結城理仁は一度も化粧などしたことがないのだ。「急がなくていい。ゆっくり行っても別に構わないんだ。ただ顔を出すだけだから」例年、小松おじいさんの開催するパーティーは、理仁はいつも遅めに到着し、会場にも長居することなくすぐ帰ってしまうのだ。彼は遅く到着し、すぐに退散するのが常だった。唯花は部屋に戻って、ドレッサーの前に腰かけ、鏡に向かって化粧をしながら彼に言った。「それに慣れちゃってるのね」「みんなにうるさく囲まれるのが苦手なんだ」「だって結城家の長男なんだから仕方ないじゃないの」理仁は言った。「そうじゃなかったら、君と結婚できないところだったよ」彼が長男でなければ、おばあさんは唯花の結婚相手に理仁を選ぶことはなかった。「コンコン」ドアをノックする音が聞こえてきた。「ドア開けてきて」唯花はたらたらと耳元でいつまでもうるさくされるので、彼にさっさとドアを開けに行くよう言った。彼女は大人で落ち着いていてクールな
続きを読む

第1322話

唯花は理仁がいつも傍にいてぶつぶつ口を挟んでくるのにこりごりだった。理仁は唇を不満そうに結んで、訴えるように言った。「唯花、そんな口の利き方するなんて、俺のことが鬱陶しくなったんだな」唯花はもう彼に足蹴りでもして追い出してしまいたいくらいだった。「これ以上ぐずぐずここにいるなら、今夜はゲストルームで寝てちょうだい」理仁は体の向きを変えて、ドアのほうへ歩きながら悲しそうにしていた。「奥さんから嫌われた、妻はもう俺のことなんて愛していないんだ……」「……」唯花はこの男にほとほと呆れてしまった。今や彼女の身も心もすべて彼に捧げているというのに、彼は他に何を心配することがある?二分後。理仁は両親と向かい合って座っていた。理仁は白のスーツを着ている父親に向かって言った。「父さん、もうこんな年なんだぞ、そんな真っ白なスーツなんか着て。なんだ、息子と張り合う気か?」栄達は言った。「なんだその言い方は、父さんはそんなに年寄りか?俺は自分のメンテナンスならきちんとできていると思うが。母さんが、私とお前が一緒に立っていたら親子ではなく、まるで兄弟みたいだと言っていたぞ。母さんが白いスーツを着たらカッコイイってさ、童話に出てくる白馬の王子みたいにな」麗華も夫の話に合わせて言った。「そうよ、お父さんが白いスーツを着たらとってもイケメンでしょう。お父さんは昔からずっと私の中で白馬の王子様なのよ」そんな彼女は露出は減らしつつも、高貴で優雅なドレスを着ていた。麗華の高貴さは自然と身についているもので、彼女はどんな衣装を身に纏っても、その高潔なオーラを隠しきることはできないのだ。「理仁、なにか唯花さんと喧嘩でもしたの?さっきみたいな口の利き方しちゃって、私とお父さんが来たとたん、ちくちくとお父さんに嫌味を言うなんてね。それとも私たちがちょうどタイミング悪い時に来て、あなた達夫婦の邪魔でもしちゃったのかしら……」麗華は夫が退職してからというもの、夫に付き添って様々なパーティーに行ったり、慈善活動をしたりする必要はなくなった。それで夫婦二人は久しぶりに今回のパーティーに顔を出すのだった。今夜、この二人が社交界に返り咲きしたのは、麗華が周りに彼女と唯花の嫁姑関係は良好だということを主張するためなのだ。それに唯花のために道を開いてあげる目
続きを読む

第1323話

「それは唯花さんがしっかり俺を尻に敷いているからだな」栄達は口を開いたが、何を言えばいいのかわからなかった。妻を溺愛している二人を比べて、妻の尻に敷かれている息子は自分よりすごいようだ。いわゆるあの、青は藍より出でて藍より青し、ではないか。父と子が互いに見つめ合っていた時、星城で最も高貴なあの嫁姑の二人が二階から降りてきた。唯花はジュエリーを身につけていた。理仁はそれを一目見て、彼が贈ったものではないとすぐにわかった。尋ねるまでもなく、それは彼の母親が唯花にプレゼントしたものだ。確かにそうだった。麗華は二階に嫁の支度がどうなっているか見に行った時、バッグの中に準備していたジュセリーセットを彼女にプレゼントしていたのだ。彼女の話では、そのジュエリーは艶やかすぎて、今の彼女の年齢には合わず、唯花が最も似合うだろうということだ。麗華はもともと名家出身で育てられてきた。小さい頃から多くの宝石たちを受け取り、結城家に嫁いでからは夫から溺愛されていた。夫もそんな彼女に多くの宝石たちをプレゼントしていた。そして理仁を産んでからは、結城おばあさんからも何セットものお金には換算できないほど高価な宝石を受け取っていた。麗華には娘がいないから、彼女のそんな貴重な宝石たちは自然と息子の嫁に引き継がれるのだ。今のところ唯花しか息子の嫁がいないし、長男の嫁なので、この日唯花に贈られた宝石は、当時理仁を出産した時に結城おばあさんからもらった宝石の中の一つだった。詩乃とともに何度もパーティーに参加して、彼女の手自らしっかりと礼儀作法をたたき込まれた唯花は、ドレスを身に纏い薄く化粧をして麗華に贈られたジュエリーを身につけると、高貴さが溢れ堂々とした様子だった。そのあまりの美しさに理仁も彼女から視線をそらすことはできなかった。この時、栄達は優秀な息子のそんなみっともない様子を見て、心の中で、きっと一生唯花の尻に敷かれ続けるのだろうと呟いていた。唯花からしてみれば、彼女のほうが彼に大きく人生を左右されていると思うことだろう。「理仁、お義母さんからもらったジュエリー、似合う?」理仁は頷いた。「もちろんだよ。だけど、俺がプレゼントしたジュエリーを身につけたほうがもっと君に似合うと思うけどね」麗華は笑いながら理仁に文句を言った。「実の母親に対しても嫉
続きを読む

第1324話

スカイロイヤルホテルは、午後の一般客向けの業務は停止していた。会場は早くから飾りつけられていた。空が暗くなってくると、小さな会社の社長たちが、スカイロイヤルに到着した。彼らは自分たちの地位が低く、発言権がないので、早めに来て小松家の人と少し話をしたいと考えているのだ。もし小松おじいさんに会うことができれば、それはつまり運が良いということなのだ。もし遅く到着すれば、人が多すぎるし、会場にいる人たちは大物ばかりだ。彼らのような小さな会社の社長はただおとなしく隅の方にいるしかない。以前であれば、結城理仁が一番最後に会場入りをしていた。彼が来るなら、神崎玲凰は現れることはなかった。そして今夜、多くの人たちが、星城で最も優秀な二人の社長は、はたして同じ時間帯に会場に姿を現すだろうかと予測していた。結城理仁の妻は彼と一緒にパーティーに出席するだろうか?近頃、結城家の若奥様は社交界で頻繁に姿を見せている。しかし、彼女と一緒に来るのはいつも伯母である神崎詩乃だった。それゆえ、結城家の嫁と姑の仲が悪いから、彼女たちは一緒にパーティーに来ないのだという噂がまだ流れていた。姑が嫁に礼儀作法を教えるのを拒むものだから、仕方なく伯母に頼っているのだと。麗華はこの噂を耳にした後、唯花と一緒にショッピングに出かけていき、嫁と姑が仲良さそうにしているのを世間に見せたが、依然として裏でこそこそとこのように噂されているのだ。そしてパーティーの招待客たちが次々と会場に到着した。結城家は、今柏浜にいる結城おばあさんと奏汰の二人と、まだ年齢が若く社交界デビューをしていない者、それから理仁たち四人を除いて、他の者たちは続々とパーティー会場に到着していた。辰巳は彼の両親と一緒に来ていた。そして小松家の人たちに挨拶をし、知り合いとおしゃべりをしてから、辰巳はそれとなくホテルの入り口にふらりと足を運んだ。彼は咲の到着を待っていた。咲はパーティーに出席したくなかった。しかし彼女の母親が昼にボディーガードたちを引き連れて彼女の花屋にやって来たのだ。そして有無を言わさず、彼女を柴尾家の邸宅に連れて帰ったのだった。母親はドレスを彼女に放り投げ、着替えるように指示を出した。そして、もし彼女が自らそのドレスに着替えないのであれば、ボディーガードに着替え
続きを読む

第1325話

「コンコン」この時ドアのノック音が響いた。正一が部屋の外で尋ねた。「加奈子、もう準備できたか?早くしてくれよ、遅れてしまう」加奈子は咲に嫌がらせをするのを止めた。今夜はこの咲をどこかの社長に売ってしまう計画なのだ、そうなればこの娘はもっとひどい目に遭うだろう。傷がついてしまえば、この娘に価値はなくなる。「わかったわ」加奈子は夫に返事をして咲に言った。「さっさと出なさいよ!」咲は自分の白杖を手探りで掴み、歩き出そうとしたが、その瞬間手が空になってしまった。あの目の不自由な人が使う白杖を加奈子に奪われてしまったのだ。加奈子はその杖は傍らに放り投げ、咲に向かって言った。「パーティーに参加するのに、こんなもの持っててどうするのよ。私についてらっしゃい」加奈子は長女が声と足音が聞こえれば、それについて来られると知っているのだ。咲は静かになった後、黙って加奈子に続いて部屋を出ていった。柴尾正一はドアの前で少しイライラした様子で待っていた。そして二人が出てくると、彼は目の前の光景が輝いて見えた。義理の娘を暫く見つめてから加奈子に言った。「咲は本当にどんどん美人になっていくな。君にも彼女の父親にも似ている」毎回咲を見るたびに、彼は弟の面影と重ねてしまう。しかし、咲が完全に弟と瓜二つというわけではなくてよかった。そうでなければ、彼は彼女の顔など絶対に見たくない。加奈子は咲のほうへ向き暫く睨みつけてから、嫌そうに言った。「私の鈴には遠く及ばないわ」そして前に進み、夫の腕を組んでから言った。「行きましょう。もうすぐパーティーが始まる頃よ」「この時間なら、パーティーが始まる時間だが、そんなに焦らなくていいさ。結城社長がいらっしゃった時こそ、一番盛り上がる時なんだ。我々が今から行っても、彼はまだ到着していないさ」理仁の話題になって、加奈子は唯花のことを思い出していた。唯花のことを思い浮かべると一気に腹が立ってきたらしい。そして後ろを振り向いて階段をゆっくりと降りてくる咲を罵った。「このめくら、もう少し早く歩けないわけ?何をするにもタラタラ、タラタラと。時は金なりって言葉を知らないの?」咲は加奈子の相手をしなかった。階段の手すりを掴んで、ゆっくりと降りていった。加奈子は明らかに怒りを大爆発させていた。いくら咲を罵っ
続きを読む

第1326話

そして咲は人としか話さない。あいつらは人と言えるものではないのだから、構うつもりもない。正一は加奈子の手を引いて一階に降りると、豪華なリビングを抜けて、家を出た。夫婦が乗る予定の車はすでに待機していた。それからもう一台、ボディーガードの車もだ。「加奈子、結城社長が若奥様を連れてパーティーに来ていたら、まずはその怒りを抑えておきなさい。若奥様とは関係を修復しておいたほうがいい。態度を良くして若奥様に寛大な心で許してもらえるかやってみるんだ。もしそれでもダメなら咲を使おう」「これでもまだ私たちは腰を低くしてないって?まず最初にぎくしゃくした時に、こちらから低い姿勢を見せて、手厚い謝罪の品を持って謝りに行ったでしょ。でも結果はどうだった?結城社長がとても冷たく頑固なところは生まれつきそういうお方だからいいけど、あの内海唯花とかいう女、本当に憎たらしいわ。さっさと警察に通報して起訴までしたのよ。情の欠片も持ち合わせていない女よ。鈴はまだ子供なのに、あの女はそんな子供相手にここまでやったんだからね。まさかあいつは一生私たち名家の夫人たちと仲良くする気がないわけ?私の面子も考えずに娘を牢獄に送ったのよ。あのように無情な人間は、私たち上流社会では絶対にうまくやっていけないわ。見ていなさいよ、結城社長はあの女に巻き添えにされるから。彼がずっとあの女の後始末をしてくれるとでも思う?それに結城社長は人を見る目がないのよ。あんな田舎娘と結婚するなんて。他の女性たちのほうがよっぽどあんな田舎者よりマシでしょ?私たちの世界にいる女性たちは、みんな由緒正しき名家の出身よ。それなのに、あんな田舎娘と関われだなんて、私たちの品格を下げることになるわよ」加奈子は唯花にかなりの不満を持っていた。不満を通り越して恨みしかない。彼女は唯花を地獄に叩き落としたいと思っていた。もし彼女でなければ、加奈子の大切な娘が刑務所に入る必要もなかったのだ。「あの女はまだ結城社長が珍しい女だって、新鮮に思っているから大切にされてるだけよ。そんな彼の後ろ盾があるから、うちの鈴にあんなことができたの。結城社長という存在がなければ、誰も内海唯花なんでどこの誰かなんて知らないわよ」加奈子は理仁を恨むような度胸はない。ただ唯花を虎の威を借る狐だと思っている。唯花はただ結城理仁の身
続きを読む

第1327話

正一は結城家と親戚関係になりたくないわけではない。ただそのような縁があるかどうかが問題なのだ。唯花に関して言えば、彼女は知らず知らずのうちに、いつの間にか玉の輿に乗ってしまっていたのだ。しかし、周りの人間がいくら脳みそを絞って、必死に努力したところで、琴ヶ丘の地に一歩も足を踏み入れることはできないのだ。どうして自分にそんな幸運が巡ってこないのか。「だったら、神崎家の次男はどう?」正一は妻をちらりと見て言った。「お前は鈴の事で頭がいっぱいになっていて、ただ星城で一、二を争う名家に嫁がせることばかりに気が向いているが、その間にある関係性のことが頭からすっぽり抜けているぞ。内海唯花は神崎夫人の姪っ子だ。うちの娘を神崎夫人の息子の嫁にして、鈴が幸せな日々を送れると思うか?」加奈子「……」そうだ、彼女はこの点を忘れていた。「鈴はまだ若いんだから、焦る必要はない。ゆっくりと相手探しをすればいいんだ。今やるべきことはあの子を刑務所から出してあげることだ。誰か結城家に面子を考慮しつつ間に立って和解の道を探してくれる人を探すんだ。そして内海に鈴の起訴を取り下げてもらうのさ」正一は唯花が結城家の若奥様という地位をゆるぎないものにしてしまえば、彼の大切な娘は星城の名家とは婚姻関係を結べないと思っていた。そして彼は鈴の結婚相手を他の都市にいる優秀な御曹司たちに向け始めていた。二人が話している時、咲がようやく家から出てきた。加奈子は長女と一緒の車に乗りたくなさそうにしているので、正一が言った。「今夜の計画を忘れるなよ。些細なことでこの計画を台無しにするわけにはいかない。咲は今日初めてパーティーに出るんだ。それに君の実の娘でもある。彼女をボディーガードの車に乗せていたら、周りがどう思う?君のことをどんなふうに言うと思う?」「ただあの子を綺麗に着飾って、うまく利用するだけよ。ここ星城で、柴尾家の令嬢の地位が如何なるものか知らない者はいないでしょ?」加奈子はぶつくさと不満を漏らしていたが、やはり車を降りて咲を車に乗せた。こうして、一家三人はやっとスカイロイヤルホテルへと向かっていったのだった。スカイロイヤルに到着すると、ホテルの前にある駐車場は既に満車になっていた。後から来た人たちは車をホテルの地下駐車場に止めていた。柴尾家三人は、ホ
続きを読む

第1328話

確かに多くのドレスのデザインはこのようなものだが、彼ら結城家の男たちは好きではないのだ。自分の愛する女性の肌はしっかりとガードし、腕でさえも他人に見せたくない。この時の咲の姿は、誰が見ても男たちの欲望を駆り立てる姿だった。「柴尾お嬢様は、今夜は非常にお美しいですね」辰巳はそう褒めた後、すぐに咲から視線を戻し、柴尾夫妻に向かって言った。「柴尾社長、夫人、ちょっと知り合いを見かけたので、先にあちらに挨拶してきます。みなさんはどうぞお入りください。もう多くの社長たちが来ていますよ」「失礼いたします」正一は礼儀正しくそう言った。さっき辰巳が咲を見た時、正一は辰巳が驚いた目をしているのに気づいた。しかし、辰巳もただちらりと彼女を見ただけで、褒め言葉をひとこと述べただけで、もう見ることはなかった。咲の虜になった様子ではなかった。正一は、もし咲が辰巳を虜にしてしまえば、咲を彼のもとへ送り込み、辰巳に鈴を助けてもらうよう口添えをしてもらおうと思ったのだ。唯花は自分の親戚である彼に免じて、絶対に鈴を許してくれるはずだからだ。しかし、残念だ。今夜こんなに美しい咲でさえも、辰巳の心を奪うことはできなかった。だから彼らの元の計画通り、咲をこの場にいる小松家の誰か男にあてがい、利用するしかない。とにかく小松家で発言権のある人物でなければならないのだ。小松家と結城家は深い繋がりがある。小松家が開催するパーティーには、結城家の御曹司はみんな出席する。それだけでも、両家の関係は他人が想像するより、ずっと深いものだとわかる。柴尾夫妻は、今夜、この小松家の人間に頼って、結城家の間に立ってもらい鈴を助ける作戦だったのだ。辰巳が去った後、柴尾家の三人は、ホテルのスタッフの案内でホテルの中へ入って行った。辰巳はさっきただの口実を作って柴尾一家から離れたのだが、この時、本当によく知った相手に出くわしたのだった。悟が彼の婚約者である明凛を連れてやってきたのだ。悟の車もホテルの前に止まった。彼と明凛は先に車を降り、運転手に車を駐車場へ止めるよう言った。いつもは自分で車を運転してくる悟だが、今夜は運転手に頼んでいた。パーティーでは酒を飲むから運転をするわけにはいかない。悟は今まで通り、相変わらずのイケメンっぷりである。明凛も綺麗に着飾り
続きを読む

第1329話

スカイロイヤルホテルは結城グループ傘下のホテルである。その会社でも重要な役職に就く彼は、毎日のようにこのホテルに出入りしているというのに、彼女の案内が必要なのか。悟は言った。「そんなに急いで入らなくていいって。君の友達もまだ来てないだろ、あいつの車はまだ止まってなかったよ。理仁だけじゃなくて、神崎家の車だって見あたらない。彼らは俺みたいに時間通りに現れないんだよ」明凛は彼のその言葉が少し信じられなかった。「車を地下駐車場に止めてる可能性だってあるじゃない?」「信じられないなら、フロアマネージャーにでも尋ねてみたらいい」明凛は唇を結んで悟の手を離した。そして彼の腕を組んで言った。「行こう、中に入るわよ」悟はこれでようやく満足したらしく、明凛と一緒にホテルに入っていった。彼らと昔からの知り合いである辰巳すら、あの二人にひとことも声をかけるタイミングはなく、ホテルの入り口にぽつんと立っていた。辰巳「……」これが独身男の悲しき運命か。旧知の仲でも、その相手はカップル同士の場合、彼を完全にスルーしてしまうのだ。まあ、さっきはただ柴尾家に口実のためにああ言っただけだし。彼は決して咲に見惚れていなかったわけではない。柴尾夫妻に彼が咲のことをとても気にかけていることがばれたくなかっただけだ。そして彼は再びホテルの中に入っていった。すると加奈子が彼の婚約者になる予定の咲を連れて、ご夫人方や令嬢たちに挨拶をしていた。柴尾夫人が長女を連れて現れたことで、多くの人が驚いていた。頭のいい人なら、すぐにその理由が理解できた。柴尾家の令嬢はすでに二十六歳だ。結婚適齢期になっている。柴尾夫人が突然長女を連れてやって来たのは、結婚相手探しのためだろう。柴尾家の令嬢は非常に美しい。しかし、そんな彼女は柴尾家では透明人間であり、目の不自由な人である。生きるために、彼女は自分で花屋を開き、なんとか生きていけるお金を稼いで暮らしている。このような状況の娘だから、他の夫人たちは嫌がっていた。誰もこの柴尾家の長女と婚姻関係を結びたいとは思っていなかった。一番重要な理由は咲が目の不自由な人間だということだ。辰巳は人だかりの中で母親を見つけ、小さな声で何かを伝えた。辰巳の母親である薫子(かおるこ)はちらりと柴尾夫人に引っ張られている咲を
続きを読む

第1330話

心の中で唯花の家柄を軽蔑しているのだ。田舎出身者が、結城おばあさんを助けたという理由だけで、苦労せず玉の輿に乗ったからだ。結城家の他の年配者たちもどうかしている。誰一人として反対する者はおらず、田舎娘を結城家の若奥様として迎え入れたのだからだ。今後、彼女が結城家の女主人となる。結城家は唯花が他の一族の女主人に敵わないのではないかと不安にならないのだろうか。結城一族全員に恥をかかせて、お笑い者にさせる気か?もし、唯花が他の結城家の御曹司と結婚していれば、おそらくここまで嫉妬され恨まれることもなかっただろう。「あなたの言うのも一理あるわ。私だって、結城家のあの若奥様には限界があると思いますよ。全体を見通せず、何かするのも軽率に行動する。結城社長の後ろ盾を頼りにしているだけで、周りの人間を馬鹿にしている。やりたい放題騒ぎ立てて、結城社長が恨まれるようなことをして」それを言ったのは加奈子だ。「本当にその通りですよ。あの若奥様は本当にお節介で。あなた、柴尾夫人でしょう?確かこの間の桜井家のパーティーで内海とかいうあの人が余計なことに首を突っ込んで、あなたたち親子とわだかまりができたでしょう。私はよかれと思って麗華夫人にお電話してもっとお嫁さんのことをしっかり管理したほうがいいってお伝えしたのに、逆に私が怒られたんです。しかもあれから連絡が一切できなくなったんですよ」唯花に敵意を持ち、嫌味を言った人は、まさに当初余計な口を挟んでしまったこの原田夫人である。彼女は麗華にきつく叱られた後、関係を断ち切られてしまったのだ。それで原田夫人は相当頭に来ていた。自分はよかれと思ってやたのに、結果麗華からこっぴどく叱られたのだ。唯花がもし彼女の息子の嫁で、外で余計なことをして争い事を引き起こし息子に余計な迷惑をかけようものなら、彼女はすぐに離婚させる。そしてもっと物分かりのいい嫁をもらうだろう。麗華が身内に甘くするのも、状況をしっかり見極めてからにするべきだ。あのような面倒事を引き起こし、問題を起こすような嫁を庇っていては、今後もっと大きな災いが振りかかるのだ。結城家はきっとあの内海唯花のせいで、大きく混乱することだろう。結城家の名声と栄誉は、絶対にあの女によって地に落とされてしまうのだ。「結城家の麗華夫人がいらっしゃったわよ。やっぱり息子
続きを読む
前へ
1
...
131132133134135136
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status