All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 961 - Chapter 970

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第961話

「奥様」「奥様」受付にいる二人が唯花が入ってくるのを見て、微笑みながら律儀に挨拶をした。唯花は受付たちに微笑み返した。この二人は前から彼女に態度が良かった。そのうち一人が受付のデスクから出てきて、唯花をエレベーター前まで案内した。その時、唯花が弁当箱らしきものを持っているのをちらりと見た。「夫が、最近胃の調子が悪いらしいので、作って持ってきたんです。もうすぐ昼休憩に入りますよね?」唯花は昼になる少し前に到着したのだ。受付嬢は心配そうな顔をして言った。「結城社長は胃の調子を崩されていたのですか?でしたら、きちんと休まないと」彼女は心の中で、社長は最近仕事をする以外、他のことをしていないと思った。あまりに忙しく仕事に熱中しているので、時間通りに食事もしていない。多くの場合、秘書の木村が外で何か買って来ていた。しかし、木村が言うには、社長は忙しさのあまり、食事をすることすら忘れていたらしい。こんなに自分を追いつめて、胃が悪くならないほうがおかしいだろう?「もうすぐ昼休憩に入りますよ」受付嬢はそう付け加えた。彼女は唯花を社長専用エレベーターの前まで案内し、エレベーターのボタンを押して丁寧な動作で中へ入るよう合図を送った。唯花は二つの弁当箱を下げてエレベーターに乗り込み、受付嬢に微笑みかけると、一人で最上階へと上がって行った。最上階に到着し扉が開くと、木村秘書が笑顔で出迎えてくれた。唯花はそれに少し驚き、木村を何度も確認した。心の中でこの男はどうしてこんなにニカッと歯を出して笑うほど嬉しそうに見えるのだろうと思っていた。「奥様、こんにちは。私は結城社長の秘書をやっております、木村と申します」「木村さん、こんにちは」唯花は丁寧に挨拶を返した。「社長は今時間があります?私中に入って邪魔にならないでしょうか?」木村はニコニコと笑って言った。「そんなことございません。奥様、ノックして中へお入りください」彼はわざと社長に夫人が来たことを伝えず、サプライズにしようと思っていた。「ですが、副社長も中にいらっしゃいますよ」木村はそうひとこと付け加えた。辰巳は理仁のところに行っておばあさんから「早く結婚しろ」と催促されるのを愚痴りに来ていた。おばあさんは彼にお見合い写真を持って来ていて、女性側の容姿、年齢、今ど
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第962話

「唯花さん、なんで事前に教えてくれなかったんだ、知っていたら下まで迎えに行ったのに」理仁は妻から弁当を受け取った。唯花が弁当を持ったままだと疲れるだろうと思い、それを受け取ってからデスクの上に置き、彼女の手を繋いでソファに座らせた。彼の熱い視線が唯花に注がれていた。辰巳は思った。もし人の目玉を自在に取り出すことができる仕様であれば、理仁は自分の目を妻にくっつけて四六時中彼女のことを見つめているだろうと。「別にここには初めて来たわけじゃないし、出迎えに来てもらう必要なんてないわよ。お昼ご飯を持ってきたから、まだ温かいうちに食べて。毎日決まった時間に食事すれば胃の調子も良くなるはずよ」理仁はニコニコと笑った。「唯花、ありがとう」唯花は堪らずニヤニヤしている彼の頬をつねって、自分も笑った。「今日もしかして会社からボーナスでも支給される日なんじゃないの。車から降りて会う人会う人がみんなニコニコ笑っていたわよ。心から思わず出ている微笑みって感じで」辰巳は笑顔で横から口を挟んだ。「唯花姉さん、あなたが来てくれただけで、みんなボーナスを支給されるよりも嬉しいんですよ」理仁は辰巳のほうへ目を向けた。妻が自分のために弁当を持ってきたのが目に入っていないのか?辰巳の唐変木がぼけーっとまだここに突っ立っていて、何をやってんだ、さっさと失せろ!「辰巳君、そのお弁当箱持って来て、たくさん作って持って来たから二人で一緒に食べても十分足りるはずよ」それを聞いた辰巳はデスクの上から弁当箱を取って来て、ロ―テーブルの上に置いた。自分もそれの前に腰かけ、弁当箱を開けようと手を伸ばしたその瞬間、理仁からものすごい剣幕で睨みつけられているのに気がついた。その瞬間、辰巳はピタリと動きを止めた。さっきまでの笑顔が消え、理仁は黒々とした瞳でギロリと辰巳を睨みつけていた。その視線だけで辰巳にハチの巣のように穴を開けてしまいそうな勢いだ。いや、辰巳はこの時すでに、理仁から睨まれてハチの巣になっていた。「兄さん、お、俺、代わりに蓋を開けてあげようと思ってさ。唯花姉さんがどんなご馳走を作ってきたのか一目くらい見たっていいだろ」まだ理仁から睨まれていたが、辰巳は何も知らない顔をして弁当箱の蓋を開けた。そして上段に盛られた料理を見て、心の中で唯花の料理の腕を賞
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第963話

今、理仁がその写真を見たいと思ったのは、ここに唯花がいるからだった。何か面白いことがあれば、愛妻に聞かせたり見せたりしたいのだ。辰巳だって馬鹿ではない。理仁が辰巳と奏汰の事をある種のゴシップとして妻に教えてやろうと思っているのはわかっている。妻を楽しませるためであれば、理仁は自分の兄弟、従弟たちですらも売ってしまうのだ。辰巳はその二枚の写真を渡した。心の中では自分は本当に気骨のない男だとしょげていた。理仁が辰巳の情報を妻に売って楽しませようとしているのがわかっていながら、大人しくへこへこと命令に従うのであった。もし、辰巳も将来恋に悩みを抱えることになって、理仁と唯花の助けが必要になったとしたら、この夫婦が無条件に助けてくれるのを期待していた。いやいや、そんなことを考えるのは早すぎるだろう。彼の恋路は順風満帆に間違いないのだ。どうせ彼はスピード結婚でもないし、こそこそと裏で結婚するわけでもない。自分の正体を隠したり、相手を騙したりするわけじゃないし、順調に進むに決まっているじゃないか。「何の写真なの?」唯花はやはりそれに興味を示した。理仁はまるで唯花に対する献上物であるかのようにその写真を彼女に捧げた。そして「ばあちゃんだよ。ばあちゃんが孫たちの人生におけるビッグイベントに熱心になっているんだ。少し前、ばあちゃんがあちこち走り回ってただろう。あれは辰巳と奏汰に相応しい奥さん候補を探しに行ってたんだよ」と説明した。結城奏汰は結城家の若者世代の中で三番目の坊ちゃんである。彼は結城家の三男坊の長男で、結城グループ傘下の全てのホテル業を担っている。非常に口がうまく、おしゃべり上手な男だが、実は腹黒い。唯花は結城家の理仁たち若者世代への印象はとても深かった。誰もがイケメンだ。唯花はその写真を受け取って言った。「おばあちゃんも他にやる事がなくて暇だから、あなた達の結婚にやきもきしてるんでしょう。あなた達のような家柄出身であれば、その気になれば、たくさんの女の子が列をなして結婚したいと詰めかけてくることでしょう」しかし、彼らのように非常に優秀な男性は、確かに自分の結婚に焦りを覚えていなかった。去年、唯花と理仁がスピード結婚した時、彼は三十歳だった。辰巳は理仁より一歳年下で、今年もうすぐ三十歳になる。この年齢であれば、他
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第964話

辰巳は奏汰は身長が一メートル九十あるのを思い出し、おばあさんがどうして玲を選んだのかわかった気がした。彼自身は一メートル八十には満たない。一メートル七十六センチだ。もし、辰巳と玲が一緒になれば、玲のほうが彼よりも背が高くなってしまう。彼ら九人の中で、奏汰の身長が一番高いのだ。「女性が男装をしたってすぐにバレちゃうでしょ。女性の喉ぼとけはそんなにはっきりとしていないし」唯花は玲の写真を見つめ、この女性に興味を持った。どうして二十年以上も男のふりをしているのだろうか?「唯花さん、喉ぼとけくらいどうにでもなるさ」唯花「……」そうだったのか。唯花の知らないことはまだまだたくさんあるらしい。「で、さっき出てきた堺真世さんって一体誰なの?」唯花はまた興味津々で尋ねた。理仁は説明し始めた。「A市にある堺グループの社長だ。彼女の生い立ちは少し可哀想なんだ。妹以外に、他の家族はみんな亡くなっている。だから、仕方なく彼女が家業を継いだんだよ。ここまで来るのにも相当苦労の多い人生だったはずだ。彼女は常に中性的な格好をしているし、言っちゃ悪いが、そのうえ、まな板だから、男に見えてしまうのさ。今はもうこの姉妹は結婚している。だから堺真世さんも女性っぽくなったんだよ。あ、彼女が結婚した相手はA市の雨宮遥さんのお兄さんなんだ。雨宮遥さんの夫は、A市一の富豪家である桐生蒼真で善君の実のお兄さんなんだけど、善君とは唯花さんも会ったことがあるよね。彼は桐生家の五男坊だ。彼らの家の事情はまた今度時間がある時に詳しく話すよ。もうそれだけで一つのドラマができそうなくらいだから。俺たち結城グループとアバンダントグループ、アバンダントは桐生家が経営している会社だ。結城家と桐生家は深いビジネス上の付き合いがあるから、日を改めて時間がある時に唯花さんをA市に連れて行って、彼らに紹介するね」この二つのグループはそれぞれ別の都市に存在している。しかし、彼らはビジネスにおいてかなり深い繋がりがあるのだ。理仁は以前、唯花との関係を桐生蒼真に相談したこともある。アドバイスをもらったとおりに行動した結果は彼の想像したものよりも良いものだとは言い切れないが、理仁に現状を打開させる勇気を与えたことには変わりない。暫く嵐に耐え続け、彼は今雨上がりの虹がもう見えている。それでこの
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第965話

理仁と辰巳は同時に心の中で愚痴をこぼした。おばあさんが把握できないことなどこの世に存在しないのではないだろうか。理仁は愛妻の手から柴尾咲の写真を受け取り、辰巳に渡した後、辰巳のことを大きく目を見開いて睨みつけた。辰巳「……兄さん、唯花姉さん、じゃ俺はこれで失礼します。ゆっくりお話でもされてください。兄さん、お腹いっぱいそのご馳走をお召し上がりください!」本当に怒りん坊な男だ!唯花は理仁と辰巳二人で食べても十分足りるとさっき言っていたのに、理仁がそれを許さないのだ!辰巳はただ口実を適当に作ってその場を離れるしかなかった。唯花に理仁がケチで辰巳には食べさせようとしないということを知られてはいけない。こうして結城家の二番目のお坊ちゃんは去っていったのだった。これでオフィスには夫婦二人きりになった。「唯花さん、もう食事は済ませたの?」「ええ、食べてからあなたに持って来たの」唯花はまずは自分のことを済ませてから他人のことをやるタイプだ。理仁は手掴みで食べようとしたところを、妻の箸でパシンッと叩かれてしまった。「一体いくつよ、手でそのまま食べようとするなんて」唯花は彼に箸を渡した。「早く食べないと冷めちゃうわ。冷たいものは今は食べないほうがいいでしょ、胃が悪いんだし」理仁は箸を受け取って唯花を見つめた。「じゃ、もう食べてもいいかな?」「早く食べて」そして理仁は遠慮せずに食べ始めた。「唯花さん、今日、体の調子はどう?お腹は痛い?」「痛くないわ。あなたが作ってくれたジンジャーティーを飲んだら、体が温まったせいかしら、不思議と痛くないのよ」理仁は「そっか」とひとこと言ってから探るように「唯花さん、時間がある時、お義姉さんの家に、唯花さんの荷物を取りに行こうか?」と尋ねた。「お姉ちゃんのところに持っていった物は少ないの。服をちょっとだけ持ってっただけだから、わざわざ取りに行かなくても、あそこに置いておけばいいの。またお姉ちゃんのところに泊まりたい時に、服があったほうが便利でしょ」理仁は笑った。「それもいいね。新しい服を買いに行こうか」「必要ないわ。服、靴、それからドレスとかいろいろ買って、貯金もなくなっちゃった。クローゼットの中は新しい服で今いっぱいよ」唯花は伯母について礼儀作法や人付き合いを学
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第966話

理仁はお腹いっぱい食べた後、唯花の手を取って触りながら唯花に尋ねた。この間、神崎玲凰に会った時、彼が結婚してもう何年も経つというのにまだ子供がいないのかなどと話をしていたが、結果彼の妻は今お腹に子供がいる。唯花は一体いつになったら妊娠するのだろうか?理仁は実際そこまで子供に焦っているわけではない。彼が好きなのは子作り自体のあの行為だ。暫くの間その行為をしていなかったものだから、彼の全身の細胞が唯花をよこせと大合唱している。しかし残念かな、あと一週間ほど彼はお経でもあげて自分を落ち着かせ、我慢し続けるしかなかった。彼女の手を上げて、怪我をしたほうの手の指を確認してみた。だいぶ怪我は治っている。理仁は視線を下に落とし、優しくその怪我をしたほうの指にキスをした。彼女がこんな怪我をしてしまったのも、全て彼のせいなのだ。「お姉ちゃんに言ったら、何か買って来てくれるって。お姉ちゃんは経験者だから、私より何を買ったらいいかわかっているからね。買って来てもらってから、一緒に理紗さんのところにお祝いに行きましょう」理紗が妊娠したことを唯花は心の底から喜んでいた。「それでもいいよ。お義姉さんが使ったお金は後で俺が返すから」唯花は「ええ」と返事をした。「唯花さん」「何かあるならはっきり言って」「ただ君の名前を呼びたかっただけだよ。それに返事をする君の声が聞きたいだけだ」理仁は彼女を自分の胸の中へ抱き寄せた。両手は鉄のようにがっしりと唯花の柔らかな体をきつく捕らえた。「唯花さん、君は知らないだろうけど、ここ数日君のところに会いに行けず、俺はもうおかしくなってしまいそうだったんだよ」唯花は彼の胸の中で力を抜いて完全に自分の体を預けていた。そして低く優しい声でどれほど辛かったか訴える彼の声を聞いていた。彼が辛い日々を送っていた時、実際彼女のほうも同じように辛かった。もちろん、彼と比べれば、彼女のほうがまだマシなほうではあっただろうが。「まだみんなはお昼ご飯食べてるでしょう。あなたは先に休んで。そのほうが頭が冴えて午後の仕事にも集中できるわ」「唯花さんもここで休んでいったら?」唯花は彼に抱きしめられたまま顔を上げ、暫くの間彼と見つめ合ってから、最後にそれに頷いた。理仁は心のうちで彼女とまだ一緒にいられることを
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第967話

おばあさんは唯月に言った。「あなた達姉妹ったら、本当に結城家の名前を利用して自分の有利にしようとしないのね。孫たちにこの店を盛り上げてほしいって私に言ってくれたら、ここの商売は本当にうなぎ登りになるわよ」結城家の若者世代、九人がここで弁当を買うだけで、宣伝効果は抜群なのだ。しかし、唯月はそれを利用したいとは考えていない。「おばあさん、私も妹も自分の力でやっていきたいんです。伯母様もよく手伝いたいとおっしゃってくれるんですけど、それもお断りしているんです。唯花のほうは私よりもプレッシャーが大きいでしょうけどね。おばあさん、もう食事は済まされましたか?もし良かったら一緒にいかがですか」唯月は先に息子に食べさせていたので、自分はまだ食べていないのだ。おばあさんは遠慮せずにこう言った。「私は何だって試す人間よ。もちろんお誘いいただいたのなら断らないわ。あなた達と一緒に食べると、家庭の温かさが感じられるわ」普段、高級料理ばかり食べているから、家庭料理を食べる機会が少ないのだった。唯月は自分で作った料理を運んで持って来ると、申し訳なさそうにこう言った。「おばあさん、私と息子二人で食べるから、これしか作っていなくて」それは野菜炒めだった。おばあさんは彼女に「おばあちゃんがどんな人間かあなたも知らないわけじゃないでしょう。嫌ならわざわざお昼時にここに来るわけないのよ」と言った。おばあさんは自分でご飯を盛りに行った。おばあさんは細かいことは気にしない性格だ。唯月は彼女のこのフレンドリーな性格がとても好きだった。おばあさんが気にしないのだから、唯月も申し訳ないと思う必要はない。三人はテーブルに腰かけて食べ始めた。その時店のドアが開いた。「陽君、おじさんが君に……結城おばあさん?」隼翔がまた陽に大きな風車を買って、それを手に持ったまま陽の名前を呼びながら店に入ってきた。するとそこにはおばあさんの姿があり、彼はその瞬間ピタリとその足の動きを止めた。そして、なぜだかソワソワしてしまって、彼女に背中を向けてそそくさと退散しようとした。「隼翔君、私は災いの元ではないわよ。なんで私を見てすぐに逃げようとするのよ?」隼翔はまた足を止め、おばあさんのほうへ向くと再び店の中に入ってきて笑って言った。「おばあさんは神様のような存在ですよ。
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第968話

おばあさんはお腹いっぱいになって食器を置いた。隼翔はさっきの言葉に同意を示した。「そうですね。陽君はとっても賢い子だ」「だったら、あなた、なんでまた風車を陽ちゃんに買って来たのよ?何かプレゼントするなら、知育おもちゃとかあるでしょうもん。いつもいつも風車って、新鮮味に欠けるじゃないの。見てごらん、陽ちゃんはご飯を食べることに集中してて、風車になんか興味を示してないでしょう」一番上の孫とその友人は全く似ている。類は友を呼ぶというわけか。悟は例外だ。彼の口の上手さは、結城奏汰と良い勝負である。おばあさんはこの時、隼翔が唯月に気があるのかないのか、はっきりとは判断できなかった。しかし、おばあさんは隼翔が必死に陽のご機嫌取りをしようとしているのを見て、陽にパパと呼ばせたいという気持ちが根底にあるのだろうと予想していた。隼翔は別にそういう気があるわけではなく、ただ単純に陽というこの子が気に入っているだけなのだが、おばあさんはそうは思っていないらしい。隼翔は気まずくなってこう言った。「今まで子供の世話をしたことがないので、子供がどんなおもちゃを喜ぶのかわからなくて。以前、陽君に風車を買ってきたら、とても喜んでくれて抱っこまでさせてくれたんですよ。だから彼は風車がとても好きなのかなと思って、また買ってきたんですけど」おばあさん「……」本当に馬鹿の一つ覚えか。結城おばあさんの古い友人である故人、東おばあさんは隼翔というこの全くデリカシーのない孫にイライラさせられたストレスで亡くなったのではあるまいかと疑いたくなるくらいだった。おばあさんのあの九人の孫たちも十分おばあさんの頭痛の種であり、悩ませる存在であるが、東隼翔と比べると、自分の孫たちのほうがだいぶマシに思えてきた。比べてみないと、そんなことには気づかないのだ。唯月は隼翔が気まずそうにしているのを見て、息子に代わって急いで彼から風車を受け取り、笑って言った。「陽は風車で遊ぶのはとっても好きなんです。東社長、どうもありがとうございます」彼女はまた息子に代わって隼翔にお礼を言った。陽は自分の茶碗にあるご飯をきれいに平らげ、空になった茶碗をテーブルの上に置くと、ティッシュで口の周りを綺麗に拭いた。そうしてから母親の手にある隼翔が買って来た風車を受け取り、律儀にお礼を言った。「
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第969話

おばあさんは東隼翔が自分の孫ではなくて良かったと思った。そして自分の一番上の孫のことを思い出して、おばあさんは静かにため息をついた。やはり類は友を呼ぶのだ、間違いない。隼翔は理仁の親友であり、この二人は多くの点が似通っている。隼翔は執事に水光熱費に間違いないか確認作業を終わらせると電話を切って、唯月に言った。「間違いないようだ」彼は財布を取り出して、さっき回収した家賃をその中に押し込み、そしてまた唯月に言った。「来月分は直接執事のほうに口座振り込みしてもらっていいよ。それか俺に直接携帯から振り込んでもらっても構わない。執事にはきちんと記録をつけるように言っておくから」唯月は「はい」と返事して、こう説明した。「先月は携帯から振り込んだんですけど、今回、紐づけしている銀行カードに残高がなくて、それで通帳を持って、銀行まで現金を下ろしに行ったんです。店の内装費を全部支払って家賃分も足りたんで、現金で渡そうと思って」彼女が携帯に紐づけしている銀行カードの中にはただ日々の生活に必要な分だけ入れていて、そんなにお金を入れていなかった。大きい金額は通帳に入れてあるのだった。「じゃ、この店に他に何か手助けが必要かな?」唯月は急いで言った。「全部準備は終わりましたから、あとはオープンするのを待つだけです」「宣伝するチラシはもう配り終わった?」唯月は笑って言った。「それは必要ありません。内装にかなり時間をかけたから、みなさんこの店の前を通る時に見てましたからね。看板もつけてあるし、どんな店か一目でわかりますから」彼女が集客したいターゲットは近くにある会社の社員たちだ。遠くにいる人に店まで来てもらいたいと思っても、それは難しい話だろう。競争が激しいから。この通りだけでも、弁当屋やその他飲食店は数えきれないほど多いのだ。彼女はこの通りでこの店の活路を見い出せればいいと期待していた。彼女はすべてをこの店に賭けたのだ。隼翔は何も言わなかった。彼は店の中をゆっくりと見て回った後、腰をかけようと思っていたが、おばあさんがじいっと彼を見つめているのに気づき、なんだかソワソワしてしまった。明らかに彼は別に怪しいことなどしていないというのに、どうして結城おばあさんはこんなに睨みつけてくるのだろうか。ものすごく気まずいではないか。
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第970話

「おばあさん、俺はこれで失礼します」隼翔は腰を屈めて陽の頭を撫でた後、おばあさんにひとこと挨拶した。おばあさんから「ええ」と返ってきてから彼は急いで店を出て行った。おばあさんは隼翔が車を運転して去っていくのを見た後、唯月のほうへ目線を向けた。その時には唯月はすでにレジのほうへ戻り、小さめのノートと計算機を取り出して、店舗を借りてから内装して今に至るまでにいくらかかったのか記録をつけていた。おばあさんは、どうやら自分の思いすぎだったようだと思っていた。唯月は隼翔に全く興味を持っていないらしい。しかし、おばあさんはやはり唯月の目の前までやってきて、探るように尋ねた。「唯月さん、将来、どうしようと思ってるの?」「そうですね『まんぷく亭』をチェーン展開して、全国に広めたいですね」「もちろん仕事は大事なことだけど、私生活のほうは?年も明けてあなたもまだ三十一歳でしょう。まだまだ若いじゃないの。今後のことを考えないの?私が以前あなたに言ったことは今でも有効なのよ。あなたさえ良ければ、あなたに一途で、能力もあって、優秀な男性を紹介してあげるわ。再婚したら、佐々木なんとか言うあのクソみたいな元夫と一緒にいた頃よりも何万倍も良い人を見つけて幸せな生活を送れるって保証できるわ。あんなクソ男後悔させてやるのよ」唯月は笑って言った。「おばあさん、あなたにはお孫さんが九人いらっしゃるんですよね。理仁さんと一番下のお孫さんを除いて、他の方はみんな奥さんをもらえる年齢ですよね。だけど、彼らはみんなまだ独身だから、おばあさんは彼らの心配するのにもう結構忙しいでしょう?」おばあさんは陽の手を取り、抱き上げた。陽はおばあさんの膝の上に座った。そしておばあさんはケラケラと大笑いして言った。「私ももう年だからね、他にやる事なんてないのよ。あの子たち孝行者だから、私に仕事はこれ以上させてくれないし、暇で暇でしょうがなくてね。だから今は孫たちの結婚の手助けをしてあげるくらいしか何もやることないわ。今日の午前中辰巳と三番目の奏汰って子にお見合い写真を二枚用意してきたのよ。あの二人には私の計画通りに動いてもらうわ。一年以内に、二人は独身から卒業できるはずね。二十五歳になってない子たちに関しては、私も別に焦っていないわ。私には九人孫がいるけど、今のところ六人が二十五歳
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