All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 921 - Chapter 930

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第921話

佐々木俊介は車で逃げるようにその場を離れた。家に帰る途中で、ずっと唯月のことを頭のおかしいブスだと罵り続けた。やはり莉奈のほうがよっぽど優しいし、どんなことでも理解してくれるのだ。離婚を後悔するなど、微塵もない!借りた部屋に戻ると、下に見慣れた車が止まっているのを見て、俊介は頭を抱えた。それは、姉の車だった。姉の英子がまた来たのだ。イライラと髪の毛をかきむしり、俊介はしぶしぶと家に入った。彼と莉奈が仕事を失ったのは、聞くまでもなく結城理仁の仕業に違いない。姉と義兄の仕事も結城理仁が何か裏で手を回したのではないか?だとすれば、彼は姉に迷惑をかけたことになる。玄関まで来ると、中から喧嘩し合う声が聞こえた。莉奈と俊介は一緒に会社をクビされたのだ。二人そろって会社を出たが、途中で俊介は彼女に気分転換しに行きたいと言い、彼女にタクシーで帰るように言っていた。莉奈は理解を示し、自分でタクシーで帰った。実は、彼女も胸が不満でいっぱいだったのだ。駿介の秘書として、いつも彼から良い思いをさせてもらい、給料も多めにもらっていたのに、突然解雇されて、不満があるのは当たり前だった。家に戻ると、義姉が息子の恭弥を連れて来ていた。彼女は無愛想に「来てたんですね」とだけ挨拶してから、すぐ自分の部屋に戻った。しかし、部屋に入ると、そこはめちゃくちゃに荒らされていた。化粧品やスキンケアが散乱して、口紅も折られ、ドレッサーはさまざまなスキンケア品で塗りつぶされていた。壁や床、布団まで、口紅で真っ赤に汚されて、莉奈の怒りを爆発させた。「お義母さん!」莉奈は我慢できず叫んだ。佐々木母は近づいて聞いた。「どうしたの?そんな大声出して、まだ耳は遠くないから聞こえるわよ」「私の部屋を見てよ。これって恭弥がやったんじゃないの?あの子、本当に手が付けられない。何回も言ったけど、来るなら私と俊介の部屋に入れないでってば!化粧品とスキンケアが全部だめになっちゃうでしょう?それに、部屋までこんなに散らかして!」英子も部屋に入ってきて、息子の傑作を一瞥し、何事もないような顔で平然と言った。「自分で片付けりゃいいじゃない?大人の癖に、それに叔母さんだから、子供相手にむきになるなんて恥ずかしくないの?恭弥はまだ小さいんだから、何もわからないのよ
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第922話

輝夫は建築材料を販売する店を開こうと考えていた。しかし、店舗を借りて改装するのに数百万かかる。英子は今夫婦二人とも収入がないため、貯金を使うのをためらっていた。もし商売が失敗したら大損だと思っていたからだ。しかし一方で、もし夫が成功したら、自分も大きい店のオーナーになれるとも思った。実家から助けてもらうのに慣れている英子は、自然に両親と弟の助けを求めてきたわけだ。「私は内海唯月じゃない!」莉奈は激怒して叫んだ。「あの女がそんなに気に入ってるなら、彼女のところへ行ったらどう?彼女があなた達をまだ相手にすると思ってるの?」彼女が今一番嫌いなのは、佐々木家の人間によく彼女と唯月とを比較されることだった。以前、いつも彼女の前で唯月はこれがだめ、あれがだめと言っていたのに。結局唯月と離婚し、彼女が佐々木家の人間になると、ガラリと変わって、今度は唯月のいい所ばかり言い始めた。「佐々木英子、あなたの息子が私の部屋をこんなにしたんだから、責任を持って片付けてよ!恭弥が私の化粧品とスキンケアをだめにしたんだから、全額弁償してもらうわよ!」英子も怒りだした。「私がやったわけじゃないんだから、何で責任を持たなきゃならないのよ。そう、そうよ、恭弥がやったんだから、本人に言いなさいよ。自分のことは自分でしなさいって言ってごらん!それに、今使っている化粧品って全部俊介が買ってくれたんでしょ?あなたのお金を使ったわけじゃないから、よくも弁償しろなんて厚かましいことを言えるわね。自分で買った証拠が出せるなら、もちろん、弁償してあげるわ」莉奈は完全に頭に来て、枕を取り英子に投げつけた。「俊介は今私の夫よ!夫がくれたものは私の物なんだから、だめにしたら全額弁償するのは当たり前でしょ!弁償してくれなかったら、私がいる限り、この部屋に二度と入れてあげないわ!できるなら、またあんたのお母さんを自分の家に連れて行ってよ。子供の世話をさせてごらん!あんたのお母さんはね、私の世話をしてくれたことがないから、彼女が年取って動けなくなったり病気になったりしても、私は知らないから!ちゃんと私によくしてくれないくせに、私にそうしろって?寝言なら寝てから言いなさい!先に言っとくけど、私は内海唯月のバカ女のようなお人好しじゃないんだからね!」「ここは弟の家なのよ。両親も
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第923話

「結婚したばかりで、まだ式も挙げてないのに、お義姉さんはもうこんなに私をいじめるの?良い人を演じることすらしてくれないのね」当時俊介と唯月が結婚する前に、佐々木家のみんなはとても親切そうに装い、唯月姉妹を実の娘のように可愛がっていたという。結婚して、唯月は妊娠し出産した。たぶん子供が出来たら離れないと思っていたのか、佐々木家の人間はそれから本性を露わにしたのだ。莉奈でさえ、佐々木家の人間は演技が上手いと感心するほどだった。ところが、彼女の場合は、彼らは親切に装うことすらしない。莉奈は本当に俊介のことを愛していた。そうじゃなければ、計算を尽くして彼と結婚するはずがない。夫の家族がどれほどのクズでも、莉奈は自分で対処できる自信があったので、全く恐れていなかった。俊介の心と財布を掴めば、何も怖くないのだ。莉奈は訴えながら涙をこぼした。俊介は彼女の涙を見て胸を痛め、それに部屋の惨状を確認してからますます腹を立てた。彼は莉奈の肩を抱きながら姉に言った。「姉さん、どうしてちゃんと恭弥を見てなかった?ほら見てよ、この子何をしたんだ。莉奈を責めてどうする?自分がこんなことされても怒らないのか」英子は全く折れずに言った。「恭弥はまだまだ子供よ、何もわからないでしょ?」「恭弥が分別がつかなくても、姉さんはできるだろう?恭弥が俺の部屋に入ってこうなるまでめちゃくちゃにしたのに、どうして止めなかった?わざとだったんじゃないのか?」「俊介、私はあなたの実の姉よ!それが姉に対する態度なの?恭弥がいつあなた達の部屋に入ったか私も知らなかったのよ。お母さんと一緒にご飯を作っていて、何も聞こえてなかったの。恭弥がアニメとか見てると思ってたんだもの。あなたの部屋に入ったなんて考えもみなかったよ。それに、部屋の鍵をちゃんとかけなかったあなた達が悪いわよ。自分がちゃんとできないのに、恭弥を責めるなんて。私はお母さんと料理しなかったら、恭弥が部屋に入らないようちゃんと見てたわ。あなたも、嫁をもらって何の意味があるの?家に帰って何もしないくせに。家の掃除も料理も全部お父さんとお母さんがやってるのよ。すべてを両親に任せてるのに、感謝もせず嫁ばかり庇うなんて。俊介、あなた昔はこんなじゃなったわ」英子は弟が再婚してすっかり嫁の味方になったと感じていた。
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第924話

俊介は姉をきつく睨んだ。「姉さん、俺の部屋をちゃんと片付けてくれよ。それに、これから恭弥のしつけをちゃんとしてよ。毎回来るたびに大騒ぎになるなんて。前からよく陽をいじめたりおもちゃを奪ったりしてただろ。この前は嘘もついて、陽を病院送りにさせてしまったってこと、もう忘れたのか。恭弥がまだ小さいからって放っておいたらよくないぞ。今ちゃんとしつけしないと、大きくなったら手が付けられなくなるぞ」英子は反論しようとしたが、自分が来た目的を思い出し、ぶつぶつと承諾した。「わかったわ、ちゃんと片付けてあげるから。でも恭弥は元からああいう性格だから、どうしろって言うの?」俊介は妻をなだめた後、姉に尋ねた。「姉さん、今日は何か用事があってきたのか?」「私と輝夫が仕事を失ってから、ずっと仕事を探してるけど、全く見つからないのよ。それに、もうこの年齢だったし、どこの会社も若者ばかり欲しがっていてさ、私と輝夫はもう四十過ぎだもの。輝夫は店舗を借りて建築材料の商売をしたいと思ってるの。今や家を買う人が多いから、改装の需要も多くなるからきっと儲かるはずよ。でも、資金が足りなくて、あなたから少し借りたいの。俊介、あなたは収入が高いし、貯金も二千万以上もあるでしょ?お義兄さんの起業資金として四百万くらい貸してくれない?成功したら、利息もつけて返すから」二百万では、店を開くのは精一杯だが、もう少し多めに借りれば、運転資金にもなるのだ。英子は弟にはお金があるから、できるだけ多く借りようと考えていた。莉奈は義姉がここへ来た目的を聞き、たちまち不機嫌になった。しかし、彼女は何も言わず、先に俊介の返事を待つことにした。俊介は口を開いた。「義兄さんが起業したいのはいいことだが、店舗を借りるだけでそんな大金いるのか?姉さんと義兄さんも数十年働いて、普段の生活費はずっと父さんと母さんが出してくれたんだから、給料を全部貯めてたはずだ。四百万くらいは出せるだろう?」英子は一瞬言葉に詰まり、すぐに言い訳をした。「最近私たちには給料がもらえなくなったから、これから貯金が減る一方なのよ。それに、子供が三人もいるから、貯金を全部使うわけにはいかないわ。それに、私たちの収入は低かったし、一年で貯まる金額なんてそんなに多くないよ。俊介のように稼げるわけじゃないし。俊介、私は
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第925話

予想通り、莉奈はこう言った。「お義姉さん、私たちはまだ式と家の内装をしなくちゃいけないのよ。それに、私たちも失業したから、貸せるお金なんてないわ」俊介の話を聞き、彼女はこの厚かましい義姉には十分な貯金があると確信した。ただ、実家からの援助に慣れているから、自分のお金を使いたがらないのだ。彼女がいる限り、英子が俊介から一円たりとも、もらうことなどできない!英子は口をとがらせ、それ以上は何も言えなかった。それと同時刻、神崎家にて。唯花は陽を連れて、豪華な屋敷に入った。「陽ちゃん、来たわね!早く上がって、詩乃おばあちゃんのところにおいで」詩乃は陽を見ると、満面の笑みを浮かべて迎えに出た。詩乃が自分の親戚のおばあちゃんであることを知り、それに何度も会ったことがあるから、陽も詩乃に抱っこされるのに抵抗がなくなっていた。「伯母様」唯花は果物を手土産として買ってきた。彼女は果物を入れた二つの袋を詩乃に渡しながら言った。「伯母様、全部お好きな物を買って来ました」「食べたいなら自分で買うから、こんなにお金を使っちゃだめよ。あなたと唯月さんが来てくれるだけで、伯母さんはとてもうれしいのよ。手土産なんて持ってこなくてもいいわ」最初の頃、唯花姉妹が訪ねて来た時、いつも高価な手土産を持ってきたが、詩乃に厳しく言われてからは果物を買ってくるようにしたのだ。それほどお金がかからないから、詩乃も特に気にせず受け取ってくれる。詩乃のもともとの家柄も良いとは言えないが、名家に嫁いで以来、山の幸、海の幸、なんだって食べ尽くした。だが、今でも旬の果物は大好きだった。どうせ、彼女の今の身分であれば、たとえ屋台の食べ物を食べたがっても、誰も文句など言えないだろう。唯花と陽はソファに座った。唯花は果物を入れた袋をテーブルに置くと、すぐ使用人が現れ、それを持って洗いに行った。唯花姉妹が買ってきた果物なら、詩乃は一つたりとも無駄にしないので、すぐに洗ってみんなで食べるのだ。神崎家の三人の子供がたとえ果物が好きではなくても、決してまずいとは言わなかった。これは唯花と唯月の気持ちだからだ。「姫華はいないんですか?」姫華の姿が見えないので、唯花は思わず尋ねた。「あの子、またどっか行ったのかしら。たぶん友達とショッピングでもしに行ったんでし
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第926話

詩乃は片手で陽を抱きながら、もう片手で唯花の手を取り、傷の様子を確認してから、心配そうに言った。「結城社長が正体を明かしてから、あなたが怒ってもおばさんに頼ろうともしなくて、愚痴も言ってくれないから、おばさん心配で心配でならなかったのよ。あなた達姉妹は本当に強情なんだから。あなた達のお母さんはとても穏やかな性格で、頑固さなんて微塵もなかったのに、あなた達のこの強情さは一体誰に似たのかしらね」唯花は思わず笑った。「私たちは詩乃おばさんに似ているって言ってたじゃないですか」詩乃は言葉に詰まった。彼女が唯花姉妹を気に入っているのは、単に姪っ子という血縁関係があるからだけでなく、二人の性格や人柄も気に入ったのだ。確かに、この強情さは彼女自身に似ている。「今日はおばさんに何か用があるの?」理仁が正体を明らかにした後、姫華は非常に腹を立てていたが、唯花のことを恨んでなかった。むしろ、理仁に騙されて、唯花が傷ついたことを心配し、代わりに理仁を懲らしめようと言い出したのだ。神崎家の面々はやっと胸をなでおろすことができた。娘が冷静に対処できるのを知り、詩乃にも遠慮する理由がなくなった。もし姪が必要とすれば、いつでも彼女の家族として、味方になって、理仁へ厳しく当たるつもりだ。「伯母様、実はお願いがあるんです」「言ってごらん。おばさんにできることなら何でもするわよ。できなくても、二人のいとこがいるから、何とかしてくれるでしょう」唯花は笑った。「いとこたちの力を借りなくてもいいんです。伯母様がいてくれるだけで大丈夫。伯母様はよく、いろんなパーティーに出席してるんでしょ?図々しいことを言ってるってわかっているんですけど、これから、伯母様がパーティーに行くとき、お供させてほしいんです」詩乃は彼女の意図を理解した。「それは問題ないわ。普段姫華を連れて行ってたけど、あの子ったら、パーティーに出席する人がみんな嘘っぽいって言って嫌がるのよ。上流社会でもどこでも、仮面をかぶらない人なんていないの。みんなそうよ。役に立つ人には媚びを売ったり、役に立たなくても敵に回せない人には表面だけは親切に接したり、役に立たず地位も自分より低い人にはなにも恐れず全く相手をしなかったりしている人があちこちにいるの。それが世の常なのよ。きちんとわかっててほしいの、人は
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第927話

理仁と一生を共にするしかないじゃないかと唯花は思った。あの横柄な男、もし別れようとひとこと言えば、彼はすぐブチ切れるのだから。逃げられないなら、その世界に溶け込むしかない。「最近たくさんの招待状が届いているんだけど、特に重要なものなんてなさそう。執事も特に何も伝えてくれなかったし」詩乃は言った。「あなたが経験を積みたいと言うなら、おばさんが全てのパーティーに連れて行ってあげるわ」そう言うと、使用人に招待状を持ってくるよう指示した。彼女はすべてに目を通した後、唯花に渡した。「唯花ちゃん、まずこれらの招待状を日付順に並べて。それから、おばさんが主催者について一つずつ教えてあげるわ。どんな商売しているか、どうやって成功したか、ご家族にはどんな人がいて、どんな性格をしているかとかね。人と付き合うなら、相手の性格を見極めるのが一番大事なの。これは戦場に立つのと同じなのよ。敵を知り己を知れば百戦危うからずと言うでしょ」「わかりました」唯花もすべての招待状を確認してから、日付順に並べた。「お母さん、唯花が来てるの?」ちょうどその時、姫華の声が外から聞こえてきた。すると、車の鍵をぶらぶらさせながら姫華が入ってきた。陽の姿を見るとニコニコ笑いながら近づき、母親の腕の中から陽を受け取り、高い高いをしてあげた。陽はキャッキャと上機嫌に笑い声をあげた。「姫華、しっかり抱きなさい、陽ちゃんを落としたら大変よ」詩乃は緊張して娘に注意した。うっかり陽を落としたら大変なことになるのだ。「お母さん、大丈夫よ。自分が転んだとしても陽ちゃんを落としたりしないわ」陽と少し遊んだ後、姫華は彼をおろし尋ねた。「陽ちゃん、姫華おばさんのこと好き?」「好き、ひめはおばたんとてもきれい、大好きだよ」姫華は彼の頬を軽くつねって笑いだした。「陽ちゃんは本当にお口が上手ね。こんな小さいのに、女性を喜ばせる方法をもうしっかり覚えてるのよ。大きくなったらモテモテになるに違いないわ。一体どこのお嬢さんが彼のお気に入りになるでしょうね」彼女は自分の顔を触れながら自信たっぷりのように言い続けた。「でも、陽ちゃんは子供だから、嘘をつかないわ。私が綺麗で人気者なのは事実よね」唯花は笑った。「そうよ、陽ちゃんは正直な子なのよ」詩乃は思わず娘をたしなめた。
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第928話

詩乃は完全に言葉を失った。「唯花、あなたがそう決めたんなら、私も付き合ってあげるわよ。あの偽善者の集まりで、一緒に女優顔負けの演技してやりましょ。所詮みんな分かってて騙し合うんだから」詩乃は娘の言葉を聞き、どうしようもなくなった。唯花は笑った。「姫華もビジネスを学ぼうと決めたんだから、多くのことを我慢する必要があるわよ」「姫華があなたのように、事をちゃんと理解してくれるなら、神様に感謝するわよ」詩乃は娘に手を焼いていたが、そこまで心配していなかった。それは娘に十分な資本があるからだ。他人に媚びる必要もなく、自由のままに振る舞えるのだ。「姫華は素敵な子ですよ。私は姫華のこの素直な性格が大好きなんです」姫華は得意げにあごを上げ、嬉しそうに母親に言った。「ほら見て、お母さんは唯花の方がいいって思ってるけど、唯花は私の方がいいって言ってくれたわ」「全く、調子に乗りすぎよ」三人は笑い合い、陽の可愛い声も交じりながら、部屋は楽しそうな笑い声に包まれた。すると、一人の使用人が近づき、恭しく告げた。「奥様、食事の準備が整いました」詩乃は軽く頷き、唯花に言った。「唯花ちゃん、まず食事にしましょう。食べ終わったら上に行って姫華のドレスを試着してみて。あなたに似合うものを選んでね。おばさんが何着か買ってあげるわ。午後はヘアスタイルも整えましょう。籠の中の小鳥ではなく、結城さんの隣に立つことを選ぶなら、少しずつ変わっていく必要があるわ。それに、作法を身に付けたら一生役に立つものよ。マナーに関しては、おばさんがゆっくり教えてあげるわ。あなたは賢い子だから、すぐに覚えられるでしょう」唯花は詩乃の提案に従い、異論はなかった。彼女は伯母と同じ道を歩むことはできないかもしれないが、せめて理仁の足を引っ張らないように努力して自分を高めることができるはずだと思っていた。「陽ちゃん、ご飯食べに行きましょう」詩乃は陽を抱き上げた。彼女は本当にこの子が好きだった。妹の子供の頃によく似ていたのだ。もし陽にドレスを着せたら、もっと似ているだろう。「お母さん、お義姉さんはいないの」「具合が悪くて病院に行ったわ。唯花が来る前に電話をかけてきたの。検査が終わったら実家で食事をしてくるって。夜になったら帰るらしいわ」詩乃は息子の嫁が実家に帰る
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第929話

詩乃は姪を見て言った。「私たちが血縁関係があるって判明してから、結城さんが訪ねて来るのは初めてだったわよね」唯花は陽におかずを取ってやり、淡々と言った。「たぶん、後ろめたいからでしょう」「確かにそうでしょうね。でも、今来たというのもあなたのためでしょう。あの子があなたを騙したことは、おばさんも腹が立ってたけど、彼が本気であなたを愛していることは認めざるを得ないわ。あなたが彼を知ってからまだ数ヶ月だけど、おばさんは彼とは十年ぐらいの知り合いなの。あなたより彼のことを理解しているわ」結城家は子供たちを厳重に保護しており、成人してビジネス界に足を踏み入れるまで、外部の者は彼らのことを知ることすらできないのだ。彼らも普通の家庭の子供と同じように素朴な生活を送っていた。そのため、詩乃は彼と知り合いになって十年ぐらいだと言ったのだ。その時、理仁はすでに結城グループで経験を積み、祖父母に連れられてビジネス界の盛大なパーティーに出席して初お目見えとなったのだ。彼は結城グループを引き継いだ後、あの手の焼く性格のため、いつも大柄なボディーガード達を連れ歩き、多くの女性を近づけないようにしていた。これが結城家の御曹司に対する外部の人の最大の印象だった。詩乃は理仁が二十歳から三十歳になるまでずっと見てきた。彼に関するスキャンダルは本当に一つもなかった。結城グループの傘下には芸能事務所もあり、多くの女性芸能人が理仁と会うチャンスを求めていたが、彼とスキャンダルを作るために何か企もうとしても、全くチャンスがなかった。もし過激な手段を取ったら、干される始末だ。こんなことがあってから、理仁を狙う芸能人はすっかりなくなった。星城の上流社会のご令嬢たちで、理仁に片思いしなかったものはほとんどいないのだ。姫華も数年前に理仁に一目惚れし、長年想いをよせていた。一度諦めかけたが、最終的に覚悟を決めて、メディアにも隠さず告白し、追いかけ始めた。星城のご令嬢の中では、これだけの勇気を持っていたのは彼女だけだった。姫華が理仁にアタックし始めた時、多くの令嬢たちが密かに嘲笑い、成り行きを見守っていた。もし彼女がそうして理仁の怒りを買わなければ、彼女たちも同じように行動するつもりだった。しかし、彼女たちがこっそり結果を待っている間に、姫華が突然諦めてしまった。
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第930話

姫華は黙々とご飯を食べ続けて、理仁が来たことを全く気にしていないようだった。母親に見られ、彼女は顔をあげて見返した。「お母さん、どうして私を見るの?来たのはあなたの姪の旦那さんで、娘のじゃないわよ。私はそういう相手はまだ見つかってないんだから、あと何年かお母さんに養ってもらわないとね」「嫁に行きたくないなら、お母さんが一生面倒見てあげるわ」「それは絶対嘘。私は今もう二十七歳よ。四捨五入にして三十歳でしょ。お母さんは口ではそう言いながら、結局明凛のお母様のように、私を追いかけて来る男が現れたら、すぐにこの家から追い出そうと思っているでしょ」明凛の母親はまさにそんな感じだった。もちろん、九条悟はハイスペックな男性で、口もうまくて、すでに牧野家全員を味方につけている。牧野家がやることは、あとは彼のために明凛を縛って彼と結婚届を出させるだけだ。「お母さん、彼に会いたいなら早く入らせたらいいんじゃない。ちょうどご飯を食べているところだから、一緒に食べさせてやれば?もし会いたくなかったら、私が追い返してくるわ。まあ、ちゃんと敬語で私に話してくるなら、特別に入らせてあげるけど」唯花と詩乃は呆れて言葉を失くした。結局、唯花が出ていって迎えに行った。理仁が神崎家に来るのは初めてだった。彼は大勢のボディーガードは連れず、七瀬だけ一緒に来させた。待っている間、彼は車を降り、邸宅の門前に立っていた。使用人が中へ知らせに行ってなかなか出てこなくても、理仁は少しも不機嫌そうにならなかった。七瀬と運転手は彼の後ろに立ち、手には理仁が買ってきた手土産を持っていた。理仁は神崎家が全く好きではなかった。長年のライバル同士で、突然親戚になっても、理仁も玲凰も受け入れがたい気持ちだった。彼らがビジネスにおいて何かする時には、多少の遠慮が生じてしまう。以前、理仁は親戚になっても、ビジネスはそれとこれとは関係ないと言っていたのだが。彼が自ら妻の素性を明かして以来、神崎グループとの関係が微妙になったと多くの人が実際に気づいたのだ。商売の競争は相変わらずだが、以前のような非情さが柔らかくなり、神崎グループに息をつく隙を与えていた。もちろん、神崎グループが逆に結城グループから利益を得ようとしても、一切そんなチャンスはなかったのだ。取り敢えず、二
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