白石沙耶香は和泉夕子の考えていることがわかり、しんみりと言った。「夕子、この半年、冷司さんはあらゆる手段を使ってあなたを昏睡状態から救おうとしていたわ。志越よりもあなたを愛していることをとても感じた。だから、これからも彼を大切にして、愛される喜びを味わわせてあげて」夫婦というのは、ただ愛し合うだけの関係じゃない。時が経つにつれて、そこには家族としての情も芽生えていく。幼い頃から愛情に飢えていた霜村冷司にとって、その家族という役割を担えるのが、今の妻である和泉夕子だった。だから、彼がこれまで得られなかった温もりを、これからは妻として、しっかりと与えてあげればいい。和泉夕子は力強く頷き、柔らかな視線を腕の中でうとうとする赤ちゃんに向けた。「今は、彼とこの子だけが私の世界なの。もちろん、彼のことを全力で大切にするつもり。ただ......」彼女は目に涙を滲ませた。胸が締め付けられるように痛む。「沙耶香、彼の頭の中にはまだチップが入っているの。いつか、彼が......」白石沙耶香は慌てて手を伸ばし、和泉夕子の肩に置いて優しく叩きながら慰めた。「夕子、先生も言ってたじゃない。チップを刺激しなければ大丈夫だって。それに、涼平をはじめとした、兄弟姉妹みんながお医者さんを探しているんだから、きっと大丈夫よ」和泉夕子は返事をしたが、苦しげな涙が頬を伝った。「早くお医者さんを見つけて、あのチップを取り出してほしい。そうすれば、あんなに苦しまなくて済むのに......」周りの人は霜村冷司の命が危険に晒されることを心配していたが、和泉夕子だけは彼の痛みを心配していた。白石沙耶香は思った。妻という立場だからこそ、夫の痛みを我が事のように感じているのだ。「あなたがそばにいてあげれば、彼は痛みなんか感じないわ」霜村冷司にとっては、肉体的な痛みなんて精神的な苦痛に比べたら大したことなかった。和泉夕子に捨てられることこそ、彼にとって最大の苦しみなのだから。そう考えていると、白石沙耶香は桐生志越のことを思い出した。あの青年も、和泉夕子をこんなふうに愛している。重い鬱病を患っている彼が、この出来事を一人で抱え込んでいないだろうか?少し罪悪感を覚えた白石沙耶香は、和泉夕子が子供を抱いて物思いに耽っている隙に、スマホを取り出し、桐生志越にメッセージを送った。【志越、彼女はも
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