All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 931 - Chapter 940

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第931話

「本当にタイミングが良いわね、ちょうどご飯にするところよ」唯花はそう言いながら、理仁に屋敷の門を開けてあげた。理仁は厚かましくこう言った。「うん、その時間帯を狙ってきたからね」唯花「……無理させちゃって、本当にごめんなさいね」彼女のために、顔の面を分厚くして神崎家まで食事をしに来たのだった。心がざわつかないと言ったら、それは嘘になる。唯花も騙されていたことで彼にキレていた時、彼は黙って彼女のために自分を変える努力をしてくれていたのだ。理仁はじいっと彼女を見つめ、心のこもった声で言った。「唯花さんが大切にしている人なら、俺も敬意を払うよ。どんな困難があろうとも、君がいるなら、火の中水の中、どこにだって俺は飛び込んでいくさ」「伯母様の家族をそんな危険なものみたいに言わないでよね、彼女とっても良くしてくれているのよ」「そうだ、姫華も今いるのよ」唯花は理仁にそうひとこと注意しておいた。もちろん、彼女も理仁と姫華の関係がどうなるなどと誤解をしたりはしない。彼自身の口から、姫華の気持ちは受け入れられないと言っていたし、以前彼女と何かを約束していたわけでもないからだ。姫華が彼のことを好きで彼にアタックしようと決めたのはそれは姫華個人的なことであり、理仁とは全く関係ないのだ。それは神崎姫華の自由だからだ。彼女はただ姫華がいることで理仁が気まずくならないか心配しているだけだった。「そっか」理仁はただひとことそう言うだけで、姫華が家にいるからといって、帰ってしまうことなどはない。彼は唯花と一緒に肩を並べて中に入って行く時、唯花にまた尋ねた。「伯母さんは何が好きなんだ?」「私もよくわからないわ。伯母様が何が好きかわからないから、健康食品とか買ってきたんだけど」唯花はちらりと七瀬と運転手が何かを持っているのを見て言った。「伯母様は何だって持っているだろうから、礼儀を示すだけで十分だと思うけど」理仁は笑った。「君の本当の意味での家族は神崎夫人だけだろう。俺は今回初めて訪問するから、好印象を残したいじゃないか」彼女の血の繋がった親戚たちに関しては、彼女は恨みしかない。あいつらもただ彼女に迷惑をかけて、足を引っ張るだけなのだ。数日前に内海じいさんが彼の言う「孝行者」の孫たちを引き連れて、唯花に金をせがみに来たが、見事
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第932話

陽は相変わらずご飯粒だらけの顔になっていた。テーブルの上にもたくさん粒が落ちている。詩乃と姫華はそんな陽のやりたいようにさせていた。詩乃は、小さな子供は自分のことは自分でやらせたほうがいいという考え方だったのだ。最初うまくいかなくても、何度も何度も繰り返し練習することで、だんだんコツを掴んでいき、できるようになっていくものだからである。あと数カ月すれば、陽も三歳になる。だから、自分で食べるようになるべきなのだ。理仁は陽の頭をなでなでしてやり、神崎夫人のほうへ向き、落ち着いた声でひとこと「神崎夫人、お邪魔いたします」と挨拶した。詩乃は軽くそれに返事をし、優しい声で言った。「さあ、食事にしましょうか」使用人がすぐ理仁の分の皿と箸を用意してきた。理仁は神崎夫人に挨拶を済ませると、黙々とご飯を食べていて、以前のように理仁をギラギラ睨みつけてくることがなくなった姫華のほうへ向き、唇を一度ぎゅっと結んでから声を出した。「神崎お嬢様、ご機嫌麗しく!」「ぶはっ――ゲホッ、ゲホッ――」姫華は豪快に口からお米を噴き出すと、むせて咳をし始めた。姫華のすぐ隣に座っていた詩乃が、急いでスープを娘に手渡した。「ほら、これを飲んで」姫華はそのスープを受け取り、数口急いで飲んで、ようやく咳が落ち着いてきた。そして自分の口から見事に吐き出されたご飯粒を見て、耳まで真っ赤にさせた。生まれてはじめてこのような失態を犯してしまった。特に彼女の目の前に座っている陽が無邪気で大きな瞳で見つめてきた時、彼女はもっと気まずくなった。陽はぷくぷくとした可愛らしい手を自分の茶碗にかざし、姫華が噴き出した米が中に入らないように守っているようだった。「結城理仁、あ、あんたね、よくも私に恥をかかせたわね!」姫華は理仁をそう非難した。彼女の前に置かれていた料理は、全て彼女の吐き出した米で飾られていたので、使用人が急いでそれらを回収し、シェフにもう一度作り直してもらった。結城家の御曹司がいらっしゃった。内海家の姉妹は神崎家の親戚に当たるのだから、誰も彼女たちを軽視することなどできない。まして結城家の御曹司ともなると、その身分や地位の高さは半端ではない。使用人はいそいそとテーブルを綺麗に拭いていた。そして姫華のあの真っ赤だった顔はだんだんと元の様子を取り
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第933話

詩乃は娘に笑って言った。「あなたの香水の匂いが陽ちゃんは嫌いなんでしょ。ほら、ご飯食べましょ、三歳の小さな子に意地にならないの」姫華は手を上げて自分の匂いをクンクンと嗅いでみた。確かに微かな香水の匂いがした。陽に自分の匂いを嫌がられてしまい、まだ子供だから香水というものをよくわかっていないのであるが、あのように言われると周りから彼女が臭いみたいに誤解されてしまうじゃないか。「これからは香水なんか使わない。そのお金も節約できるし」唯花は笑った。「陽ちゃんはよくわからなくて適当に言ってただけよ。姫華、そんなに気にしないで。子供も悪気があって言ったんじゃないんだから」「まだ小さい子供だからこそ、本音を言ったのよ」姫華は陽に自分の匂いを言われたことを、やはり気にしているらしい。特に彼女が気に入っている陽から、自分の匂いを嫌がられたものだから、そのショックは大きい。「食べるわよ」詩乃は笑って言った。彼女はもう年も取ったし、香水は使っていない。自然のままが一番だと思っている。だが、娘はまだまだ若いので香水を使うのが当たり前になっているのは普通のことなのだ。「結城さん、家庭料理ばかりで特別な料理はないから、お口に合うと良いのだけれど」詩乃は理仁に気を使ってそう言った。シェフが作った料理は確かに家庭料理で、葉物野菜は詩乃が庭で育てたものを使っていた。理仁は急いで言った。「特にこだわりはありません。何でも食べます」詩乃と姫華の二人は心の中で、あんたが食べ物にこだわらないのなら、この世の誰もが好き嫌いはないわとツッコミを入れていた。以前、理仁を慕い追いかけ回していた姫華は、もちろん理仁の好きなものをしっかりと調べていた。だから彼は少し潔癖なところもあるし、食に対するこだわりが強いことも知っていた。彼があのように言ったのは、唯花がここにいるからなのだ。食事中には、理仁は隣にいる妻のことを気にしていて、よく彼女のためにおかずを取ってあげたり、たまに陽のほうを見て彼におかずをよそってあげたりしていた。陽はその小さなお腹をまるまると膨らませて、美味しい物をたくさん食べられて満足げにしていた。満腹になった陽は、詩乃に言った。「おばあちゃん、ごはんとっても美味しかった。ぼくのママとおばたんが作ってくれるのとおんなじくら
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第934話

理仁が唯花には今のままでいてほしいと思っていることは紛れもない事実だ。そうすれば彼女は苦労する必要もなく、楽しく生きていけるからだ。しかし彼は結局それに関しては何も言わなかった。ただ彼のために今の自分を変えようとしてくれている彼女のことを思い、心が締め付けられるような思いだった。しかし、彼女を手放すことなど、彼にはどうしてもできなかった。彼は普段、たまにパーティーに参加する程度だし、参加したとしても少しだけ顔を出してすぐに会場を去っていた。しかし、彼ら結城家の女性たちは、パーティーに顔を出しただけで、注目の的になり、誰かにいじめられたり、煙たがられたりすることはないはずだ。しかし、理仁の母親やおば達に関しては、彼女たちが生まれたのは名家であり、もともと財閥家の令嬢であるということを忘れてはいけない。そんな彼女たちが結城家に嫁いできたのは、それは相手の家柄も釣り合うからこそできた話だからだ。そして唯花の境遇を思えば、この時、理仁はだんだん唯花がどうしてそこまで努力しようとするのか理解できてきた。その瞬間、理仁は唯花の手をぎゅっと握った。伯母の前で、理仁の面子も考え、その手を振りほどくことはしなかった。理仁も何も語らず、ただきつく彼女の手を握りしめていた。神崎家で暫くの間過ごし、理仁はまた会社に戻る必要があるので、先に帰るしかなかった。唯花は陽と手を繋ぎ、彼が出て行くのを見送った。理仁はゆっくりと落ち着いた足取りで、わざと唯花と多く話す時間を作っていた。「唯花さん、俺、今まで君のことをよく理解してあげられていなかったみたいだ。もっと努力して君のことを理解できるように頑張ってみるよ。君の立場に立って物事を考えなくちゃな」理仁はゆっくりと落ち着いた声で言った。「それでもやっぱりそんな君を見ているのは辛いな。疲れたり、もう頑張りたくない、ああいう世界には混ざりたくないと思ったら、安心して今のままでいてくれていいんだ。俺はパーティーなんか一切出席しなくてもいい。だけど、君がいなくなるのは耐えられないんだ。俺の奥さんは、誰の顔色も、うかがって生きる必要なんてないんだよ」「私は別に誰かの顔色をうかがって自分を変えるつもりはないのよ。ただ、あなたに恥をかかせたり、足を引っ張ったりしたくないだけなの」理仁は立ち止まり彼女を
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第935話

「じゃ、仕事に行ってくるよ」彼は唯花に見送られながら、名残惜しそうに神崎邸を後にした。陽は理仁につねられたところを触り、唯花に尋ねた。「おばたん、さっきおじたん、ぼくのこと『おじゃま虫たん』って言ってた?ぼく、そんな名前じゃないよ。『ひなた』って名前なんだ」唯花は彼を抱いたまま家のほうへと歩き出して、優しく教えてあげた。「おじさんはね、ただ陽ちゃんのことからかってただけよ。陽ちゃんはお邪魔虫なんかじゃないの、柔らかなクッションみたいなものよ」彼女は陽と一緒にいて理仁に会えば、夫婦はお互いに自分の気持ちをコントロールしてカッとなることはない。だから、陽がいたほうが二人の仲と信頼度の回復を助けてくれるのだった。彼らは小さな子供に悪い影響を与えるようなことをしてはいけないと、とてもその点を気にしているので、陽が彼らの実の子供であるわけでなくても、彼の前で衝突することはなく、陽が緩衝材のような役割を果たすのだった。「くっしょんじゃなくて『ひなた』だってば」「うんうん、陽ちゃんは陽ちゃんだよね」陽はこれでやっと満足した。彼はその「お邪魔虫」が何かわからないし、「クッション」がどういう意味なのかも、もちろんわかっていない。彼は自分の名前が「内海陽」で、みんなからは「陽ちゃん」と呼ばれていることしかわからないのだ。部屋に戻ると、詩乃は唯花に一緒に二階に来るよう言い、たくさんの服が置いてある姫華専用のウォークインクローゼットに入った。詩乃は言った。「唯花ちゃん、あなたと姫華のスタイルはだいたい同じでしょ、まず姫華の服を試着してみて。おばさんがどんなデザインがあなたの魅力を最大限に引き出せるか見てみるから」唯花は姫華のほうを見た。姫華は全く気にしないらしくこう言った。「唯花、お母さんがいろいろ試してみてって。私たち姉妹みたいなものだもの、私の服は好きに着ていいのよ。それに、私服買う時、気に入って買って帰って、ここに放り込んでおいたら着るの忘れちゃうのよ。ささ、私のためにもたくさん洋服着てね。あなたが着てくれれば、また服を買う口実ができるわ」唯花はおかしくて笑ってしまった。姫華が誰かを気に入ったら、名家のご令嬢というのは抜きにして、心からその相手に接するのだった。もちろん、気に入らない相手であれば、そいつには容赦なく全く相手に
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第936話

「うちの上司が突然優しくなって、接待には行く必要がないって言ってくれたんですよ。それで浮き足立ちゃって、仕事が終わってすぐ明凛さんを迎えに来たんです。一緒に食事に行きましょう。スカイロイヤルのレストランを予約して、料理ももう注文済みです。俺らが到着する頃には、ちょうど出来上がっているはずです。それから、映画のチケットも二枚買っておきました。食事の後、一緒に映画見ましょう。こんなに時間が取れることなんて滅多にないんですよ、俺」彼が理仁の社長付き特別補佐官になってからというもの、確かに多忙だった。夜、接待がないことは非常に、非常に珍しい。理仁と唯花の距離がだんだんと近づいていっている頃、悟は最も忙しかった。それは理仁が悟に会社のことを全て押し付けて、唯花の尻を追いかけ回していたからだ。明凛は何かを言おうと口を開いたが、悟はその時突然背を彼女に向けて入り口のほうへと走っていった。明凛はそれにポカンとした後、清水に尋ねた。「私、何も言ってないのに、どうして彼は突然逃げていったんでしょうね?」清水は言った。「私、さっき外を見ていたんですけどね、九条さんが花束を抱えて車から降りてきたんです。でも、店の中にお客がたくさんいるのに気づいて、彼はその花束を車に置き直していましたよ。それからスーツを脱いでここに入ってきたんです。だからきっと花束のことを思い出して取りに戻ったのでしょう」清水は笑って言った。「九条さんは牧野さんのことをとても気にかけていらっしゃるみたいですね。牧野さんは若奥様と同じように、幸運の持ち主なんでしょう」自家の若奥様の話題を出した瞬間、清水はその笑顔を真面目な顔に戻してため息をついた。「でも、若奥様は今どのような決断をなされたのかわかりません。若旦那様は若奥様のことを考え、食事も喉を通らず、すっかり憔悴されたご様子で、我々はそれを見るのがいたたまれないのです」理仁のことに心を痛めている最大の人は母親である麗華だろう。しかし、間違ったことをしたのは理仁であるから、麗華が彼のことに心を痛めても、唯花のせいにするわけにもいかないのだ。それに、結城おばあさんに関しては鳴りを潜めている。おばあさんは、夫婦間の衝突は彼ら自身に任せて、誰も口を挟んではいけないと言っていたのだ。理仁自ら年長者に何か助けを求めてこない限り。
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第937話

明凛は清水に出前を取り、店の鍵を彼女に預けて言った。「清水さん、ご飯を食べ終わったら、帰りたい時にお店を閉めちゃってください。鍵はそのまま持っててもらって構いません。それか、唯花に渡してもらってもいいですよ」「若奥様はここ数日時間がないとおっしゃっていましたので、その間は私がお手伝いいたします。だから、鍵はそのまま私が持っておきましょう」清水は笑って言った。「お二人はどうぞごゆっくりお食事に行かれてください。ここは私にお任せを」清水がこの本屋を手伝うのもこれが初めてというわけではない。前に何度も手伝って、仕事内容もすっかり覚えてしまった。だから、彼女一人で店番しても、店の営業に何か影響が出ることもないだろう。明凛はそれを聞いて安心し、悟と一緒にスカイロイヤルホテルに食事に行った。「結城さん、最近どんな様子ですか?」明凛はとても気になって尋ねてみた。悟は車を運転しながら行った。「残業、残業で命がいくらあっても足りないってくらい毎日働きまくってますよ。本当にスーパーマンかってくらいです。俺はもうあいつの仕事の効率の波には乗っかれません。部下たちに関しては日々阿鼻叫喚ですよ。みんな俺に社長をどうにかしてくれって泣きついてくるんです。今や俺にもあいつをどうすることもできません。ただ、内海さんだけがあいつに言うことを聞かせることができる存在です。でも、あの二人は数日顔を合わせていないし、結城おばあさんも理仁には内海さんに会いに行くなって言ってるんです。二人は本当に冷静になる必要があるからって。そして、今日、あの二人はやっと顔を合わせました。話し合いがどうなったかは俺もわからないですね。あいつ、会社に戻ってからも、俺には別に何か訴えてこないし、相変わらず一心不乱に仕事に集中していました。昼は神崎家にちょっと行ってきたみたいで、午後にはだいぶ穏やかになっていましたけどね。それでもやっぱりあの仕事量だ。なんだか、あいつ何キロか痩せたような気がします。悟は話しながら、顔を明凛のほうへ少し傾けて笑って言った。「明凛さん、俺たちはあいつらと同じ道を進まないように気をつけましょう。ずっと今みたいに仲良い関係を保って、お互いに信頼しましょう。俺は絶対あなたを騙したりしませんからね。明凛さんも俺には隠し事なしですよ」「誰が仲良い関係を保ってるんで
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第938話

悟は当初、本当に牧野明凛には全く興味を示さなかった。明凛がおばに、お見合いを手配されるのに嫌気がさし、大塚家夫人のパーティーで床に寝っ転がったあの事件から彼は明凛のことを面白いお嬢さんだと思い、気になりはじめたのだ。そして明凛とお見合いをした後、彼女は自分の好みのタイプだとわかったのだ。彼女は彼と同じようにゴシップに興味があり、噂好きだ。ちょうど彼はいろんな情報を手に入れるのが得意で、その持っている噂の山をようやく共有できる女性が現れたというわけだ。そしてだんだんと明凛と結婚したいという思いが強くなっていったのだった。「でも、俺はもう三十を過ぎていますからね。確かに恋愛経験自体はないんですが、他の恋愛はたくさん見てきました。それに恋をしている当事者は目の前のことが見えなくなってしまい、逆に周りはその核心がはっきりと見えるでしょう。俺は理仁の傍にいて、その核心部分がはっきりとわかっていたんです。それで、あいつの恋愛相談を受けてたってわけで。だけど、残念なことに、こんなに優秀なカウンセラーがいるというのに、あいつと内海さんはここまで大騒ぎすることになってしまいましたがね」明凛はため息をついた。「唯花も別に一つのことにこだわり続けるような頑固者じゃないんですよ。結城さんが身分を隠して彼女を騙したことには確かに腹を立ててはいたけど、彼が唯花にお姉さんの家に帰らせた後、その怒りはだんだんと収まっていきました。今唯花が気にしていることは、結城さんとの現実的な差が大きすぎることです。すごくプレッシャーを感じているんですよね。だから、結城さんとの将来をすごく迷っているんです。それは唯花たちだけの問題じゃないんですよ、私たちの間にも現実的な大きな差があるでしょ。でも私の場合は牧野家の存在があるから、あの子よりもだいぶマシですけど」牧野家が貸しに出している何棟かのマンション、そして通りにずらりと並ぶ貸し店舗。それら全てを売りに出せば、今の不動産価格から言って、牧野家の資産はゆうに数十億にのぼるのだ。もちろんそれでも九条家とは比べ物にならない。悟の両親もいくつもの会社を経営している。それは九条家当主である弦と比較はできないが、それでも大した家であるのには変わりない。しかも、彼らは非常に控えめな姿勢を保つ名家だった。ただ、悟は両親の会社を継ぐのが嫌で、結城グルー
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第939話

「悟ってば!」悟の母親である九条小百合(くじょう さゆり)は、息子が声をかけた後自分に気づき、すぐに若い女の子の手を引いて歩みを加速させたのを見て、明らかに自分を避けたいのだとわかった。それを見ると、ついムキになって小走りで二人の前に追いつき、悟の行く手を阻んだ。「悟、この悪ガキ、お母さんが呼んでいるというのに、聞こえないふり?」小百合はまず息子に一つ文句を言って、それから明凛のほうへ向き満面の笑みで言った。「お嬢さん、怖がらないでくださいましね、息子ったら嫌な子で、母親に呼ばれたのにわざと聞こえないふりをして、逃げるんですもの」「母さん」悟はまさかこんなところで母親に出くわすとは夢にも思っていなかったのだ。小百合はじろじろと明凛を上から下に見た。そして明凛が手に花束持っているのもしっかり確認した。息子はすでにこのお嬢さんの手を離しているが、さっき確かに二人は手を繋いでいたのである。花を贈り、手を繋ぐ。それは恋人同士の日常ではないか。息子は一体母の目を盗んで、いつの間に恋愛なんてしていたのか。家族には一切何も教えてくれないで。目の前にいるこの貴婦人が悟の実の母親であることを知った後、明凛は堂々と「おば様、はじめまして」と挨拶をした。小百合はニコニコと笑顔でそれに応えた。そして、明凛の横にいる息子を押し退け、花束を持っていないほうの明凛の手を優しくとった。「お嬢さん、お名前は?もしかして悟の彼女さんなのかしら?」この時、明凛はまったく予期もせず、悟の親と顔合わせすることになってしまった。ここで明凛が悟の彼女ではないと言ったところで、小百合はきっと信じないだろう。明凛は悟をちらりと見た後、自己紹介を始めた。「おば様、私は牧野明凛と言います。九条さんの女友達ですよ」「女友達、英語で直訳すれば『ガールフレンド』ね、つまり悟の彼女ってことね。『牧野明凛』さん、なんだか聞いたことのあるような。明凛ちゃん、私たち以前どこかでお会いしたかしら?」小百合は親し気に明凛の手を引っ張って店の中へと進んでいった。明凛は隠さず正直に言った。「以前、おば様にお会いしたことはありません。私の名前を聞いたことがあるのは、きっと私が少し前に失態を犯したせいだと思います。数カ月前、私はおばである金城伊織と一緒に大塚夫人の誕生日パー
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第940話

明凛は笑って言った。「でもおば様のお邪魔になるかもしれませんし」「大丈夫よ、あなたの邪魔だったら、おばさんは喜んでいただくわ」小百合は悟がどの個室で食事をするのかあらかじめ知っていたかのように、明凛を上の階に連れて行った。そして、ある部屋に入ったのだが、それはまさに悟が事前に予約しておいた豪華な内装の個室だった。そして席につくと、小百合は自分の手につけていた豪華なダイヤのブレスレットを外し、それから同じくブレスレットをつけていた明凛のその手をとり、悟がプレゼントしたものを外し始めた。そして、さっき自分が外したダイヤのブレスレットを明凛につけて言った。「明凛ちゃん、せっかく初めて会ったのにおばさんったら何もご挨拶の物を持って来てなかったものだから、このブレスレットをプレゼントするわね。さっきつけていたのは悟がプレゼントしたのね?何の宝石もついてないなんて」明凛は金持ちの家に生まれ、財閥家に嫁いだおばもいる。だから、今までに多くの装飾品は見てきて、その価値がどれほどのものかは一目でわかるのだった。悟からプレゼントされたゴールドのブレスレットもティファニーだから、数十万はするはずだ。しかし、小百合がくれたブレスレットは同じくティファニーでもダイヤが散りばめられている。一目で数百万はするものだとわかった。これは相当にお高いものだろう。そんなに高価なものを、はじめて会った人から受け取るわけにはいかず、明凛はそれを外して小百合に返そうとしたのだが、それは拒否されてしまった。「明凛ちゃん、お会いできたプレゼントがこんな大したものじゃないから嫌だったかしら?年上からの贈り物は黙って受け取るのが礼儀よ。さあ、受け取って。受け取ってくれないってことは、つまりこれじゃ満足できないってことよね」明凛「……おば様、これはかなり高価すぎます」「高いものじゃないわよ。ただ見た感じ高価そうに感じるだけよ。悟が贈ったものと比べて、ちょーっと安いだけよ」小百合がどうしても明凛に渡そうとするので、明凛は悟のほうを見て助けを求めた。悟はそれをニコニコしながら見守っていた。そして明凛からの救難信号を受け取った時、彼は笑って言った。「明凛さん、母さんがプレゼントするって言ってるんだし、受け取っておいてください。それにあなたはこれを受け取るのに相応しい女性
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