All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 881 - Chapter 890

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第881話

理仁は顔をこわばらせて何も言わなかった。悟は彼のその様子を見て、これ以上説得するのは諦め「それなら、君は会社にいてくれ。俺がちょっと探りを入れてみるよ。今は仕事をすることで気を紛らわしたほうが良いと思うぞ。奥さんとのわだかまりは、一日二日では解決できるような問題ではないだろ」と勧めた。「焦ったってどうしようもないよ。早くどうにかしようと焦れば焦るほど間違った方向に行ってしまうぞ」理仁は今、確かに何かをして気持ちを他所に向ける必要がある。彼は無気力にこう言った。「仕事を早めに切り上げたいなら直接そう言ってくれ、俺のために探る探らないとかそういうのはいらないから」悟はへへッと笑った。「君のために牛馬のように長年働いてきたんだぜ、そろそろ二日くらい休暇をもらわないとね」彼と明凛はまだまだ進展がない。恐らく理仁と唯花のことが明凛に影響を与えている部分があるのだろう。明凛はずっと現状から一歩踏み出そうとしないのだ。彼女は彼に対して確かに好感を持っているが、必死に自分の気持ちを抑えこみ、彼を好きにならないようにしているようだった。まったく!悟は大人しく着実に彼女にアプローチをしていくこの運命を受け入れたほうがいいだろう。長い時間をかけたほうが相手がどのような人なのかもはっきりとわかってくる。いつかきっと明凛も彼を受け入れてくれることだろう。悟はご機嫌で去っていった。仕事は全部理仁に任せて。悟はまず花屋で花束を買い、次はケーキ屋で明凛が好きなケーキを何種類か買ってからそれらを携えて本屋に向かった。傷口の治療をしてもらいに姫華は唯花を病院に連れて行って、明凛は店番をすることになった。彼女はテーブルの血の痕を綺麗にしてから、レジ奥で小説を読んでいた。「なんだか暇そうですね」聞き慣れた優しい声がその時店の中に響いた。明凛は顔を上げて声がしたほうを向き、悟が来たのを見て手元の小説を置いて笑った。「どうしてここに?今日も仕事ですか?」「新しい年になりましたけど、年末に溜まっていた仕事があって今日は残業です。明日は休めるんですけどね」明凛は「あなた達は週休二日だと思っていました」と言った。「普通は週休二日ですが、今みたいにみんな仕事が溜まって忙しい場合は土曜日にも仕事をして、日曜日だけしか休めないんですよ」悟は花束を
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第882話

悟がこの時間に来たので、明凛は結城社長がここを去った後、会社に戻ったのだと推測した。「神崎さんが理仁があの結城家の御曹司だったって知って、何か言ってました?何か暴れたりとかは?」悟は写真を撮ったがすぐには理仁に送らなかった。 どうせ神崎姫華がもう唯花を連れて病院へ手当に行ってるのだから、もし彼がこの写真を理仁に送ってしまったら、あいつはまた悟を会社に呼び戻して本人は病院に駆けつけ、愛妻の傍から離れないかもしれない。悟はこの時、まずは自分のことを優先して考えることにした。彼にはまだ少なくとも半日は必要だ。今はとにかく、明凛と二人っきりになる時間を稼いで、後で会社に戻りまた社畜と化そう。悟は、きっと前世では理仁にかなりの借りを作ったから、今世では彼のために喜んで自分を犠牲にしているのだろうと思った。「ただ結城さんは唯花を騙すべきじゃなかったって怒ってたくらいで、他には何も。結城さんのほうも特に多くは言い訳してませんでした。といっても、きっと言い訳のしようがないんでしょうね、ここまでのことをしちゃったんですから」明凛は悟を見つめた。「あなた達、お金持ちで身分のある男の人って、心の中にやましいことがある時に人を騙すつもりなら、本当にトップ俳優並みになりますよねぇ」それは主に彼らが、人の口を塞ぐことができる権力を持っているから、騙される側は全く真実に気づけないだけなのだ。一般人だったら、ここまで長い間相手を騙し続けることなどできないだろう。「明凛さん、俺はあなたを騙したりしていませんからね。俺が九条家の力を利用して付き合うのは嫌だと言われたから、今は家の力を借りたりなんて一切していません。あなたの前では嘘の一つもありゃしないですよ」明凛はケーキの箱を開けて、それを食べながら言った。「私に関することはすでに洗いざらい調べ尽くしているでしょう。今その九条家の力を使って私に接していなくたって、あなたが知りたいことはもうすでに全部知ってるじゃないですか」悟は気まずそうにしていた。彼はもともとこうなのだ。ある人にターゲットを絞ったら、すぐに人脈とコネを使い、その人物を丸ごと調べあげてしまう。相手を知れば百戦錬磨だからだ。「最近何か面白い噂話でもあります?」明凛はケーキを一つ食べ終わると、もう一つ取り出して箱の中の残
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第883話

悟はそのイケメン顔を歪めた。彼は何度も明凛と食事デートしているのに、彼女の両親は九条悟が娘にアプローチしていることを知らないのだ。これでは明凛の母親から九条さんは涼太とデートの約束をしたのでは?と言うかもしれない。そんな誤解をされれば悟はもう何も言葉にできない。明凛は母親の電話に出た。「もしもし」明凛は甘えた声で「お母様、何のご用でしょうか?」と尋ねた。「口を慎みなさい。今日は早めに帰って、おばさんのところにお食事に行くわよ」明凛は警戒して聞き返した。「今日何かあったっけ?どうしておばさんのところにご飯食べに行かなきゃいけないの」明凛の母親は少し黙ってから、声を抑えて尋ねた。「唯花ちゃんはそこにいるの?」「いないけど」「なら良かったわ。琉生君が帰ってきたの。ただ二、三日だけだけどね。あの子がH市に行ってから伊織さんは息子さんが恋しくなったのよ。母親ってそういうものだわ、息子が遠くで苦労してるんじゃないかって心配になるのよねぇ。なかなか琉生君も帰って来られないから、おばさんは私たちと一緒に食事したいんですって」それを聞いて、明凛の顔色は少し変わり、悟をちらりと見たが結局母親に尋ねた。「お母さん、琉生はただご飯食べに帰ってきただけなのよね?」理仁と唯花は今ギクシャクしているから、あの頭の中お花畑の従弟には余計な真似をさせたくないのだ。もし琉生まで関わってきたら、今の状況はもっと面倒臭くなってしまう。やはり血の繋がりのある従弟であるから、明凛も琉生がもっと悲惨な目に遭うのは耐えられないのだ。明凛はおばから、琉生を金城家の身分は伏せてH市の子会社に行かせ、一般社員と同じように働かせていると聞いていた。彼が両親の同意を得ずに勝手にH市を離れて星城に帰ってきてはいけないと言われているらしい。琉生の銀行カードも両親から止められている。お小遣いもなく車も使えず、彼には自分で懸命に働いて得たその給料で生活させるつもりなのだ。そして子会社は琉生に会社の寮も提供しないので、彼は自分で外に部屋を借り、毎月の家賃や水光熱費も自分で稼いだ給料から出さなくてはいけなかった。生まれつきのお坊ちゃんである琉生にとって、そのような日々は苦しいものだ。しかし、彼の両親はこのような厳しいやり方で彼を立ち直らせ、金城グループを救うしかな
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第884話

琉生が唯花をずっと諦めていないと知り、明凛の母親である牧野莉子(まきの りこ)も反対していた。いくら愛しているとしても彼女はすでに結婚してしまっているのだ。それなのにずっと諦めないとは一体どういうつもりなのだ?「あ、そうだわ。おばさんはね、またあなたに優秀な方を見つけてきてくれたらしいの。今夜食事する時に会わせてくれるそうよ。おばさんが探してきたのは金持ち家の息子ではないらしいのよ。おばさんがあなたは名家との結婚は拒んでいるって知って、諦めてくれたみたいよ」実際、明凛が大塚夫人の誕生日会で床に寝転がったというのは非常に有名だ。おばは姪が名家とは無縁なのだと悟り、諦めてしまったのだ。暫くの間大人しくしていたら、伊織はやはり姪の人生の最も重要なイベントを心配し始めてしまったようだ。二十六歳になった娘さんに彼氏もいないとなると、おばとして姪のことを思い、四捨五入すれば三十になる姪にとても焦りを覚えていたのだった。もちろん莉子も焦っていた。そして彼女は伊織と一緒にいると、明凛のお見合いのことばかり考えてしまうのだった。「おばさんが今夜あなたに会わせたい方っていうのは、会社にいる管理職の方らしいわ。会社でもう何年も働いていて、彼の人柄はわかっているって。彼は八年間付き合っていた彼女がいたらしいけど、三か月前に別れてしまったんですって。健司さんもあなたに良い縁談を、と思ってるの」明凛「……八年間も付き合ってた彼女と別れたって、何が原因だったわけ?」「女性のほうから別れを切り出してきたらしいわ。たぶん他の男性と結婚するから、別れたんでしょうね。まあ、どのみち、もう別れているのだから関係ないわ」明凛はその女性は八年間も結婚を待っていたというのに、できなかったものだから、諦めて他の男性を選んだのだろうと思った。「お母さん、私お見合いなんかしたくないわ」明凛はその優秀な男性と会うのを拒否した。八年間も一人の女性を待ち続けることができるのに、最後には彼女が他の男と結婚するのを黙って見ているとは、こんな男は愛情の欠片もないと思ったのだ。彼に会う前から、明凛は彼に対して全く好感が持てなかった。「彼は仕事が忙しすぎて、彼女と一緒にいる時間がなかったから、女性のほうは別れを切り出したのよ」莉子はまた言った。「健司さんが縁談話を持って来て
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第885話

だが、九条悟、こいつはかなりのハイスペックである。莉子が毎度、悟が涼太を誘って食事に行くのを見るたびに、内心ため息をついていた。もし、悟が娘の明凛を誘ってくれれば、彼女は喜びのあまり舞い上がっていたことだろう。夢を見ていてもニヤニヤ笑って目が覚めてしまう。悟はとても真剣な口調で言った。「お母様、僕は彼氏さんのふりをするのではありません。僕は明凛さんのお相手、はっきり申し上げますと、僕は彼女のことが好きなんです。でも、明凛さんにはまだ僕の彼女になってくれるという答えはいただいていません」それを聞いた瞬間、明凛の母親はとっさに携帯を耳から離し、自分が確かに娘に電話をしていることを確認をした。さらに耳の穴をほじって、携帯をまた耳元に戻すと悟に尋ねた。「あなたは本当に九条さんですか?」「お母様、もちろんです」「うちの明凛を好きと?涼太ではなくて?」悟「……お母様、僕は普通の男です。女性が好きです」悟は心の中で、将来の義母まで明凛と同じように、彼が涼太狙いだと疑っていたとはショックだとぶつくさと愚痴をこぼした。可笑しいのは、明凛の母親が悟のことをそう思っていたのにも関わらず、彼と涼太が一緒に出かけるのは止めたことがない。かなり先進的な考え方の持ち主ではないか?「だけど、あなたが涼太ととても仲良くしてくださるから、てっきりあの子のことが気に入ったのだと思っていたんです。だからいつも夫に、どうしましょう、私たちに男の子のお嫁さんが来たら受け入れられるかって尋ねてたんですのよ、そうしたら彼ったら、表情をすごく暗くしちゃって」悟「……」「明凛さんのお母様」悟は額に手を当てて、どういうことか説明を始めた。「僕が好きなのは明凛さんのほうです。ずっと涼太君と仲良くしてきたのは、彼が明凛さんの弟さんだからですよ。弟さんに気に入っていただければ、将来的に義理の弟になるかもしれないじゃないですか。つまり明凛さんの弟さんから攻略しようと思ったわけです。毎回涼太君を誘って食事に行く時には、明凛さんもついてきたでしょう?」明凛の母親はハハハハと大きく笑った。「なるほど、なるほど、涼太狙いでないのならいいんです。これで涼太の結婚相手が男の子になるかもと悩むこともなくなりましたわ。あなた、ちょっと来てちょうだい、良い知らせがあるのよ。息子が男の子
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第886話

しかし、このような日々はもうすぐ終わりを告げる。ようやく悟と母親の電話が終わった。悟は携帯を明凛に返し、笑みを浮かべて彼女を見つめながら言った。「今夜明凛さんのおばさんのお宅で食事することになりましたね。何を持って行ったらいいでしょうか?俺はこれでおばさんのお宅に伺っても失礼ではないでしょうかね?」明凛は彼をちらりと見て、引き続きケーキを食べながら言った。「今の九条さんがクソみたいな奴だったとしても、うちのおばたちの目には超優秀ハイスペック男子に映るでしょうね」「九条悟」だぞ。あの結城グループの九条悟で、謎多きあの九条一族の御曹司だ。この身分と地位こそ明凛のおばが姪の婿に探し求めてきたものである。唯花の夫が結城家の御曹司だと知った時、彼女の母親とおばは明凛の前で何度も唯花の運の良さを羨ましがっていた。星城で最も優秀な男の一人である結城理仁を手に入れることができたのだからだ。唯花を褒め羨ましがる時の母親とおばの彼女を見つめるあの目つきは、明凛は十分わかっていた。悟は自信を持って言った。「俺はクソな野郎なわけありませんよ。自分を褒めているのではなく、星城において、俺よりも優秀な男なんて数えるほどしかいません」「そんな九条さんに好かれた私は神様に感謝しなくちゃですねぇ」「俺たちの信仰心が強かったからこそ今世で出会うことができたんでしょう。引き続き神様に感謝することを忘れなければ、来世でもまた明凛さんに出会えるでしょうね」明凛は誰がまたあなたに出会いたいと思いますかと言いたかった。九条悟という男はいつも顔には笑顔を浮かべて和やかな雰囲気を出しているが、実際は思い出すだけでも眠れないほど恐ろしい男なのだ。言葉が喉元まで来て、またそれを呑み込んだ。来世があるかどうかは置いといて、今の人生を楽しく生きることが先決だ。「私たちまだ付き合うって決めていないのに、お母さんの前では……」「俺が主張しておかなければ、お母様と金城夫人はいつも明凛さんにお見合いさせようとするでしょう。万が一明凛さんが誰かを好きになってしまったら、俺はどうすればいいんです?さっき話ができて良かったですよ、じゃなきゃお母様はずっと俺は男が好きであなたの弟君を追いかけていると勘違いされ続けていたことでしょうし」「ゲホゲホゲホッ――」明凛はケーキにむせて
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第887話

明凛は失笑した。「追い立て屋さんになってくれるっていうなら、いつでも大歓迎ですけど。うちの部屋や店は全部両親が管理しているもので、私のものじゃないんです。ただ、母が走り回るのを面倒がって、私に支払いが遅れている借主のところまで行かせてるだけですよ。もちろん私にはその報酬として数万円くれていますけど」両親の金は彼らのものだ。自分で稼いでこそ、能力があると認められるものだ。「さっきお母様は金城君が戻ってきたから、おばさんが一緒に食事しようと誘ってこられたんですよね」「あの子はただ週末の休みにおばに会いに帰ってきただけで、唯花に付き纏うつもりはないですよ。だから、九条さんも結城さんも裏で彼と金城グループに何か手を出すことはしないでくださいね」明凛も馬鹿ではないのだ。結城理仁が結城社長であるとわかった瞬間に、今までの全てのことが繋がったのだ。金城グループが叩きのめされたのに悟が関わっていないと言われても明凛は信じられない。悟もおどおどせずに正直に言った。「理仁は明凛さんと俺のことを考慮して、金城社長には契約打ち切りとなった理由を伝えただけですよ。そうじゃなきゃ、金城グループはわけもわからず倒産することになったでしょう」明凛は彼を見つめ心の中で悟と金城家には何も関係ないのに考慮するとはどういうことだと思っていた。そして自分が彼から好かれていることを思い出し、明凛は言葉が出なかった。理仁はあれでも噂のように完全に無情な人ではなく、人の気持ちを考えて動く人間だった。「琉生は唯花のことがとても好きだけど、結城家の若奥様になったんだって知ってから諦めてしまいました」明凛は母親に唯花のことを教えた時のことを思い出していた。年が明けてから、おばは琉生に決めたことを伝えた。彼をH市の子会社に行かせて普通の社員から働かせ、琉生の銀行カードも止め、お小遣いもあげていない。その時の琉生の反応はというと――「母さん、俺はもう母さんに言われたとおり、唯花さんには連絡しないし、会いにも行かない。それでいいだろう?どうしてわざわざH市にまで行かなきゃならないんだ?」琉生はとても怒っていた。母親から強制的に唯花に会いに行かせないようにされ、電話すらも禁止されてしまったのだ。彼は唯花のことを考えすぎて、もう頭がおかしくなってしまいそうだった
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第888話

それを聞いて琉生はとても驚き、それが本当だとは信じられなかった。「母さん、俺を騙そうとしてるんだろ?諦めさせるためにわざとそんな嘘をついてるんだろ?唯花さんの旦那さんがどうして結城社長なんだ?俺……」この時、琉生はふと唯花がスピード結婚してから彼女の夫に会ったことがないことを思い出した。「どうしてお母さんがあなたを騙さないといけないのよ。私だって最近になってやっとこのことを知ったんだからね。結城社長から直接聞いたの、あなたが彼の奥さんにちょっかいを出してくるから、私たち金城グループにあんなことをしてきたんだって。琉生、これ以上また唯花さんに付き纏うなら、私たち金城家はあなたと一緒に朽ち果てるしかないわ」伊織は厳しい表情で続けた。「あなたが金城家のために何かをしなくても構わないけど、一族を没落させるような真似はしないでちょうだい」「結城理仁……結城社長の名前は結城理仁って言うの?」琉生はこの時、訳がわからなくなっていた。あの結城社長が唯花の夫だというのか!「あなたが結城社長の本名を知らなくてもおかしくないわ。だってほとんどの人が知らないことだもの。琉生、結城社長の名前が何なのかなんて重要じゃないの、今一番重要なことは、彼が唯花さんの旦那さんだということよ!彼の地位や権力がどうだこうだ言う前に、彼が唯花さんの夫だっていうだけで、もうあなたは彼女に付き纏ってはいけないのよ。彼女はもう既婚者で旦那さんがいるのよ。あなたの存在は彼女を傷つけるだけよ!私はお父さんと話し合って、あなたをH市の子会社で鍛えさせることにしたの。あなたが社会にもまれて金城グループの後継者になれるかどうかは、あなた自身にかかっているわ」伊織はため息をついて、息子に注意した。「琉生、あなたと同世代の中にはあなたよりも優秀な人がいないわけじゃないわ。あなたが努力しなかったら、本来はあなたのだったものが他の人に奪われてしまうわ。お母さんだってあなたに好きな人を諦めさせるのは辛いことだってわかってる。琉生、苦痛はできるだけ短いほうがいいわ、あなたはまだまだ若いんだし、今年はまだ二十三歳でしょ。これからの人生で、唯花さんよりも好きになれる女の子に出会えるに決まってる。だから唯花さんに執着して自滅しないでちょうだい。それに、あなたに結城社長と争える力があるとでも言うの?あの人
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第889話

それを見て理仁は手から携帯を床に落としてしまいそうになり、すぐに緊張した面持ちで悟に電話をかけた。「悟、唯花さんは今どこの病院にいる?」彼が言ったひとことが、唯花に大きな影響を与えてしまい、怪我までさせてしまったのだ。理仁は後悔とともに自分を責めていた。どうして彼はこんな腐った性根をしていて自分をコントロールできないのだろうか?「俺もどの病院に行ってるのかわからないよ。店に着いた時に明凛さん一人しかいなくて、君の奥さんが怪我をしたから神崎さんに連れられて病院に行ったと教えてもらったんだ。気になるんだったら、電話して聞いてみろ」すると理仁はすぐに悟との通話を終わらせた。そして唯花に電話をかけた。何度もコール音を繰り返し、ようやくその電話が繋がった。「唯花さん、今どの病院にいる?怪我の状況は?俺が今すぐそっちに向かうよ」しかし、電話に出たのは姫華だった。唯花は点滴をしている最中だった。病院に着いた後、姫華は唯花の傷口が思った以上に深いことを知ったのだ。医者が傷口を綺麗に洗い流すときにもまだ血が流れ続けていた。姫華は少し血を見るのが苦手で、その時血がポタポタと床に落ちるのを見て、足も力が入らなくなってしまった。結局その様子を見ることができずに体の向きを変えて目線をずらし、少しマシになった。唯花が使っていたハサミは結構長く使っていたので、少し錆がついていた。医者は破傷風にならないように炎症の薬を点滴することを勧めたのだった。彼女は左手の中指に傷を負っており、包帯を巻いた後は携帯を使うのが不便だった。右手は点滴をしているので、携帯の着信音を聞いて姫華に電話をとってもらったのだったが……姫華は理仁の緊張して慌てた様子で尋ねてくる声を聞いて、心の中で少し嫉妬していた。この時の彼女は家族が思っているのと同じように、どうして理仁が唯花のほうを選んだのか納得できなかったのだ。彼女のどこが足りないというのだろう?しかし、この嫉妬心も瞬間的なもので、彼女はすぐ理仁に返事をした。「唯花はもう怪我の手当が終わって、破傷風の注射をしてから今は炎症を止める薬を点滴しているわ」彼女は点滴薬を見てまた言った。「たぶんあと二十分くらいで打ち終わると思うけど」「どうして君が?唯花さんは?」それに対し姫華は彼に聞き返した。「
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第890話

それを聞いて理仁の表情は暗くなった。さすが神崎姫華はあの神崎玲凰の実の妹である。兄妹揃ってこの性格だ。理仁が唯花の夫であると知ってから、この兄妹は理仁の前で礼儀正しくしろと主張してきたのだ。彼は電話を切った。星城高校に一番近いのは星城私立病院である。調べるまでもなく、姫華が唯花をこの病院に連れて行ったのだと予想できる。理仁に電話を切られても姫華は怒らず、唯花の携帯を財布が置かれた横に戻し言った。「唯花、あなたのお母様は私の叔母で、私たちは従姉妹よね。これはDNA鑑定もした結果であって紛れもない事実でしょう。私はあなたより一歳年上だから、あなたからいとこのお姉さんだって呼ばれるのは当然のことね。そして結城さんはあなたの夫で私より年上ではあるけど、敬語を使って話してもらいたいわ。だからね、絶対に彼には礼儀正しく私に振舞うように言ってちょうだい。じゃないと、私イライラしちゃうわ」唯花はちょっと笑いたかったが、こう言った。「彼の口は彼の体についてるんだから、あの人がどのような口を利くかは私にはコントロールできないわ」「それでもあなたからちゃんと彼に言ってもらわなくちゃ。あなたが全くお構いなしの態度を取っていたら、彼は私に会うたびにやっぱりいつもの冷たい口調のご機嫌斜め顔でいるわ。そしてあの冷たい声でこう叫ぶの。「神崎!」ってね。彼の奥さんになれないなら、親戚になってもそれはそれでいいわ。あはは、やっぱり丁寧な口調で彼には話してもらいたいわね!」彼女は唯花のすぐそばにあるスペースに腰かけ、目線を唯花の傷口へと向けて辛そうに言った。「もしかして、怒ってたから自分の手を結城さんの手に見立ててこんな傷作ったんじゃないよね?」「そんなんじゃないわよ。いくら怒ってるからって自分を傷つけるようなことなんてしないよ。本当に事故だったの。たぶんイライラしてたから手に力が入りすぎてサクッとこんな感じで傷つけちゃったのかも」「実際問題、結城理仁は本当に素敵な男性よ。結城家の家風だってとっても良いし。私は生まれも育ちも名家出身者でしょう。だから名家のことならよくわかっているの。国内でも結城家のような名家は三家くらいでしょうね」姫華は羨ましそうに言った。「A市の桐生家はその中の一つよ。それから、星城市の結城家ね、そして後は、聞いたことないから、どの家かわか
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