《交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています》全部章節:第 2251 章 - 第 2260 章

2452 章節

第2251話

「金を出せ!それから、お前の身につけてるものから、車にあるものまで全部金になるもんをさっさと出せ、早くしろ!」小夏はその車から降りてきた人物が一体どんな人なのかはよく見えなかったが、彼女はかなり耳が良いので、不良たちが言っている言葉だけなんとなく聞こえてきた。すると彼女はすぐにそっちに向かって駆けて行った。車の男が震えながら財布を取り出し、不良の一人に渡そうとした時、小夏は疾風の如く駆けつけて、その財布めがけて蹴りを入れ、それが勢いよく男の手から飛んでいった。小夏はとても素早い身のこなしだった。すぐさま体勢を変え、落ちてくる財布をサッとキャッチした。そして、彼女が手を振ると、財布は開いていた車のドアから中に入った。それがフロントガラスにぶつかり、ポタリと助手席の上に落ちた。その一瞬の出来事にその場の全員が呆気に取られていた。小夏の動作は目にも留まらぬ早わざだった。動作一つ無駄な動きがない。全員が我に返った時、すでに小夏がバイク二台をひっくり返し、乗っていた不良はまだ起き上がれていなかった。彼女は地面に転がった金属棒を拾い、思いっきり振り回すと、数人が地面に寝転がりうめき声をあげた。まだ攻撃を受けていない残りの四、五台のバイクに乗っていた不良たちはみんな飛び降り、各々金属棒を手に持ち小夏を取り囲むと、ぼやき始めた。「余計な事に首を突っ込んできやがって、一体どこの小娘だ?」武道一家出身の小夏は、小さい頃から訓練を受けてきた。彼女のその武術の腕前は唯花の何倍もあるだろう。唯花は以前、十数人の不良たちに囲まれた時、いとも簡単に返り討ちにしてやった。それなら、小夏にとって朝飯前だ。彼女は一言も話さず、金属棒を振り回していた。どの一撃も重く、ターゲットを的確に打ちのめしていく。すると、一人一人の悲惨な叫び声だけがその場に響いた。小夏が手を止めた時には、彼女を取り囲んでいたあの数人の男たちはすでに地面に倒れ、苦痛に転げ回っていた。まだバイクに跨っていた数人はその光景に、急いで逃げ出してしまった。また、小夏が金属棒を放り投げると、それが一台のバイクのタイヤに命中し、そのバイクは倒れ、乗っていた不良も散々な有り様になっていた。そのバイクが後ろのバイクを道連れにし、二台ともたて続けに倒れた。そして最終的に、無事その場を
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第2252話

弦はこの活力に満ち溢れた女性がとても気に入った。ああいうおしとやかで可愛らしい金持ちの令嬢たちは全く好きじゃない。もちろん、弦はそのような令嬢たちには何も感じない。小夏が運命の女性だと確信してから、弦は実はとても不安だった。運命の女性が、あのような、柔和で可憐なタイプだったらどうしようと心配していたからだ。調査してみて、彼はとても喜んだ。そして実際、小夏に直接会ってみると、さらに驚きと喜びが増した。小夏のあの身のこなし、恐らく弦と互角に闘えるほどの腕に間違いない。九条家の後継者として、妻たるもの、小夏のような豪傑でなければ、将来一族や部下たちをとりまとめていけるはずがない。「あのう、大丈夫ですか?」弦がぼうっと小夏を見つめていた時、小夏のほうも弦を観察していた。小夏の弦に対する第一印象は、Theイケメン。それも今までに見たことのないくらい、かなり顔面偏差値が高い。彼女が星城に来る前、星城には有名な美男子が何人かいると聞いていた。そのうちの一人は、もちろん結城グループの社長であり、結城家の跡取りである結城理仁だ。理仁には会うことは難しい。小夏一行はわざわざスカイロイヤルホテルに泊まっている。彼女はスカイロイヤルがもっとも安全だと思っていたのと、もし運が良ければ理仁夫妻に会えるのではないかとも思いここに泊まることにしたのだ。そして美男子と美女を拝もう。しかし、残念なことに彼女にはその運はなかったらしく、その二人に会うことはなかった。理仁の側近である特別補佐官の九条悟にさえ遭遇しなかった。それがまさかこんな夜更けの街中で、こんなイケメンに遭遇するとは。星城の実力ある青年はみんな二枚目だという噂はどうやら嘘ではないらしい。小夏は弦の車をちらりと見た。高級車。新車でも何千万も出さないと手に入らないはずだ。こんなに高級な車に乗れるということは、この男性が金持ち二世でないのなら、とても、とても、とってもすごいビジネス界のエリートに違いない。それで不良どもに目をつけられたのも納得がいく。夜中で街にはほとんど人がいないのだから、不良たちに目をつけられたのだろう。「あの、大丈夫ですか?」弦が返事をしないので、小夏はもう一度尋ねた。彼女は弦がさっきの出来事に驚いて呆然としてしまっている
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第2253話

「あのう、お嬢さんのお名前は?」弦が尋ねた。小夏は一切迷うことなく自分の名刺を取り出すと、それを弦に差し出して言った。「花京院と言います。武術の先生をしています。でも、相手は子供ですけどね」弦は小夏の名刺を受け取ると、まじまじと真剣にそれを見つめて丁寧になおした。すると今後は自分の名刺を取り出して彼女に渡した。しかし、その名刺には彼が九条家の跡取りという身分は書かれておらず、ただ、彼自身の会社を背景とした、どこどこの会社社長、というふうにしか書かれていない。小夏は両手で彼から名刺を受け取って見た後、微笑んで言った。「九条さんは社長さんなんですね?ドラマではよくボディーガードを引き連れた登場シーンとか見ますけど、どうしてあなたにはボディーガードがいないんですか?」弦は笑って言った。「私はもともとボディーガードを雇って数年ほど連れていましたが、両親も年を取って家で面倒を見る必要があり帰ってしまった者や、親から結婚を催促されて仕方なく仕事を辞めて実家に帰って結婚した者がいたりして、今はまだちょうどいいボディーガードを見つけられていないんです」それを聞いて小夏はひとこと「そうですか」と返事をして、それ以上は尋ねなかった。彼女はこの日初めて現実で社長という肩書きの人間に出会った。彼は数千万はするであろう高級車に乗っているから、きっと大企業の社長なのだろう。それが小夏の弦に対する印象だった。興味があったので、さっき彼女はちょっと聞いてみただけだ。二人は知り合ったばかりだし、彼女はそんなにいちいち細かいことを相手に聞くことはできない。しかし、弦に会ったことでわかったことがある。星城の社長はとても若くて、イケメン、超絶金持ち、ということだ。警察が到着すると、小夏にこてんぱんにされてしまった弦の「役者」たちはみんな連れて行かれてしまった。小夏は弦に付き添って警察署まで一緒に事情聴取を受けに行った。そして二人が警察署から出てきて時には、すでに夜中の二時をまわっていた。弦は小夏に言った。「花京院さん、どこに住んでらっしゃるんですか?私がお送りしましょう」小夏はこんな夜遅くにはタクシーを呼ぶのも時間がかかるだろうし、歩いて戻るには遠すぎるから、弦の厚意を受けることにした。彼女は答えた。「私は道場の生徒たちを連れて試合に
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第2254話

「不良」たちが警察署から連れ出されて病院で治療を受けていることなど、小夏は全く知る由もなかった。彼女は自分が弦のプロポーズ大作戦の罠にはまろうとしていることさえも知らないのだから。ホテルへ戻る途中、裏表なくまっすぐな性格でおしゃべりな小夏は、弦ととても楽しく話をしていた。まるで二人はこの日初対面したのではなく、十何年も前からの友人同士のようだった。そして弦は、この運命の女性のことをどんどん好きになっていった。さすがはこの九条弦の運命の相手。相当腕が立つだけでなく、さばさばとした性格で、話上手だ。このような女性こそ、彼に相応しい。「九条さん、あなたは社長さんですよね。あの結城社長とお仕事をする機会はあるんですか?彼と奥様の恋物語を、遠く蔵峯市でも噂を聞いているんですよ」蔵峯は星城と比べると、そこまでの大都市ではない。そしてこの二つの都市は結構な距離があり、離れている。小夏が理仁と唯花のことを尋ねてきたことを弦はまったく意外に思わなかった。彼が小夏に関して調査したところ、彼女は日常、道場で子供たちに武術を教えたり、体を鍛えたりする以外に、小説を読む趣味があった。それは従弟の悟の妻、明凛と同じだ。明凛は自分で本屋を経営し、そこにある本なら読んでいる。そして読み終わるとまた新しい小説を入荷して、毎日読むものには困らない。小夏はまだ二十四歳で若く、小説を読むのが好きだ。理仁と唯花の恋物語は小説よりも面白い。理仁がスピード結婚をしたことが公になり、芸能記者がメディアで大々的に報道していたし、今はネットが発達しているから、蔵峯にいる小夏でもその噂をキャッチし興味を抱くのは自然のことだった。弦は笑って言った。「よくぞ聞いてくれました。私は結城社長とは何度もお仕事をさせてもらっています。それにプライベートでも、彼とは友人と言える間柄ですよ。たまに一緒に食事に行ったりします。結城社長夫妻の物語なら、花京院さんもネットで記事をいろいろと見たのでしょう。実際の二人とネットの話はそう大差ありませんよ。メディアは誇張するようなこともありませんでしたしね。そうだ、社長の奥様も昔、空手をしていたそうでかなりお強い方なんですよ。あなた達のように女性が武術を身につけているのはとても良いことだと思います」将来、弦にもし娘ができたら、絶対に小さい頃から武
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第2255話

「正直な話、花京院さんを私のボディーガードとして雇いたいと思いました。ちょうど今探しているところだったし、あなたのように強い方なら、一人でも私の安全を確保できるはずですからね」小夏は笑って言った。「そんな、大したことじゃないんですから、恩返しだなんて気になさらないでください」彼女は今までに多くの人を助けたことがあるから、そんなことは本当に気にしていなかった。今まで助けた人の中で、弦が一番ここまで恩を感じてくれているようだ。なんといっても大企業の社長になるような人物、教養もあり礼儀を重んじるらしい。弦は人から受けた恩をきちんと返す人だとわかる。このような人を神様も重宝するに違いない。きっと彼の会社はもっと大きくなるはずだ。「もし、今の仕事に嫌気がさしたら、その時は九条さんにボディーガードの仕事をさせてくれないかお願いしますね。警備員の仕事だっていいですよ。どんな仕事だって構いません。自分の力だけでまっとうなお金を稼ぐ。誰かから搾取したり盗むようなことでなければ、私はなんだって受け入れられます」小夏は自分は腕は立つが、それ以外には何もないとわかっていて、仕事を探すなら職種などこだわりはなく、自分ができることならなんでも良いと思っている。そしてどんな仕事をしても必ず能力を開花させてみせる。弦は言った。「では、花京院さんの席はあけておきますので、星城で仕事がしたくなった際には私に連絡くださいね。私のボディーガードになっていただけたら、給与や待遇についてはあなたが提示してください」「わかりました。転職したくなったら、必ず九条さんに連絡します。遠慮なんてしませんからね」二人は道中ずっとおしゃべりをしていた。ホテルに到着した時、弦はあっという間に時間が過ぎたと思った。これなら遠回りしてもっと彼女と話ができるように、距離を長くさせれば良かった。しかし、彼女とは初対面であるし、小夏が彼を「救って」くれたのだから、わざと遠回りするのは変な話で、彼女からの好印象を壊してしまいかねない。車がスカイロイヤルの前に停車すると、弦は顔を傾げて小夏を見つめた。彼女は綺麗で魅力的な女の子だ。容姿端麗なだけでなく、生き生きとした生命力を感じさせる。弦はますます彼女にはまっていった。小夏の横顔は格別に美しい。弦が彼女の写真を見ただけで酔狂し
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第2256話

弦は車を降りて小夏に手を振り、彼女がホテルの中に入っていくのを見送った。彼女の姿が見えなくなってからまた車に戻った。彼はまず携帯を取り出して、自分の有能な秘書に電話をかけた。そして秘書が電話に出ると、彼は尋ねた。「みんなの傷の具合は?」「弦様、将来の奥様はとてもお強い方ですね。みんなそれぞれ怪我をしてしまい、入院しなければならないでしょう」「将来の奥様」という言葉を聞くと、弦は思わずニヤリとしてしまった。「奥様」というその言葉で小夏が呼ばれるのを想像すると心が弾んだ。運命の女性。弦は彼女のことをどんどん好きに、どんどん気に入っていった。彼は神様から好待遇を受けているらしい。こんなに素直で清々しい女性と赤い糸を結ばせてくれたのだから。ただ、弦は小夏よりも十歳年上だ。彼女が年の差を気にするのではないだろうか?弦は自分のことを年を取っていると思ったことはない。三十代の男は、人生で最も輝いている。それに、弦は容姿には気を配っているから、見た目的には二十過ぎくらいに見える。外見からは三十四歳には見えない。しかし、小夏を前にすると、弦はやはり自分は年だと思った。彼が十歳の時に、小夏がこの世に誕生した。しかし、小夏のあの性格を思い出すと、弦は彼女に好きになってもらえれば、きっと彼女は年の差など気にしないだろうと思った。「それなら、引き続き病院で治療をしてくれ。かかった費用は全て経費でまかなうように。それから、三か月の給料を三倍に上げてやってくれ」弦の人生のために、重傷を負ってくれたのだから、部下がただ怪我をして損させたままで終わらせるわけにはいかない。それで弦は太っ腹にも、彼らに三か月、三倍の給与をあたえることにしたのだ。秘書は笑って言った。「一カ月、給料が三倍になるだけでも大喜びしますよ。彼らも弦様のためにやったことですから」主に、彼らは早くも未来の弦の妻の強さを実際に目の当たりにしたのだ。それは本当にすごいことなのだ。「三か月だ」「かしこまりました。みんなに伝えておきます。弦様、どうでした?彼女とはうまくいきそうですか?」「もういい、私のプライベートな事だ。深く聞くな」弦は秘書を叱る一言を吐いたが、実際は喜びが混ざっていて、全く怒ってなどいなかった。秘書は笑って言った。「弦様に仕え
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第2257話

そして夜が過ぎた。翌日の朝、南山住宅地。唯月が陽の小さな鞄を持ち、玄関の方へ向かいながら、息子を急かしていた。「陽、早く、遅れるわよ」陽はもたもたと、部屋から出てきて、玄関にある椅子に座ってゆっくりと靴を履いていた。そしてこう言った。「おかあさん、今日、お休みしてもいい?」幼稚園に通い始める前は、彼はとても楽しい所だと思っていた。幼稚園の入園の時には、幼稚園で遊んで家に帰りたがらなかった。唯月が帰ろうと言うと、彼は泣くほどだった。そして幼稚園に通い始めて暫く経つと、陽はやはり家で遊んでいたほうが自由で楽しいと思いだした。もし母親が時間がなければ、彼は叔母の所に行ける。叔母が時間がなければ、理仁のオフィスか神崎家に行けた。それは幼稚園に行くよりずっと楽しかった。行きたくない理由は主に、以前は寝たいだけ寝ることができたのに、幼稚園に行くためには毎朝早起きしなければならないからだ。母親は仕事に行くから、朝早くに幼稚園に送っていく。毎日、彼が同じ組の園児たちの中で一番に到着する。「風邪でもないし、怪我もしてないのに、どうして幼稚園に行かないの?」唯月は内鍵を開け、後ろを振り向いて息子に尋ねた。陽がその返事をするのを待たず、彼女はまた息子に向かって言った。「瀧君よりもすごい子になりたいんじゃなかったの?瀧君はあなたみたいに二日だけ行って、行きたくないなんて騒いだりしてないわよ」陽は黙ってしまった。唯月は陽の前まで来てしゃがんだ。彼女は靴を履かせてあげることはなかった。陽が自分でできることは今、彼女は手伝うことはない。子供には自分でできることは何でもさせたほうがいい。「陽、どうして幼稚園に行きたくないのか、お母さんに教えてくれる?幼稚園で誰かにいじめられた?先生から何かされたりしたの?」陽は首を横に振って言った。「お友だちはみんな優しいよ、誰もいじめないよ。ぼくだって誰かをいじめないよ。ぼく、今道場でがんばってるもん、誰かをいじめたりしないよ。先生もぼくにとっても優しいんだ」陽は武術を学ぶ素質は瀧には劣るが、母親と叔母から、体を鍛えて自分で自分を守れるように学んだほうがいいと言われている。別に武道を極める必要はない。暫くの間道場で鍛え、彼はクラスの中で一番強くなった。幼稚園で、誰かにいじめら
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第2258話

唯月は陽をぎゅっと抱きしめ返し、さっきまでの厳しい口調を和らげて言った。「最近はお母さんもとても忙しくて、陽に構ってあげられてなかったね。あと二日したら週末だから、海に遊びに連れていってあげようか?」「おばちゃんも?」「叔母ちゃんも呼んでみましょ。あと、姫華ちゃんたちも」それを聞いて、陽はテンションを上げた。「うん!おかあさん、ごめんね。これからはようちえんに行きたくないなんて言わないよ」唯月は陽から離れて笑って言った。「陽が理解してくれてとても嬉しいわ。間違ったらなおせばいいのよ。それができるんだから、陽はとっても良い子ね。さすがは私の息子だわ」そう言いながら、彼女は陽の頬にキスをした。陽も彼女にキスで返した。「おかあさん、ようちえんに行こう」陽は唯月の手をとって、玄関に向かった。そして唯月に言った。「おかあさん、かばん、自分で持つよ」すると唯月は鞄を彼に渡した。陽はそれを背負って、母親と一緒に出かけていった。玄関を出ると、陽は傍で唯月が鍵をかけるのを待っていた。唯月が鍵をかけた後、振り返って陽の手を繋ごうとした時、ある男がそう遠くないところで二人をじろじろと見ているのに気がついた。その男は、昨日の夜、エレベーターの中で遭遇したあの酔っ払いだった。酔っ払いは昨日遭遇した時と比べると、頭がはっきりとしているようだったが、その目つきはやはり恐ろしかった。彼は唯月をじろじろと見つめていた。彼女が陽を抱き上げて通り過ぎようとした時、彼は口を開いて笑いだした。「この階に住んでいたんだなぁ」唯月はギクッとした。彼女は彼に構うことなく、陽を抱いたまま急いでエレベーターまで歩いていった。同じ階の住人が買い物しに下におりようとエレベーターを待っているのを見て、彼女は安心した。「すみません、さっきあの男性の方を見ましたか?どうしてこの階にいるんでしょう。以前、彼を見かけたことはないんですが」唯月は顔見知りのおばさんに挨拶し、そう尋ねた。そのおばさんが言った。「あのお酒の匂いがする男の人のこと?あの人は一番上の階の人よ。最近失恋したらしくて、毎日お酒を飲みに出かけては、酔っぱらってどこにでも寝ているの。女の人を見かけたらじっと見つめてくるんですって。彼に会うとみんな怖がってるわ。私はもうこの年だから、ど
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第2259話

おばさんがすぐに唯月と酔っ払いの間に立ち、男が唯月を見つめる視線を遮って、まるでおしゃべりをしに来たように唯月に尋ねた。「旦那さんももうすぐお帰りになるんだったわよね?」唯月は答えた。「あ、そうですね。もうすぐ」俊介はもう少し入院していたら、家に帰れる。だから確かにもうすぐ帰ってくる。もちろん唯月のところに帰るわけではない。彼女と俊介は離婚してもう一年経つ。おばさんは陽に尋ねた。「お父さんに会いたい?」陽は正直に答えた。「うん、おかあさんが週末、連れて行ってくれるんだ」おばさんは笑った。「週末にお父さんに会えるのね」陽は力強く頷いた。唯月はおばさんがわざと酔っ払いに聞こえるように、彼女には夫がいて、ただ出張しているだけだと知らせようとしたのだとわかった。もうすぐ出張から帰ってくるから、唯月に目をつけるなという意味だ。酔っ払いはそれを聞いた後、何も言わなかった。一階に到着し、エレベーターのドアが開くと、おばさんは急いで唯月親子を連れて外に出た。あの酔っ払いはそのまま中にいて動かなかった。唯月が彼の横を通り過ぎる時、彼は小声で呟いた。「お前のことは一晩中探してたんだ。離婚した女だってことくらい知ってるぞ」その言葉に、唯月の顔色は一変した。彼女はすでにこの男に目をつけられていたのだ。昨夜、隼翔のボディーガードが上まで送ってくれた。この男がいたので、彼女は自分の住む階とは違う階でエレベーターを降りた。まさか、男は自分のことを一晩中探していたのか。彼女が本当はどの階に住んでいるのか探すために?しかも、唯月が離婚しているということまで知っている。エレベーターを出ると、唯月は陽を抱き上げて、急いでマンションの外に出てきた。実は、ここ南山住宅地は比較的安全な場所だ。この辺りに暮らす住人は一度も何かの犯罪に巻き込まれたことはない。あの酔っ払いも、失恋する前はきっと普通の人だったのだろう。彼は今、別に唯月に対して何か手を出してきたりはしていない。唯月が離婚していて、男がいないとわかり、それで目をつけてきたのだろう。こうなると、唯月も恐ろしくなった。陽を幼稚園に送る途中、唯月は昨晩隼翔から言われた言葉を思い出していた。妹夫婦が贈ってくれたあの家を素直に受け取って引っ越すべきだろうか?久之宮
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第2260話

唯月は少し黙っていてから、口を開いた。「理仁おじさんが私たちにお家をプレゼントしてくれたのよ。とっても大きくて素敵なお家なの。今叔母ちゃんが住んでいるお家みたいなところ。だけど、お母さんはずっと受け取ってないの。お母さんが今こんなに頑張ってるのはね、たくさんお金を稼いであなたに良い教育と生活をさせたいからよ。それに、叔母ちゃんの頼れる存在になりたいから。だから、理仁おじさんからお家を受け取るのは、なんだか叔母ちゃんの迷惑になってる気がして。叔母ちゃんが良いお家の人と結婚したから、私もその恩恵を受けてるってみんなから思われそうで嫌なのよ。私が努力してお金を稼げば、自分の力でお家を買って暮らしていけるって思っていたの。東おじさんも悟おじさんもその近くにお家を持っているんだって。もし、私たちがそのお家を受け取って引っ越ししたら、今住んでいる所よりもずっと安全なんだけど、お母さんも迷っているのよ。あのお家を受け取るべきかしら。さっきあの男に遭遇したって、叔母ちゃんに話したら、きっと私たちが危ないかもしれないって心配するよね。彼女に言わずにいて、もし私たちに何かあったら、叔母ちゃんをすっごく驚かせちゃう。今彼女はお腹に赤ちゃんがいるから、ショックを与えたらよくないし」唯月はかなり迷っていた。あの酔っ払いはまだ何か手を出してきてはいない。しかし、今後何があるかはわからない。それは誰にも予測不可能だ。唯月は息子が心配だし、自分のせいで妹がショックを受けるのも心配だった。陽はまだ三歳だから、唯月がさっきの話を彼にしても、母親の悩みを理解することはできない。ただ「ぼくはおばちゃんと一緒に住みたい」とか「あずまおじちゃんや、さとるおじちゃんと住みたい」としか言えなかった。唯月は息子にこのような話をした後、少し可笑しくなった。どうして三歳の小さな子供にこんなことを言ったのだろうか。いくら陽が聡明だったとしても、たった三歳の子供に何が理解できて、どう状況判断ができるというのだ。幼稚園に到着し、唯月は車を停めた。陽は自分でシートベルトを外し、鞄を背負うとドアを開けて車を降りた。唯月も車を降りて、彼のその小さな手を繋いで幼稚園の方へ歩いていった。すぐに、幼稚園の先生と一緒に彼は中に入っていった。唯月は幼稚園の門の前に立ち、息子の姿
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