All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 861 - Chapter 870

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第861話

唯花がドアを開けた瞬間、掌が彼女の顔めがけて飛んできた。彼女は反射的に、サッとその手を掴み取った。そこにいたのは成瀬莉奈だ。莉奈はドアを開けたのが唯月だと思い、扉が開いた瞬間に平手打ちをしてきたのだ。それが出て来たのは唯月ではなかった。唯花は空手をやっていたし、反応が早く、素早く躱せたのだ。「あんた?ここに何の用よ?」莉奈が相手を確認するとそれは唯月ではなく唯花だった。唯花は力いっぱい莉奈のその手を振り払い、もう片方の手で彼女を押しのけた。すると莉奈は後ろに数歩よろけて、さっきの勢いが衰えた。「唯月は?あの女を呼んできて。あいつが私の夫を誘惑したのよ!」仕事が終わると、俊介は莉奈をほったらかしてさっさと会社を出て行った。莉奈はそもそも内海家の人が会社まで俊介を探しに来て、彼のことを孫の婿だとか、従妹の夫だとか騒ぐものだから、かなり腹を立てていたのだった。佐々木俊介と内海唯月はもう離婚したというのに、あの人たちが図々しくも俊介と従妹の夫だと言ってきたということは、つまり俊介と唯月の復縁を望んでいるのか?佐々木家のみんなもそう思っていて、さらに内海家まで出て来てそのような考えを持っているとは、莉奈の存在は一体なんなのだ?そして彼女はこっそりと俊介の後を追っていて、俊介が唯月に会いに行ったことを知ったのだ。俊介が遠ざかってから、彼女はここへ現れた。唯花は皮肉たっぷりに言った。「あんたのあの旦那なんかね、うちのお姉ちゃんは要らないの。お姉ちゃんはね、目は確かなのよ。それなのにあんな男を誘惑するわけないでしょ。なによ、お姉ちゃんのところから奪ったクズ男があんたを安心させてくれないってわけ?」「あんたの姉と俊介は離婚したわ。私は俊介と昨日結婚したの。私と彼は今や夫婦よ、あんたの姉と彼は一切関係なんかないんだから、彼から遠く離れてよ。どうしていつもこそこそ私に隠れて会ってるわけ?あんたの姉って、もしかして私に復讐したくてわざとダイエットして、俊介を誘惑してやろうって魂胆なんじゃないの?」「ハッ、あんた何様のつもりよ?お姉ちゃんがどうしてそんなことしなきゃいけないわけ?あんた、この世の全ての人間があんたと同じようにクズ男を宝物のように大切にするとでも思ってる?あの男が浮気したしないは置いといて、あいつがもし何も
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第862話

莉奈はそのセリフを吐き出した時に、自分でも、それは根拠のない全くの口から出まかせだとわかっていた。彼女がそうしたのはただ気に食わなかったからだ。以前の俊介は家に帰って唯月の太った体を見るだけで吐き気がすると言っていたのだ。それが離婚してから、俊介は事あるごとに唯月に会いに行っている。そして、唯月もずっとダイエットを続けていて、離婚した頃と比べると、たったの二か月で数十キロ痩せてしまったのだ。今の唯月は確かにモデル体型と比べるとやはりお肉がついたおデブさんに見える。しかし一般人と比較すれば、彼女はただ肉付きの良いふくよかな体型であるだけだ。莉奈は俊介が頻繁に唯月に会いに来るのは、唯月が痩せて離婚時よりも綺麗になったからだと思っているのだ。この時、唯月がやって来た。莉奈は彼女を見た瞬間、怒りに満ちた顔になり、凶悪な目つきで唯月を睨みつけ、叫んだ。「唯月、あんたにいくら金持ちの伯母がいようっても、妹の夫が結城家の御曹司であっても怖くなんかないわよ。私の夫を誘惑するってんなら、完膚なきまでにギッタギタにしてやるわ」唯月は本当に滑稽だと思い言った。「成瀬さん、あなた、他人の夫を奪ってからトラウマが生まれたみたいね。どうも安心できないんでしょ。いつも誰かがあなたから夫を奪っていくんじゃないかってビクビクしているのよね?もしかしたら、あなたみたいに男を見る目のない女が佐々木さんのことを好きになって、あなたと同じような女狐に盗まれるんじゃないかと思ってるんじゃない。だけどね、それは絶対に私ではないわ。私はね、潔癖なところがあるの。私が使用したモノを誰かが拾って使ったら、その『モノ』は汚いから、二度と要らないの。それに、私は本当に成瀬さんには感謝しなくちゃ。あの男を拾ってくれたおかげで私はスムーズに離婚することができたし、もらうべき財産も手に入れることができた。そんな成瀬さんに応えるためにも、約束するわ。今後あの男がいくら後悔して私と復縁したいと言ってきても、私は絶対にそんなチャンスをあいつには与えないわ」莉奈は怒りと恨みを込めて言った。「俊介は後悔なんかしないわよ、彼は私のことをすっごく愛しているんだから」「そんなにあなたのことを愛してるって言うなら、一体何を恐れてるの?」唯月のこのひとことが莉奈を黙らせた。俊介は確かに彼女を
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第863話

「成瀬さん、もし信じられないなら、あなたの夫に聞けば済む話なのに、どうしてお姉ちゃんのところにまでわざわざやって来るのよ?あんたの夫がここに来たのであって、お姉ちゃんは別にあいつに何も用なんかないわよ、この点、あんたわかってるの?」唯花は我慢できず莉奈に忠告した。「もし、不安なら帰って旦那の足でも切り落として、一生あんたの傍にいるようにさせたらどうなの」「内海唯月、あんたも引っ越してよ。ここから遠く離れた所にね。私のお義母さんに知られないようによ。そうすれば、俊介だって二度とあんたのとこになんか来ないわ」莉奈は唯花の皮肉は無視した。今彼女がこの世で最も嫉妬している相手はこの唯花だった。顔も自分より綺麗じゃないし、若くもないくせに、あの結城家の御曹司と結婚しているからだ。かなりの幸運の持ち主だ。結城社長は一体唯花のどこに惚れたのか、全く理解できない。そう思っているのは莉奈一人だけではなく、多くの人がどうして唯花が結城社長の心を動かし、彼のこの世で一番大切な女性になれたのか、納得できなかった。唯月が口を開く前に、唯花のほうが怒って「なんで姉ちゃんが引っ越さなきゃならないのよ?ここを去るべきはあんた達のほうでしょ。あんたさ、お宅の旦那がお姉ちゃんのところに来るのが怖いんでしょ?だったら、あんた達が遠くに引っ越しなさいよ。星城から出て行くのが一番だわ、それなら絶対にここへは来られないでしょ」と言った。「あんたね、ひとこと返してあげようか。あんた、自分の男の管理もできなかったら、外であいつが他の女に惑わされても文句言えなくなるわよ。これは元不倫相手であるあんたが一番好きなセリフでしょ。さっさと帰って。あんたの顔見てたら水を頭からぶっかけたくなるわ」唯花は力いっぱい玄関のドアを閉めて姉に言った。「お姉ちゃん、さっさとあの男と離婚してよかったわね。じゃないと、いつもこういう腐った人間のせいで血圧上がっちゃうわ」「あんな人に腹を立てる必要なんてないわよ。私たちが怒れば怒るほど、あの人は喜ぶんだから調子に乗るだけよ。私が怒ればまだ佐々木俊介に未練があるって思われて、あの女は勝者の優越感に浸るのよ」唯月はこの時はもう最低な人間を前にしても、心を平静に保てるようになっていた。「気分が悪い時に誰かさんがわざわざ私に怒鳴られに来てくれて
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第864話

唯花はテレビ電話を切った。理仁「……陽君も見せてくれないのか」こんなことなら、もっと陽をからかって話していればよかった。そうすれば唯花の声くらいは聞けたかもしれないのに。唯月は妹をチラチラと見ていたが、何も言わなかった。妹を迎えに行って帰って来てから、唯月は何も尋ねなかったのだ。妹が彼女に話したいと思ったら、自然と向こうから何か言ってくるだろう。息子の顔がご飯粒だらけなのを見て、唯月は可笑しくなってそのご飯粒を取ってあげた。食後、唯花は出かけると言った。「どこに行くの?」唯月は食器を洗いながらそう尋ねた。「モヤモヤしてスッキリしないから、ちょっと外の冷たい風に当たってくるわ。お姉ちゃんの電動バイク借りていい?」「あまり遠くまで行かないでよ。そんなに充電してないから、遠くまで行って電池が切れたらバイクを押して帰って来るしかなくなるわよ。厚手のコートを着て行きなさいね、バイクだと風がとても強いから」「わかったわ」「明凛ちゃんとお酒を飲みに行ったらダメよ、結城さんが心配するからね。唯花には車で走り回ったり、お酒を飲ませたりしないって、彼には約束しているから」あの嘘つき野郎の名前が出てきたので、唯花は気分を害した。彼女は彼に腹を立てているが、頭の中から彼の存在を消し去ることができず、何をするのにも彼のことを思い出してしまうのだ。唯花は姉に不満を漏らした。「お姉ちゃん、私は妹なのよ。それなのに、あいつのために私の自由を奪うって言うの?」「私は別に誰かのためにやってるんじゃないの。ただあなたの安全が第一だからよ。今のあなたは気分を悪くしているし、車を運転したらスピードを出すでしょ、事故を起こしやすいわ。それにお酒もそんなに強くないんだし、二杯くらいですぐ酔っぱらって次の日にはまた泣いて頭が痛いとか大騒ぎするくせに」唯花「……」「おばたん、ぼくもいっしょに行く」陽は叔母が出かけると聞くとすぐに駆け寄って来て、唯花の足に抱きつき一緒に行くと駄々をこねていた。唯花は甥を抱き上げ、子供用のヘルメットを取って姉に言った。「お姉ちゃん、陽ちゃんが来るならバイクには乗れないから、ママチャリでちょっと周りを二周くらいしてくるわ」「気をつけてね、陽のヘルメットはしっかり被せて、コートもしっかり着させて」「わかった
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第865話

唯花は陽を連れてマンションの周りを二周し、そして最後に近くにある大型スーパーへ行き、多くのお菓子と牛乳を買い大量の荷物とともに帰路についた。そして唯月のマンション前まで戻ってきた。唯花は辺りを警戒するように見まわし、理仁の姿がないことにホッと胸をなでおろした。しかし複雑な心境だった。「陽ちゃん、先に降りてね。おばちゃんは自転車を止めてくるから」マンションにある一階の駐輪場に止めに行った。唯花は先に甥を抱き上げて自転車から降ろし、買って来たお菓子と牛乳も陽の隣にドサッと置いた。陽はこのお菓子や牛乳は叔母が彼に買ってくれてものだと思い、すぐに膝を曲げてお菓子たちの横に座り込んだ。小さな両手を伸ばしてお菓子の入った袋を片手に掴み、もう片方の手は牛乳に置き、明らかに守りの姿勢に入った。「陽君」この時、聞き慣れた声が響いた。陽が後ろを振り向くと、そこには理仁が立っていた。彼はとても喜びすぐに立ち上がってキャキャッと嬉しそうな声をあげた。「おじたん」そして彼は両腕を広げて、理仁に抱っこの姿勢を見せた。唯花がちょうど駐輪場に入ったところで理仁の声が聞こえたので、その声の方へ視線を向けると、理仁が陽を抱っこするのが見えた。その時、注意がそちらへ向いてしまっていたので、押していた自転車が横にあったバイクにぶつかってしまい、そのバイクは横向きに倒れてしまった。そして唯花が押していた自転車もそれにつられて倒れてしまい、彼女は姿勢を崩し自転車の上に転んでしまった。「唯花さん」理仁は低い声でそう彼女の名前を呼び、すぐに抱っこしていた陽を下におろすと、駆け足で駐輪場のほうへやってきた。「唯花さん、大丈夫?どこか怪我してない?俺に見せて」理仁は唯花を支えて起こし、慌てて彼女の体に怪我がないか確認した。「結城さん、どうもありがとう。私は大丈夫です」唯花は彼女の体を確認している彼の大きな手を振り払うと、淡々と礼を言って自転車を起こそうとした。理仁は彼女から距離のある呼び方をされ、その冷たい表情で彼に話すのを見て、無視されるよりも心がズキズキと痛んだ。「唯花さん」唯花は彼を見つめた。理仁は彼女にこのように見つめられ、突然言葉が出なくなった。「お、俺が代わりに自転車を起こすから、君は下がってて」理仁は心の中で
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第866話

理仁は名残惜しそうに視線を唯花から外し、黙って義姉と一緒に駐輪場を出た。唯花は紙とペンを手に取ると、その紙に謝罪の言葉と自分の名前に電話番号を書いて、修理代を払いたいので明日相手に連絡してもらえるようメモを残した。メモを書き終わると、唯花は使われていない盗犯防止用のチェーンが置いてあるのを見て、それを床に置き、間にメモを挟み、全て終わらせると駐輪場から出てきた。その時、姉と甥が一緒にいるだけで、理仁の姿はそこにはなかった。「お姉ちゃん、あいつ帰った?」「あなたが買って来た荷物が多かったから、結城さんが勇ましくそれを上まで持って行ってくれたわよ」唯花は口をすぼめて、何も言わなかった。「ただ周りを二周してくるだけだって言ってたのに、結局スーパーで陽と一緒にお買い物してきたのね。スーパーごと家に引っ越しさせたらどう?」唯月は息子を抱きかかえて、妹にそう言いながら上にあがっていった。「だって気分が悪い時に買い物に行ってたくさん買ったら、少しは気持ちが晴れるじゃない」唯月は失笑した。「食いしん坊だって言っても認めたがらないでしょうね」姉妹が部屋の前まで戻ってくると、玄関は閉まっていなかった。理仁は玄関のところで彼女たち姉妹を待っていた。「義姉さん、荷物はそこに置いておきました」理仁は唯月に話しかけているが、視線は唯花にロックオンされていた。「結城さん、ありがとうございました」理仁は急いで言った。「義姉さん、今後何か肉体労働があれば、俺に電話してください。いついかなる時でも参ります」唯月は笑って言った。「別に肉体労働なんて特にありませんから。寒いでしょう、こんなところで立ったままで。中に入って温かいお茶でも飲んでいってください」理仁は唯花を見つめ、彼女の反応を待った。唯月は息子を抱いたまま部屋の中に入っていった。唯花は後ろから理仁の前を通り過ぎる時に、彼に一瞥もしなかった。彼女は部屋に入ると、キッチンへと向かった。理仁はその場に立ったまま、失望していた。唯花は彼に中でお茶でも飲んでから帰れと言ってはくれなかった。唯花はすぐにキッチンからコップを手に持って出てきた。そのコップには熱々のお茶が入っていた。彼女はその熱いお茶の入ったコップを手に持ち急いでテーブルの前までやってくるとすぐに上
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第867話

唯花がキッチンから持って来てくれたあのお茶は、ものすごく熱かった。それでも彼女は床に落としてしまわなかったのだから、彼に熱いお茶を飲んで体を温めてもらいたかったのだろう。彼女は怒って彼と冷戦に突入した。口先では彼のことを許さないと言い張ってはいるが、彼女のちょっとした行動から、口で言うほど彼に対して冷たくなっているわけではないようだ。そう思い、理仁の心は幾分か軽くなった。陽はその小さな体を前のめりにさせたので、理仁はあの熱々のお茶をひっくり返してしまうのではないかと心配し、急いでそれを奥の方へ移動させた。陽はこの時、あの袋にぎゅうぎゅうに詰まったお菓子を開けようと思っていたのだ。理仁は陽のためにそのお菓子の入った大きな袋を引っ張ってきて、開けてあげた。「おじたん、ありがとうございます」陽はその袋の中からポテトチップスを取り出し、言った。「おじたん、これあげる。おばたんがこれ美味しいって」しかし、叔母は彼にあまりポテトチップスは食べさせなかった。小さい子には体にあまり良くないからと言っていた。でもどうして叔母さんは食べていいのだろう?理仁はそのポテトチップスを受け取った。陽はまた袋の中からいくつかお菓子を取り出してそれを理仁にあげた。その後、彼は理仁の膝の上からおりて、一生懸命お菓子の袋を掴み、持って行ってしまった。「これ、全部ぼくのだよ」唯月は可笑しくて息子が持ってきた袋を持ち言った。「陽が持つには重すぎるでしょ、ここへ置いといて。今夜は食べちゃダメよ、明日ちょっと食べようね。一気に全部食べたらいけないの、ご飯が入らなくなるでしょ」それから理仁に言った。「陽ったら、好きな食べ物はなかなか誰かと分けたりしないんです。たまに分けますけど。でも、それは彼と同じ子供に対してで、普通は大人にはくれないんですよ」理仁が陽の前に現れてからずっと険しい顔つきをしていたのに、陽は全くそれを怖がる気配はなく、理仁のことを気に入り仲良くしていた。しかし、隼翔に会った何回かは、陽はいつも彼を見て怯えてしまう。人と人との関係というものは、本当に不思議なものだ。理仁は陽がくれたいくつかのお菓子を陽の前に置いて言った。「陽君、おじさんはね、あまりお菓子は食べないんだ。これは陽君が食べてね」すると陽はすぐにそのお菓子を取りに行き、
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第868話

突然、彼は何を思ったのか、急いで明りをつけて素早く唯花の部屋へと向かった。部屋のドアを開けて中に入ると、部屋の中の様子はまったく以前と変わらず、彼女が毎日使っていた日用品もそのままだった。それからクローゼットを開いてみると、服が何着か減っていて、スーツケースはまだクローゼットの横に置かれていた。彼女は自分の物を運び出していなかった。理仁は重たいため息をついた。今までの人生で初めてこんなに誰かを失うのが怖いと思った。彼は唯花のベッドに座り、唯花に触れるかのように優しくシーツを撫でた。「唯花さん……」彼は低い声で唯花の名前を呟いた。「行動で君に示すしかない。これから先、一生絶対に君を騙したりしない!もし俺がまた君を騙したり、傷つけたりするようなことをすれば、一年俺のことを無視してくれていい。一年、うん、ちょっと長すぎるか、三か月だな」しかし少し考え、唯花に三か月も無視されたら、彼はきっと頭がおかしくなってしまうと思い、理仁はまた一人でぶつくさと言った。「やっぱり一週間にしよう。君に一日無視されただけで俺はもう狂ってしまいそうなのに、一週間も無視され続けたら、頭がおかしくなってしまうだろう。この罰は十分俺には重すぎる」この場に唯花がいて、この話を聞いていればきっと言葉を失っていたことだろう。それから暫くの間そこにいて、理仁はやっと部屋から出て来て玄関に鍵をかけた。しかし、彼は内鍵はかけなかった。内心唯花が夜中寒さで目が覚め、彼のぬくもりが恋しくなってここに来てくれないかと期待していたのだ。もちろん、これは彼の望みなだけで、現実になることは難しい。唯花が彼と取り合ってくれ始めたとしても、夫婦が以前のような甘い日々を送れるようになるには時間がかかるだろう。この夜、理仁は唯花の寝室で夜を過ごした。当然のことだが、その部屋から夫婦の会話が聞こえてくることなどなかった。翌日の朝、唯花は以前、姉の家で生活していた頃と同じように、早く起きて姉と甥に朝食を用意し、自分はご飯を済ませると、車の鍵と携帯を持って出かけていった。今日、彼女は店に戻って商品を発送しなければならない。顧客から、まだかまだかと急かされているのだ。心は傷ついているが、それが彼女の仕事に悪影響を及ぼすほどの大事ではなかった。イラつく気持ちは昨日一
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第869話

唯花は笑顔で言った。「店を開けないなんてことないですよ」「内海さんがあの結城家の若奥様だったって知った後、みんな内海さんはこの本屋を誰かに譲って結城家でしっかりとその役目を果たすだろうって言っていたんですよ。それに、この本屋を誰かに譲るなら、相場より高い値段で売りに出しても誰かが買うだろうって、この店は幸運があるからって」高橋はハハハと笑って言った。「なにがこの店に幸運があるだ、明らかに内海さん自身が幸運の持ち主だってのに」そのように言っている人たちは、唯花の店を手に入れることができたら、彼女と同じように一気に玉の輿に乗れるとでも思っているのか?しかし、そうすれば結城家の若奥様の幸運に少しあずかれるかもしれない。どういってもこの店はあの結城家の若奥様が開いた店だからだ。「高橋さん、私は何も変わったりしません。この店は私と明凛が長年苦労して頑張って続けてきた大事な店ですから、そんな簡単に捨てたりしませんよ」「聞いた話だと、名家に嫁いだ人は外で仕事していけないって。結城家の坊ちゃんは内海さんに引き続き店をやっていいと言ったんですか?」高橋のこれは純粋にただの好奇心だった。唯花は少し黙ってから口を開いた。「高橋さん、どうするかは私の自由ですから」理仁は四カ月もの間彼女を騙し続けてきた。しかも結城家一族全員で騙していたのだ。もし彼女に外で仕事をするのを許さないなら、結城家はかなり前にボロを出していたことだろう。思うに、結城家は女性が外で仕事をすることには積極的な姿勢を持っているのだろう。理仁に騙された件で彼女はまだ怒りが収まっていないが、それでも結城家の家風はとても素晴らしいものだと認めざるを得なかった。彼女は今、彼ら名家出身者は、素養にしろ、あの富貴な風格にしろ、生まれ持ったもので、一般人では身に着けられないものだと思った。そして義母がどうして自分に礼儀作法を学んだらいいと言ってきたのかも、ここでようやく理解した。彼ら結城家の敷居はとても高いからだ。唯花は自分との大きな差にかなりのプレッシャーを感じた。高橋は笑って言った。「私だって内海さんと同じ意見だったんですよ。でもみんなが賭けをしようって。後であいつらに内海さんは店を続けるに一票入れると言ってきます。彼らは内海さんが店を閉めて結城家の若奥様としてこれから
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第870話

明凛は微笑んだ。「それでこそ私の知る内海唯花ね」彼女はバイクを止めると、唯花と一緒にラックを運び出して綺麗に並べた。「結城さんは、あれから何かしてこなかった?」明凛は心配そうにそう尋ねた。唯花はハタキを持って本棚の埃を落としながら親友の言葉を聞いて言った。「あの人の性格からして、あいつが本気で数日間おとなしくしていると思う?」「思わない」明凛は続けて言った。「彼があなたを気絶させたり、軟禁したり、やり過ぎない限りは、目をつぶってもいいわ。結城さんもあなたを失ってしまうんじゃないかって、相当緊張状態で冷静な判断ができなかったでしょうしね」唯花は何も言わなかった。唯花が彼の話題は話したくない様子なのを見て、明凛も空気を読んでそれ以上は何も言わなかった。「やっと店を開いたか、唯花、唯花」入り口から唯花がこの世で最も嫌悪する声が聞こえてきた。その後、内海じいさんを筆頭に、あの親孝行者のよくできた子供や孫たちが一斉に笑顔で店の中に入ってきた。「唯花」内海じいさんがあの年老いた顔をくしゃくしゃにして笑っていた。唯花のことをまるで金の卵であるかのようにキラキラと輝く瞳で見ていた。まさか自分の三番目の息子の娘がこんな幸運の持ち主だったとは思ってもいなかった。特に大した家柄でもなく、姉妹だけで支え合って生きてきた娘がこんな玉の輿に乗れるとは、かなりラッキーだぞ!しかも、あの星城一の富豪結城家だ!孫が言うには、あれは億万長者の名家らしいじゃないか!相当な金持ちだ!それがどれほどのものなのか、内海じいさんがそろばんを弾いても、結城家に一体どれほどの財産があるのか想像もつかなかった。息子や孫たちにけしかけられて、内海じいさんは一刻もおとなしく座っていられず、すぐに彼ら孝行者たちを引き連れ市内へとやって来た。唯花に金を恵んでもらおう。あ、いや、もう一度仲を取り戻して自分の孫娘なのだとはっきりさせておこう。もちろん、金がもらえるというなら遠慮せず受け取るが。今の唯花なら、少し掌から金を彼らに零しただけで、彼らは一生遊んで暮らせるのだ。これ以上老後資金について悩む必要などない。「智明、智文、唯花に持ってきたお土産を運んで来てくれ」内海じいさんは笑顔で孫たちに指示を出し、唯花に向かって言った。「唯花、おじいちゃ
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