All Chapters of 契約終了、霜村様に手放して欲しい: Chapter 1511 - Chapter 1520

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第1511話

霜村凛音はよく考えた結果、望月景真が和泉夕子に一途な想いを寄せているのを見たからだろうと思った。和泉夕子に立ち上がってほしいと願われただけで、もう生きる気力などなかったのに、彼は歯を食いしばってあらゆる治療の苦痛に耐え、医師の言うことを全て聞き、車椅子から立ち上がった......重度のうつ病だったら、他の人ならとうに生きてはいられなかっただろう。でも、望月景真は和泉夕子の罪悪感を軽くするために、ずっと耐え忍んで生きてきた。真夜中に何度も自殺を図ろうとしたこともあったが、正気に戻ると、また生きなければいけないと思い直す......霜村凛音はそんな男性を情深く尊いと思い、いつの間にか徐々に好きになっていった。でも、彼女は一度も考えたことがなかった。この人が好きなのか、それともこんな純粋な感情が欲しいだけなのか......彼女がこのように熱烈な想いを望月景真に寄せている間、唐沢白夜は黙って彼女の後を追い、彼女がどのように少しずつ他の人を好きになっていくのかを見ていた......今夜は雨が降っている。向かいの建物にひっそりと住む男はカーテンを開け、静かに落ちる雨越しに、窓際に座って一人で麺を食べている霜村凛音を見た......霜村凛音に自分がいることに気づかれるのを恐れて、彼は電気をつけなかった。だから今の彼は、まるで暗闇の中で救いようのないネズミのように、暗い場所に隠れて、彼女の行動をこっそり見守るしかなかった。自分の行動が異常であることは分かっているが、これが彼女のそばにいられる唯一の方法なのだ。実は、唐沢白夜はまだ霜村凛音をとても愛していた。どれくらい愛しているかというと、寝ても覚めても彼女のことが頭から離れず、食事ものどを通らず、胃がんになっても、残された時間を霜村凛音のそばで過ごそうとするくらいだ。たとえ霜村凛音が知らなくても、彼はこうして黙って彼女を守っている......霜村凛音は麺を食べ終え、窓際でしばらく座っていた後、立ち上がって部屋に戻った。リビングの明かりが消え、何も見えなくなった。唐沢白夜はしばらく静かに立ち尽くした後、電気をつけ、明るいリビングに座って、向かいの彼女が目を覚ますのを待った。霜村凛音が望月景真への想いを断ち切る過程は、少しだけ辛かった。でも、唐沢白夜への想いを断ち切った時よりは、ずっと楽だった。布団をかぶ
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第1512話

霜村凛音は唐沢白夜に訴訟を任せたくはなかった。しかし、この時すでに彼女は盗作したと非難され、ニュースになっていた。世論は一方的に彼女を批判し、真相を知らないネットユーザーの多くは、彼女を盗作呼ばわりし、霜村家の名声にまで泥を塗っていた。霜村凛音はネットユーザーと争う気はなく、弁護士に依頼して裁判所の判決を公表するしかなかった。しかし、弁護士たちはこの事件を引き受けたがらなかった。そんな中、唐沢白夜だけが、受けようとしてくれたのだ......彼女はこれが唐沢白夜の小細工だと分かっていた。法曹界で権勢を振るう唐沢白夜なら、この程度のことは朝飯前だろう。それでも、彼の策略を指摘することはせず、しばらくためらった後、テーブルの上の名刺を手に取った。「今回の裁判が終わったら......もう二度と会わないから」涙を浮かべていた唐沢白夜の目に、徐々に安堵の笑みが浮かんだ。「ああ、大丈夫さ。今回の裁判が終わったら、もう会わないから......」会いたくないわけじゃない。会う機会がなくなるだけだ。この世を去った後、霜村凛音が幸せに暮らせるように。自分の存在で彼女を煩わせるようなことがないように......唐沢白夜はそんな思いを抱きながら、名残惜しそうに椅子から立ち上がった。「裁判の間、いくつか証拠を提出してもらう必要があるんだ。その時に俺が何度か訪ねてきても許してほしい......」霜村凛音は返事をせず、ただ頷いた。唐沢白夜はこれ以上ここにいる理由もなく、無理やり体を支え、踵を返した......ひどくやつれた後ろ姿を見つめながら、霜村凛音はなんだか近い将来、唐沢白夜がこの世を去るような気がした......しかし、その考えは一瞬頭をよぎっただけで、霜村凛音は視線を手元の工芸品に戻し、作業に集中した......唐沢白夜は証拠を集める必要があったため、アトリエを訪ねて堂々と霜村凛音に会うことができた。彼は毎回少しだけ証拠を集め、残りの時間は霜村凛音を食事やコーヒーに誘った。時にはわざと夜遅くまで残って、霜村凛音を家まで送ると言い訳することもあった......そんなこんなで、霜村凛音は唐沢白夜に近づかれることに、それほど抵抗しなくなっていた。それでも、裁判が早く終わることを願っていた。唐沢白夜は彼女の焦りを感じ取り、彼女が自分を嫌っていると思い、裁
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第1513話

裁判が終わった。それは、二人がもう二度と会うことはないということを意味していた。唐沢白夜は弁護士席の机に両手を付き、人混み越しに立ち去ろうとする霜村凛音の姿を見つめていた......彼は開いた唇で、その背中に向かって、大声で「凛音、これが最後の別れになるんだ。もう一度、さよならを言わせてくれないか」と言いたかったが、どうしても声が出なかった......唐沢白夜はついに倒れ込んだ。愛してやまなかった法廷で倒れたことに、後悔はなかった。唯一の後悔といえば、骨の髄まで愛した女性が、最後まで一度も振り返ってくれなかったことだった......唐沢白夜は意識を失い、入院した。全身に管が繋がれた状態でも、生徒には霜村凛音に知らせるなと告げた。生徒は「何もそこまで......」と彼を諭したが、唐沢白夜は窓の外の白い空を見つめ、「俺が先に彼女を突き放したんだ。彼女に振り返って欲しいなんて、俺が望んでいいことじゃないんだ......」と呟いた。しかし、医師から余命3日と告げられた時、唐沢白夜は点滴を抜き、ボロボロの体を奮い立たせ、きれいなスーツに着替え、髭を剃り、生徒に頼んで霜村凛音のアトリエまで送ってもらった......デザインに没頭していた霜村凛音は、何日も徹夜を続け、素晴らしい作品を彫り上げていた。しかし、あまりにも精気を使い果たし、木の机に突っ伏したまま眠り込んでしまっていた。唐沢白夜が入ってきた時、他の職人たちは自然と席を立ち、彼に場所を空けた。皆、裁判に勝たせてくれた彼に感謝し、彼と霜村凛音をくっつけようとしていたのだ。しかし、誰も唐沢白夜にはもう時間がないことを知らなかった......今日は太陽が出ていた。柔らかな日差しが霜村凛音に降り注ぎ、まるで金色の光を纏っているようだった。暗い場所に立っている唐沢白夜とは対照的だった。まるで、一人は永遠に地獄に住み、もう一人は常に太陽に向かって生きているかのようだった......太陽に向かって生きている人間が、地獄の人間と一緒になれるはずがない。だから、たとえ霜村凛音が後に誰かを好きになり、拒絶されたとしても、唐沢白夜はもう二度と彼女の手を取り、若い頃に誓った「二人で助け合いながら、ずっと一緒にいよう」という約束を果たすことはできない......彼は霜村凛音のことがどうしようもなく名残惜しかった。
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第1514話

暗くなった画面を見つめながら、唐沢白夜の心は抑えきれないほど震えた。口からは血が溢れ、涙も頬を伝って流れ落ちた......全身が痛かった。癌の痛みで心の痛みを紛らわせる事ができると思っていたが、死の間際になっても、心の痛みで命を落としてしまうのではないかと感じた......医師には余命3日と言われたが、点滴を抜いてまでして霜村凛音に最後会ったせいで、余命1日になってしまった......死ぬ前に霜村凛音にもう一度会いたかった。でも、彼女はもう会いに来てくれないだろう。もう何の期待も抱いていない唐沢白夜は、最後の力を振り絞ってスマホを取り、彼女にメッセージを送った......指についた血がスマホに染み込み、画面が見えにくくなった。もしかしたら、意識が朦朧としているせいかもしれない。それでも、霜村凛音の番号を正確に探し出し、震える手で4文字を打ち込んだ......送信ボタンを押したかどうかは覚えていない。ただ、胸が急に詰まり、呼吸ができなくなった。抑えきれない吐血が喉を襲い、口から勢いよく噴き出した......血が画面に飛び散った......血で濡れたスマホを眺め、唐沢白夜は絶望的に唇を歪め、意識を失うようにソファに倒れ込んだ......意識が消える直前、唐沢白夜には若い頃の霜村凛音が笑顔で駆け寄ってくる姿が見えた......「白夜、あなたが卒業したら、私と結婚してくれる?」唐沢白夜は「ああ」と言いたかったが、声が出なかった。唇を動かし、何度も何度も心の中で繰り返した。ああ、卒業したら結婚しよう......いつ幻覚が消えたのかは分からなかったが、ただ、幻覚が消えた瞬間、唐沢白夜は空に向かって静かに呟いた。「凛音、今世ではお前と結婚できなかったから、来世では......してくれるかな?」誰も答えてはくれない。がらんとしたリビングには、自分一人だけ。まるで世界に捨てられたように、一人ぼっちで生まれてきて、一人ぼっちで死んでいく......風呂上がりの霜村凛音は、スマホを手に取り、唐沢白夜からのメッセージを見た。【愛してる】という短い4文字だけだった。それ以外は何も書かれていなかった。霜村凛音はこれをじっと見つめ、しばらくして窓辺に行き、向かいの明かりのついたことのないリビングを見つめた......彼女は長い間躊躇
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第1515話

今、霜村凛音はうつむき、痩せ細って生気を失った顔を見つめると、突然涙が雨のように流れ落ちた。その涙の粒は、狂ったように唐沢白夜の顔に降り注いだが、もはや何の波紋も生じさせなかった......彼は死んだ。霜村凛音が二度と許さないと告げた辛辣な言葉の中で、彼女が冷たく何度も拒絶した中で、彼女が他の男を愛してしまった苦しみの中で、そして彼女と結婚できなかった無念の中で......泣き崩れて動けなくなった霜村凛音は、警官たちに押しやられ、白布をかけられた唐沢白夜が車の中に運ばれるのを見送った。ドアが閉まった瞬間、彼女は身体を支えきれずにその場にしゃがみ込み、冷たくなった体を抱きしめ、その車が視界から消えるまで見つめていた......まるで唐沢白夜が、永遠に視界から消えてしまったかのように。こうして、音もなく、彼は去っていった。しかし、彼が遺した愛は、ウイルスのように霜村凛音の記憶を狂おしく埋め尽くしていく......彼は、裁判が終わったら、一切関係を持たないと言っていた。本当は、諦めようとしていたのではなく、もう時間がないと悟っていたんだ......彼が裁判に出廷した日、自分が嗅ぎつけた血の臭いは、トイレの腐敗臭なんかじゃなかった。唐沢白夜が吐いた血だったんだ......彼の痩せ細った後ろ姿も、仕事で疲弊していたからじゃなかった。胃癌で食事がとれず、あんなに痩せてしまっていたんだ......彼が自分にキスをし、泣きながら涙を流したのは、自分に許されず、受け入れられないことを嘆いていたからではなかった。自分と離れるのが辛かったんだ......キスをした後、ドアの外で自分が出てくるのを待っていたのも、偶然を装おうとしていたわけじゃない。ただ......ただ、命が消えゆく前に、少しでも長く一緒にいたかったんだ......霜村凛音は、純粋な愛を探し求め、さまよっていた。けれど、振り返って見ることはしなかった。全身全霊で愛してくれる唐沢白夜が、ずっと同じ場所で待ち続けていたというのに......命が尽きてしまうその瞬間まで、彼は自分に「愛してる」と告げてくれたのに。返事を聞くことなく、この世を去ってしまった......霜村凛音は顔を覆い、捨てられた子供のようにしゃがみ込み、長い間泣き続けた。そして、我を忘れて、火葬場へ向かう車の後を追った.
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第1516話

間違っていたのは母で、無実なのは唐沢白夜だったのに。そして、償うべきだったのは自分なのに、過去の出来事のせいで唐沢白夜にもう一度チャンスを与えようとはしなかった。結局、自分が冷酷すぎたのだ......火葬場の入口に座っていた霜村凛音は、後悔の念に押しつぶされそうだった。だが、生涯愛してくれた男はもう現れない。抱きしめながら、長い髪を撫で、「凛音、これはただの悪夢だよ。目が覚めても、俺はまだここにいるから......」そう言ってくれることもない。霜村凛音はそこまで考えて、さらに泣き叫び、ついには狂ったように火葬場で唐沢白夜の名前を叫び続け、戻ってきてほしいと懇願した。だが、誰も答えない。ただ、しとしとと降り続く雨だけが、全てがもう不可能になったことを告げているのだった。彼女は泣き疲れて気を失ってしまった。目が覚めると、柳愛子の心配そうな顔が見えた。霜村凛音はぼうっとあたりを見回したが、唐沢白夜の姿は見えず、再び目を赤くした......「お母さん、また白夜を私から引き離したの?だから彼はいなくなっちゃったの?」柳愛子は霜村凛音の泣き腫らした目を見て、もらい泣きをした。「凛音、白夜はもういないのよ......」霜村凛音は急に大雨が降っている窓の外へ顔を向け、涙を流した。「お母さんのせいだ。私と彼を引き離したのも、彼を殺したのも......」責めるべきは自分自身だと分かっていた。結局、後で改心した柳愛子は自分に立ち直るように説得したが、自分自身が戻ろうとしなかったことで、唐沢白夜の体を蝕んでしまったのだ。元凶は柳愛子ではなく、自分自身であることをよく理解していた。ただ、全て自分が引き起こしたことだと認めたくなくて、責任を柳愛子に押し付けたのだ。柳愛子も罪を認め、「そうよ、全部私のせいよ。私が彼を殺してしまったの。でも凛音、白夜を見送る人が誰もいないのよ。だからあなたはしっかりして、火葬場に行って、彼を見送ってあげて......」と繰り返し言った。霜村凛音は必死に首を振った。火葬しなければ唐沢白夜はまだいるような気がした。火葬してしまえば、唐沢白夜は本当にいなくなってしまう。彼女は彼の火葬も、彼を見送ることも全て拒否した。だが、唐沢白夜は冷凍庫の中で凍りつき、皮膚と肉がくっついてしまったので、火葬するしかなくなっていた......彼
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第1517話

霜村冬夜の性格は、元々は小さな暴君みたいで、よく人をいじめたりしていたのだが、霜村冷司に一度懲らしめられた後、性格がすっかり変わってしまった。では、霜村冷司のようなったかと言うと、そうでもない。まだ幼いのに、いつも周りの人を見下すような態度をとっている。人と話すのも好きではないようだった。和泉夕子が何か話しかけても、黙って聞いているだけで、なんの反応もみせなかった。和泉夕子は、子供が成長するにつれて心を閉ざしていってしまうのではないか心配になり、心理カウンセラーを呼んだ。「3歳までは、とても活発で、時々いたずらもしていたんですが、今は笑顔も見せないんです」彼女は、2年前に霜村冷司が子供を叩いたことが原因で、深刻な心の傷を与えてしまい、霜村冬夜がこんな風になってしまったのではないかと疑ってもいた。しかし、霜村冬夜の強い人に惹かれるあの性格を見る限り、心に傷を残すようには思えなかった。彼はただ、強い人には一目置くが、弱い人間に対しては鼻で笑うだけだったのだ。心理カウンセラーの麦野志保は、基本的な状況を聞いた後、和泉夕子に尋ねた。「お子さんは普段、何かに興味を持つことはありますか?」和泉夕子は少し考えて、「図鑑や、謎解き系のおもちゃ、あとは科学や医学に興味を持っています。でも、理解したいことを理解してしまったら、触りもしなくなってしまうんです。とても飽きっぽくて......」麦野志保は納得して頷いた。「お子さんはどこですか?まずは会って話をしてみて、彼の知能が高いからなのか、それとも本当に心理的な問題を抱えているのかを判断しますね」和泉夕子は手を伸ばし、城館の方へどうぞという仕草をした。「いつも書斎で、絨毯に座りながら壁にもたれ本を読んでいます。一日中座っていられるようなんです」城館に一緒に入った麦野志保は、少し驚いて顔を彼女に向けた。「まだ5歳なのに、もう字が全部読めるんですか?」和泉夕子は言葉を覚えるのに少し苦労したため、言語教育を重視し、少し力を入れていた。「インターナショナルスクールに入れる前に、家庭教師をつけて字を覚えさせたんです。そしたら不思議なことに、本に書いてある字を一度見るだけで思てしまったんです。それに家族は皆、冬夜と国語と英語でコミュニケーションを取っているので、今はバイリンガルでとても上手に話すんです
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第1518話

麦野志保は多くの心を閉ざしてしまった子供達と接してきた経験から、彼らが自分の言葉に反応しないことを知っていた。だから返事を待たずに、一人で話し続けた。「あなたのお母さんに、息子が心を閉ざしてしまうかもしれないと心配だから、話をしてもらえないか、と頼まれたんです。でも私は、あなたは自閉症なんかではなく、知能が非常に高いのだ思っています。どれくらい高いのかは、テストしてみないと分からないので、協力してもらえないでしょうか?」麦野志保は完全に大人として霜村冬夜に話しかけた。そのおかげか、霜村冬夜はようやく視線を上げ、どうやってテストするのかについて、考えているようだった。霜村冬夜の目に浮かぶ、知りたくてたまらない、そんな飢えるようなまなざしを見て、麦野志保は確信を強めた。この子は知能が高すぎるからこそ、強さに惹かれる心が育ったんだ、と。なぜなら、こういう子供は誰にも導いてもらえず、どうやって学べばいいのかも分からない。ただ闇雲に学んでいくしかない。では、どこから学ぶのか?それは強い者や本からであり、そして孤独な世界からだった。麦野志保は確信すると、スマホを取り出し、知能テストの問題集を開いて、霜村冬夜の目の前に置いた。「ここにいくつか問題があります。難易度もかなり高めに設定されています。大人でも解けない問題もあるんですが、解いてみますか?」霜村冬夜は最初は興味を示さなかったが、「大人でも解けない」と聞くと、スマホの画面に目をやった。最初の問題を見ると、その小さな手を抑えきれなくなり、麦野志保のスマホを奪い取り、抱え込みながら、小さな頭を垂れて問題を解き始めた。彼が問題を解いている間、麦野志保は邪魔をせず、向かいに座って、床に散らばっている本やハイテク模型を手に取って眺めていた。どれくらい時間が経っただろうか。麦野志保は腕にスマホが当たるのを感じ、顔を上げた。そこには良い気になって顎を上げ、勝ち誇ったように自分を見下ろしている霜村冬夜がいた。「テストに合格したようですね?」霜村冬夜は返事をしなかったが、麦野志保は気にせずスマホを受け取り画面を見た。確かに知能テストには合格していた。ただし、正確な数値を出すには専門機関に行く必要がある。「冬夜さん、あなたの知能は確かに、とても高いものでした。小さな天才ですね。しかし、他の小さ
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第1519話

和泉夕子は彼を邪魔するのはやめた。ちょうどその時、白石沙耶香から電話がかかってきたので、話相手がいなかったのもあり、彼女を家にお茶へと招待した。白石沙耶香は二人の子供を連れて車から降りると、ブルーベイの裏庭へとそのまま向かった。遠くから和泉夕子がパラソルの下で、片手にコーヒー、片手に設計図を持っているのが見える。子供を産んだ後でも、和泉夕子は以前と変わらずスタイル抜群で、顔のお手入れも欠かさない。後ろ姿を見ると、20代の女性とそれほど変わらない。生涯美しい和泉夕子を見た白石沙耶香は、秋のそよ風のように爽やかな気分になった。「夕子、天才坊やはどこ?早く呼んで、うちの子供たちに拝ませなきゃ」白石沙耶香の声を聞いて、和泉夕子は笑顔で振り返る。白石沙耶香の明るい顔から視線を移し、二人の子供に目を向けた。男の子は白いシャツにチェックのベスト、後ろに流したきちんとした髪型で、白くて綺麗な顔を見せている。容姿も服装も、まるで霜村涼平のミニチュア版だ。女の子はキラキラ光るプリンセスドレスを着て、お団子頭に銀のティアラをつけていた。まるで漫画から出てきたお姫様のようで、とても可愛らしい。自分の息子の仏頂面と比べて、和泉夕子は白石沙耶香の子供たちが可愛くてたまらず、設計図の研究も忘れて立ち上がり、両腕を広げた。「壮馬くん、歌音ちゃん、おいで。抱っこさせて......」二人の子供は和泉夕子の姿を見ると、嬉しそうに白石沙耶香の手を振りほどき、小さな足を一生懸命動かして走ってきた。特に霜村壮馬は、一目散に和泉夕子の胸に飛び込んだ。「夕子おばさん」霜村壮馬は新しく手に入れたおもちゃの車を和泉夕子に自慢するように見せた。「パパが僕だけに買ってくれた新しいおもちゃ!見て見て!かっこいいでしょ!」和泉夕子は彼を抱きしめると、笑顔で彼の頭を撫でた。「あなたのパパが買ってくれたおもちゃだもん、かっこいいに決まってるわ」彼は変形するおもちゃの車を自慢しようとしたが、追いかけてきた霜村歌音に遮られた。「夕子おばさん、パパは私に人形を買ってくれたんだよ。大きすぎて持って来れなかったけど、壮馬のおもちゃの車より可愛いの。夕子おばさん、暇な時にうちに来て。見せてあげるから!」和泉夕子は笑顔で頷き、もちろんと言い、もう片方の手を伸ばして霜村歌音を抱きしめ、ぷっ
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第1520話

和泉夕子の話を聞き終えると、白石沙耶香はコーヒーカップを置いて、眉をひそめて言った。「冷司さんは賢そうだし、知能指数も低くないはずよ。彼に任せたらどうだ?」この話を持ち出すと、和泉夕子は少し恥ずかしそうにうつむいた。「会議が終わったら戻ってくるとは言っているんだけど......ここ数年、子供に関心を示したことがないから、あまり期待できないかも......」和泉夕子の襟元の下に青紫色のキスマークが付いているのを見て、白石沙耶香は霜村冷司の関心がどこに向いているのか察した。「彼には感心するわ。毎日毎日、どうしてこんなに元気なのかしら?」白石沙耶香は霜村涼平と一緒にいる時間がもう長いため、最近は発言が彼に似てきてますます大胆になっている。和泉夕子はさらに恥ずかしくなった。「けど、私ばっかりっていうわけでもないから。ちゃんとグループの仕事も手を抜かずにやってるわ」白石沙耶香は彼女をちらりと見た。「彼にしか決定権がないことと、グループの財務会議で会社に呼ばれる以外は、いつも家であなたと一緒にいるくせに......」和泉夕子は片手で顔を覆った。「沙耶香ったら、私を助けるために来たの?それとも私を笑いに?話題を変えてくれないかしら......」白石沙耶香は唇を曲げて笑った。「こればっかりは助けられないわ。私の知能指数はあなたより低いんだから。せいぜい鉄男と鉄子を相手にするくらいが精一杯よ。冬夜くんとなると、もうお手上げ」霜村冬夜が自分のことを「叔母」として認めているのは、彼が自分の母乳で育ち、本能的に親しみを感じているからだろう。そうでなければ、霜村冬夜の性格だと、自分のことなんかチラリとも見ないはずだ。自分の力量をわきまえている白石沙耶香は、当然この地位を維持するために、この厄介な問題を引き受けなかった。「でも、あまり心配しないで。冷司さんがいる限り、冬夜くんは道を踏み外したりしないから......」霜村冷司は脳にチップが入っていて、いつまで生きられるか分からないからこそ、子供を顧みず、すべての力を和泉夕子に注いでいるのだった。しかし今、自分の息子が彼の助けを必要としているのだから、きっと放ってはおかないだろう。和泉夕子は頬杖をつき、心配そうな顔をした。「彼が子供を世話すると言っても、家庭教師を何人か雇って、勉強をさせて、それで終わり。普
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