「唯花、俺がお化粧してあげようか」唯花は彼の言うことを聞いて最も露出の少ないあのドレスに着替えた。すると今度は理仁はまた自分が妻に化粧をすると言ってきたのだった。唯花は考えることもなく彼の申し出をそのまま断った。「私、ちゃんと人に会えるようにしておきたいから」彼女のそのひとことで理仁は何度も口をパクパクと開けていたが、何も言えなくなったらしい。そんな彼の反応がおかしくて唯花は笑いながら彼に尋ねた。「あなた誰かにお化粧してあげることできるの?ちょっとあなたの企み、私わかってるのよ。私におばけみたいな化粧をするつもりね。そうすれば会場にいる人が私に注目することないから」理仁「……俺は他の女性にお化粧してあげたことなんてないよ。だけど、君をおばけみたいにさせてみんなを怖がらせるようなことするわけないだろう」「まあいいわ、それでも信じられないから自分でやる。あなたは自分の支度をしてきて、もうすぐ出発しないといけないから」理仁はそこを離れようとせずこう言った。「俺は別に何もする必要ないよ。普段着からスーツに着替えて、スリッパを革靴に履き替えればいいだけだし。あとは君にネクタイを締めてもらえば完成だ」化粧をする必要もない。生まれつきの美形だから、化粧をすればそのイケメン度が下がってしまう。結城理仁は一度も化粧などしたことがないのだ。「急がなくていい。ゆっくり行っても別に構わないんだ。ただ顔を出すだけだから」例年、小松おじいさんの開催するパーティーは、理仁はいつも遅めに到着し、会場にも長居することなくすぐ帰ってしまうのだ。彼は遅く到着し、すぐに退散するのが常だった。唯花は部屋に戻って、ドレッサーの前に腰かけ、鏡に向かって化粧をしながら彼に言った。「それに慣れちゃってるのね」「みんなにうるさく囲まれるのが苦手なんだ」「だって結城家の長男なんだから仕方ないじゃないの」理仁は言った。「そうじゃなかったら、君と結婚できないところだったよ」彼が長男でなければ、おばあさんは唯花の結婚相手に理仁を選ぶことはなかった。「コンコン」ドアをノックする音が聞こえてきた。「ドア開けてきて」唯花はたらたらと耳元でいつまでもうるさくされるので、彼にさっさとドアを開けに行くよう言った。彼女は大人で落ち着いていてクールな
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