辰巳は何も言わず、ただ即座に上着を脱いで、そのままキッチンにあるゴミ箱に放り込もうとした。「辰巳」咲はさっき彼がゴミ箱に捨てようとしたあの上着を取りあげ、心配そうに尋ねた。「何か言ってよ。一体さっき何があったの?鈴が何かした?ねえ、言ってくれれば、あの子を厳しくしつけるわ。あなたに手を出そうとした?」辰巳は怒りに顔を真っ赤にして言った。「あの女、こそこそとキッチンに入ってきて、後ろから抱きついて、もぞもぞと体を触ってきやがった。俺は最初君だと思った。後ろを振り返ってみるとあいつがいて、頭にきたんだよ。押しのけて蹴りを入れてやった。それからここにあるものを投げつけたんだ」「……」咲はまさか鈴が本気で自分の夫に手を出してくるとはまったく思っていなかった。それに、後ろから抱きつき、体を触りまくっただと?辰巳もまさか鈴がここまで大胆な行動に出るとは思ってもいなかっただろう。それで咲だと思い込み、鈴であることがわかった瞬間に、怒りが爆発した。「咲、その服はさっきあのクソ女に触られたから、捨ててくれ!それはゴミだ。君を除いて他の女が俺に触るだと?俺の服に触ることも許せない。汚いやつに触れられた服などいらん!」そう言いながら、辰巳は咲の手からあの服を取りあげ、再びゴミ箱の中に投げ捨てようとした。「私が外に捨ててくるわ。ここに捨てたら、出たり入ったりするたびに思い出して気分が悪くなるでしょ。何度も気持ち悪い思いをするわよ」咲はそう言うと、彼から服を取りあげて、外に出ていった。玄関を出ると、咲は本当にその服を家の外に置いてある大きなゴミ箱に捨てて蓋をした。その時、流星が屋敷の門のほうから歩いてくるのが見えた。咲は立ち止まり、弟が目の前に来てから尋ねた。「鈴は帰った?」「鈴姉さんは必死に逃げていったよ。それより姉さん、一体何があったの?辰巳さんが突然あんなふうに怒り出すなんて、一体何が原因?辰巳さんが鈴姉さんの後ろから食器とか投げつけてるのを見たけど、あれにあたって背中がすごく腫れてたみたいだよ」流星はまさか鈴が辰巳を誘惑しようと思ってやったことだとは思いもしないようだ。「あのバカな子、もう少し逃げるのが遅かったら、辰巳がきっと殺していたわよ。良い事は学ぼうとしないで、母親と同じ人としてどうかと思うような恥
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