「奥様」「奥様」受付にいる二人が唯花が入ってくるのを見て、微笑みながら律儀に挨拶をした。唯花は受付たちに微笑み返した。この二人は前から彼女に態度が良かった。そのうち一人が受付のデスクから出てきて、唯花をエレベーター前まで案内した。その時、唯花が弁当箱らしきものを持っているのをちらりと見た。「夫が、最近胃の調子が悪いらしいので、作って持ってきたんです。もうすぐ昼休憩に入りますよね?」唯花は昼になる少し前に到着したのだ。受付嬢は心配そうな顔をして言った。「結城社長は胃の調子を崩されていたのですか?でしたら、きちんと休まないと」彼女は心の中で、社長は最近仕事をする以外、他のことをしていないと思った。あまりに忙しく仕事に熱中しているので、時間通りに食事もしていない。多くの場合、秘書の木村が外で何か買って来ていた。しかし、木村が言うには、社長は忙しさのあまり、食事をすることすら忘れていたらしい。こんなに自分を追いつめて、胃が悪くならないほうがおかしいだろう?「もうすぐ昼休憩に入りますよ」受付嬢はそう付け加えた。彼女は唯花を社長専用エレベーターの前まで案内し、エレベーターのボタンを押して丁寧な動作で中へ入るよう合図を送った。唯花は二つの弁当箱を下げてエレベーターに乗り込み、受付嬢に微笑みかけると、一人で最上階へと上がって行った。最上階に到着し扉が開くと、木村秘書が笑顔で出迎えてくれた。唯花はそれに少し驚き、木村を何度も確認した。心の中でこの男はどうしてこんなにニカッと歯を出して笑うほど嬉しそうに見えるのだろうと思っていた。「奥様、こんにちは。私は結城社長の秘書をやっております、木村と申します」「木村さん、こんにちは」唯花は丁寧に挨拶を返した。「社長は今時間があります?私中に入って邪魔にならないでしょうか?」木村はニコニコと笑って言った。「そんなことございません。奥様、ノックして中へお入りください」彼はわざと社長に夫人が来たことを伝えず、サプライズにしようと思っていた。「ですが、副社長も中にいらっしゃいますよ」木村はそうひとこと付け加えた。辰巳は理仁のところに行っておばあさんから「早く結婚しろ」と催促されるのを愚痴りに来ていた。おばあさんは彼にお見合い写真を持って来ていて、女性側の容姿、年齢、今ど
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