《交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています》全部章節:第 2261 章 - 第 2270 章

2452 章節

第2261話

理仁はすぐに唯月に温かいお茶を入れて持って来て、彼女に渡して言った。「義姉さん、唯花さんとの結婚は予定より早めにすることになりました。久之宮住宅地にある家は、やっぱり受け取ってもらえませんか。あれは唯花さんから姉に対する感謝の気持ちなんです」結婚式の日、唯花は姉である唯月の家から出発する。唯月の暮らす家が、唯花にとっては実家のようなものだ。唯月はお茶を受け取り、笑って言った。「結城さん、ちょうど今日はその件でお話に来たんです」その言葉を聞くと、理仁は喜び、すぐにデスクの引き出しの中から鍵を取り出して持ってきた。彼はそれを唯月の前に差し出して言った。「これは家の鍵です。ずっとここに置いておいたんですよ。義姉さんが受け取ってくれることになったら、いつでも渡せるように」唯月は一口お茶を飲み、その鍵を見つめてとても感動していた。妹にしろ、その夫にしろ、自分に対して心から誠意を持って良くしてくれている。妹の夫は財閥家の御曹司であるのに、今まで一度も妹のことを嫌うこともなく、その姉でる自分に対しても尊敬する態度を忘れない。それは妹の自分に対する態度も同じだ。唯花はお金が稼げるようになってから、ずっと姉に孝行してきた。唯月が妊娠して子供を産み、専業主婦となって収入源が断たれた後、夫はケチになったから、ずっと妹が毎月くれる生活費で過ごしてきた。もし妹がいなかったら、唯月もあの時期をどう乗り越えられただろうと思った。「結城さん、そのお家はありがたく受け取らせてもらおうと決めました。だけど、二人からプレゼントしてもらう必要はありません。家は私が買い取りたいと思うんです。価格を安めにしてもらうのは嬉しいですが、お金を受け取るのは拒否しないでもらいたいんです。そうしないと、引っ越してもソワソワしながら生活することになってしまいますから」理仁「……」理仁はこの時、唯月がやっと折れたのだと思っていた。他の誰かなら、屋敷をまるまるプレゼントされて、自分は一円も出さなくていいと言われれば、それはもう天にも昇るくらい喜ぶはずだ。しかし、唯月はそうではない。彼女は断固として受け取ってくれなかった。息子を連れて部屋を借りて住むことになっても、理仁たち夫婦が贈る家は受け取ってくれないので、理仁も頭を抱えていた。そして今日、唯月がこ
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第2262話

唯月も理仁がすぐに自分の要求をのんでくれるとは思っておらず、笑って言った。「わかりました。帰って唯花に話してみてください。じゃあ、私はお店を見に行きますので、これで失礼しますね」「もう少しゆっくりして行かれたらいかがですか」唯月は言った。「いいえ、結城さんのお仕事は忙しいでしょうし、予定が詰まっているでしょう。だから、邪魔したくないんです」彼は結婚式を挙げたら、唯花が妊娠していることを考慮して新婚旅行は取り消した。しかし、挙式後の休みは予定通りにしてある。その一カ月の間、彼はしっかりと妻に付き添うつもりでいる。車で星城の至る所をドライブしたり、遊び回ってもいい。星城は大きな都市なので、彼らも隅々まではまだ探索していないのだ。挙式後の一カ月休暇のために、理仁は最近特に忙しかった。事前に処理しなければならない事があるので、残業も必要だ。「そこまで送りましょう」理仁は唯月を引き留めることはせず、唯月が社長オフィスを出てエレベーターの前に行くまで見送った。彼女がエレベーターに乗ってから、彼はまたオフィスに戻っていった。唯月がエレベーターで一階に到着した時、たまたま会社に到着した悟と出くわした。「内海さん」悟は唯月に気づくと、にこにこと笑って近づいてきた。「内海さん、いついらっしゃったんです?もうお帰りですか?せっかくならゆっくりして行かれたらいいのに。何かお手伝いすることがあるなら、一言声をかけてくれれば、すぐに解決しますよ」唯月は笑って言った。「ちょっと結城さんに用事があって来たんです。そんなたいそうな事じゃないので、お気遣いなく。彼はお忙しいでしょうからね、私も自分の店の様子を見に行かないといけないし。だから、今日はこれでおいとまして、また日を改めて食事に誘います」「わかりました。内海さんの料理の腕は以前にも増して上がりましたよね。昨日、レストランで食事して帰ってから、僕も明凛もまた食べたいって言っていたんです」唯月は悟に褒められて嬉しくてずっと笑っていた。悟は口が上手いので、誰もが彼におだてられてつい顔をほころばせてしまう。「それなら、時間がある時、いつでも食べに来てください。あなた達のために腕を振るいますから」「ええ、ぜひ」「それじゃあ、私はこれで失礼します」悟は振り返って唯月を送って行
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第2263話

「内海さん、安心してお店のほうは私たちに任せてください」唯月が来た時間帯はちょうど客が少なかった。十時くらいになると、買いに来る客は基本的にまばらになる。忙しい時は確かに猫の手も借りたいほど忙しい。もちろん、スタッフたちもみんな商売が繁盛するのを期待している。売上が良ければ毎月の給料も安定して失業する心配もなくなる。まんぷく亭は東グループから非常に近い。もともと隼翔の貸し店舗を借りてこの店を開いている。隼翔が唯月への気持ちを打ち明けた時、美乃里が大袈裟に反応し、二人が一緒になるのには反対していた。唯月は隼翔を避けるために、この店を他に移転させようとも考えたことがある。最終的に、彼女は彼の気持ちを真正面から受け止めることにしたのだ。唯月は車で東グループに向かった。近いので数分ほどですぐに到着してしまった。東グループのゲートにいる警備員は、唯月が来たのを見ると、すぐに開けてニコニコしながら彼女の車が入っていくのを見ていた。唯月の車が完全に会社の敷地内に入っていくと、その警備員はゲートを閉めて、持ち場に戻り同僚に話しかけた。「私が会社にここに配属された時に、内海さんも東グループに就職したばかりだったんだ。あの頃の彼女はちょっと太っててさ、君はたぶん知らないだろ。内海さんは今ではすごくお綺麗になってるけど、前はふくよかで肉付きがよかったから、お世辞にも綺麗な人だとは言えなかったんだよ。彼女が面接に来た時、本当は落ちたんだけど、ちょうど会社に来た東社長と出くわして、社長自ら彼女を採用することにしたんだ」話しかけられたほうの同僚は後から入ってきたので、以前の唯月を知らない。彼が入ってきてから、社長の東隼翔が恋い慕う相手が、結城グループ社長、結城理仁の妻の姉であると知った。唯月はダイエットに成功した後、あまり東グループへは足を運んでいなかった。特に、隼翔が自分のことを好きだと知ってからは、唯月はほとんどここには顔を出さなくなってしまった。「じゃ、社長はその時から内海さんに恋していたんですか?」新しい同僚はとても興味深そうに尋ねた。「いや、たぶん違うよ。だけど、社長は彼女にとても優しい態度だったよ。まあ、それもきっと結城社長の親戚だからっていう理由なんだろうけど。社長は内海さんの息子さんで、確か陽君って言ったか
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第2264話

唯月が隼翔の社長オフィスの前までやって来た。彼女はドアをノックして、返事があってから、開けて中に入った。隼翔はデスクの後ろに座り、車椅子を横に置いている。彼が出かけようと思ったら、机を支えにして乗り移ることができる。普段、彼についている二人のボディーガードは見当たらなかった。きっと、一階で待機しているのだろう。隼翔は会社に戻って働いているのは、処理しなければならない仕事があるからだ。だから、ボディーガードは常に彼についていることはなかった。会社で彼が何か助けを必要としている時は、秘書がやっている。聞き慣れた足音がして、隼翔は唯月のほうへ顔を向けた。そして手を机の上について立ち上がり、出てこようとした。すると唯月が急いで彼の行動を止めた。「動かないで座っていてください。転んだら危ないです」隼翔は笑った。「わかった、そうするよ。まだ足には思うように力が入らないからね」しかし、彼が退院したばかりの頃よりかなり良くなっている。「それでも前と比べて良くなっていますよ。このままリハビリを頑張れば、もしかしたら年越しには前と同じように歩けるようになっているかもしれません」唯月は彼の方へ歩いていき、弁当を置いて彼の体を支えて椅子に座り直させた。隼翔は笑って言った。「年末まであと数カ月しかないだろう。いくら努力しても、その頃までに普通に歩けるようになるとはあまり期待できないかな。医者も少なくても一年はかかるだろうって言っていたし、それが一番早いはずだ」もしリハビリしても状況が芳しくなければ、二年は車椅子生活をしなければならないだろう。隼翔は今三十六歳で、もし、回復までに二年かかったら、その時には三十八歳になっている。そして唯月は三十三歳だから、もし彼と結婚するとしても、そこまで遅くはないと思った。彼らが四、五十歳になったとしても、唯月が結婚する気持ちがあるなら彼は嬉しく思う。時間がかかってもようやく望みが叶うのだから喜んで気長に待つつもりだ。「一年で歩けるようになるのだってすごいことです。社長はずっと何をしてもうまくいく人だったでしょう」唯月にそう褒められて、隼翔はおかしくなって言った。「俺を陽君と思ってるんじゃないのか。陽君は昨日の夜帰ってから、起きなかった?」唯月は袋を開けて、彼に持ってきた弁当を
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第2265話

唯月が口を開いた。「最初だけ新しいところで珍しかったんでしょう。幼稚園に行くのに毎日早起きしないといけないし、叔母ちゃんのところに行けないし、帰ったらお絵描きしないといけないって言うんです」「陽君にあまりたくさん習い事はさせなくていいと思うよ。週末は武術の稽古にも行くだろう。三歳の子供だ、遊びたい盛りの時だからな。小さい間は楽しく過ごして、あまりいろんなプレッシャーをかけて楽しいはずの幼少期を奪わないほうがいいよ」「そんなに要求はしてませんよ。毎日ちょっとお絵描きさせてるだけです。武術のお稽古も幼稚園に入る前にやり始めたし。あの子はまだ幼稚園だから、私も小さい頃は楽しく過ごさせようって考えです。あの子が自分から言い出さない限り、他の習い事はさせないつもりです」隼翔は笑って言った。「まだ子供だからな。幼稚園に通い始めたばかりはそんなものだろう。時間が経って慣れてくれば、きっと行きたくないだなんて言わなくなるよ」この時、唯月は従妹の姫華が幼稚園に通う時、両親や兄に担がれて車に乗せられていた話を思い出して笑った。「慣れるまで待ちましょう。途中で諦めずに最後までやり切りなさいとあの子には言ったんです」「妹さんも君にあんなに立派な人間に育ててもらったんだ。陽君だって将来優秀で立派な大人になるに決まっているよ」隼翔はもう陽を庇うような言葉は言わなかった。陽は周りから可愛がられていたから、幼稚園は面白くないと思い行きたくなくなったのだろう。しかし、それではいけない。必ず誰かが陽をきちんと導いてあげる必要がある。唯月は母親として、子供の教育に関しては甘くしすぎずにしっかり厳しくするところは厳しくしている。隼翔はそんな彼女がきっと陽を立派な大人に育てると信じていた。「さっき言った言葉は、ただ酔っぱらって適当な事を言っていただけだとでも思ってくれ」昨日、彼は確かに結構な酒を飲んでいたが、もともと酒には強いので酔いつぶれることはなかった。「早く召し上がってください」唯月は割り箸を彼の手に持たせた。「またこんなことがあったら、届けには来ませんから。勝手にお腹を空かせていればいいんです。どのみち私がお腹を空かせてるわけではないですし」隼翔はニヤニヤと笑っていた。「実際は気になるはずだ」「いいえ、まったくございません」唯月は不
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第2266話

隼翔には、陽との間に父と子のような感情をはぐくむというちょっとした企みがある。実の父親である俊介を抑えてしまえばいい。もしかすると今すでに陽の中では隼翔のほうが俊介よりもランキングが上かもしれない。隼翔は自分がどれほど陽のことが好きで、継父になりたいと望んでいるかを星城全体に知らしめたいのだ。もし、唯月と結婚するという彼の夢が叶えば、隼翔は絶対に血の繋がらない陽のことを我が子のように思うだろう。唯月は実はそんな隼翔の下心などお見通しだったが、彼の言うことを拒否することなく答えた。「陽のことを鬱陶しいと思わないようであれば、午後は幼稚園までお迎えをお願いします」隼翔は朝食を食べながら言った。「もちろん、喜んで。陽君はたまに幼児あるあるの『なんで、どうして』を聞いてくるけど、とても物分かりの良い子だ。大人たちが忙しい時は、一人でおとなしくおもちゃで遊んでいるしね」何にでも興味を示すことに関しては、三歳の子供なのだから、いくら物分かりが良いといっても、周りを困らせることがあって当然だ。これくらいの小さな子供は何に対しても好奇心旺盛だ。毎日「なんで、どうして」を繰り返している。たまに、隼翔は陽からおかしな質問をされて、言葉を詰まらせてしまい、答えられない時もある。陽の無限にある「どうして」に対応するため、隼翔は本当にたくさん幼児向けの本を買ってきては、暇なときに見ているのだった。隼翔は陽との距離を縮めるために、かなり気を配っていると言える。実の父親である俊介よりも隼翔のほうが関心を寄せている。「唯月さん、今朝はどこに行っていたんだ?まんぷく亭に来たのは遅かっただろう?」唯月から陽のお迎えの許可をもらえた隼翔はこの時、その話題に触れた。今までなら、唯月は通常朝七時半前後にはまんぷく亭に来ていた。サラリーマンたちの出勤時間に合わせて店が一番忙しくなる時間だ。唯月は少し黙ってから答えた。「結城グループに行っていたんです。結城さんにちょっとお話があって」「どんな事だい?俺が手助けできることかな?妹さんは妊娠中で、あの二人は結婚式を早めるそうじゃないか。理仁は最近すごく忙しいみたいだから、俺ができることなら言ってくれれば助けるよ。理仁のところに行く必要はないから」隼翔の言葉のあちこちに、親友である理仁への嫉妬が見え隠れしてい
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第2267話

「陽は怖がってはいなかったですが、でも、あそこに住み続けるのはたぶんあまり安全じゃないかと思います。それに、社長もそんなに怒らないでください。私も、別に何かされたわけではないですから」唯月は隼翔をなだめようとした。隼翔は顔をこわばらせた。「しかし、あいつは君に目をつけたんだろう」彼女がダイエットしてスリムになると、多くの男が関心を持つだろうとは思っていた。隼翔が唯月のことを好きになり、今彼女にアプローチしていると知っている人は、たとえ唯月に恋心を抱いていても、隼翔と争う度胸のある男はいない。それを知らない人間、例えば昨晩のあの酔っ払いのように、唯月に狙いを定めて良からぬことを考える野郎はいる。彼女を他の男に渡してたまるものか!隼翔がずっと唯月を口説いていても、まだ受け入れてもらえていないというのに、他の男に取られるわけにいくものか。「引っ越しだ、唯月さん、今すぐに!すぐに手配して引っ越しの手伝いをさせる」隼翔は話を聞くと即座にそう言った。彼は今、直ちに唯月を引っ越しさせて、南山住宅地から離れさせたくてたまらなかった。「結城さんには、久之宮のお家は私がお金を出して購入したいと伝えたんです。だけど、今すぐに全額を用意することはできないし、今自由に使えるお金もそんなに多くないんです。二店舗の活動資金もまだ必要ですからね」隼翔は言った。「……唯月さん、君は本当に、俺が見てきた女性の中でもずば抜けて頑固者だな」だが、そんな彼女の虜になってしまった。隼翔の身分や地位を考えれば、今まで会ってきた女性は数多くいるのに、彼はそんな彼女たちには一人も目もくれず、唯月だけに少しずつ惹かれていった。そして今彼は彼女を深く愛している。しかし、彼女のその頑固さにはどうすることもできない。ここまでバカ真面目で、自分を曲げない義姉には、あの理仁ですらもどうすることもできないだろう。理仁はおそらく人生で初めて誰かに家をまるごと贈っただろうに、相手はそれを受け取ろうとしない。「理仁はその提案を受け入れると?」隼翔は尋ねた。彼は理仁はきっと同意しないだろうと思った。「結城さんは唯花と相談してみると言っていました」隼翔は理解して言った。「それは当然だな。今あいつは奥さんの言うことしか聞けないから」彼は唯月を見つ
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第2268話

唯月の野望は、ビストロピエナを大きくし、全国にチェーン展開することだ。だから、自分の特色を出して他と差をつける必要がある。それで、唯月は料理の勉強をして、向上するように努力していかなければならない。そして隼翔は、そんな彼女の心強い支えである。それから唯月はすぐに隼翔のオフィスを離れた。彼女がいなくなってから、隼翔はササッと朝食を平らげてしまった。お腹いっぱいになり、晴れやかな気持ちになった。彼はデスクの上の携帯に手を伸ばし、親友に電話をかけた。理仁が電話に出るとすぐに話し始めた。「唯月さんがさっき朝食を届けてくれた時に、久之宮の家について話してくれたよ。理仁、唯月さんがどうしてもお前からあの家を購入したいというなら、その金を受け取ってくれ。そのほうが彼女も心置きなくそこに住めるだろう。自分で金を出して買った家のほうが『家』って感じがあるだろ。誰かが買った家に住んでいては、どうも自分の家だという感じがなくて落ち着かないさ」理仁は片手で携帯を持ち、もう片方の手でサインペンをくるくる回しながら低い声で笑った。「お前なら、金を取るな、それかお前が代わりに金を出す、とでも言うと思っていたぞ」「そりゃ、彼女のためなら喜んでいくらでも出すさ。だが、彼女のほうが嫌がるだろう。俺だってどうしようもないんだよ。そんな彼女を好きになってしまったんだ、彼女の意向に沿うしかないだろ」「俺は義姉さんから金なんて受け取りたくないんだ。あれは俺と唯花さんの彼女への感謝の気持ちとしてプレゼントしたものだぞ。だけど、どうしても受け取ってくれない。俺たち夫婦も成す術なしだ。これじゃ、硬直状態が続くだけだ。俺が家を誰かに贈って、受け取ってもらえないのは初めてだぞ」隼翔は笑った。「そうだろ、彼女はあんな性格だから、お手上げだよ。彼女のしたいようにさせてあげよう。引っ越す気になってくれただけでも良かった。彼女が今のところに住んでいるのは安心できない。昨晩、酔っ払い野郎に遭遇したらしく、その男が一晩中彼女の住む部屋を探していたんだぞ。その酔っ払いは絶対に彼女に目をつけたんだ。今後一体何をしてくるかわかったもんじゃないぞ。彼女か、陽君にまた何かあれば、心臓が止まってしまいそうだ。彼女たち親子の安全のためにも、久之宮の家は彼女に売ってくれ」理仁は呆然とした。「
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第2269話

唯月はビストロピエナに到着すると、マネージャーがすでに店を開けて、スタッフたちも仕事につき、忙しくなる昼食時の準備にとりかかっていた。「内海さん、おはようございます」「おはようございます、社長」唯月が来ると、みんな笑顔で挨拶をした。昨日店がオープンし、なかなか好調だっただけでなく、祝いに来た客はみんな大物ばかりで、スタッフは興奮し、かなりやる気を出している。彼らは、唯月のような社長についていけば、将来必ず商売はうまくいき、給料も期待できると思っていた。真面目に働けば、もしかすると昇進できるかもしれない。内海社長がレストランをチェーン展開すれば、彼ら一店舗目から働いているスタッフは新店舗の管理層になれる可能性が高い。だからこの時、みんなやる気満々だった。唯月は微笑んで頷いた。彼女はまずキッチンに入り、配達されてきた食材の質を確認した。どれも新鮮で質が良いことを確認すると、彼女は自分のオフィスに行った。食材に関しては、少しコストがかかったとしても良い物を使いたかった。それはまんぷく亭でも、ビストロピエナでも同じだ。ここまで気を配っているのは、もし自分がうまくいかなければ、妹の名誉に関わると心配しているからだ。妹のため、結城家の名声のため、唯月は彼らに悪い影響が及ばないように管理面は非常に厳しくしている。毎日配達されてきた食材は彼女自ら確認作業をしている。唯月が座ってすぐにノックの音が聞こえた。彼女が顔を上げると、マネージャーがオフィスの前に立っていた。彼女が顔を上げた瞬間、マネージャーはこう言った。「社長、あのう、佐々木さんが来られています」佐々木?英子だろうか。唯月は淡々とした口調で言った。「中に通して」今の彼女は英子など怖くない。だから英子に会っても別に構わない。マネージャーは返事をし、英子を呼びに行った。すぐにマネージャーが佐々木母と英子の二人を連れてきた。二人を座らせると、唯月はマネージャーに伝えた。「大原さん、お茶を入れてきてもらってもいいかしら」「唯月さん、お茶なんていいですよ。私たち喉は乾いてないから」英子が笑顔を作って遠慮した。元義母と義姉がお茶を飲まないとわかり、唯月は大原には仕事に戻ってもらった。彼女は立ち上がって、二人に水を入れてやった。
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第2270話

佐々木母と英子は、未だに唯月と俊介が復縁する機会を作ろうと企んでいる。俊介が莉奈と離婚していないのは言うまでもなく、たとえ彼がまた再婚するにしても、俊介と唯月が復縁するなど有り得ない。俊介は、よくそれがわかっている。だから、俊介は一度も唯月に面と向かって再婚しようとは言ったことがない。全て彼の母親と姉が勝手に騒いでいるだけだ。しかも、過去、この母と姉が周りで騒いだせいで、唯月と彼が離婚することになってしまったというのに。俊介の母親は気まずそうに笑っていた。「なら、またお電話で注文しますね」「ところで唯月さん、レストランはすごく好調みたいだけど、人手が必要じゃないかしら?」「今のところ足りています。この間、あなたにもお話しましたよね?」英子はこの間唯月に雇ってくれないかと話を切り出した時に、断わられたのを思い出して、母親と同じく気まずそうに笑った。母と娘はこの時何を話せばいいのかわからなくなった。そして気まずさを隠すかのようにコップを手にとり、ゆっくりと水を飲んでいた。それから数分して、母親のほうが耐えきれなくなり、唯月に言った。「唯月さん、お仕事の邪魔したら悪いから、私は俊介の様子を見に行ってきます。二日したら週末だから、陽ちゃんを連れてお見舞いに来てちょうだいね。俊介も週末になるのを楽しみにしているから」唯月は言った。「陽が休みの日には、父親のお見舞いに連れて行きますよ」その時は、七瀬にお願いして陽を病院に連れて行ってもらい、彼女自身は行かないつもりだった。元夫家族に期待されては困る。「じゃ、私たちはこれで」母親は飲みかけのコップを置くと、立ち上がって帰ろうとした。「おばさん、ちょっと待ってください」この時、唯月が元義母を呼びとめた。俊介の母親が振り返ると、唯月はデスクの引き出しからご祝儀袋を取り出していた。「おばさん、これは英子さんが昨日、おばさんとおじさんが開店祝いにって包んでくれたものだって言ってくれたんです。でも、そちらは今お金が必要な時でしょうから、気持ちだけは受け取っておきます。このお金は持って帰って陽の父親のために使ってください。それに、おばさんとおじさんも自分たちに使ってください」俊介が重体になってから、彼の両親はずいぶんと老けこみ、頭はほとんど白髪になってしまっ
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