理仁は顔をこわばらせて何も言わなかった。悟は彼のその様子を見て、これ以上説得するのは諦め「それなら、君は会社にいてくれ。俺がちょっと探りを入れてみるよ。今は仕事をすることで気を紛らわしたほうが良いと思うぞ。奥さんとのわだかまりは、一日二日では解決できるような問題ではないだろ」と勧めた。「焦ったってどうしようもないよ。早くどうにかしようと焦れば焦るほど間違った方向に行ってしまうぞ」理仁は今、確かに何かをして気持ちを他所に向ける必要がある。彼は無気力にこう言った。「仕事を早めに切り上げたいなら直接そう言ってくれ、俺のために探る探らないとかそういうのはいらないから」悟はへへッと笑った。「君のために牛馬のように長年働いてきたんだぜ、そろそろ二日くらい休暇をもらわないとね」彼と明凛はまだまだ進展がない。恐らく理仁と唯花のことが明凛に影響を与えている部分があるのだろう。明凛はずっと現状から一歩踏み出そうとしないのだ。彼女は彼に対して確かに好感を持っているが、必死に自分の気持ちを抑えこみ、彼を好きにならないようにしているようだった。まったく!悟は大人しく着実に彼女にアプローチをしていくこの運命を受け入れたほうがいいだろう。長い時間をかけたほうが相手がどのような人なのかもはっきりとわかってくる。いつかきっと明凛も彼を受け入れてくれることだろう。悟はご機嫌で去っていった。仕事は全部理仁に任せて。悟はまず花屋で花束を買い、次はケーキ屋で明凛が好きなケーキを何種類か買ってからそれらを携えて本屋に向かった。傷口の治療をしてもらいに姫華は唯花を病院に連れて行って、明凛は店番をすることになった。彼女はテーブルの血の痕を綺麗にしてから、レジ奥で小説を読んでいた。「なんだか暇そうですね」聞き慣れた優しい声がその時店の中に響いた。明凛は顔を上げて声がしたほうを向き、悟が来たのを見て手元の小説を置いて笑った。「どうしてここに?今日も仕事ですか?」「新しい年になりましたけど、年末に溜まっていた仕事があって今日は残業です。明日は休めるんですけどね」明凛は「あなた達は週休二日だと思っていました」と言った。「普通は週休二日ですが、今みたいにみんな仕事が溜まって忙しい場合は土曜日にも仕事をして、日曜日だけしか休めないんですよ」悟は花束を
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