All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 2501 - Chapter 2510

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第2501話

「お母さん、その黛当主は私達に何かしてくるかな?お母さんとお父さんはできるだけ外出を避けたほうがいいと思う」姫華は心配して言った。母親が口を開いて何かを言うまえに、姫華がまた強気で言った。「でも、星城にいる限り彼女なんて怖がる必要ないわ。彼女が何かする勇気はないはずよ。あちらは勝手に星城に来たけど、もし何かする気なら簡単に帰らせはしないから」すると詩乃は言った。「安心して、表立って彼女が何かすることはないわ。でも、裏でこそこそと何もしないなんてことはありえない。昔の私はまだ小さかったから、彼女の性格なんてまったく理解できていなかった。今日彼女と会ってから、どんな人間なのかだいたい掴めたわ」「おばあちゃんの死?」姫華は母親を見つめた。詩乃は言った。「いつかは必ず真相は明らかになるって私は信じているの。姫華、この件はあなたは関わらなくていいから。あなたは自分の会社のことにだけ集中して、桐生さんと楽しくデートしているだけでいいから。ここの家の工事が終わったら、あなた達二人は結婚のことを進めればいいからね。二人とも、子供じゃないんだし、自分たちで決めなさい」初孫が生まれた詩乃は、孫が可愛くてたまらなかったのだろう、今は姫華と善の結婚を急かすようになっている。善は詩乃に温かいお茶を入れてもってきて、詩乃の話を聞くと、微笑んでその言葉に答えた。「おば様、僕と姫華さんは年内の結婚は予定していません。この家は中も外も全部リフォーム工事をしていて、敷地もかなり広いから、そんなに早く終われないでしょう。早くて、一月から二月といったところです。その頃に結婚するのは、唯花さんもまだ妊娠中で僕たちの結婚式に参加するのはあまり良くないと思います。姫華さんは彼女と仲が良いですから、絶対に参加してほしいらしいんですよ。仲が良い親友たちには全員参加してもらいたいんですよね。だから、姫華さんとも相談して、明凛さんと唯花さんが出産を終えてから、結婚式をしようと考えています」詩乃は善を見て、また自分の娘に視線を向けてから言った。「あなた達二人の結婚だから、自分たちで考えて決めたらいいのよ。お母さんもあなたがお嫁に行く前にしっかり準備しておくから」姫華は顔を赤くして言った。「お母さんったら、私も別に急いで結婚したいなんて言ってないん
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第2502話

とある借りアパートの部屋で、咲の二人のおばが木製の古いソファに座っていた。そして鈴が椅子に座っている。彼女たちの前にはこれもまた古い木製のテーブルがあり、その上には、まずそうなりんごが置いてあった。朱美は申し訳なさそうに姪に言った。「鈴ちゃん、今私はこんなひどいところに住んでいるのよ。気にしないでね。私は今人から紹介してもらって、ホテルの清掃員をしているんだけど、お給料はまあまあ。だけど、一カ月に十万もあればいいほうなの。あなたが予定より早く出てこられて、おばさんも嬉しいわ。でもね、お金の援助をしてあげることはできないから、許してね」樹里もつらそうな表情をして言った。「鈴ちゃん、私は昔からあなたをとっても可愛がっていたでしょう?だけど、私たちはあなたのあのひどい姉にこんな目に遭わされちゃって持ち家すらも手放すことになった。家族で部屋を借りて暮らすしかなくなったのよ。私と姉さんはもうこの年だから掃除のおばさんになるくらいしか仕事がなくて、生活費をどうにか稼いでるくらいよ。あなたを助けたいと思っても、本当に力になれないのよ」そして話題を変えて、今度は憎たらしそうに咲を罵り始めた。「これも全部あの悪魔みたいなめくらのせいよ。結城家の力を借りて、一切容赦なく私たちを苦しめ、復讐をしてきたの。確かに彼女には申し訳ないことをしたけど、それでも怪我なんてさせてないでしょう?」尾崎家と黒川家は咲を誘拐しようと企んだが、結局咲に気づかれてしまい、偶然居合わせた唯花が余計な邪魔をしてきたことで、彼らの陰謀は失敗に終わってしまった。その後は辰巳からの報復を受けることになり、両家のビジネスは完全に終わり、借金まで抱えることになった。それで家も車も贅沢品も売り払ってやっと借金の返済ができたのだ。それから彼らは星城の最も端にある、辺鄙な田舎町に何十年も前に建てられた古アパートで暮らすしかなくなった。ここに部屋を借りて一カ月の家賃と水光熱費も六万近くかかっている。以前、二万円など彼女たちにとっては大した金額ではなかった。それが今、六万円ともなると、何日も必死に働いてやっと稼げる金額だ。それに今住んでいる最も安い部屋でさえも、そう長くは暮らしていけないだろう。数十年前の建物で、災害時には危険がつきものだから、大家もそろそろ壊そうと考えているら
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第2503話

おばの話を聞いて、鈴は少し驚いてから口を開いた。「家には帰ってみましたけど、中には入れませんでした。うちの使用人は全員あのめくらが新しい人に変えてしまってたんです。それだけじゃなく、家には四匹の凶暴そうな犬まで飼っているんです。門をよじ登ろうと思ったけど、その犬に噛みつかれそうになっちゃって、驚いて急いで逃げてきました。あの女はいつもどおりって感じでしたけど……家にいる時には自由に動き回れていたから、目が見えてるのか見えないのかは判断ができません。門を開けろって要求したら、目が見えないから開けられないとかなんとか言われちゃって。きっとまだ完全には目が治っていないんでしょうね」鈴は続けた。「裕子おばさんがあの女をあちこち医者に連れていって、十年の長い時間をかけても治らなかったんですよ。その桐生家のなんたらって医者は目を治せるんですかね?なにが名医の弟子ですか。それはその人を大袈裟に周りが言ってるだけですよ。本当に名医がいても、結局は私たちと同じ人間です。神様なんかじゃない。あんなに多くの医者でもあいつの目を治すことができなかったんだから、きっと一生見えるようになることはないはずです。それに、目が見えるようになったとして、どうなるっていうんです?あいつは結城辰巳と結婚しても子供は産めません。お母さんが、あの女は不妊なんだって教えてくれたんです。子供を期待している家にしてみれば、嫁が不妊だなんて知ったら、結局は離婚させられますよ」朱美と樹里は互いに目を合わせていた。そして、樹里が鈴に尋ねた。「お母さんはどうして咲が不妊だって知ってるんだい?」咲も今まで結婚したことはないし、子供ができるかどうかなんてわからないはずだろう?「私だってわかりません。一度あの女のせいですっごく腹が立って、お母さんに泣きついたことがあるんです。その時に、教えてくれただけで、どうしてお母さんがそんなことを知っているのか、理由を教えてくれてないからわからないんです。でも、お母さんが咲は子供は産めないって言ってたから、それは間違いないでしょう。母親だからこそわかることがあるんじゃないですか?」朱美が言った。「もし、咲の体に問題があって、将来嫁いでも子供が産めなかったら、絶対に結城家から追い出されるに決まってる。ほら、あの唯花とかいう結城社長と運
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第2504話

「あなたと咲の争いは、姉妹間での争いであって、柴尾家の問題でしょう。結城家のあの女がいくら他人のことに首を突っ込むのが好きでも、まさかあなた達姉妹間のことにまで口を出してくることはないはず」鈴はやはり奥歯を噛みしめて悔しそうにしていた。「じゃ、あの女がのうのうと好きに生きているのを見ていろって言うんですか?あいつの幸せは、私の苦痛の上に成り立ってるっていうのに!」「でも私たちに一体何ができる?今の私たちのこの状況で、彼女にどう対抗できるって言うの?あなただって自分の家にすら入れないのよ。それでどうやって結城家の若奥様とやり合うのか教えてよ」鈴は言葉を出せなかった。鈴は助けてくれる人がいると言いたかった。でも、河野夫人から二人が協力し合うことは他言無用だと言われたのを思い出した。だから鈴は言わずに耐えた。今、鈴は河野夫人からの信頼を得られていない。鈴が柴尾家を無事に取り返すことができれば、協力するかどうか決定すると言われている。「鈴ちゃん、私たちも本当に相手をやみくもに持ち上げてるわけじゃないよ。現実問題そうなの。まずは柴尾家を奪い返すことに専念すべきだわ。それから、私たちはあなたと一緒に会社の経営をして、柴尾家の勢力を拡大するの。柴尾家が強くなり、実力と権力を取り戻したら、復讐したって遅くはないんだから」「そうそう、急いては事を仕損じるって言うしね」鈴はつらそうな顔をして言った。「朱美おばさん、樹里おばさん、わかりました。私は以前みたいに後先考えずに衝動でつっ走るような人間ではないんです。刑務所ではこれでもかって苦しみましたから、もう昔の猪突猛進でわがままで、偉そうだった自分ではありません。ところで、従兄弟たちはいつ帰ってくるんですか?彼らにも会おうと思って今日は来たんですよ。彼らに頼んで、あのクソ犬どもを殺してもらおうと思って。そうしないと中に入れないから。私の携帯も、銀行カードも、諸々貴重な物は全部家にあります。家に入れれば、全部取り返せます。あのめくらに結城家の御曹司がついていたって、なんだっていうんです?この私があんな目の見えないクズ女に負けるわけないわ!」昔からいじめる側はずっと鈴のほうだった。目の見えない人間相手に勝てないというのなら、河野夫人はきっと協力してくれないだろう。外の勢力が手
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第2505話

暫く黙っていて、鈴は二人のおばに言った。「今は私も他に行ける所がないから、ここで一緒にご飯を食べて、みんなが帰って来るのを待っています。それから一緒に柴尾家に行って、めくらが飼ってる犬をどうにかしてもらいましょう。私があの家に入れれば、二人にも良い事だらけです」「いいわよ。じゃ、ここで暫く待っていてね。ご飯を食べて、あの子たちが仕事から帰ってきたら、一緒にまた出かけましょう」鈴からも自分たちにとって良い事があると言われたので、朱美と樹里はとても親切に鈴を自分の部屋に留まらせた。「鈴ちゃん、夜は何が食べたい?おばさんに教えて、今からスーパーでいろいろ買ってくるから。でも、私は料理はあまり得意じゃないから、できたものを食べても嫌な顔をしないでもらえると嬉しいわ」柴尾家は昔、今ほど金持ちではなかったが、別に貧乏というわけでもなかった。朱美と樹里は生まれてから、ずっと貧しい生活など送ったことはない。大人になって結婚した相手は柴尾家とも釣り合いがとれるくらいの家柄だった。大金持ちというわけではないが、衣食住に困ることは一切なかった。小さいがいくつかの会社を持っていたから、一般人からしてみれば、金持ちの部類に入る。それゆえ彼女たちは料理の腕がよくない。家には食事を作る家政婦がいたから、自ら料理をする必要がなかった。たまに作る時、できあがった物はなんとか食べられる程度のものだ。今はお金がないので、何もかも自分でしなければならない。二人は毎日それぞれの家で一日三食を用意するから、料理の腕は少しだが上がっている。二人は鈴の舌が肥えているのがよくわかっているから、自分たちが作った料理を食べて怒るのではないかと心配なのだ。この姪はおだてるのが大変だ。わがままで横柄な性格をしている。正一と加奈子が目に入れても痛くないほどに溺愛しすぎたこの姪っ子を、おばの二人はどうにかご機嫌取りをしなければならない。以前にもまして、この状況である今ならさらに鈴のご機嫌を取っておかなければならない。今、尾崎家と黒川家は、鈴に咲から柴尾家の全てを奪い返してもらってやっと自分たちの家が復活できるのだから。彼女たちの兄である正一は十数年の刑期を受けている。その妻の加奈子は無期懲役の可能性が高い。鈴もまだ二十歳過ぎだし、甥の流星は大学生だ。この二人ならどうにかおだてて騙すこ
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第2506話

咲が話し合いに応じないというのであれば、財産争いの裁判でも鈴に起こさせればいい。「お父さんはしっかり反省した態度を示せば、少し早めに出てくることができるはずなんです。でも、お母さんは……刑務所から出てこられる可能性は低いですね」樹里は言った。「あなたのお母さんは、刑務所にいてもあまり良い態度をとっていないみたいよ。この間、流星君が面会に言った時、彼女は黙ったまま何も話そうとしなかったって。どうも死んだって構わないって態度みたい」「そんなまさか。お母さんは生きる望みがあるのなら、死にたいなんて思わないはず。だって、私と流星のことが大事だから、咲が柴尾家の全てを奪っていくのを黙って見ているはずないですもの」鈴は自分の母親のことをとても理解している。母親は絶対に自ら死を受け入れるようなことはない。ただ、彼女には重刑が科されるから、出てこられる可能性はほとんどないのが現状だ。「流星君が、お母さんに会った時にかなり痩せ細ってしまっていて、体調も良くないように見えたそうよ……幸せな家庭が、あのめくらのせいでばらばらになってしまったわ。なんであの女はこんなに残酷なわけ?彼女の父親は二十年以上前に死んでるじゃない。実の母親に対してここまでひどいことができるなんてありえないわよ」鈴は黙っていた。彼女自身、咲が自分たちのことをどれほど憎んでいるのかわかっている。彼らは以前、咲をことごとくひどい目に遭わせてきた。両親の罪は、咲の父親を殺害しただけではない。他にも違法行為をおこなっていた。特に母親のほうは裏社会とのつきあいがあり、誘拐や、故意の障害犯罪など多数に及んでいる。だから、両親はここまで重い刑を受けることになってしまったのだ。「流星はどの大学に通っているんですか?」鈴はこの時、弟の状況について尋ねた。鈴が刑務所にいる間、弟は一度たりとも面会に訪れなかった。鈴と流星は普段、関係は良くないが、両親が刑務所に入ってからも、実の姉弟であるのに、流星は鈴に会いに来ることはなかった。流星の話題になると、二人のおばの顔色もかなり悪くなった。朱美が口を開いた。「流星君は重点大学に合格したよ。だけど、星城じゃなくて、大学は他の都市にあるの。新幹線があるから便利だけどね。あの子は咲のほうに味方しているから、いつもあっちの言うことを
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第2507話

「私とあのめくらが喧嘩しても、流星はどっちの間違いかなんて構わずに、いつだってあのめくらの味方をしてた。私が悪い、私のせいだって。姉妹同士なのに、全く情を持ってないのかって言って、お父さんに訴えまでしたんですよ」実の弟に対して、鈴もかなりの不満を持っていた。樹里が言った。「流星君はとても善良な子だし、家にいるのも少なかったからね。だから、彼が思っているよりもずっと咲はひどい人間だなんてわからないんだよ。鈴ちゃん、あなた一人じゃ、咲には敵わないんじゃないかしら。あの子は今結城家という後ろ盾があるし、携帯と銀行カードを取り返したら、大学に流星君に会いに行ったらいいと思うわ。流星君はもう大人になったから、二人が手を組むことで、咲に対抗できるよ。何を言ったって、あなたと流星君が同じ両親から生まれてきた本当の姉弟なんだから、心をひとつにするべきなんだよ。咲は流星君に対して姉と弟の情があって、彼にひどいことをするなんてできないから、それであなたにとって有利なはずよ」鈴は言った。「でも、流星が私と心を合わせてくれるかどうかが問題ですよ。朱美おばさんも言っていたけど、咲は一体どんな手を使って、彼が小さい頃から自分の味方にさせたんでしょうね」鈴は、弟が咲に対してかなり良くしているのを嫌っていた。それがあったから、両親に弟は全寮制の学校に通わせるように提案した。それにより、弟が咲と接触する時間を減らせるからだ。「何度も彼のご機嫌をとって、説得すればいいのよ。結局はあなた達二人が心を合わせない限り、咲には敵わないわね」朱美は立ち上がって、お金を取りに行き、鈴に言った。「鈴ちゃん、あなたはここで休んでいてね。私は買い出しに行ってくるから」鈴は朱美が住んでいる部屋を見た。借家は広くはあったが、数十年前に建てられた木製の古いアパートだ。綺麗に掃除していたとしても、やはりごちゃごちゃして汚い感じだった。鈴は一体この部屋のどこで休めばいいのかと思った。ここは刑務所でもないし、鈴はすでに外に出てこられたというのに。再び自由を得たのだから、また柴尾家の令嬢に返り咲きたかった。しかし、彼女は嫌な顔は見せなかった。彼女はこの二人のおばと手を組んで咲に対抗しなければならないのだ。「おばさん、私もあなた達と一緒に買い物に行きます」鈴は立ち上がって
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第2508話

咲は夫の家族がとても好きだった。義母になる薫子は心から咲のことを大事に思ってくれている。実の母親から嫌われていたのに、義理の母のほうが実母よりもずっと、何倍もよく接してくれる。まだ目が見えなかった頃でさえ、義母は嫌がる素振りも見せなかった。おばである朱美と樹里が辰巳の家まで来て、咲は辰巳には相応しくないと言ってきた。義母となる薫子をうまくそそのかして、辰巳との仲を引き裂こうとしたのだ。しかし、結果二人は薫子に一喝されて終わった。咲は薫子の言葉を聞いて、非常に感動した。それから薫子のことを実の母のように思うようになっていた。薫子は咲から「お義母さん」と呼ばれて、大喜びで返事をした。彼女は息子の嫁の目をじっと見つめて尋ねた。「咲さん、視力は少し良くなった?遠くも見えるようになった?」「おば様、まずは咲さんと部屋に戻ってから、お話しましょうよ」唯花は笑って咲に言った。「おば様はね、あなた達が午後帰ってくるって知って、お友達とのお茶の約束を他の日にしてもらって、家で待っていたのよ。おばあちゃんも帰って夜ごはんを食べるって言ってた」唯花は夫と理紗の見舞いに行って、帰ってからは琴ヶ丘でゆっくりしていた。そこへちょうど咲が来て、話し相手ができた。唯花の調子が良い時は、理仁と一緒に星城のそう遠くないところまでドライブに行ったりもしている。遠くまで行かないから、琴ヶ丘に帰ってくるのは便利だった。二人っきりの世界に浸りたい時には、出かけて理仁名義の他の邸宅で過ごしている。理仁は普段、厳格で冷たい雰囲気の人間だが、遊ぶときには思い切り羽根を伸ばす。彼名義の邸宅は全てどこも立地条件が良く、遊びに行くのも便利だし、近くには美味しい食べ物屋がある。「今は少しだけ遠くの物が見えるようになっています。実際、今のままでもかなり満足しているんですよ。以前は本当に視界は真っ暗闇だったのだから、それと比べるとかなり良くなっているから。唯花さん、神崎さんが出産して会いに行った?赤ちゃん、とっても可愛かった。私と辰巳さんはさっきお見舞いに行って、帰ってきたの」唯花は笑って言った。「うん、行ったよ。でもあまり長くは滞在しなかったの。私が妊娠中だから、あまり長くいると疲れるだろうって。理紗さんが退院してから、また会いに行こうと思って。赤ちゃん
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第2509話

理仁は考えることもなく断わった。「俺は歩いて行こう。後ろから唯花が疲れないか確認できるし、疲れたようなら俺がおんぶして行けるからな」辰巳は言った。「……兄さん、そこまで奥さんのことを溺愛されちゃ、俺たちこっちが困るよ。ちょっとは余裕を持たせてほしいところだな」唯花は空手をずっと習っていた。妊娠してはいるがまだお腹も大きくなっていないし、つわりも落ち着いたから、あの距離を歩くのは問題ないだろう。それをわざわざ背負う必要があるのだろうか?理仁は自分は無実だという顔で言った。「俺はただ自分がしたいと思ったことをやってるだけだ。心から唯花のことを思っているからこそ自然とそうなるんだよ。別に誰かが俺と比べる必要なんてないだろ」辰巳は言葉を詰まらせてから、笑って言った。「そうそう、確かにその通りだ。別に兄さんと比べる必要はないんだよね。理仁兄さんは俺たちの手本だから、俺たちも見習わないと。本当に歩いていくんだね?じゃ、俺はお先に」理仁が一緒に来るまで行こうとしないので、辰巳は一人、車を運転して母屋に向かった。辰巳は車で三人の女性に追いついた時、スピードを落としてクラクションを軽く鳴らした。薫子は振り向いて息子を見ると、睨みつけた。「なによ、クラクションなんて鳴らして、うるさいわね。咲さんを驚かせないでよ」「母さん」辰巳はご機嫌を取るかのように笑った。「母さんたちも乗る?咲がみんなにいろいろお土産を持ってきたんだよ。俺一人だと持てないから、いっそ車を玄関先までつけようと思って」「私達はゆっくり歩きながら景色を見ておしゃべりするから、あなたは車で行きなさい」琴ヶ丘は一年を通して絶景が見られる。咲が琴ヶ丘に来たのは今回が初めてではないが、以前は目が見えなかった。辰巳が彼女を連れて、琴ヶ丘にあるものを口で説明してはいたが、実際に見ることはなかったわけだ。そして今は、至近距離なら見えるまで回復している。遠いところはぼんやりとはっきりしない。ゆっくり歩けば、彼女も琴ヶ丘全体の風景を楽しむことができるのだ。辰巳が自分の婚約者のほうを見ると咲が微笑み返した。彼は嬉しそうにニコニコと笑って車をまた走らせていった。これ以上そこにいると、薫子から会話の邪魔だと一喝されるかもしれない。三人に知らせようと思って軽
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第2510話

唯花は心配そうに尋ねた。薫子も同じように咲を見つめた。薫子は孫の顔が早く見たい。もし、辰巳と咲が子供をまだ持ちたくないか、今子供を持つことが現実問題難しい場合、薫子は何年待とうとも構わない。二人が結婚して子供を持たない選択をしないのであればいい。もし、本気で子供を持つ気がないのなら……彼らの年代の人にはすぐには受け入れられないかもしれないが、時間が経てばだんだん受け入れられるようになるだろう。子供たちはみんな大人になり、それぞれの考え方を持っている。彼らが望む人生が幸せで楽しいのであればそれでいい。「疲れてない?先に東屋で少し座って休もうか?」東屋に着くと、薫子は咲に尋ねた。咲は言った。「いえ、疲れてないですよ」咲はさっき来たばかりだから、まずは家に入って結城家のみんなに挨拶をしたいと思っていたから、東屋で休むのは気が引けた。「依茉先生から、私の今の体では子供を作るのは難しいと言われているんです。暫くの間薬を使って体の調子を整える必要があるって。でも、私の目の治療が終わってからじゃないと、新しいお薬を服用できないらしいんです」咲は隠すことなく本当のことを話した。早めに夫側の家族に知っておいてもらうのもいいだろう。結婚してから暫くしても子供ができなかったら心配させてしまうから、先に心の準備をしておいてもらうわけだ。それを聞いて、薫子は心配した。「先生からは、薬で体の調子は良くなると言われているの?」咲は以前、苦しい日々を送ってきた。体には少し問題があり、調子を整えなければならないことを、薫子も理解できた。同時に咲の家族たちのことを憎らしく思った。前の夫を愛していなかったとしても、自分で産んだ子供なのにどうしてひどいことができるのか、薫子には理解できない。自分のお腹で十ヵ月も育てて産んだ子供なのに、なぜ鈴のほうへ気持ちが偏ってしまうのだろうか。鈴という娘のことを加奈子は目に入れても痛くないほど可愛がっている。そして長女である咲を可愛がらないだけならいいが、いつも虐待し、命まで奪おうとしたのだ。しかし、咲は運が強く、何度も死の淵を経験しながらもどうにか生きて来られた。結果、十年もの長い間目が見えず、体まで悪い影響を受けてしまい、子供ができにくい体になってしまった。咲の家族の非情さと冷たさに
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