如月尭は濃い眉を少し上げた。霜村冷司からこんな条件を提示されるとは思ってもみなかった。和泉夕子を助けたい一心なのか、それとも別の目的か?如月尭は霜村冷司を完全に信用しているわけではなかったが、Sの創設者が一体誰なのかは知りたかった。長年の人生経験を経た目には、様々な思いが交錯し、複雑な人間性を映し出していた。「もし嘘をついたら、二度と夕子には会えないと思え」計算高く策略をめぐらす人間は、常に考えすぎる。だから他人を脅かすことしかできない。如月尭の憎むべきところは、まさにそこで、霜村冷司は軽蔑した。「今更、脅す資格がどこにある?」男の落ち着きのある深く、それでいて透き通った声が、放送を通して如月尭の耳に届いた。「今、あなたと交渉しているのは、妻のことを思ってのことだからな」つまり、和泉夕子が如月尭の手に渡っていなければ、霜村冷司はここまで慎重になる必要はなかったのだ。他のエリアを制圧したように、人体実験室を直接攻撃し、生け捕りにするだろう。交渉などする気はなかったはずだ。完全に敗北した如月尭には、確かに霜村冷司を脅す資格などない。脅迫のために、本当に和泉夕子を傷つけるわけにもいかないだろう?そして、やっと見つけた孫娘を、如月尭が傷つけるはずがない。だが、霜村冷司から提示された条件には、裏があるかもしれない。如月尭は熟慮を重ね、ようやく放送ボタンを再び押した。「先に誰がSの創設者か教えろ。そうしたら夕子を解放する」霜村冷司の冷淡な瞳の奥に、かすかな嘲笑の色が浮かんだ。「解放もしないで情報を手に入れようなんて、甘すぎるとは思わないのか?」「なら、自分で迎えに来い」如月尭は落ち着き払って、脱出室の位置を霜村冷司に伝えた。「人体実験室の廊下の突き当たり、白い壁の後ろが脱出室だ。コントロールパネルのパスワードは794203。一人で来い」慎重な行動は、敗北者の最後の抵抗だ。この点は、如月尭からはっきりとみてとれた。水原哲と水原紫苑は呆れた様子で、ほぼ同時に霜村冷司に首を振り、行かないようにと合図した。霜村冷司は二人を一瞥し、視線をガラスの密閉容器に横たわる48体の遺体越しに、廊下の突き当たりへと向けた。「尭さん、もう一度言うぞ。今、あなたが私に要求する資格はない」男の雪のように
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