交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています のすべてのチャプター: チャプター 1331 - チャプター 1340

1358 チャプター

第1331話

理仁のボディーガードたちはその職業柄、慣れた様子で理仁と唯花に道を作った。誰にも気安くこの夫婦に近づけさせないのだ。二人は理仁の両親の後ろについて、出迎えに出てきた小松家の人たちのほうへ歩いていった。両家はお互いに挨拶をかわした。小松家の視線は最後に唯花に移った。この日、唯花が人の目を奪うほど美しく、気品のあるオーラを出し堂々と落ち着いているので、一般家庭出身者のようには見えなかった。理仁と唯花が結婚していることはかなり前に公になっていた。しかし、彼らは一緒にこのような社交界のパーティーに揃って出席したことがなかった。唯花は普段、神崎夫人とともに出席していた。小松夫人は全くそのようなパーティーには顔を出さないので、小松家はみんなこの時初めて結城家の若奥様となった唯花と会ったのだ。星城でこの半年ほど最も話題にのぼっていた人物は、この結城理仁の妻だった。小松家から見れば、この結城家の若奥様は世間で言われているような田舎者ではなかった。そんな噂とは逆に、唯花と理仁が一緒にいると様々な面から見てもお似合いだと思っていた。まるで神が作り出したカップルのようだ。唯花のことを役不足で、結城理仁には似合わないと言っている連中は、絶対に自分にはそんな幸運が舞い降りていないということで、結局は唯花が神の寵愛を受けた幸運の持ち主だと羨ましく嫉妬しているだけなのだ。「こちらは妻の唯花です」理仁は唯花を小松家に紹介した。そして彼はまた小松家のメンバーを唯花に紹介していった。それが終わると唯花は彼らに微笑んできちんと挨拶をした。夫人の小松真由美(こまつ まゆみ)が麗華に言った。「麗華さん、本当に羨ましいわ。息子さんのお嫁さんは一目で幸運の持ち主だってわかる子ね。それに善良で孝行者な方でしょう。あなたは将来安心して暮らせるわね」麗華は笑顔で言った。「そうね。うちの唯花さんはしっかりうちに溶け込んで、よくできたお嫁さんだと思うわ。私には娘がいないから、お嫁さんのことを娘のように大切にするつもりよ」真由美は笑った。「それは見ただけですぐわかるわ。あなた、本当に唯花さんのことを大切にしているわよ」結城おばあさんが昔麗華に贈ったいくつかのジュエリーセットはかなり高価なものである。麗華は多くの宝石を所有している人間だ。あのおばあさんから贈られたジ
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第1332話

真由美は唯花の声がとても綺麗だと思い、親切そうに唯花の手を取り、また褒め言葉を述べた。みんながどのように彼女を褒めても、唯花は臆することなく素直にそれを受け止めていて、彼女を笑い者にしたいと思っている多くの人たちはみんながっかりしてしまった。ある人たちは、神崎夫人は礼儀作法を教えるのがとても上手だと感じていた。この結城家の若奥様は神崎夫人と何度かパーティーに出席して、田舎娘だった彼女がこんなに堂々とした名家の貴婦人へと変わったのだ。そして理仁たち一行は小松泰蔵に挨拶に向かった。泰蔵は唯花を暫くの間観察した後、褒め言葉を並べることはなかったが、招待客たちの目の前で彼女に貴重な贈り物をしたのだ。そして理仁に向かってこう言った。「お二人は仲良く日々を過ごしなさい。君のおばあ様はいつだって正しいのだから」理仁は泰蔵にとても穏やかな口調で言った。「ありがとうございます、泰蔵おじい様、彼女を愛し、二人の日々を大切にしていきます」泰蔵は慈しむように笑った。彼は結城おばあさんよりも年上で、体力的にも落ちている。それで理仁のように身分も高く社会的地位のある若者世代とだけ会うのだった。普通の人なら、彼の邪魔になることを恐れ近寄ることもない。そして名高い名家の者たちも続々と会場に集まってきた。詩乃と航の夫妻が娘を連れて遅めに到着した。玲凰夫妻は来なかった。理紗が今妊娠中でつわりの症状が重い。パーティーは多くの人でごった返しているから、ここに来て人の中で、もみくちゃにされては体に良くない。それで玲凰は妻が参加するのを頑なに拒否したのだ。彼も参加せず家で妻に付き添っている。神崎家の次男坊である昴はビジネス関連の仕事をしていない。だから昔からこのようなビジネス界のイベントには参加しないのだった。それで詩乃は夫と娘と一緒にやって来たのだ。神崎家の三人も泰蔵に挨拶をしに行った。泰蔵は玲凰夫妻の二人が見あたらないので、詩乃に尋ねた。「玲凰君と理紗さんはどうした?」詩乃は微笑んで言った。「理紗がおめでたでここに来るのはちょっと体に影響があるかと、息子が家で彼女に付き添っているんです。玲凰から泰蔵おじい様のほうに伝言を頼まれました。今夜、この場に来られず、パーティーを盛り上げることができなくて申しわけないと」泰蔵は笑った。「みんなが大人にな
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第1333話

パーティーの主催者に挨拶を済ませると、みんなそれぞれ友人を探したり、おしゃべりをしたり、ビジネスの話をしたりし始めた。唯花は最初、理仁の傍にずっとついていた。理仁は自分から誰かにビジネスの話をしに行く必要はないが、自ら彼と提携の話をしたいと思っている社長はごまんといる。理仁がどこに行こうと、みんなの注目の的になり、ちやほやされるのだ。唯花は小声で夫に言った。「以前あなたとは肩を並べられるようになりたいだなんて豪語したけど、これではまるで月とスッポンね」彼女が彼と肩を並べられずとも、引き離されないように後ろを走っていくだけでも、なかなかのものだろう。理仁は唯花とぎゅっと絡め合った手を上に高く引き上げ、真っ黒な瞳に笑みをたたえて彼女をじっと見つめた。そして優しくこう言った。「今俺たちはこうやって手を繋ぎ合って、肩を並べてるじゃないか。唯花、俺の中では君とは何も差なんてないんだ。もし何か差があると言うのなら、それは男女という性別の差だけだな」唯花は笑った。彼女は伯母について暫くの間社交界の礼儀作法を学んできた。それで多くのことを受け入れ、たくさん学んだ。それで以前と比べるとかなり自信がついているのだった。理仁は最初から高みにいる。彼女がそんな彼に追いつこうと思ったところで、それは不可能なのだ。唯花はすでに彼の妻であり、それは変えようのない事実だ。結城家側は彼らのことを反対したことはなく、彼女を嫌うこともない。それならば、自分で勝手に悩む必要はないだろう?すべて自然の流れに任せればいいのだ。それに彼女は引き続き努力を止めはしない。自分で始めたビジネスがどの程度まで行けるのか、その結果を彼女は受け入れられる。結城家の若奥様として、正面から受け止めなければならないことがあるなら、彼女もそれに毅然として立ち向かっていくのだ。周りから高く評価されることも、貶されても、皮肉を言われ嫌われるようなことがあったとしても、すべてを受け入れていくのみ。人は生きていく中で、誰からも好かれるわけではない。いくら自分が素晴らしい行いをしたところで、誰かが粗捜しをして嫌味を言ってくるのだ。だから自分自身に恥じない生き方をすればいい。人の口に戸は立てられぬ、他人の意見にいちいち左右されていてはやっていけない。彼女は結婚し、しかもそれは財閥家の
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第1334話

社長夫人の言いなりだという言い訳を、この男はどうやら一定期間ずっと利用しているらしい。なるほど、それで最近彼が家に帰ってきた時に、ただ爽やかな香りしか漂ってこないわけだ。もちろん、唯花も理仁にあまりたくさんの酒を飲んでほしくなかった。彼はある時期胃の調子を悪くしていて、彼女が時間をかけてようやくその状態を良い調子に整えたのだ。酒が飲める状態まで回復したとしても、飲まないのが一番だ。ただ、彼はわざと妻の管理が厳しいというイメージを植え付けているのだ……理仁はサッと唯花の腰に手を回して抱きしめた。そして笑いながら悟に訴えるように語り、明凛に向かって言った。「牧野さん、そんなに楽しそうに笑わないでいただけますか。悟もあなたのことを言い訳に使ってるんですよ」明凛は笑って言った。「それは別に構いませんよ。彼が健康であればそれでいいんです。私を使いたいなら好きに利用すればいいです。あなた達二人は似た者同士ですね。私も唯花も別に厳しく管理していないし、自由にさせているっていうのに、あなた達はどうであっても私たちに『厳しい妻』というレッテルを貼りたがるんですから」唯花も笑った。「周りから笑い者になるのが怖くないのね」「どのみち、誰ひとりとして俺の妻の管理が厳しいと笑う度胸のあるやつはいないからな。周りは俺が妻を溺愛していると高く評価することしかできない」この時、理仁はかなり偉そうだった。彼の外での顔は、いつも不機嫌そうに冷たくこわばらせた顔で、その唇もぎゅっと引き締めている。瞳は暗く沈め、彼に少し見られただけで、心まで凍り付いてしまいそうになる。このように厳しく冷たい男だから、彼の目の前で妻の管理が厳しいと笑い話にしようとする命知らずなどこの世にいるはずがない。今、結城理仁の話題になったら、誰もが彼は妻を溺愛していて、唯花を一番に置いていると言うのだ。「俺と理仁は親友だから、みんなから俺らは似た者同士、類は友を呼ぶって言われてるよ」唯花と明凛「……」この二人、本当に類は友を呼ぶ、だ。「二人でおしゃべりでもしてて、私と明凛は伯母様に挨拶してくるから」唯花はそう言うと、明凛を引っ張って去っていった。理仁はその二人の後ろ姿を見つめて、悟を責めた。「せっかくいい雰囲気だったのに、お前、どうして俺のところまで話しかけに来るんだよ
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第1335話

理仁と悟はグラスとコツンと合わせた。しかし、酒は飲まずに答えた。「やつの奥さんが妊娠しているだろう。お前だって今知ったわけじゃないんだ。今夜はこういう場所だ、お前ならそんな奥さんを連れて現れるか?」悟は言葉を詰まらせて言った。「忘れてた。俺にとってはそんなに重要な人物じゃないから、全然考えてなかったよ。明凛がもし妊娠したら、歩くことさえさせたくないね、直接俺が抱っこして歩くよ」理仁はそれがおかしくてこう言った。「妊娠は病気じゃないだろ、そんなに構えてどうするんだよ。妊婦さんだって適度な運動は必要だぞ」悟は口を尖らせた。「よく言うじゃないか。社長夫人が妊娠して、今のようなセリフを吐けるなら、俺がお前にご馳走してやるよ」「奢られる必要なんてあるのか。今時間があれば唯花さんに俺が料理しているんだ。その腕は以前にも増してさらにレベルアップしたんだぞ」二人は小声で話しながら、会場のにぎわっているほうへ向かっていった。「結城社長、九条さん」多くの人が二人にグラスを上げて挨拶をした。悟は笑顔で、会釈していた。理仁は相変わらずこわばった表情で、微かに会釈していた。それでみんなへの挨拶代わりだった。理仁は常にある場所へ視線を向けていた。それは唯花のいるほうだ。七瀬たちボディーガードは以前と同様、黙って理仁の傍についていた。唯花が不在の隙を狙って理仁に近づこうとする若い女性を妨げるためだ。結城理仁はもう既婚者だというのに、多くの女が諦めず狙っているのだった。恐らく、結城家の長男が、周りの男たちと同じで、感情や欲望を普通に持っていて、女性が好きだということがわかったからだろう。唯花と張り合おうと馬鹿な考えを持っているのだ。この時唯花は、夫がずっと自分のことを見守っていて、その瞳には唯花しか映っていないなどと知りもしないだろう。彼女と明凛は一緒に詩乃と姫華のところへ向かった。この時、詩乃は数人の名家の夫人たちとおしゃべりしていた。姫華は母親の隣にいて、その場に合う笑みを浮かべていた。彼女は、なんだかもうその笑みで顔が引き攣ってしまいそうだと思っていた。その時二人の友人の姿を見て、姫華は重荷から解放された。これでこの状況が緩和されるだろう。唯花と明凛はまずその場にいた夫人たちに挨拶した。「唯花さん、ちょうどよかった。
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第1336話

悟がさっさと明凛を奪っていなければ、詩乃は彼女と次男である昴を一緒にさせたいと思っていた。それを知れば悟はきっと、理仁が赤い糸を引いてくれてよかったと思うだろう。さらにそれを理仁が知れば、赤い糸を引いてやった代金を請求するだろう。姫華は母親と夫人たちの輪から逃れ、ほっと一息ついた。そして唯花と明凛に助けに来るのが遅い、と文句をたれた。「いくらなんでも大袈裟でしょ」唯花はおかしくなって言った。「そんな『助ける』だなんて。ご夫人方は、とっても話が通じる方たちでしょ」明凛はニヤニヤとして言った。「夫人たちがあなたを見つめる目はとっても優しかったわよ」しかし姫華のほうは、体をぶるっと身震いさせて言った。「あの人たちは、私を息子の嫁候補として見つめるのよ」その瞬間、唯花と明凛はおかしくなって笑い出した。「唯花、見て」この時、姫華が突然唯花を突っついて、ある方向に向かって口を尖らせた。「どうしたの?」唯花と明凛が姫華が言ったほうへ目線を向けた。明凛は隼翔が知らない女性と一緒にいるのを見たのだ。しかし唯花のほうは、別におかしいと思わなかった。それは隼翔と琴音で、琴音は東夫人が息子の嫁候補として選んだ女性であるのを知っているからだ。「東社長の隣に女性がいる」姫華は言った。「彼って唯月さんのこと……」唯花は姫華の言葉を遮り、小さい声で言った。「姫華、それは私たちがただ疑ってただけ。実際はそうじゃないのよ。お姉ちゃんと東社長は普通の友達よ」東夫人は唯月のことを嫌っている。それに唯月も隼翔のことをなんとも思っていない。だから唯花はみんなが姉と隼翔の関係を疑うのが嫌だったのだ。すると姫華はすぐに理解した。そして言った。「そうね、全部私たちの勝手な憶測だし。あの人を知ってるの?唯花、さっき全然驚いてなかったじゃない」「一回会ったことがあるの。彼女と東社長が一緒にお姉ちゃんのお店で朝ごはんを食べたことがあって、挨拶したのよ」「なるほど、そうだったんだ」姫華は唯花の腕を組んで小さな声で言った。「東社長は顔に傷があって、唯月さんには合わないわよ。東夫人も唯月さんのことを見下しているし、彼らの間になにもないのが一番だわ。お母さんがいるんだから、唯月さんが再婚したいと思えば、もっと良い男性を紹介して
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第1337話

「若奥様」唯花たちが少し進んだところで、加奈子と咲の二人が目の前に現れた。咲は加奈子に引っ張られる形でついてきていた。唯花は咲がもう少しで転んでしまいそうになった時、反射的に手を伸ばして彼女の体を支えた。「咲さん、気をつけて」唯花は咲を支えてから、加奈子のほうへ目を向けた。この時加奈子は笑顔を作り出した。「ありがとうございます、この子を支えてくださって。この子ったら目が見えないものだから、すぐ転んじゃうんですよ」姫華が言った。「彼女は目が見えないのに、引っ張り回してるんですか?」この瞬間、加奈子の笑顔がこわばった。「明日はお日様が西からあがってくるんでしょうね」と姫華は皮肉を漏らし、加奈子をじろりと見た。「柴尾夫人って、今回初めて長女さんを連れてパーティーに参加されましたよね。本当に珍しいことです。ねえ、明日はお日様がびっくりして、西からあがってくるんじゃない?」加奈子は姫華にそう皮肉られて腹を立てていたが、それを表情には出さずに依然として作り笑いを保っていた。「以前は、この子の目が見えないから、パーティーに連れてきても、ずっとお世話してあげられないから、もし何かあったらと気にしていたんです。それに、この子はこういう場が苦手だから、連れて来たことがなかったんですよ。だけど、もう子供じゃないんだから、そろそろ社交界デビューをして、みなさんとお知り合いにならないと」この場にいた人たちは、加奈子の言葉の裏に隠された真意がわかっていた。もう十分育ったんだから、そろそろ出荷されていくべきだろう。ずっと淡々として感情の起伏のない咲を見てみると、この時の彼女は綺麗に着飾って薄化粧をし、非常に美しかった。もし彼女が目の不自由な人間でなければ、このようなルックスなら、鈴など全く相手ではない。この上流社会にいる人がどのような人間か熟知している姫華は、咲が良い家と婚姻関係を結ぶのは難しいだろうと思った。目が見えないからという理由だけでなく、この柴尾加奈子という実の母親のせいだ。誰がこんな母親のいる娘と結婚させようと思うだろうか。絶対その母親の偏愛ぶりに苛立ち、気が気でなくなるだろう。結城おばあさんはどうして咲を辰巳の妻候補として選んだのか?姫華はとても不思議だった。唯花に尋ねても答えは得られず、最も素早く噂話をキャッ
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第1338話

唯花は小声で咲に尋ねた。「咲さんとどこかの家の御曹司をお見合いさせるつもりですか?」咲は唇を噛みしめて、小声で返した。「あの人は私をどこかの御曹司と結婚させたりしないでしょう。ただ私を貢物のように誰かに突き出すつもりです。ただ彼女にとって有利となる人なら誰だっていいんです」それを聞いた唯花は怒りが頂点に達した。唯花の怒りを感じ取ったが、咲は軽く笑って言った。「大丈夫です。自分のことは守れますから」彼女は小さなナイフを服の中に隠している。唯花はまだ何か言おうとしたが、咲が彼女の手のひらを突っついたので、唯花はそれ以上何も言わなかった。加奈子は比較的静かで、隅の方の場所を選び、唯花を座らせた。「若奥様、何かお食べになりますか。取ってきます」「どうも、ですがその必要はありません。柴尾夫人、なにかあるのならどうぞ」加奈子は申し訳なさそうに笑って言った。「若奥様とうちの咲は初めて会った時に、旧知の友人のように思われたんですよね。もう友達同士でしょう。鈴はこの子の実の妹です。若奥様、あの、咲のことを考えて、鈴を起訴するのを取りやめてもらえませんか?鈴が間違っていたことは認めます。彼女も自分の過ちを反省しているんです。あの子はまだ若いから、物事を理解していないのです。でも、ご安心ください。今後はしっかりあの子を教育しますから、二度と若奥様にご迷惑をかけません。鈴が壊してしまったお車は、同じ車を二台弁償させていただきます。他に何か要求があれば、忌憚なくおっしゃってください。私にできることならなんだっていたします。若奥様、我々はこの上流社会で生きる者同士、よく顔を合わせる仲ですよ。あまりにギクシャクしているのは、よろしくないかと。若奥様、そうでしょう?寛容に許すことも時には必要ですよ」この時、加奈子はこっそりと咲をきつくつねっていた。咲は痛みに顔を歪めた。「柴尾夫人、咲さんに何かしました?」唯花は咲が顔を歪めて痛そうにしているのを見て、暗い表情になった。そしてまた咲を心配して言った。「咲さん、この人に何をされました?」「若奥様、咲は私の実の娘です。そんな娘に何ができるというのですか?咲はきっと何か食べてお腹でも壊したのでしょう。お腹が痛いのね?」もしあの大切な鈴のためでなければ、加奈子は本気でこの田舎娘と思っている唯
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第1339話

唯花は険しい表情で言った。「柴尾夫人、別に私があなたの次女に刑罰を受けさせるまで許さないと言ってるんじゃなく、あなたの娘がやった事に対して、刑罰が課されるかは法が決めることだと言ってるだけよ。私はまた自分が傷つけられるのが嫌なのよ。あなたの娘なら自分が一番よくわかっているでしょ。あなたはさっきあの子が自分の過ちを反省していると言っていたけど、今後もう二度と私に何か仕掛けないという保証はどこにあるわけ?あなたがあると言っても、私は信じないわよ」加奈子は不機嫌な顔で唯花を睨みつけていた。夫からいつも、若奥様と和解して娘を許してもらえるようにちゃんと話し合えと言われている。この田舎娘としっかり話し合おうとしていないか?娘に代わって謝罪をしなかったか?謝罪の品まで持っていったのに、この女は情の欠片もない人間なのか?咲を送って話もさせたのに。それなのに、この女は全く聞く耳を持たず、どうしても鈴を起訴するというのだ。加奈子は心の中で歯がゆくて仕方なかった。唯花が加奈子と鈴を許さないというのであれば、唯花にも安心して日々の暮らしを送らせてたまるものか。彼女は立ち上がると、冷たい表情で言った。「若奥様、これで失礼します」そして彼女は咲のほうへ手を伸ばして掴もうとした。咲と唯花を一緒に居させたくないのだ。この長女がいなければ、鈴も唯花と因縁を持つとこにならなかったというのに。「咲、行くわよ」加奈子が手を伸ばして咲を掴もうとした瞬間、咲はその手を振りほどいて淡々とした口調で言った。「私は目が見えないから、あなたと一緒に会場を回って夫人たちの輪に入ることはできないわ。ここでパーティーが終わるのを待ってから帰る」加奈子は氷のように冷たい声で言った。「私と一緒に来ないというのなら、もう家に帰って来なくていいわ!咲、もう一度聞くわよ。私と行くの、行かないの?」咲は座ったまま動かなかった。加奈子は冷たく笑い唯花をちらちと一瞥した。「咲、いい度胸じゃないの」そしてギロリと長女を睨みつけた後、加奈子は背を向けて、偉そうな態度で去っていった。彼女が去ると、唯花は心配そうに尋ねた。「咲さん、本気で家にあなたを入れさせないなんてことにならないでしょうか?」「あんな家、帰ろうと帰るまいと同じことです。あそこでは私は透明人間ですから」
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第1340話

唯花も以前、小説やテレビドラマの中だけで、薬を持って誰かを陥れるというシーンを見たことがある。それがまさか現実世界の中でもこのようなことが起きるのか。しかも実の妹が姉に薬を盛るなど、姉の一生を台無しにする気か。咲は少し黙ってから言った。「あの子が私に薬を盛るのは一度や二度の話じゃないですから」唯花「……」「あの人たち、あなたへの扱いがひどすぎます。引っ越してどこかに住んだらどうですか」あんな人間と一緒に暮らすのは、危険すぎる。すると、咲はまた暫く黙ってから、苦しそうに言った。「あれは私の父が私のために残してくれた家です。どうして引っ越して出て行けるでしょうか。出て行くのは私ではなく、あの人たちのほうです!昔、あいつらは子供の私をいじめていた。今は目の見えない私をいじめるのです」唯花の美しい瞳が揺れた。まさかそういうことだったのか。理仁は分析して話してくれたことがある。咲の実の父親は恐らく殺害されたのだ。咲が十六歳の時に患った重い病気で命を落としかねた時、柴尾家は誰も彼女を病院に搬送しようとしなかった。つまり、彼女に死んでもらいたかったのだ。もしかして咲の父親は亡くなる前に何かに気づいたのではないだろうか。それで死ぬ前に遺書を残し、多くの財産を咲に残していたのでは?あいつらは咲を殺し、その財産を奪い取ろうと企んでいるのか?それとも咲は自分の父親の本当の死因を知っているのだろうか?彼らは咲が父の仇を取ろうとするのを恐れて彼女を殺そうとしたのか?咲は運良く、遠くにお嫁に行ってしまったおばが実家に親戚に会いに帰ってきた時、咲の病気に気づいて病院に運び、なんとか一命をとりとめることができた。しかし、光を失ってしまった。咲が今まで生きてこられたのは、きっと彼女が失明したからだろう。何も見えないから、多くのことが自分一人ではできない。だからあいつらは彼女の命を留めているのだろうか?唯花は咲はまさに謎多きサスペンスドラマのような壮絶な人生を送っていると思った。疑わしい点は多いが、すぐにはそれを紐解くことはできない。彼女はその答えを知りたくてもはや気が気じゃなかった。唯花は咲の手をぎゅっと握り、彼女に慰めの言葉をかけた。「咲さん、何か知っていて、ずっと隠していることがあるなら、今は現状を維持しておいて。生きることが一番重
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