All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 1311 - Chapter 1320

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第1311話

唯花も笑って言った。「おばあちゃん、理仁さんは私のことをとってもとっても大切にしてくれているわよ」おばあさんが言うその口調は、姉の唯月と同じような感じだ。おばあさんは電話越しにケラケラと笑っていた。理仁がこの時、おばあさんに「いつ帰って来るんだ?」と尋ねた。「おばあちゃんはね、今まだ病院にいるのよ。そんなに早くは帰れないわ」理仁と唯花は二人とも同時に心配そうに尋ねた。「おばあちゃん、どこか悪いの?」こんなに話していたのに、おばあさんは今自分が病院にいることも教えず、気分良さそうにケラケラと笑いながら話していたのだ。二人はまさかおばあさんが入院しているなんて全く思わなかっていなかった。「ただ一人で出かけている時に、白山玲さんの車に驚いて、地面に尻もちついちゃったのよ。それで尾骨のあたりがちょっと痛くって、そしたら玲さんが病院に連れていってくれたわけ。その後うちのもんにも連絡してくれてね、柏浜にいる私の孫といえば奏汰でしょ」理仁「……ばあちゃん、違うやり方はできんのか?」おばあさんももう若くないのだ。そのように地面にお尻から倒れてしまって、もし力加減を間違えでもしたら、本当に怪我をしてしまうことになる。そうなったらどうするというのだ?おばあさんは自分は無実だと言わんばかりにこう返した。「私は本当に玲さんの車にびっくりしちゃったのよ」理仁はおばあさんの言うことをこれっぽっちも信じていないのだ。そこまで聞いていて、唯花は当初おばあさんを助けたあのシーンは、おそらくおばあさんの自作自演であったのだと理解した。つまりおばあさんの命の恩人となり、その恩を返すという名目で理仁が唯花と結婚する理由を作ったのだ。そして今、また同じ手で結城奏汰に仕掛けようというわけだ。今回おばあさんは同じようなことをしたわけだが、それが有効であれば構わない。やり方が同じであるかどうかはどうだっていいのだ。玲が彼女に対して申し訳ない気持ちになってくれれば、おばあさんは最大限に自分の力を発揮できるというもの。「おばあちゃん、玲さん、かっこよかった?」「もちろんよ。実際に会ったほうが写真よりずっとかっこいいわ」唯花は興味津々に尋ねた。「奏汰君は気に入っていました?」「あの子ね、彼は玲さんほどイケメンじゃないんだから、彼が気に入ったかどうか
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第1312話

玲はオーダーメイドのスーツをぴしっと身にまとっていた。非常に美しい顔をしていて、高身長だ。彼女は長年男装を続けていて、わざわざ喉ぼとけまで作っている。彼女の親類でなければ、玲が女性であると知っている人はいない。白山家も子供たちのプライバシーをしっかりと守っていた。子供が成人するまで、外にその情報を出したりしないのだ。そのため、玲が成人して表に出てきた時には男装をしている姿だったので、事情を知らない者たちは、白山夫人が当時産んだ双子だと勘違いし、彼女のことを白山御曹司と呼んでいた。玲は両手にたくさんお年寄り用の健康食品をぶら提げていた。彼女はそれをベッドサイドテーブルに置き、病室にはおばあさんだけだったので落ち着いた声で尋ねた。「おばあ様、お孫さんは?」「私はさっき起きたばかりなの。奏汰がどこに行ったのかわからないわ。きっと私が寝てしまったのを見て、どこかに買い物に行ってるんでしょうね。白山君、さあ、座って」おばあさんは起き上がろうとした。すると玲が急いでおばあさんの体を押さえた。「おばあ様、今は座る姿勢になってはいけません。先生が横になっているようにと。そのほうが回復が早いようです」実はおばあさんは大したことはなかった。玲は、おばあさんが高齢であるので、何か大ごとになってはいけないと心配していたのだ。おばあさんに病院に行って検査をするように粘り、検査結果は問題なかったのだが、おばあさんが痛いと言うので医者が数日入院するよう勧めたのだ。もしおばあさんでなければ、玲は当たり屋だと疑うところだ。相手は結城家のおばあさんだったので、彼女は疑うことはなかった。彼女は奏汰の正体を知っている。ここにいるご老人は、結城奏汰の祖母である。つまり星城のトップ財閥家である結城家のあの子供心を持つ老夫人だ。おばあさんの子供心を持った老夫人という呼び名はかなり有名である。おばあさんは座るのをやめておいた。「おばあ様、今日のご加減はいかがですか?また痛みがありますか?」玲はおばあさんのベッドの前に座った。「もう大丈夫よ。ただあの時かなり驚いてしまったみたいで、ここ数日は夜ぐっすり寝られず少しの物音で目が覚めちゃうのよ」玲は黙ってしまった。そして暫く経って、彼女はまた申し訳なさそうに言った。「あの日、運転手は少しスピードを出
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第1313話

玲は続けて言った。「私が知るところだと、おばあ様は星城ではどこへ行くのも誰の許可も要らず自由に動き回れるはずです」おばあさんは黙り込んでしまった。この手は唯花にはよく効いたというのに。玲には全く通じない。玲は自分からおばあさんを遊びに連れて行くとは言わないのだ。この時、奏汰が戻ってきた。彼は確かにおばあさんが寝ているうちに、先に用事を済ませに行っていたのだ。この時、もうすぐ昼になる時間で、おばあさんが昼食を取るので彼は戻ってきたのだった。遠くからおばあさんの病室の前に数人の黒服のボディーガードたちがうろついていたので、玲がお見舞いに来ていることがわかった。奏汰は正直どうしようもなかった。彼はおばあさんが孫たちの結婚を待ち望んでいるのを知っている。しかし、どうして彼には男装女子などを見つけてきたのか。白山玲坊ちゃんには、奏汰はまったくビビッとこなかった。それは玲を初めて見た時、まるでイケメンを見ているような感覚に陥ったからだ。もしそんな玲に心を動かされるのであれば、奏汰は自分が違う方向にいってしまったと感じるだろう。白山家のボディーガードは奏汰が来たのを見て、みんな彼に会釈をした。「結城社長」奏汰は結城グループ傘下の全てのホテル経営を任されている。彼が理仁と一緒にいないときには、みんな奏汰のことを「結城社長」と呼ぶのだ。もし理仁が一緒にいるのであれば、みんなは暗黙の了解で、奏汰のことを「結城さん」や「奏汰さん」などと呼ぶのだ。奏汰は彼らに会釈を返した後、ドアを開けて病室に入っていった。すると玲がベッドの前に座りじっとおばあさんを見つめ、黙っているのが見えた。おばあさんはりんごを食べていて、食べながら何かを言っていたが、玲は特に返事をしなかった。奏汰が入ってきたのを見て、おばあさんはホッと安心したようだった。奏汰はこの状況にさっさと出て行きたい衝動に駆られていた。「奏汰」おばあさんは孫が逃げる隙を与えず、すぐに彼に一声かけた。奏汰はおばあさんたちのほうへ近づき、おばあさんに返事をした後、玲にも挨拶をした。「結城社長」玲は立ち上がって、ただ奏汰にそう言っただけで、それ以上は何も言わなかった。そして少し立ったままで適当な理由をつけて帰ることにした。おばあさんは奏汰に玲を見送るよう
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第1314話

「奏汰、あなただって何か適当に口実を作って玲君を食事に誘いなさいよ。うちのホテルで食べるの」奏汰「……ばあちゃん、どんな理由をつけて誘えっていうんだ?うちのばあちゃんを驚かせて入院までさせてくれてどうもありがとう、とでも言うのか?」おばあさんは言葉に詰まってしまった。そしてすぐ彼に言った。「あなた、すごく頭がいいくせにその理由も思いつかないわけ?おばあちゃんがあなたの考えがわからないと思うの。玲君はとってもいい子じゃないの、あなたにお似合いよ。あなた一日中べらべら、べらべらと話し続けてるでしょ、玲君は静かな人だから二人が一緒になればきっと楽しいわよ」「ばあちゃんも白山さんのことを『君』付けで呼んでるじゃんか、見た感じ本物の男にしか見えないよ。本人だって自分が女性だと認めてないんだ。それなのにばあちゃんは、どうしても俺と白山さんを一緒にさせようとするのかよ。なんだか奥さんじゃなくて、男友達を探してるような感覚だよ、俺。違う方向に向かってるような気がするぞ」おばあさんは笑って言った。「彼女の男装は完璧だものね。かなり研鑽を積んだ人じゃないと、彼女の声を聞いても女性だってわからないわ。彼女、声を出すときはわざとトーンを低くしてるから、あなた達男性が出す低音ボイスとはちょっと違うの。彼女の声には常に女性らしい透明感があるわ、うっとりする低い男性ボイスとは違うのよね。彼女は確かに男性として振舞ってるけど、実際に男か女かは彼女自身がよくわかってる。自分が女性だって認めようとしなくても、服を脱いだら一発でわかることよ」奏汰は耐えきれず尋ねた。「ばあちゃん、俺って本当にばあちゃんの孫で間違いないよね?もし俺のことが何か気に入らないってんなら、直接ステッキで一発殴ってもらって構わないよ。もしそれでも気が済まないなら、もう一発、二発いくらだって殴ってくれよ。こんなふうに俺を地獄に突き落とそうとしなくたっていいじゃないか。俺が白山社長の服を脱がそうもんなら、殴り殺させないほうがおかしいぞ。ここは柏浜で、星城じゃないんだ、柏浜は白山家のテリトリーなんだからね!」奏汰はおばあさんから追いつめられることに不満を漏らしていた。その時も手の動きは止めずに、入院食をおばあさんに食べさせようとしたが、それを拒否されてしまった。おばあさんも別に大怪我をしたわけでも
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第1315話

「あなた達も『足るを知る』を学ばないとね。おばあちゃんは確かにあなた達の結婚のことでうるさいかもしれないけど、東おばあさんのようにはしてないでしょう。ただあなた達の性格を考慮して、相応しい女の子を探してあげているだけなのに。あなた達には自由に互いの距離を縮めていっていいって言ってるんだから、十分すぎるくらいあなた達を尊重しているでしょう。それもこれも、あなた達の両親が無責任なのがいけないの。口では少しだけ催促したけど、実際には何もしようとしないんだもん。それでこの老いぼれがわざわざ出て行くことになったわけよ。毎日あなた達に裏でこの有無を言わさぬクソババアめ、だなんて罵られる羽目になったわ」奏汰はすぐに弁明した。「ばあちゃん、俺たちは有無を言わさぬクソババアだなんて言った覚えはないよ。ばあちゃんは何か押し付けてくることはないって、一番開放的な考え方を持った人だ。みんなばあちゃんのことが大好きなんだぞ」彼らの両親は口先だけで結婚しろと催促するが、何か行動を起こすことはなくおばあさんに任せっきりなのだ。それは孫たちが最も尊敬する人物はおばあさんだった。何をされても怒ることはないと知っているからだ。あの性格の理仁でさえも、結局はおばあさんに屈してしまった。しかも理仁と唯花は今とても幸せに暮らしている。これはおばあさんにさらなる熱意を植え付けることになった。おばあさんが動けば、孫たちはみんな幸せを手に入れられると思っているのだ。「そんなふうに媚びを売る必要はないわよ。おばあちゃんは媚びなんて買わないわ。ただ孫のお嫁さんとひ孫の女の子が欲しいの。あなた達の中で女の子を産んだ人には、しっかり巨額のお祝い金で労うんだからね!」奏汰は言った。「その件に関しては理仁兄さんとその奥さんに言ったらいいよ、もう結婚してるんだしさ」彼と玲はまだ何も始まっていないのだから。「私も唯花さんの前では何度かその話題を出したけど、これ以上は話せないのよ。また言ったら子供を産まないとってプレッシャーを感じてしまうでしょ。ああ、あの二人は今すごく仲良く過ごしているのに、どうしてまだおめでたの知らせが届かないのかしらね」おばあさんは唯花たちの前で子供の催促をしていないと言ってはいるが、心の中ではかなり焦っているのだった。「結婚してからもそう時間が経ってないし、結
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第1316話

琴音は普段から食後に散歩する習慣があった。その時、美乃里は隼翔に目を向けた。隼翔は兄三人と最近の株式市場の動向について話し合っていた。それで母親と琴音の会話には全く気づいておらず、母親からぎろりと睨まれていることにはなおさら気づいていなかった。すると次男の東大樹(あずま だいき)が気づいて、彼を小突き、小さな声で注意した。「隼翔、母さんがお前のことを見ているよ。きっと何かお前に用があるんだろう」隼翔は母親のほうを振り向いて、笑って尋ねた。「母さん、どうしたんだ?」なんだ、意味深な目で見てきて。「琴音ちゃんが散歩に行くんですって、あなたも付き合いなさい」美乃里はこの息子には自分の苦心を感じ取ってもらえるとは期待していなかった。彼女が直に言ったほうが手っ取り早いだろう。隼翔と琴音の二人で散歩をさせたい意思を伝えた。隼翔は琴音を見て尋ねた。「樋口さん、ここには結構長い間いたので、この辺りにはもう慣れてしまったのでは?そんなに広大な敷地でもないですし、一人で散歩しても迷うことはないでしょう」その瞬間、美乃里の表情は一気に不機嫌になった。何か物を手に取って息子に殴りかかってしまいたい衝動に駆られた。琴音は笑って言った。「一人でも迷いません。ただ一人で散歩するのはつまらないから、誰かおしゃべりしながら散歩に付き合ってくれる方がいたらいいなと思って。隼翔さん、ちょっと私と一緒に散歩してもらえませんか?」隼翔は兄たちと両親からじっと見つめられて、彼女の誘いを断る言葉が口元まで来ていたのだが、それをまた呑み込んでしまった。彼は言った。「今は太陽が照っていて、暑いですよ」今も別に夕方の時間ではないし。星城は三月、四月でも暑さを感じられる。五月になると、ほとんどの人はすでに半袖シャツを着て、扇風機から離れられなくなるのだ。「今日は風が強いから、少しも暑くないわよ」美乃里は言った。「琴音ちゃんはお客様よ、もっと時間を作って交流なさい。つべこべ言わずさっさと行ってらっしゃいな」隼翔は三人の兄たちを見つめ、彼に代わって何か言ってくれるのを期待していたのだが、兄たちは隼翔から目をそらして見ようとしなかった。逃れる手段がなくなり、隼翔は仕方なく立ち上がるしかなかった。そして琴音に向かって言った。「樋口さん、行きましょう
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第1317話

隼翔の三人の兄たちは返事をすることができなかった。これ以上、弟をかばうような発言をすれば、母親から弟を甘やかしすぎたから彼は三十六になってもまだ独身なんだと恨み言を言われてしまうからだ。隼翔は琴音に付き合って家を出た。二人は敷地内にある林道の小道をぶらぶらと散歩した。しかし、隼翔の歩く速度はとても速かった。琴音はハイヒールを履いていたので、彼について行くのはとても大変だった。「隼翔さん」琴音は自分が辛い思いをして誰かに合わせるようなタイプではない。小走りで隼翔のほうへ近づき手を伸ばして彼を引っ張った。「どうしました?」隼翔の琴音に対する態度は良くも悪くもない。彼は別に琴音を嫌っているわけではない。ただ、この女性にビビッと何かを感じないのだ。それに彼も家から自分の相手を勝手に決められるのは好きではない。「隼翔さんは私とジョギング大会でもしているんですか?」隼翔はおかしそうに黒い瞳を瞬かせていた。「散歩するのではなかったのですか?ジョギングは食後には良くないですよ。そんなことしたら腹が痛くなりますよ」琴音「……隼翔さん、そんなとぼけたふりなんてしなくていいです。あそこに椅子がありますね、ちょっと座ってお話しましょうよ」隼翔は別に彼女と何か話して面白いことなどないと言いたかった。ビジネスの話にしても両家はまだ提携を結んでいないから、何も話すようなことはない。それでも彼は琴音と一緒に石でできた長椅子のところまで行った。そこに座ろうとした時、琴音がそれを止めた。彼女はカバンの中からいい香りのするウェットティッシュを取り出して、その椅子を何度も拭いてきれいにした。拭き終わって捨てると、彼女は彼に座るように言った。この女性はやはり気遣いができる人なのだ。隼翔はそんなことは気にしないような態度で座りながら言った。「うちで雇っている人が毎日敷地内にある椅子やテーブルを綺麗に拭いてますから」「最近風が強いので、土埃が舞っています。毎日お掃除されていても、やっぱり少し汚れてしまいますよ。さっき拭いた後にティッシュを見たら、灰色になってましたし」隼翔は笑って彼女に尋ねた。「樋口さんは潔癖症なんですか?」「いいえ」「よかった、俺は潔癖なやつが苦手なんでね。俺みたいな適当な人間が潔癖な人と一緒にいると合わな
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第1318話

琴音はその意見には賛成だった。「私も同じ考えです。仕事の時は仕事の話をして、休む時は仕事の話は持ち込まないでしっかり休むべきですから。隼翔さん、ちょっといくつか質問してもいいですか?」隼翔は気にせず言った。「どうぞ」「私たちの両親は私と隼翔さんをくっつけたいって考えてますよね。私は隼翔さんのことをいいなって思ってます。とても隼翔さんのことが好きだって言えます。愛しているかと言われたら、それはまだちょっと早いかなって。だけど、長い時間一緒に過ごしていれば、きっと隼翔さんに愛が芽生えるはずです」琴音の瞳には、隼翔が彼女のターゲットに映っている。彼女が彼を好きだと言ったその気持ちは征服欲のようなものだ。愛に関しては、彼女も言っていたが、今愛していると言っても、隼翔が信じないだけでなく、彼女自身も信じられない。一目惚れは、お互いに起こるものではない。「だけど、隼翔さんはいつも逃げるでしょう。私は魅力がありませんか?それとも隼翔さんには他に好きな人がいるんです?」隼翔は琴音がここまで、どストレートな質問をしてくるとは思っていなかった。全く隠さず、遠回しでもなく、直接的に彼に聞いてきたのだ。この性格は彼のいい友人になるのにちょうどいいだろう。彼は琴音を見ていた。この時初めてここまで近くで彼女をちゃんと見たのだ。彼女は確かにとても綺麗な人で、どこを取っても非常に優秀である。彼の母親のようにあんなに人を選ぶ人間でも琴音には満足しているのは、彼女が元々すべての方面で優れているからだ。両家はどちらも財閥家である。違う市に住んでいるが、今は交通が発達していて別々の市にいたとしても、両家の婚姻には問題はないのだった。A市の桐生家が望鷹の篠崎家と親戚関係になったが、あの両家の距離こそ遠いと言える。「樋口さんはとても魅力的だと思いますよ。若くて綺麗で、できる女性だ。母さんの中では理想的な息子の嫁でしょうね」琴音は笑った。「おば様の中で理想の嫁であっても意味ないじゃないですか。私は隼翔さんにとって、私が理想的な奥さん候補かどうか知りたいんです」隼翔は少し考えてから口を開いた。「俺は仕事がとても忙しいです。俺の妻も仕事がとても忙しいなら、朝早くに出かけて夜遅くに帰ってくるから、夫婦二人の時間なんて少ないですよ。それは温かく幸せな家庭に
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第1319話

隼翔は母親に勝手に決められるのが嫌いだった。しかし、琴音が言った話も確かにその通りだと思っていた。「話してみたら、私と隼翔さんの考え方は似ているって気づきました。私のこと、魅力があると思っているなら、ちょっと付き合ってみませんか?隼翔さんが私と一緒に過ごしてみてやっぱり好きになれないなら、もうあなたに付き纏うことはしません」琴音には別に彼女のことが好きな人が他にいないわけでもないのだ。隼翔「……」「隼翔さんには好きな人がいるんですか?」「いや」隼翔は自分には好きな人がいないと否定しているが、脳裏には不思議にも当初はふくよかでだんだんスリムになっていったあの面影が浮かんでいた。これは焦ってしまう。彼は理仁たちの前でも完全に自分は唯月には一切の感情を抱いていないと豪語していたというのに。それがどうして唯月のことを思い浮かべてしまうのだろうか?彼が好きなのはあの可愛らしい陽だ。陽の母親ではない。隼翔は我に返ると、急いで唯月の姿を頭から追い出して、もう彼女のことを考えないようにした。琴音は笑った。「それだったら、私たち、ちょっと試しに付き合ってみましょうよ。もし隼翔さんに好きな人がいるなら、それは誰なのか教えてください。私がその人と比べて何か足りないのか見に行ってみます。そして頑張ってみますが、それでも負けてしまったらもう諦めますから」何をするのも、彼女は出来る限りの努力をする人間だ。努力に努力を重ねた結果負けてしまったら、おとなしくそれを認めるのだ。負けを認めるのは恥ずかしいことではない。それは自分を解放してあげることと同じことなのだ。もし頑なに負けを認めず、いつまでも固執してしまえば、結局傷つくのは自分自身なのだ。それは自分で自分を苦しめる行為ではないか。隼人「……俺には時間がないですから、恋愛している暇などないですよ」「そんなに時間を取らせようというつもりはないです。ただ一緒に食事したり、ちょっと街をぶらついたり、週末にはドライブしたりするんです。時間があれば映画を見に行ったりしてもいいでしょう」隼翔は言葉を詰まらせた。「隼翔さんがあまり乗り気ではないのなら、私のほうがまず頑張ってみます」この時、琴音は正式に隼翔に対して彼を追いかけるつもりだと宣言したのだった。隼翔はこの勇気のある女性を見つめ
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第1320話

唯月は自分でも言っていたが、彼女が上流社会に溶け込めないと思っているうちは、絶対に無理にその世界には足を踏み入れないということだ。あの世界に溶け込めるようになった時には、わざわざ気を張る必要もなく、とても自然に踏み込んでいくはずだ。理仁はこの点に関して義姉のことを高く評価していた。今の自分自身をよく知っており、また自分を蔑むこともない。「このドレスを着るの?ちょっとおかしくない?」唯花は彼が選んできたドレスを受け取った後、それをじっくりと上から下まで確認して、なんだか問題があるような気がしたのだ。しかし、彼女もどこが悪いのか思いつかなかった。「綺麗じゃないか、とても似合うよ。君はスタイル抜群で、ルックスも良い。それに気品もある。どんなドレスを着たって綺麗だよ」唯花はそのドレスを手に持ったまま言った。「自分で選んでくる」クローゼットの中にある服は、どれも理仁が彼女のために用意したものだ。様々なデザインのドレスがお店が開けるほど大量にある。唯花が自分で選ぶときは、ドレスの見た目が良いか悪いかだけに集中し、肌の露出がどのくらいなのかは気にしていなかった。結局、彼女が選ぶドレスはどれも理仁によって却下されてしまった。「唯花、やっぱり俺が選んだドレスにしよう。絶対に高貴なオーラが出るから」肩も背中も露わになることはないし。その言葉は理仁は口に出せなかった。唯花は彼を見つめていた。理仁はそんな彼女に向かって笑った。「唯花、俺の見立てを信じてくれよ。このドレスを着れば、絶対今夜の注目の的になること間違いなしだ」彼が彼女の傍にいるだけで、たとえ唯花が目立たない衣装を着ていたとしても、会場全体から注目を集めることになるのだ。唯花は片手でドレスを抱きしめ、もう片方の手で力を込めて彼の額を突っついた。「この俺様野郎!」理仁が彼女のために選んだドレスを着なかったら、彼女が選んだドレスに対していろいろとケチを付けてくるのだ。このような、彼の相手に有無を言わさぬ気質を唯花もわかっている。唯花はドレスに着替えながら言った。「ここにある全部、あなたが私に買ってくれたものでしょ。いいとか悪いとか、全部あなたが選んできたものでしょう?どれを着たってそう変わらないじゃない」彼女が自分で買ったものと伯母がプレゼントしてくれたものは、す
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