和泉夕子は気にせず、如月雅也に手を振った。「あなたには関係ないわ。命令に従っただけだし、それに私を助けてくれたのはあなたよ」如月雅也は目を伏せ、兄としての情けなさをを隠すと、ゆっくりと和泉夕子の大きくなったお腹に視線を向けた。「この子にもう名前はつけたのか?」和泉夕子は彼の視線を追うようにして、自分のお腹をちらりと見てから首を横に振った。「まだ決まってないの。何かいい案はあるかしら?」如月雅也は、少し離れた場所で和泉夕子を待っている男へと視線をやる。「彼がいるんだ。子供の名前に軽々しく口出しなんかできないよ」和泉夕子も自身のお腹から目線を上げ、すらっとしていて、上品な雰囲気を醸し出す霜村冷司を見つめた。「彼、冷たいように見えるけど、本当はすごく優しいの。これから、一緒にやっていくうちにわかると思うよ」霜村冷司は守りたい人、大切に思う人には、いつもとても優しい。そうでなければ、沢田や相川涼介、相川泰たちは、彼についてこなかっただろう。「霜村さんと一緒にやっていく?」如月雅也はふっと笑った。「今後は、せいぜいあなたとあなたたちの子供に会いに来るぐらいだと思うよ。彼と一緒にやっていくなんて、まず無理だろうな。だって、闇の場で殴り合った仲だし」如月尭のこともあるので、ふたりの関係が良好になることはないだろう。もちろん、如月尭が復讐を果たし終わり、霜村冷司も望むなら、和泉夕子のために、これまでの確執を水に流すことはできる。二人が殴り合いの喧嘩と聞いて、和泉夕子は眉をひそめた。「喧嘩したの?それで......彼に勝てた?」疑われた如月雅也は、袖をまくり上げてたくましい腕を和泉夕子見せ、得意げな顔をした。「結構やるんだぞ。俺が彼に負けると思うか?」和泉夕子は笑った。「雅也さんって、そんな強かったのね」そんな和泉夕子の言葉を聞くと、如月雅也は「自分の夫がなんでも完璧だと思うなよ」とからかい混じりに言った。二人は楽しく話していたが、そんな素晴らしい時間は長くは続かなかった。しばらく待っていた如月尭が近づいてきて言った。「雅也、そろそろ搭乗時間だ」そして、如月尭は和泉夕子をつま先から頭までじっくりと見つめた。「一ヶ月ぶりか。体調もなかなか良さそうじゃないか。それに、体つきもだいぶ妊婦らしくなった。どうやらここ最近は、元気にやってい
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