《交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています》全部章節:第 2121 章 - 第 2130 章

2456 章節

第2121話

つまり、黛家当主は馬鹿ではないということだ。彼女は黛一族が不利になるような事などしない。「玲の言うとおりですよ。黛さんがこれから来たい時にいつでも来てください。私たち家族みんな喜んでお迎えしますからね」弥和は凪がいつ来ても大歓迎のようだ。彼女は娘が凪から女性とはどのようなものか学ぶのに良い機会だと捉えているのだった。さほど期待はできないが、弥和は少しでも希望を持ちたいと思っている。それにしても、本当に彼女は後悔していた。過去、娘を息子として育てるべきじゃなかった。まだ玲が小さい頃は、単純にこれも面白いと思っていたのだ。双子を連れて出かける時、二人とも男の子の格好をしていたので、みんな彼女は双子の兄弟を生んだのだと思っていた。そして子供たちが幼稚園に上がった時も、娘は相変わらず男の子の格好をしたいと主張した。弥和はまだ子供は小さいから、別に問題ないだろうと、玲の好きなようにさせてしまった。それから時間が経って、娘が男装するのに慣れてしまい、そろそろ元の性別で生きてもらいたいと思った時にはもう手遅れだった。娘は世間では「御曹司」や「坊ちゃん」と呼ばれるようになり、みんな玲のことを男だと思い込んでいる。玲は大人になると自分の意思を強く持ち、自立心が強くなった。母親である弥和も娘の制御は不可能になり、仕方なく、好きなようにさせるしかなかった。もし、娘が本気で好きになれる男性に出会えれば、きっと女性の姿に戻ってくれるだろうと弥和は思っていた。そんな中、流星の如く颯爽と現れた奏汰が、弥和の一縷の望みとなったのだ。しかし、まだ玲に革命を起こすことに成功していない。奏汰はまだまだ努力が必要だ。「奏汰君、一緒に釣りに行くかい?」茂が奏汰に尋ねた。彼はまた凪に言った。「黛さんもせっかく来たんだし、うちで夕食を食べて行ったらいい。私と奏汰君が釣りに行ってくるから、それを調理しよう。黛さんにもぜひ、奏汰君の作る魚料理を味わってもらうぞ。すごく美味しいんだ」凪は笑ってはいたが、それを聞いてそこまでするのは申し訳ない様子で言った。「そ、それはちょっと都合が悪いかと」「何が都合の悪いことがある?ほら、夕食も食べていったらいいよ」玲も凪を引き留める言葉を口にした。そしてまた、弟のほうを意味深にちらりと見た。碧は姉に
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第2122話

凪は養父母に田舎で育てられ、いつもいじめられていた。何か食べる物があるだけでマシだったのに、いちいち好き嫌いなど言っていられなかった。大人になって自分で稼げるようになり、社長職を経て、かなりの金持ちになった。それで多くの山や海の幸を堪能できるようになったが、依然として好き嫌いはしない。大したご馳走でなくても彼女は食べることができる。もちろん高級料理も好きだ。黛家で出される食事も、もちろん良い食材を使った美味しい物ばかりだ。しかし、彼女が好き嫌いをしないので、キッチンのほうも毎回別に凪が好きな料理を作ることもなかった。確かに彼女は好き嫌いはしないが、特別に好きな料理だってあるというのに。つまり黛家のシェフも凪のことを軽視しているのだ。毎日大家族が一緒に食事をする時にはテーブルの上に必ず当主が好きな料理がある。そして若葉の好きな料理も当然ある。それ以外の人は自分の好みの料理が一つは用意されているが、本物の令嬢である凪だけがシェフから重視されていない。凪はそんなことなど気にしないが、全部心の中に覚えていた。今は焦ることはない。将来、凪が黛家の全てを掌握してからまた考えればいい。人間はみんな、権力や利益に引き寄せられやすい存在だ。凪もシェフが今は当主と若葉が力を持っているから、そちらに傾倒しているだけだとわかっている。弥和は笑って言った。「好き嫌いがないのは良い子の証拠ですよ。黛さんは見るからに良い方だわ。私はあなたのような女の子が大好きですよ」一体黛家当主は何を考えているのか、さっぱり理解できない。血の繋がる我が娘を愛さない。なのに、血縁など無縁の若葉とかいう娘を可愛がっている。若葉の実の父親が、あの二人が赤子の時に悪意を持って入れ替えた首謀者なのに。もし、弥和だったら、さっさと若葉を田舎の本当の家に帰しているだろう。あそこが本来彼女がいるべき場所なのだから。凪は恥ずかしそうに笑っていた。弥和に催促されて、玲は凪を連れて母屋を出た。白山邸の総敷地面積は広い。門を入ってすぐに広がる庭もバックヤードも素晴らしい景色だ。玲が暮らしている大見原の屋敷と比べるともっと豪華だ。玲は家の前に広がる庭をぐるりと一周し、バックヤードも案内して凪に言った。「バックヤードは木が多くて、木陰ができるから涼しいんで
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第2123話

玲はため息をついた。「きっと、よその子供のほうがいいんでしょう」凪は笑って言った。「白山社長の気持ちは理解できます。うちの母もそうですから。いつも、どこどこの家のお嬢さんはどれだけ優秀だとか、私を馬鹿で役立たずな娘だと怒るんですよ。それにいつも若葉と比べてきます。若葉のほうが私よりもできる子だって。もし、黛家に代々から伝わる規則がなければ、彼女は私を後継者として育てることはしなかったでしょう。どのみち、いろいろ私の事が気に食わないんですよ」凪は気にしていない様子で話していたが、玲は彼女の心の苦痛を聞き取った。凪は黛家当主のそばで育ってはいないが、血の繋がる母と娘には違いない。母親からいつも傷つけられて、つらく感じないほうがおかしい。「凪さん、あなたはとても素晴らしい女性です。お母様がいくら何を言っても、きっと将来当主の座を勝ち取り、黛グループを率いていくことでしょう」玲は凪に慰めの言葉をかけた。それからまた続けた。「黛若葉は確かに当主に育てられた。小さい頃から後継者としての教育を受けてきましたが、実際、彼女の実力は高くありません。初めて彼女に会った時、弟にこっそり言ったことがあります。黛グループが彼女の手に渡ったら、会社はいずれ倒産するとね」きっと遺伝も関係しているのだろう。若葉は黛家の血を継いでいない。だから黛家の女性に伝わる優秀な遺伝子など持っていない。黛家当主は以前、生まれたばかりの娘が他の娘と差し替えられたことなど知らなかった。ずっと若葉のことを実の娘だと思い込んでいたのだ。だから、彼女を溺愛し、しっかりと育て、小さい頃から後継者になる教育を受けさせてきた。それでも、今の若葉は玲にとってはお粗末な不合格品だった。ただ、当主には一人しか娘がおらず、当時も娘が入れ替わっていたことなど知る由もなかった。黛家に伝わる規則では将来当主となるべきなのは若葉だった。当主は心の奥底では若葉の能力には満足していなかったが、それを表に出すことはなかった。若葉を順調に後継者にするため、当主は息子を会社に入れて重要なポジションに就かせ、娘の補助をさせるつもりでいた。若葉の能力は玲から見れば、会社を発展もなく今の状態のまま経営していくので精一杯だろう。しかし、最悪な状況は、それすらもできないことだ。一方、凪のほうは生まれ持ってビ
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第2124話

「若葉はただ会社で中身のない肩書きだけでいいと、私とは後継者争いはしないと言いました。彼女と争うことは別に怖くありませんが、会社に利益をもたらせない人間を養うなんて絶対に嫌です。でも、最近母はちょっと若葉を会社に戻そうとしている気がします。まあ、そうなったとしても、別に恐れることはないんですが」玲は顔を凪のほうへ傾けた。凪も同じように玲を見つめ、暫くしてから笑って言った。「白山社長、まさかあなたが私の本性に気づいているとは思いませんでしたよ」「他の誰かがあなたをどう見ているかは重要ではないです。お母様があなたを理解し、凪さんの秘めた実力を見抜いていればそれでいい。あなたの一族は、当主となる人間が絶対的な権力を持ちます。だから、お母様があなたを理解できているなら、他の人なんか構う必要はないんです」凪の顔から笑みが消えた。「母ですか、母の気持ちはいつも若葉のほうへ傾いています」玲は何も言わなかった。若葉は当主の傍で育った。何も真実を知らなければ、黛家当主の娘に対する愛は、若葉のほうへ注がれやすい。若葉が偽物だとわかったとしても、当主も長年かけて育ててきた母と娘の情をそう簡単に捨てることはできない。そして凪に対して、彼女は完全に後継者として見ているだけで、母と娘の情などほぼゼロに近いのだ。もし、黛家にあの規則がなければ、凪は今の立場も得られていなかったはずだ。「白山社長、私のことはここまでにしましょう。私に関することなんてこれくらいで、みんなが噂している話が全てです。それよりもちょっと社長にお尋ねしてもいいですか」玲は穏やかな声で答えた。「どうぞ」「白山社長と結城社長は……その、お付き合いされることはあるのでしょうか?」玲は言った。「……それは、俺も答えられませんね。明日の事は誰だってわからないでしょう」凪は笑って言った。「私は本当に白山社長のことを尊敬しています。あなたも私のことをよく理解してくれている。もし、白山社長が結城社長の気持ちを拒み続けるのであれば、私にもチャンスをくれませんか」最初に凪が玲に接近した目的はわざと若葉を刺激して、怒らせたいと思っていたからだとするなら、今の凪は玲のことを本当に高く評価するようになっていた。それは主に玲が彼女のことをよく理解し、本性を見抜いているからだ。玲は彼女に対しても
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第2125話

碧が凪のことを嫌うなんて、笑える話だ。そもそも凪のほうが碧のことは目に入らないらしい。しかし、凪の言葉も正しい。碧はたくさん曖昧な関係の女友達がいる。各業界にそんな女友達がいるから、彼がただの友達だと主張しても誰が信じるだろうか?そんな彼に彼女ができたら、彼女は受け入れられるだろうか?凪は言った。「さっきおっしゃった、弟さんが本気で好きになる女性に出会ったら一途だというのを私は信じます。だけど、このような男性の心を動かすのは難しいでしょうね。だって、彼はもう周りに多くの女性がいることになれているのに、たった一人だけを選ぶなんて嫌なはずです」凪は碧のことを何とも思っていないので、玲もこれ以上弟の話題を続けるのはやめておいた。どうして弟はこんな道楽坊ちゃんのように生きているのだろうか?これにより、玲は弟と凪をくっつけようという企みを諦めるしかなかった。二人は庭を何周かした。釣りに行った茂たちが帰ってくると、奏汰がその腕をふるいみんなに豪華な料理を準備した。もちろんバーベキューもだ。あまりバーベキューには興味がなかった凪でさえも、奏汰が作ったものに、はまってしまった。そしてひたすら奏汰の料理の腕を褒めていた。将来奏汰と結婚する相手は本当に恵まれている、ラッキーだと褒めちぎっていた。奏汰は玲を見つめ、にやにやと笑って言った。「玲さんはちょっと痩せているから、俺が美味しい物をたくさん食べさせてあげますよ」玲は冷ややかな表情で言った。「結城社長、別にあんたに食べさせてもらう必要なんてないですので」「そりゃあ、玲さんが人に食べさせてもらう必要なんてないことくらいわかっていますよ。俺はただ、毎日三食あなたのために食事を作ってあげたいだけです」「奏汰さん、俺、最近かなり痩せてしまったんですよ。俺のほうに美味しい物を作って太らせてくれませんか」碧はからかうように言った。奏汰は碧をちらりと睨んで言った。「それ以上食べたら、豚になるぞ」碧は言った。「……奏汰さんはえこひいきが好きだな。俺と兄は同じ母親から生まれてきて、どっちもイケメンなんですよ。兄にはとても優しくて、壊れもののように丁寧に扱うし、甘い言葉だってかけるじゃないですか。両親でもここまで兄に良くしてませんよ。それに俺に対してはいつも鬱陶しそうな顔をして、一体
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第2126話

凪が気に入っているのは姉のほうだということを碧が知らないとでも?しかし、姉は実は男ではない。正真正銘「姉」だ。凪の願いは初めから叶わない夢なのだ。この時、茂が急に立ち上がって娘に言った。「玲、碧、お前たちは奏汰さんのおもてなしをしっかりするんだぞ。私は母さんと一緒にドライブに行ってくる」「父さん、俺も一緒に行くよ」碧はお邪魔虫になりたくなかった。茂は碧を睨んで言った。「私は母さんとドライブをするのに、お前までくっついて来てどうするんだ?ドライブしたいなら勝手に行きなさい。私たちについてくるんじゃない」碧は言った。「……父さん、俺はあなたの息子だぞ。血が繋がってる息子なんだ」茂は鼻を鳴らした。「実の息子だからこうやって言葉で言ってるんじゃないか。もし他の人なら何も言わず直接横に蹴ってるぞ」碧は黙ってしまった。そして、彼は自分は絶対に両親にとってはおまけ的存在なのだと思った。それから十分もせず、茂と弥和の夫婦は出かけていき、碧も適当に理由をつけて外出した。玲は家族がみんな、彼女と奏汰を二人っきりにさせようとしているのを見て、碧のようにため息をついて、自分は本当にあの親の子供なのかと考えていた。こんなあっさりと娘を差し出して、娘が損しないか心配にならないのだろうか?彼女は奏汰を睨んでいた。奏汰は自分は無実だと言わんばかりにこう言った。「俺はご両親に賄賂など送ってないですからね。あのお二人が俺のことを気に入って、娘の婿として見ているだけです。それで俺たちが二人っきりになる機会を作ったんですよ」玲は淡々とした口調で言った。「結城さん、何度も言ったと思いますが、俺たちは合わないと思います。俺も結婚する気はないですから」「付き合ってもないのに、俺たちの気が合うかどうかなんてわからないでしょう?俺は玲さんの考えとは違って、とてもぴったりだと思ってるんですけど。みんな俺たち二人が一緒にいるのを見たらべた褒めするでしょう?結婚したくないって、誰かに嫁ぐのは嫌だということですか?それなら俺が婿養子になりましょうか?」奏汰は笑って言った。「それは簡単ですよ。うちは三人全員男で、両親も俺が婿養子に出るのなんか気にしないので。三人の兄弟の中で誰かがお嫁さんをもらえば、両親はもう満足ですからね」玲は顔を暗くさせた。この図々し
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第2127話

少しだけ話すのをやめ、奏汰はまた声を低くして話し始めた。「玲さんもホテルには秘密の通路を持っていますが、俺にもあります。誰にもホテルに入ったことを気づかれませんから」玲が実は女性であるという事実を、いつか彼女が自分から世間に公表することを奏汰は望んでいる。それはつまり、彼女が彼のことを受け入れて、彼のために女性として生きることを決めたということだ。だから、奏汰はすでに玲が女性であると知っているが、他の人の前では依然としてその事実は隠し、誰にも彼女が女性であると疑われないようにしたいのだ。「泳ぎに行きたいなら、今から行きましょう」「ちょっと考えさせてください」玲がこれに心を動かさせていないわけではない。彼女もこんなに暑い日には泳いで涼を楽しみたいと思っていた。ただ水に入るなら今の男装を解かねばならず、プールで楽しんで出てくる時には、またかなりの時間をかけて男装しないといけないのでそれが面倒だった。普段、彼女は毎晩帰ってきて、外出する必要がない場合にやっと男という偽の殻を脱ぎ捨て、女性の姿に戻っている。自分の家の浴槽で思いっきりお風呂に入り、一日の疲れを癒やす。そして毎朝は早く起きて、誰の手も借りずにまた男の姿に戻る。絶対に少しもボロがないことを確認してから、外出している。このような毎日は、実際とても疲れる。しかし、彼女はこの生活に慣れてしまっている。「玲さんが誰にも気づかれないなら良いでしょう。そんなに考える必要はありません。それ以上悩んでいたら夜が更けて、ホテルで一緒に過ごすことになりますよ」玲は聞き返した。「まさか、あんたは今日うちに泊まっていくつもりなんですか?」「茂さんが明日の朝一に一緒に散歩でもしようと誘ってきたんです。俺がホテルに泊まったら、そんな朝早くにここまで来られませんから、茂さんが今日はここに泊まっていけって」玲はまた不機嫌そうな顔をした。奏汰は低い声で笑って言った。「俺はゲストルームに泊まらせてもらいますので、ご安心を。玲さんを困らせるようなことはありません。じゃ、こうしましょう。俺がここに泊まるのが嫌なら、今から一緒に泳ぎに行って、その後は玲さんだけホテルから出て家に帰ってください。俺はホテルで寝ることにします」少し考えてから玲は言った。「行きましょう」彼女も思いっきり暑い
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第2128話

玲は奏汰につきまとわれても、彼のやりたいようにしているのだから、つまり奏汰のことを嫌っているわけではないのだろう。執事は苦しんだ様子で言った。「旦那様に奥様、それから碧様のあの態度には見ているこっちがつらくなる。我ら玲様はあんなに優秀なお方だというのに、それなのに……玲様がもし女性であったら、それか結城社長のほうが女性だったのなら、あのお二人が一緒になるのには大賛成ですよ。祝福いたします。しかし、あの二人はどちらも男なのですよ!」玲の実の両親はこのような状況でも全く平気な様子だが、執事のほうは胸を締め付けられる思いだった。ボディーガードたちは黙っていた。彼らは心の中で、きっと玲は同性愛者で普段はそれを悟られないように過ごしているからみんな知らないだけなのだろうと考えていた。玲を恋い慕う女性は非常に多い。それなのに、誰一人として玲を落とすことはできていない。つまり、これこそ玲が女に興味はないという証拠なのではないか?女が好きじゃないというなら、つまり男のほうに興味があるということだろう?……凪は白山邸から戻ってきた後、母親と若葉の車が庭の駐車場に停まっているのを見て、二人が家にいることがわかった。凪は駐車して急いで家の中に入ることはなく、若葉の車の周りをぐるりと一周した。「お嬢様、お帰りなさいませ」この時、執事が出てきて、礼儀正しく挨拶をした。凪が若葉の車を回っているのを見て、執事は不思議に思い尋ねた。「お嬢様、若葉様の車を回って何をしてらっしゃるのですか?」凪は若葉の車のボンネットを叩いて言った。「若葉の車は私のよりずっと良いみたい」この執事はここで雇われてちょうど一年経つ。若葉の実の父親が当主の手で刑務所に入れられてから、新しく雇ってきた執事だ。まだ一年しか働いていないが、黛家では次女の若葉のほうが長女である凪より大事にされていることがわかっている。すでにそれぞれがあるべき立場に戻り、若葉のほうは後継者の候補から外され、凪のほうは自分のものを全て取り返したように見える。しかし、実際、若葉のほうが生活面では凪よりも贅沢な暮らしをしている。当主たちはよく若葉に贈り物をしているが、あまり凪に贈ることはなかった。凪の言葉を聞いて、執事は少し同情したようだった。しかし、あまり多くを話すことはできず、ただこのよう
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第2129話

若葉はぽかんとしていた。さっき言ったたったひとことで、家ではいつも若葉を言い負かしている凪が、悲しそうにしている?あんな顔をして家に走っていき、母親に訴える気か?そう考え、若葉は急いで家に小走りで戻った。凪が母親に訴える機会を与えるわけにいかない。あの田舎娘は母親の寵愛を受けるための争い方を変えてきたのだろうか?若葉がまず家に入って目に飛び込んできたのは、凪が母親の隣に座って何か話しているところだった。若葉が入ってきたのを見て、凪は話すのをやめてしまった。聞くまでもなく、凪が母親に訴えているのだ。両親、兄、その嫁の表情は少し微妙だった。「お母さん」若葉は急ぎ足で近寄り、凪と母親の間に割って入って、無理やり凪を横に押しやった。そして両手を親しげに母親の腕に絡めて言った。「お母さん、凪のでたらめな話なんて聞いちゃダメよ。私も別に何もしないわ。この子が勝手に私の車を叩いたり、タイヤを蹴ったりして、警報が鳴ったの。だからちょっとひとことこの子に言っただけよ」母親の和子は「そう」とひとこと返事をして、また言った。「そんなことがあったのね、凪は何も言わなかったけど」すると若葉は後ろを向いて凪を見て、また和子に言った。「凪はお母さんに訴えてこなかったの?さっきこの子、すごく悲しそうにしてたのに」和子は何も言わない実の娘を見て、代わりに説明した。「凪は私に何か文句を言ってはこなかったわよ。ただ、自分の車が新車じゃなくて、おさがりであることを悲しそうに言ってきただけ。あなたの車のほうが自分のよりずっといいって。凪、明日妹と一緒にディーラーに行って新しい車を買っておいで。気に入ったものを自分で選んでいいから、妹のほうをひいきしているだなんて言わないでちょうだいね」和子はそう話すとき、とても鬱陶しそうな顔をしていたが、凪に新車を買うという約束をした。しかも、買いに行く時には若葉を連れて行かせると言った。母親が凪に新車を購入すると聞き、若葉はもやもやして口を尖らせて言った。「お母さん、確かに凪の車は新車じゃないけど、うちのガレージにあった車じゃないの。あそこにある車は古くなんてないわよ?運転できる車があるだけで十分なのに、新しいものを買ってあげるだなんて。新車にして、もしこの子が運転が下手くそでどこかにぶつけたり、人まで轢
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第2130話

凪は黛家で唯一の娘だ。今確かに次期当主という立場にある。将来は当主の座に就き、本当に彼女が発言権を持ち、全てを決めていくのだ。凪の兄には後継者になる資格はない。その嫁たちは言うまでもない。この一族は女性のほうが発言権を持つのだが、それは黛の姓を持つ者に限り、外から嫁に来た女性にはなんの権利もなかった。「もう終わりにしましょう。そんなにピリピリして、何を言い争っているの?」和子が厳しい口調で言った。「凪には新車を買うと約束したのだから、撤回する気はありません。あなた達に意見があっても、もう言わないでちょうだい。なんと言っても、凪が次期当主であることには変わらないわ。いつも誰かのおさがりの車を運転していたのであれば、それは世間体にも恥ずかしいわ。彼女は今我ら黛家を代表する立場なのだから、彼女が恥をかけば、それは黛家全体の恥になるのよ。凪に新しく車を買うのは、黛家の体裁を保つことでもあるの。若葉、明日は凪に付き添って車を買いに行ってきて」すると和子はまた凪に言った。「気に入った車があれば私に連絡して。お母さんが人を手配して支払いに行かせるから」「ありがとう、お母さん」凪はとても喜んだ様子でお礼を言った。他の人が心の中で何を思おうが、凪はどうでもよかった。一年余り猫を被ってきた。たまにこうやって強気の姿勢を見せておかないと、家族になめられたままではいられない。「今日は午後どこに行っていたの?ずっと姿が見えなくて、さっきやっと帰ってきたでしょ」和子が突然凪にそう尋ねた。凪は正直に答えた。「さっきは白山会長にお会いしようと思ってお宅にお邪魔していたのよ。白山社長と結城社長もいて、食事をしていけって誘ってくださったの。せっかくのご好意を断わることもできないから、白山家で食事してから帰ってきたの」それを聞いて、若葉は嫉妬で発狂しそうだった。若葉は玲に近寄りたいと思っているが、話すことさえ拒否されている。この間、玲を奏汰の手から救い出そうとしたが、失敗し、逆に奏汰から追い出される羽目になってしまった。それには大恥をかいてしまい、無様な姿をさらけ出してしまった。この間のパーティーで玲が凪に優しくしているのを思い出し、若葉はさらに嫉妬心を燃やした。若葉にとって、凪は自分より劣った存在だ。それなのに玲が凪に優しくしているの
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